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刘少英(2000)
刘少英(2000)
刘少英(2000)
クト助字との対照研究
著者 劉 少英, 潟沼 誠二
雑誌名 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編
巻 51
号 1
ページ 17-32
発行年 2000-09
URL http://doi.org/10.32150/00005071
平成 12 年 9 月
北海道教育大学紀要 (人文科学・社会科学編) 第51巻 第1号
j も氷鑓do UDiversiけ of Educadon
lof Ho
ouma s 叙ld sociaISciences) Vol.51, No.1
鮮血如並e Sept
emL ,2000
ber
劉 少 英・潟 沼 誠二
北海道教育大学岩見沢校国文学研究室
○, は じめ に
1, 現代日本語動詞のアスペク トとテンス
表1
ンス
アスペ;
ミ 非過去形 過去形
完成相 する した
継続相 して い る していた
17
劉 少英・潟沼 誠二
上掲した表は現代日本語をアスペクトとテンスのカテゴリーから分類したものである これを見ると ア
. ,
スペクトにおいては完成相と継続相の両形式に分化し, その両形式はテンスのカテ ゴリーで非過去形と過去
形に分化しているどいうことがわかる. アスペクトもテンスも事柄の時間的性質を表す文法的なカテ ゴリー
なのである. ただし, テンスは, 動詞が表す動作・事象・出来事が, 現在・過去・未来という時間軸のどこ
に位置し, それが発話時とどう関わっているかを表すカ テゴリーである. またアスペクトは, 動詞の表す事
柄が, その運動の基準となる時間とどのように関わるかを表すカテ ゴリーである
.
完成相は, 動詞の表す動作過程の運動または結果の局面を取り出すものであり, その局面の中にある姿を
表す継続相とは対立する. 完成相のテンスは, その基本的な用法において, 未来と過去に区分される しか
.
し, 継 続 相 のテ ンス は 現 在 と 過 去 に区分 さ れる と い う 点 で 違 っ て いる 「する」 と 「して い る」 の アス ペ ク
.
チ ュアルな対立を持っている動詞であれば, 当然, 「完成相」 と 「継続相」 との対立も成立する. 同じ動詞
の非過去形であっ ても 「完成相」 であるか 「継続相」 であるかによっ て, 「未来」 であるか 「現在」 である
かが分けられる. つまり, 「する」 と 「している」 という アスペクチュアルな対立を持たない動詞は 最初
,
から 「未来」 と 「現在」 の対立がないのである. どういう動詞が 「する」 と 「している」 の対立を持ってい
るか, どういう動詞がその対立を持っていないかを明らかにする動詞の分類は非常に重要な意味を持つこと
になる. 以下は, 金田一 (
1950
), 工藤 (
199
5) の動詞分類からまとめたものである.
A, < 外 的 運動 動 詞 > 、 アス ペ ク ト対 立 有
a 継続動作性動詞 (金田一の動作動詞)
b 瞬間動作性動詞 (金田一の瞬間動詞)
B, <内的情態動詞> アスペクト対立の部分的変容
C, < 静 態動 詞 > アス ペ ク ト対立 無
① × 君 は本 を読 んでい る‐ ① × 君 は結 婚 して いる.
② × 君 は本 を読 んで い た. ② × 君 は結 婚 して い た.
⑧ × 君 は本 を読 む. ③ × 君 は結婚 する.
④ × 君 は本 を読 んだ. ④ × 君 は結婚 した.
Aの①は発話時, 動作が行われているのを取り上げて述べており, その発話が動作の継続の中に収まって
いるので, 現在を表す. ②はその動作が発話時の以前に継続していたことを述べているので, 過去を表す.
③は発話時, その発話が動作の継続の中に収められないため, まだ, 実現していないことしか表せない即ち
未来を表すことになる. ④は動作が発話時以前に発生したことを述べているので, 過去を表す BとAとは
.
