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SIR Gompertz K
SIR Gompertz K
SIR Gompertz K
越桐國雄
2020 年 8 月 6 日
1 SIR モデルと K 値
感染症の SIR モデルは次の非線形連立微分方程式で表すことができる。ただし,人口 N の集団に
おける感受性保持者 (Susceptible) を S(t),感染者 (Infected) を I(t), 隔離者・回復者 (Recovered) を
R(t) として,S(t) + I(t) + R(t) = N は一定とする。また,β は感染者1人1日当りの伝搬感染者数で
あり,γ は感染者の回復率,つまりその逆数が平均感染期間である。
dS S
= −β I
dt N
dI S
= β I − γI (1)
dt N
dR = γI
dt
初期条件として,感染者 I(0) が非常に少ないところから感染が拡大する場合を考え,I(0) ≪ S(0) と
する。さらに,集団には一定の割合で免疫をすでに獲得している者が存在するとし,S(0) = λN とし
て免疫既獲得者 (1 − λ)N は R(t) に含める。なお,この集団の集団免疫率は 1 − λ であると定義する。
感染拡大の初期には S ≈ λN が成り立つため,元の微分方程式系は次のように近似できる。
dS
= −βλI
dt
dI
= (βλ − γ)I = −γ(1 − λR0 )I (2)
dt
dR = γI
dt
ここで,R0 ≡ β/γ は基本再生産数とよばれる定数であり, λ1 < R0 のとき感染者数は指数関数的
に増大し, λ1 > R0 ならば感染者は減少する。β, γ が時間に依存しない定数であるとして,初期条件
S(0) = λN − I0 , I(0) = I0 , R(0) = (1 − λ)N のもとでこの式を解くと次の解が得られる。
S(t) = λN − I0 +
I0 λR0
{1 − eγ(λR0 −1)t }
λR 0 − 1
I(t) = I0 eγ(λR0 −1)t (3)
I0
R(t) = (1 − λ)N − {1 − eγ(λR0 −1)t }
λR0 − 1
この解 I(t) は,指数関数的な感染者の増加を表現しているが,感染の初期の状況だけを記述するもので
あることに注意する。実際には,もとの微分方程式の形から,βS/N は 0 に近づくために,感染者数の
増加はしだいに減少して感染は収束する。
あるいは,感染症対策によって人為的に β を小さくすることで感染増大を抑制することも考えられ
る。これを表現するために,(2) の微分方程式の β を,時間の減少関数 β(t) で置きかえてみよう。この
ときの,Rt ≡ β(t)/γ を実効再生産数とよぶ。
dS
= −γλRt I
dt
dI
= γ(λRt − 1)I (4)
dt
dR = γI
dt
ここからは λ = 1 とおいて,新規感染者数累計 J(t) と K 値の関係を考察する。I(t) は感染者数であ
り,回復者の分は減少していく。一方新規感染者数累計 J(t) はある集団の中では単調増加して収束す
る。そこで,上記微分方程式から減少項 γI を取り除いたものが,J(t) に対する微分方程式であると仮
定する。
dJ(t)
= γRt J(t) = β(t)J(t) (5)
dt
このとき R̄ 値,L 値,K 値は次のように定義される(この R̄ 値は SIR における R とは別の量である
ことに注意する)。また,τ = 7 であり,時間の単位は日とする。
R̄(t) = J(t)/J(t − τ ) > 1
L(t) = log R̄(t) > 0
(6)
1
K(t) = 1 − <1
R̄(t)
ここで,K(t) の時間微分を計算すると,
2 指数関数モデル
単調減少する β(t) で扱いやすい簡単なものとして指数関数を考える。β(t) = βe−αt とすると,
dJ
= βe−αt J
∫ dt ∫
dJ
= β e−αt dt
J
β (8)
log J = − e−αt + C
α
β
初期条件より, log J0 = − + C
α
β −αt
∴ J(t) = J0 e α (1−e )
これより,次式が得られる。
−α(t−τ )
β
−e−αt )
R̄(t) = e α (e
β −αt ατ
L(t) = e (e − 1)
α
dL(t) (9)
= −α · L(t)
dt
dK(t) 1 dL(t) L(t)
= = −α
dt R̄(t) dt R̄(t)
なお,ατ ≪ 1 として,eατ − 1 ≈ ατ をもちいると, K(t) は次のように近似できる。
β
e−αt (eατ −1)
K(t) = 1 − e−L = 1 − e− α
(10)
e−αt
≈ 1 − e−βτ
3 中野モデル
中野らは,新規感染者数累計が飽和する様子を,J(n + 1) と J(n) の比が単調減少数列 a(n) の指数
関数で与えられる離散モデルで現象論的に表した。このモデルは秋山によってさらに理論的に検討され
た。この数列には 0 < k < 1 を用いて,a(n) = k n a(0) という形が仮定されている。
log 2 1
K′ = log k = (k − 1), k = 1 + 2.88 K ′
2 2.88
であり,中野らの与えた式が再現される(1 − k ≪ 1 から log k = log(1 + k − 1) ≈ k − 1 )。
L L log R̄
【付 2】 K ′ = log k において, = は,R̄ = e のとき極大値をもつ。そこで,K ′ =
R̄ R̄ R̄
1 1
log k = (k − 1) が K ′ の最大値となる。
e 2.72
4 大西モデルとゴンペルツ関数
指数関数モデルや中野モデルの K 値には,指数関数の指数が指数関数となる二重指数関数が含まれて
いた。これはゴンペルツ関数(gompertz function)とよばれる関数 fG (x) = exp(−e−x ) で表すことがで
′
きる。また,fG (x) = e−x fG (x) を満足する。例えば,二重指数関数の一般形を,f (x) = a exp(−b e−cx )
とすれば,f (x) はゴンペルツ関数によって,f (x) = afG (x − x0 ), x0 = 1
c log b とかける。
大西は,感染者数 N (t) が満足する微分方程式が,次式のように与えられるとして,
dN (t)
= k(t)N (t) = k(t0 )e−γ(t−t0 ) N (t) (13)
dt
その解をゴンペルツ関数で与えた。すなわち,
[ )]
k(t0 ) ( −γ(t−t0 )
N (t) = N (t0 ) exp 1−e
γ (14)
= eN (t0 ) fG (γ(t − t0 )) = N0 fG (γ(t − t0 ))
N (t − τ ) fG (γ(t − t0 − τ ))
K(t) = 1 − =1−
N (t) fG (γ(t − t0 ))
[ ]
= 1 − exp −(eγτ − 1) e−γ(t−t0 )
= 1 − fG (xk ) (15)
xk = γ(t − t0 − δt)
1
δt = log(eγτ − 1)
γ