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構造物の動的弾性応答と応答スペクトル
構造物の動的弾性応答と応答スペクトル
構造物の動的弾性応答と応答スペクトル
吉川弘道・北本廣平
1.地震時の弾性応答と応答スペクトル
(1)時刻歴応答のスペクトル表示
(2)応答スペクトルから何がわかるか
(3)減衰定数
2.応答スペクトルの算定例と特徴
(1) 応答スペクトルの算定
(2)応答スペクトルの特徴
3.応答スペクトルの一定領域と梅村スペクトル
(1)応答スペクトルの一定領域
(2)梅村スペクトル
(3)既往強震波へのあてはめ
4.応答スペクトルの応用例
(1)応答スペクトルのトリパータイト表示
(2)加速度/変位複合スペクトル
1
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
1.地震時の弾性応答と応答スペクトル
(1)時刻歴応答のスペクトル表示
地震荷重のようなランダムな入力加速度を付与すると,質点はそれに呼応して不規則な揺れ(時刻歴
応 答)を示 す.耐震 工学上 は,応 答の最大 値が重要 となり,応答 スペクトルは周波 数領 域上でこの最大
応答値 をプロットしたものである.応 答スペクトルは,加速度 ,速度 ,変位の各応答量に対 して与 えられ、
固有周期に依存した構造物の応答の様子を手早く観察することができる.とくに,加速度応答スペクトル
は設計ツールとして多く用いられる.
図 1 は,実際に記録された地震波を用いた時の応答の一例を示したものである.図(a)のようなランダ
ムな地震動の入力に対して,短周期 T 1 =0.5sec の構造物系は速く揺れ,長周期 T 2 =1.5sec ではゆっくり
と(したがって,より小さな加速度で)揺れていることが,図(b)の時刻歴応答から判断できる.さらに,その
時刻歴の中での最大値(最大応答加速度)を縦軸に,構造物の固有周期 T を横軸としてプロットしたも
のが,応答スペクトル(図(c))となる.
応答加速度スペクトルは,地震動の特性により,図中のように T 0 にてピークを持つことが多く(すなわち,
最も大きな応答加速度を受け),これに近い周期 T 1 の構造物が比較的大きな応答加速度を持つことが
わかる(S a1 >S a2 ).
今度は,応答変位に着目すると,図(d),(e)のような結果を得ることになり,前例と同様に構造物の動
的特性の違いにより,その応答が異なることに着目されたい.最大応答変位では長周期 T 2 をもつシステ
ムの方 が大 きくなり,前 例 の逆 の結 果 となる(S d1 <S d2 ).この変 位 応 答 スペクトル(図 (e))は,加 速 度 応
答スペクトル(図(c))と全く異なる様相を呈している.
また,スペクトル特性 は減衰の程度にも影響され,減衰定 数が大きいほど応答値 は減少する.このよう
に,応 答 スペクトルは構 造 物 の固 有 周 期 と減 衰 定 数 によって表 示 したもので,地 震 動 の周 波 数 特 性 を
端的に映し出し,耐震工学では必要不可欠なツールである.
このような弾性応答スペクトルの他に,いくつかのスペクトルが用いられ,次のようなものがある.
以 上までの弾 性応答 スペクトルに対 して,弾 塑性モデルによって非線 形応 答スペクトルを描くことがで
きる.これは,塑性変形量(塑性率)をパラメータとし,降伏荷重によって表されるものである.また,1質点
の全エネルギーを等 価 速度 に換算 し,固 有 周期 ごとにプロットすることにより,エネルギースペクトルを作
成することができる.
地震動の時刻歴データをフーリエ変換して,その波形の周波数特性を用いてフーリエスペクトルとして
表すことが多く,古くから行なわれている.ただし,これは地震動そのものの評価に用いられ,構造物の応
答とは異なる.