時間の表現においては同じであるが, Aの場合は主体の動作であり, Bの場合は主体変化の結果であるとい
う違いである. Bの①は変化後の結果の継続, ②はその結果が発話時より以前のある時間帯に続いたことを,
③は変化が発話時にまだ発生していないことを, ④はその変化が発話時より以前のある時間帯に生じたこと
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現代日本語のアスペク ト・テンスと中国語のアスペク ト助字との対照研究
2, 中国語の動詞の分類とアスペク ト肋字
, 走 (歩く)
跳 (飛ぶ) , 奥 (泣く)
, 鞄 (走る) , 特 (回る)
, 間 (騒ぐ)
, 笑 (笑う) , 蹄
(跳ねる) , 看 (見る)
, 所 (聞く) , 写 (書く), 説 (話す), 唱 (歌う), 同 (問う, 聞く),
教 (教える), 念・(読む), 湊 (読む), 描 (描く), 抄 (写す), 印 (印刷する) , 洗 (洗
う), 打 (打つ), 吃 (食 べ る), 喝 (飲 む) な ど.
② 瞬 間動詞
a 瞬間 変 化動 詞
, 到 (着く), 爽 (消える)
死 (死ぬ) , 棒
, 作 (爆発する), 蹄 (崩れ落ちる・崩壊する)
(転ぶ) , 麦現 (発見する)
, 畝出 (見分ける) , 忘記 (忘
, 記 (覚える)
, 我到 (見つける)
, 遺失 (遺失する・無くする)
れる) , 結婚 (結婚する) など.
, 完 (終わる)
b 瞬 間動 作 動 詞
坐 (坐る), 帖 (立 つ), 鯖 (横 にな る), 欝 (しゃ が む), 蔵 (隠 れる), 朕 (避 ける ・ よ
, 脆 (脆く), 肌 (腹 這 い になる ・ へ ば りつ く) な ど.
ける)
静態動詞 ①属性動詞
, 好像(~のようだ), 等千 (~に等しい)
届千 (属する) , 造合 (適する)
, 当倣(に当てる) ,
値得 (値する) , 符合 (符合する・一致する) など.
, 微力 (充当する)
②心理的, 生理的状態動詞
, 知道 (知る)
喜歓 (好む) , 村灰 (きらう) , 斜服 (楽
, 明白 (分かる)
, 相信 (信じる)
になる), 害伯 (怖がる・心配する) , 放心 (安心する), 侃服 (感心する) , 満意 (満足す
, 失望 (失望する)
る) , 儀 (分かる) , 愛 (愛する)
, 嫌 (嫌う) , 恨 (憎む) など.
中国語の動詞はまた次のような0魂真結絢 (動詞十目的語) ◎劫趨猪杓 (動詞十方向動詞) ◎劫形猪絢
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劉 少英・潟沼 誠二
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現代日本語のアスペクト・テンスと中国語のアスペクト助字との対照研究
3, 「着」 に つ いて
北京自然博物館の古代生物大ホールで, 象の骸骨を展示している.
(2) 挑着行李, 避早去了. (『収穫』 総123期 p6
)
荷物 を担 っ て い て, 早 魁 か ら逃 げ出 した.
4, 「在」 に つ いて
王 さ ん は論 文 を書い て いる.
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現代日本語のアスペクト・テンスと中国語のアスペクト助字との対照研究
(
11) 小王在玩涛我机.
王 さ ん は フ ァ ミコ ンで 遊 んで いる.
(
13) 小王玩着済載机.
王 さ ん は フ ァ ミ コ ンで 遊 んでい る.
(12
)と( ) のような返答は非文になる. 日本語においては (
13 10)と(
11) の場合, 両方とも 「している」
を用いても, 無難であろうし, 意味も変わらないだろう. これは日本語の 「している」 が中国語の 「着」 と
共通点があるけど, 完全に対応できるものではないと判断する一つの理由である. 「在」 は日本語の 「して
いる」 と対応できるというのは, 外的運動動詞と共起すれ ば, 殆ど動作の継続 (進行中) を表すため, 日本
語の動態動詞の 「している」 形式の意味と全く同じからである. 中国語の 「着」 は客観描写性が強い. 「在」
は主観性が強いと言われている が意味的にこういう違いがあると認められている. 話者は 「在」 と 「着」 を
用いている時に, 状態の持続と動作の継続のどちらかに重点を置いて発話したというニューアンスがあるか
も知れないが, 客観にしろ, 主観にしろ, 描写にしろ, 叙述にしろ, 述べていることは発話時に収まってい
るから, 発話時を基準時間にして見れ ば, 両方とも現在のことを述べている. この点において, 日本語の
「している」 の時間の表現と共通なものであると私は思う. 言い換えると, 中国語の場合, 「在十動態動詞+
着」 はもっとも無難な現在を表すものとなる. すると, 「在」 が 「着」 との相違点はなくなり, 動作の継続
(進行中) を表すものとなり, 日本語の 「している」 と対応できるようになる. 前に挙げた (8) と (9)
の返答文 (
10)と(
11) の例文に 「在十動態動詞十着」 を用いて見ると, 非文でなくなる.
12
( ) 小 王 在 写 着 絵 文.
王 さ ん は論 文 を書い て いる.
(
13) 小王在玩着瀞戴机.
王 さ ん は フ ァ ミ コ ンで 遊 んで いる.
(
10)~(
13) 例文の中で 「在」 に限定されている述語動詞は皆他動詞である が 「在」 は自動詞を限定す
る こと も でき る.
(
14) 外面在下雨.
外 は雨 が 降 っ て いる.
(
15 05期 p22
) 街上, 雪白的山羊和黄色的公鵜在飽着. (『花城』 総1 )
町で 雪 の ような 白い 羊 と黄 色 い雄 鶏 は走 っ て いる.
(
16) 被王陵雇来的木匠僧正在小憩. (『花城』 総105期 p23
)
王陵に雇われている大工たちがひと休みをしている.
, 他動詞を限定する場合, 「主体の動作」
例文から見ると, 「在」 は自動詞を限定する場合, 「主体の変化」
を表ように見えるが, 「在」 は主観性が強いため, 主体が動作であろうか, 変化であろうかに無関心であっ
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劉 少英・潟沼 誠二
て, とにかく話者は主体が進行中ということだけに注目して述べている. 次の例文を見ると,
( ) 在除口虹.
17
口紅 を塗 っ て いる と ころ で す.
(
18) 在汗教室的r
l.
教 室 の ドア を開 けて いる と ころ で す.
(
19) 那小叫卓掲的人正在粒許等待着那西小男人中的一小. (『収穫』 総124期 p46
)
卓掲いう女の人は粒藤二人の男の中の一人を待っている.
(
20) 那位身穿棉禄, 述加上一件羊皮次肩, 須笈答巷的R民, 正在向城里来的客人介招着土地的情況.
(『済 文』 1lp3
)
綿入れ上着に羊皮ベストを重ねて着ている白髪, 白髭の年輩の農民は都会から来た客人に土地の
状 況 を紹 介 して いる.
「着」 と 「(正) 在」 は動態動詞の後に付加・限定すると, アスペクトにおいて 「継続」, テンスにおいて
「現在」 を表す. 動態動詞と対立している静態動詞に一般的に 「着」 と 「(正) 在」 は付加・限定できない.
結果動詞にも付加, 限定できない. これは中国語にも 「着」 と 「(正) 在」 のようなアスペクト助字との共
起という形式は日本語のような, アスペクトにおいての 「している」 と 「する」 との対立する動詞があると
いうことを意味している. たとえ, 静態動詞②の心理的・生理的状態動詞には 「着」 が付加できても, 意味
は 「着」 が付加しなくても, 全く変わり無く, 皆, 「現在」 のことを表す. これは日本語の内的状態動詞と
同じくアスペクト対立の部分的な変容が起こり, アスペクトの対立のある動詞から外してしまうはずである.
しかし, 「 (正) 在」 は前に述 べたように動作 の継続 (進行中) を表すことができるが動作の変化の結果
(状態の持続) を表すことができないため, このような変容も容認できない. 「 (正) 在」は静態動詞, 結果
動詞と対立している動態動詞しか限定できないのである.
5, 「了」 につ いて
民』 と略す)
ハル ビンを離れて, 朝も晩もいつも一緒にいてくれた中国のお母さんと別れて, 日本に帰った.
(
23) 我己鰹湊了一千多本朽, 学到了許多奈. (『人民』1997
‐11
‐29
)
私はもう本を千冊余り読んだので, 沢山の知識を学んだ.