2
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
1000
(a) 入 力 地 震 動 の加 速 度 波 形
地震加速度 (Gal)
500
-818Gal
-500
-1000
0 5 10 15 20
Time (sec)
短周期 長周期
T 1 =0.5sec T 2 =1.5sec
3000 3000
2068Gal
2000 S a1 2000
応答加速度 (Gal)
応答加速度 (Gal)
1000 1000
0 0
-1000 -1000 S a2
-788Gal
-2000 -2000
-3000 -3000
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
TIM E (sec) TIM E (sec)
(b) 構 造 物 の応 答 加 速 度 (時 刻 歴 )
Sa
S a1
(c) 加 速 度 応 答
S a2
スペクトル
T0 T1 T2 固有周期
50 50
S d2
25 25
応答変位 (cm)
応答変位 (cm)
0 0
S d1
-25 -25
-50 -50
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
Time (sec) Time (sec)
(d) 構 造 物 の応 答 変 位 (時 刻 歴 )
Sd
(e) 変 位 応 答
S d2
スペクトル
S d1
T1 T2 固有周期
図 1 構 造 物 の時 刻 歴 応 答 と応 答 スペクトル
3
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(2)応答スペクトルから何がわかるか
以 上 のように応 答 スペクトルは,時 刻 歴 上 の複 雑 な挙 動 を設 計 上 重 要 となる力 学 量 の最 大 値 のみを
抽出したものである.応答スペクトルの形状は,地震動ごとに異なり,どのような周波数成分が優勢である
(卓 越 している)かがわかる(したがって,地震 動 そのものの周波 数 特性 を表しているといえる).いったん
応答スペクトルが求まると,構造物の動的特性(固 有周期と減衰定数)により,その地震動に対する最大
応答値を知ることができ,設計示方書で多く用いられる.
ただし,一 方 では継 続 時 間 を無 視 することになり,注 意 を要 する.例 えば,鉄 筋 コンクリート橋 脚 の耐
震 性 は,応 答 の繰 返 し回 数 に影 響 を受 け,応 答 スペクトルのみでは振 動 中 のせん断 劣 化 を正 しく評 価
することができない.このような応答 性状 は,粘性 減衰の影響 を受 けることを述 べたが,応答 スペクトル表
示の際には減衰 定数 として h=0,2,5,10%などが用いられる(減衰 定数の影響の度合 いは,パラメトリック
解析として後述する).また,構造物種別ごとに考えると,大略次のように示すことができる.
・鋼構造 : 2∼3%
・鉄筋コンクリート : 5∼7%
・組石造 : 7∼10%
弾性域における概略値であり,降伏域に及ぶ大変形領域では履歴減衰などが加等される.
入 力 地震 波に対する応答 値の比 を応 答 倍率 と呼ぶ.動 的応 答 特性の主 要な指 標 となり,これはまた構
造物の固有周期と減衰に左右される.図 1 の例で(JMA-Kobe1995NS 波,最大加速度 818Gal,h=5%)
で試算すると,次のようになる.
− 788Gal
・T=1.5sec の場合:加速度応答倍率= = 1.0
− 818Gal
2068Gal
・T=0.5sec の場合:加速度応答倍率= = 2.5
− 818Gal
短周期部材に対する加速度応答倍率 2.5 はやや大きい値ではあるが,これまでの強震記録波に比べ
て入力加速度 818Gal そのものが大きく,従って,応答加速度 2068Gal が前例のない値となっているこ
とを付記する.
(3)減衰定数
このような応答スペクトル値に対する減衰の影響はやや複雑で,①地震動に対して共振的に
応答する場合減衰の効果は大きく,②地震動が衝撃的に作用する場合,その効果は小さいと言
える.ここで,減衰定数 h=0 のときの応答スペクトルに S 0 ,減数時のいスペクトルを S h とし
て,両者の比を S h /S 0 を考える.これは,従来から
Sh 1
= (1-a)
S 0 1 + 10h
Sh 1
= (1-b)
S0 1 + 30h
のように,また h=0.05 のスペクトルを S0.05 に対して
Sh 1.5
=
S 0.05 1 + 10h (1-c)
などの近似式が提示されている.