「了」 を使っ て, 実現また己然を表す時に必ず外的運動動詞のすぐ後に用いなければならない ただ 話
. ,
者が動作でなく, 状況の説明, 出来事の叙述を意図的に述べる場合, 「了」 を使わないのが普通である. 特
に新聞記事や説明文等に多く使われている.
(24
) 中国本世紀最后一次国家級老木盛会‐第五届中国芝木官房肘十二天, 今天在成都市落下帽幕. (
『人民』 1997
.11
‐6)
中国では今世紀最後の国家級の芸術盛大なイ ベ ント‐第5回中国芸術節が12日間の日程を終えて,
今 日, 成 都で 幕 を閉 じた.
(
25) 今天下午三点三十分, 随着最后一年石料価入江中, 在世嘱目的三峡工程艦利実現大江裁流.
(『人民』 1997
‐11
‐10
)
今日の午後3時30分, 最後の一両タンプの石料が長江の中に入ったと同時に世界に注目されつつ
ある三峡ダム工程は勝利の流れのせき止めが実現した.
(
26) 速是中国政府首脳八年来ヌ
寸日本的首次坊同, 受到日本朝野各界的熱烈歌迎和盛情接待. (『人民』
1997
‐11
.17)
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劉 少英・潟沼 誠二
6, 「逮」 につ いて
(
34) 我肴辻「失落圏」 那小嶋初刷.
私は 「失楽園」 というテレビドラマ を見たことがある.
中国語の 「辻」 と日本語の 「~たことがある」 と対応していて, 「過去」 のことを述べているように見え
るが, 話者はただそれを一つの経験として述べていて, しかもその経験が今現在の発話時にも収まっている
し, 話者がその経験者でもあるので, いわゆる質的な属性を表すもので, テンス において現在しか表せない
26
現代日本語のアスペク ト・テンスと中国語のアスペク ト助字との対照研究
読んだことはない.
日本語の場合, (
35) には過去打ち消しを用いても構わないが, (
36) には過去打ち消しの 「読まなかった」
を用いると, この場合に限って不自然である, ということは話者も聞き手も (ここでは返答者) 過去に行わ
れた動作でなく, 今現在にその過去に経験したことが今現在で存在するか否か, 要するにその出来事は何時
発生したかは関係なく, 発生してから発話時を基準時間にして見る, その出来事が終わったかそれとも終わっ
ても動作・作用後, その状態或いは結果が現在に収まり切れるかどうかはテンスにおいては極めて重要であ
る. 前に述べたように経験・質的な属性を表すものはテンスにおいて 「現在」 である. 「了」 は 「辻」 と比
べて見ると, 「了」 は 「現在」 を表す場合もあれば, 「辻」 は 「現在」 を表す場合もある 「了」 は主体動作
.
の変化の結果の継続の 現在」「 「
, 辻」 は経験・質的な属性の 「現在」 において違っ ている. 勿論, 原則とし
て 「了」 も 「辻」 も過去を表すアスペクト助字であるため, 動詞との関わりを考えた上での研究とテンス上
の過去か経験の現在・結果の現在かを判断することは重要であるということが言うまでもないだろう
.
「辻」 は 「了」 と同じよう に動態動詞の後に付加できるが 他の動詞に付加できるか否かを検討してみよ
,
う. これらは動態動詞に付加できることに対して, それと対立している内的動詞, 静態動詞 結果動詞に附
,
加できないということは 「辻」 のアスペクトの働きが十分に現れていると言える 日本語と対応できるもの
.
と 言 え ば, 「した」 と 「~ た こ と があ る」 しか な い と 思 わ れる 文 の レ ベ ル で 「した」 と 対 応 する か 「~ た
.
ことがある」 と対応するかは常に我々を戸惑わせている.
(
37) 在 京, 我 去迂.
東 京 です か, 私 は行 っ た こ と がある.
(
38) 我 去 這 在 京.
私 は東 京 に行 っ た こ と が ある.
( ) は 「~ た こ と が ある」 と 対 応 で き る 文 で ある が 日 本 語 と して は 「した」 とい う 形 式 を用 い て も
37~38
,
意味が変わらないが, 「我去辻在京」 は 「我去了在京」 になると, 決して 「私は東京に行っ たことがある」
になる ことはなく, 「私は東京に行っ た」 にしか対応できない.
(
39) 来日本以后, 我帽参現了-些民同企班, 民ー
司公司以及政府机美和学校.
日本に来てから, 私たちは, いくつかの民間企業, 民間会社及び役所と学校を見学した
.
(
39) は 「~ た こ と が ある」 にな らな い. な ぜな ら 「した」 と 「辻」 と は テ ンス にお いて 違う か らで ある
.
中国語では 「辻了」 を過去を表す時によく使われているがそれは 「辻」 の働きでなく 「了」 の働きだと思
,
われる. 全ての 「這了」 文を 「了」 文に変えることができ, 意味上では全く変わりはないとみられる
.
27
劉 少英・潟沼 誠二
7, 中国語のアスペクト助字と日本語のアスペクトの四つの形態的な形式との相違点
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現代日本語のアスペク ト・テンスと中国語のアスペクト助字との対照研究
① 那肘(正在) 看替 ② 那肘(正在) 喝酒
「那肘」 という時間の状 況語がなければ, 「していた」 という アスペクチ ュアルな意味を表せない 要す
.
るに中国語の 「那吋」 は過去を表す時間の状況語の代名詞となっている. 各々の文で上下の文脈により, 具
体的な, 明示している文の中で 「那肘」 という時間の状況語は省略される. 形態的に考えて見ると 「してい
た」 と対応するものはないが構文・意味から見れば, 「那肘在 (正在) +動態動詞」 という形式しかないの
である. ここまで, 日本語の 「する」 と対応する中国語が何かについて述べなかっ たが中国語の動態動詞そ
のものは, 以上のようなアスペクト助字と共起しない場合, 未然のことを表していて, 即ち 「未来」 を表す
.
これは日本語の外的運動動詞の 「する」 という形式と全く 同じである. これらはもし義務的なものであれば,
中国語には日本語のアスペクトの四つの形式と対応している形式が存在することになる.
もともとは構文・形態上では中日両言語が違っているから, アスペクト形式が違っ ても不思議なことでは
ない. 逆に言うと当たり前のことである. その違っ ている両言語の中で形式だけに拘らずに共通のものを見
出すことは重要ではないだろうか.
8, 点と線の捉え方
添付した表は日本語のアスペクトの四つの形式と対応するものである. それはあくまでも最小単位の文の
場合に限る. 特に 「していた」 という形式は大きな構造の文の中で中国語となかなか対応しにくい なぜか
.
と言うと, もともと中国語では, 過去の捉え方においては動詞そのもので, 点的なものだけで線的なもので
はないからだと, 私は思う. 点と線とは何かについて, 先行研究には既に詳しい論説がある (高橋1985 工
,
) が 簡 単 に言 う と, 「シテイ ル は一 日 が千 年 の ごと く なる 者 によ っ て用 い ら れ ス ル は千 年 が一 日 の
藤1995
,
ごとく なる 者 によ っ て用 い ら れる」 と い う こ とで あ る
.
(
43) 満清政府は中国を200年あまり支配していた.
満清政府は中国を200年あまり支配した.
「していた」 の場合, 過去の200年の間, 満清政府は中国を支配しつつあることを即ち その 「継続的」
,
(線的) に捉え, たとえ一日短い期間でもその 「支配する」 という動詞の運動する過程を重点において述べ
る 場 合, 「して い る」 を用 い る. 「した」 の場 合, 200年 が 長 い か 短 い か と 関係 なく と にかく そ れ は発 話 時
,
より前のことで, ひとまとまりの動作, もう過ぎ去ったことしか捉えないで, 運動の過程にも 期間が長い
,
か短いかにも無関心である. 即ち, その 「継続性」 を無視していることである 日本語においては 「してい
.
た」 と 「した」 の対立は線と点の対立 にもなる. 大きな構造の文の中にもたとえ副詞 時間の状況語に限定
,
されなくても, 線的なものであるか点的なものであるかは意味上では明瞭である 中国語の場合 その線と
. ,
点の捉え方が補助的な (文脈, 副詞, 時間の状況語) ものがなければ, 表現しにくい それをはっきりと意
.