4
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2.応答スペクトルの算定例と特徴
(1)応答スペクトルの算定
次に,実地震動 3 波を用いて弾性応答スペクトルを算定してみよう.このため,まずは時刻
歴応答解析を行なった.
以下のような条件による動的非線形解析を実施し,その結果を図 2~4 のように図示した.
対象構造物 1質点1要素モデル
弾性モデル 弾性固有周期T=0.2∼5
減衰C=0.05
解析方法 増分型運動方程式
Newmarkβ法 (β=1/4)
時間刻み:Δt=0.02sec
使用プログラム:RESP(修正版)1)
入力地震動 EL Centro (ew・ns)
Hachinohe (ew・ns)
JMA Kobe (ew・ns)
1) 大 崎 順 彦 , 新 ・ 地 震 動 の ス ペ ク ト ル 解 析 入 門 ( 11 章 ), 鹿 島 出 版 , 1994
(2)応答スペクトルの特徴
同 図の弾 性応 答 スペクトルの解析 は,入 力地 震 動の時刻 歴 波形 とともに加速 度 ,速 度 ,変位の応 答
スペクトルを示したものである.
このような 3 量の弾性応答スペクトルは,もちろん地震動特性によって異なるが,大略次のような特徴を
もつ.
加速度応答スペクトル:通例固有周期が T=0.1~0.5sec 程度で最大値を示す.固有周期がゼロに近づ
くにつれて入力地震動そのものの加速度となり,周期が大きくなるにしたがって減少し,ゼロに収束する.
加速度応答スペクトルは絶対量(地盤の揺れ+構造物の応答)を用いる.
速 度 /変 位 応 答 スペクトル:速 度 応 答 スペクトル,変 位 応 答 スペクトルは,地 盤 からの相 対量 (相 対速 度 ,
相 対 変位 )によって示 している.固有 周期 が十 分小さくなるとゼロに近 づき(すなわち,地 盤と同 じ動きを
する),周 期 が長 くなれば応 答 は増 大 する.さらに長 周 期 領 域 では,速 度 応 答 スペクトルの場 合 徐 々に
減少するが,変位応答スペクトルでは一定となることが多い.
5
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
-250
-500
0 5 10 15 20
Time (sec)
RESPONSE
T0 = 1.50 (sec) T0 = 0.50 (sec)
1000
Acceleration (cm/sec 2)
500
-500
-1000
100.0
Velocity (cm/sec)
50.0
0.0
-50.0
-100.0
15
10
Displacement (cm)
-5
-10
-15
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
Time (sec) Time (sec)
6
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
EL-Centro
NS EW
1000
800
600
Sa (Gal)
400
200
100
80
60
Sv (kine)
40
20
50
40
30
Sd (cm)
20
10
0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
7
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
-150
-300
0 5 10 15 20
Time (sec)
RESPONSE
T0 = 1.50 (sec) T0 = 0.50 (sec)
500
Acceleration (cm/sec 2)
250
-250
-500
50
Velocity (cm/sec)
25
-25
-50
10
Displacement (cm)
-5
-10
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
Time (sec) Time (sec)
8
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
HACHINOHE
NS EW
1000
750
Sa (Gal)
500
250
150
120
90
Sv (kine)
60
30
50
40
30
Sd (cm)
20
10
0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
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MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
-500
-1000
0 5 10 15 20
Time (sec)
RESPONSE
T0 = 1.50 (sec) T0 = 0.50 (sec)
3000
Acceleration (cm/sec 2)
2000
1000
-1000
-2000
-3000
300
200
Velocity (cm/sec)
100
-100
-200
-300
50
Displacement (cm)
25
-25
-50
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
Time (sec) Time (sec)
10
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
JMA-KOBE
NS EW
3000
2500
2000
Sa (Gal)
1500
1000
500
300
250
200
Sv (kine)
150
100
50
50
40
30
Sd (cm)
20
10
0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
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3.応答スペクトルの一定領域と梅村スペクトル
(1)応答スペクトルの一定領域
応答スペクトルの特性をパターン化し,低周期側から加速度一定領域,速度一定領域,変位
一定領域のように分離することができる(図 5).