図的に表現したくなければ, 中国語の場合, 「した」 と 「していた」 とを, 全く同じように取り扱うという
こと は十 分 に考 え ら れ る. 「した」 文 も, 「して い た」 文 も (
46b) の よう に, 「した」 と 「して い た」 の 区
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劉 少英・潟沼 誠二
9, おわりに
注1:奥田は ( 197
8) アスペクトの研究をめ ぐって, 厳しい批判を込めた論文を発表した. その主張の中には次のようなものがあると
思われる. 「
sit
e-im とsu]
r , 「主体の変化」 に分ける」 と,
u の対立を継続動詞と結果動詞に二分する. それに, それぞれ 「主体の動作」
小論は 「主体の動作」 , 「主体の変化」 の理解において, これに従う.
参考文献:
尾上 2
圭介 198 「現代語のテンスとアスペクト」 (日本語学1
)
奥田 靖雄 1978 3・54
「アスペクトの研究をめぐって (上) ・ (下)」 (『教育国語』5 )
1
988 「時間の表現」(
1)・(
2 『教育国語』94・9
)( 5)
30
現代日本語のアスペクト・テンスと中国語のアスペクト助字との対照研究
3 大田 辰夫 1
995 『中国語文論集』 汲古書院
4 王 析 1
996 「アスペクト表現の日中対照-シテイルほかの表現をめぐって-」 (
『解釈と鑑賞』 に所収)
5 金
金子 享 1995 『言語の時間の表現』 ひつじ書房
6 金田一春彦
金 1
950 「国語動詞の一分類」 言語研究1
5(『日本語動詞のアスペク ト』 金田一春彦編 むぎ書房197
6に所収)
7 木村
木 英樹 1982 「中国語」 (『講座日本語学11外国語との対照虹』 に所収) 明治書院
8 金
金水 敏 1
987 「時制の表現」 (『国文法講座6 時代と文法一現代語』
) 明治書院
9 工藤真由美
工 1995 『アスペクト・テンス体系とテクスト一現代日本語の時間の表現』 ひつじ書房
10 輿水
輿 優 1985 『中国語の語法の話一中国語文法概論』 光生舘
11 徐 建平 1996 「アスペクー
トの日中対照研究一完成相 「スル」 と持続相 「シテイル」 を例に」 (『解釈と鑑賞』 に所収)
12 △
鈴木 重幸 1972 『日本文法・形態論』 むぎ書房
1979 「現代日本語動詞のテンスー終止的な述語につかわれた完成相の叙述法断定のばあい-」 (『言語の研究』6動こ
所収) むぎ書房
1
3 高橋 太郎 198
3 「スルともシタともいえるとき」 (
9 ) むぎ書房
4『動詞の研究』
1985 『現代日本語動詞のアスペク トとテンス』 秀英出版
14 膝 平 1988 「槍現代決済時間系統的三元箔檎」 (
『中国悟文』1988
.6に所収)
1
5 宮島 達夫 1994 『語暴論研究』 むぎ書房
6 町田
1 健 1989 『日本語の時制とアスペク ト』 株式会社アルク
7 森山
1 卓郎 1
988 『日本語動詞述語文の研究』 明治書院
18 刺 月年 1
996 『現代中国語文法総覧』 くるしお出版
19 劉 凡夫 1
987 「日本語の 「夕」 と中国語の 「了」 の対照研究」 (『国語学研究』 に所収)
20 呂 淑湘 1980 『現代漢語文八百詞』 商務印書館
31
劉 少英・潟沼 誠二
*現代日本語のアスペクト・テンスの四つの形式と中国語のアスペクト助 字との対照表
品詞 形式 テ ンス 品詞 形式 テ ンス
動 態 動詞 0v 未来 外的運動動詞 ○ 「する」 未来
結 果動詞 0v 未来 内的状態動詞 ○ 「する」 未来・現在
静 態動詞 0v 現在 静態 動詞 ○ 「する」 現在
品詞 形式 テ ンス 品詞 形式 テ ンス
も
)継続動詞 ○在 (正在)十v 現在
継続動詞以外×在 (正在)十v ×
品詞 形式 テ ンス 品詞 形式 テ ンス
品詞 形式 テ ンス 品詞 形式 テ ンス
(存在動詞を除く)
品詞 形式 テ ンス 品詞 形式 テ ンス
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