SD
SA
応 答 スペクトル
SV
図 5 応 答 スペクトルの特 性 と一 定 領 域
ここで, T 1 と T 2 はこれらの一定領域の遷移点を示す.擬似応答スペクトルの考え方を導入
すると,次式のような表現が可能となる.
aT 2 (0≦ T < T 1 )
(2-a)
変位応答スペクトル: S D = bT (T1≦ T< T2)
c (T2< T)
(2-b)
2π
速度応答スペクトル: SV = S D ⋅
T
2
2π
加速度応答スペクトル: S A = S D ⋅
T
(2-c)
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(2)梅村スペクトル
梅村は次式のような標準応答スペクトルを提案し,梅村スペクトルとしてよく知られている.
この梅村スペクトルは種々の強震記録の応答スペクトル( h =0.05)のほぼ上限値をとったもので
ある.これは EI Centro 地震などの強震波形の h =0.02 の応答スペクトルによく一致する.速
度および加速度スペクトルは,前述と同じ考え方で,にそれぞれ,(2 π / T ),(2 π / T ) 2 を乗
じることにより得られる.
90 T 2 k G (cm) T ≦0.5 s 150
h=0.05
SD= 45 Tk G (cm) 0.5< T ≦3
135 k G (cm) T >3 (3-a) 0.1
100
SD (cm)
0.2
566 Tk G (cm/s) 50
ここで, 0
0 1 2 3 4 5
k G =地震震度=最大地盤加速度/重力加速度 T (s)
4000
ペクトルを示している.ここでは減衰定数の影
2
2000 0.1
響を h =0.05 に対する値として,以下の式を用
0.2
いた. 1000
Sh 1.5
= (4)
0
S 0.05 1 + 10h 0 1 2
T (s)
3 4 5
の関係を仮定してある.
図 6 梅 村 スペクトルの算 出 例
(3)既往強震波へのあてはめ ( k G =1 の場 合 )
以上のような考え方を既往 3 波の応答スペクトル
へあてはめ,式(2)にある 3 係数 a , b , c および遷移
周期 T 1 ,T 2 の同定を試みた.
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MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
EL-Centro
1000 1000
900 900
800 800
700 700
Sa (Gal)
600 600
Sa (Gal)
500 500
400 400
300 300
200 200
100 100
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
100 100
90 90
80 80
70 70
Sv (kine)
60 60
Sv (kine)
50 50
40 40
30 30
20 20
10 10
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
45 45
40 40
35 35
30 30
Sd (cm)
Sd (cm)
25 25
20 20
15 15
10 10
5 5
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
1940 NS 5% 1940 EW 5%
修正梅村スペクトル地震動特性
EL-Centro 1940 NS 1940 EW
T1=Tg 0.60 0.60
Sa(T1) 800 600
T2 2.40 4.00
a 20.264 15.198
b 12.159 9.119
c 29.181 36.476
図 7 梅村スペクトルへのあてはめ(EL Centro)
14
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
HACHINOHE
900 900
800 800
700 700
600 600
Sa (Gal)
Sa (Gal)
500 500
400 400
300 300
200 200
100 100
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
120 120
100 100
80 80
Sv (kine)
Sv (kine)
60 60
40 40
20 20
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
45 45
40 40
35 35
30 30
Sd (cm)
Sd (cm)
25 25
20 20
15 15
10 10
5 5
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
1968 NS 5% 1968 EW 5%
修正梅村スペクトル地震動特性
HACHINOHE 1968 NS 1968 EW
T1=Tg 0.55 0.85
Sa(T1) 700 600
T2 3.50 2.80
a 17.731 15.198
b 9.752 12.918
c 34.133 36.172
図 8 梅村スペクトルへのあてはめ(Hachinohe)
15
MUSASHI INSTITUTE OF TECHNOLOGY
JMA-KOBE
3000 3000
2500 2500
2000 2000
Sa (Gal)
Sa (Gal)
1500 1500
1000 1000
500 500
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
300 300
250 250
200 200
Sv (kine)
Sv (kine)
150 150
100 100
50 50
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
50 50
45 45
40 40
35 35
30 30
Sd (cm)
Sd (cm)
25 25
20 20
15 15
10 10
5 5
0 0
0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
T (sec) T (sec)
1995 NS 5% 1995 EW 5%
修正梅村スペクトル地震動特性
JMA-KOBE 1995 NS 1995 EW
T1=Tg 0.65 0.65
Sa(T1) 2050 2000
T2 1.35 1.10
a 51.927 50.661
b 33.753 32.929
c 45.566 36.222
図 9 梅村スペクトルへのあてはめ(JMA-Kobe)
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4.応答スペクトルの応用例
(1)応答スペクトルのトリパータイト表示
地震応答スペクトルは通例,加速度・速度・変位応答スペクトルをそれぞれ別の図に描くが,
ここではこれら 3 応答図を 1 つの図におさめることを考える.
スペクトルを求める中で,加速度・速度・変位応答スペクトルは近似的には,お互いに( T/2
π )の乗除によって求めることができ,下式のようになる(擬似応答スペクトル).
1 T
SD ≅ SV = SV
ω 2π
SV = SV (5)
2π
S A ≅ ωS V = SV
T
これを対数表示に直すと,次式のように表わせる.
(6)
log SV = log S A − log( 2π ) + log T
log SV = log S D + log( 2π ) − log T
このような 3 応答値の関係を利用して同一図上に作画したものが,トリパータイト応答スペ
クトル(tripartite response spectrum)である.図 10 は,トリパータイト応答スペクトルに EL
Centro 波を適用したものである.
右上がりの軸は応答加速度,水平の軸は応答速度,そして右下がりの軸に対しては応答変位
を表している(図 10).この図法は,同一曲線にて 3 つの応答スペクトルを表し,ある固有周期
T に対する対応点から3つの座標上にて加速度/速度/変位の応答値を読み取ることができ,トリ
パータイトならではの特徴である.
図 10 EL Centro(3 軸 図 )
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(2)加速度/変位複合応答スペクトル
同一地震波の減衰定数を変えることにより応答加速度と応答変位の間にどのような関係がある
か比較した.
3 つの応答スペクトル,応答加速度と応答変位を組み合わせたものが,加速度/変位複合応答
スペクトル(Combined acceleration and displacement elastic response spectra)である.これ
は,固有周期を横軸とする通常の加速度応答スペクトルと変位応答スペクトルに対して,固有
周期をパラメーターとして,結合したものと解釈できる.
既往強震記録(JMA-Kobe NS)に対する複合応答スペクトルを作成し,これを図 11 に示した.
ここでは,減衰定数を 2%,5%,10%とし,さらには,梅村スペクトルを適用し同図に併記し
た.
ランダム地震動に対する 1 質点系構造では,通例,短周期の場合,加速度が大きく変位が小
さく,長周期になるに従って,加速度が減少し変位が増加するが,加速度/変位複合応答スペク
トルは,この様子を端的に映し出す.
さらに,複合応答スペクトルは,縦軸に応答加速度,横軸に応答変位とすることにより,部
材の P~δ 曲線(荷重∼変位関係)と符合する.このことにより,対象とする部材の P~δ 曲線
を想定する地震動の複合応答スペクトルを同一図中に併記/比較することにより,耐震性を評価
することができる.
4000
JMA-KOBE
3500 h=2%,5%,10%
2500
S a (Gal)
2000
T =1.0 sec
1500
1000
2
T (sec)
右 上 :複 合 スペクトル
(応 答 加 速 度 /応 答 変 位 関 係 )
右 下 :応 答 変 位 スペクトル
18
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4000
JMA-KOBE
3500 h=5%
2500
S a (Gal)
2000
T =1.0 sec
1500
1000
T (sec) 3
左 上 :加 速 度 応 答 スペクトル
右 上 :複 合 スペクトル
(応 答 加 速 度 /応 答 変 位 関 係 )
右 下 :応 答 変 位 スペクトル
19