Professional Documents
Culture Documents
Seikei Kakou Vol. 33 No. 4
Seikei Kakou Vol. 33 No. 4
Seikei Kakou Vol. 33 No. 4
解 説
炭化ケイ素繊維
佐 藤 光 彦*
1.は じ め に
近年,大手航空機エンジンメーカーでは,民間航空機エ
ンジンの大幅な燃費向上を目的として,従来の耐熱合金に
比べて軽量でより高温使用が期待できるセラミックス基複
合材料(以下,CMC と略す)を,航空機エンジン部品の
素材として適用するための開発が精力的に行われている1).
その中で,CFM International は,既に,一部の CMC 部
品を LEAP エンジンに搭載し就航させている.現在,民
間航空機エンジン部品に応用が検討されている CMC は,
主として Al2O3 系繊維と Al2O3 系マトリックスを複合化さ
せた Al2O3/Al2O3 複合材料と SiC 系繊維と SiC 系マトリッ 図1 前駆体法による炭化ケイ素繊維の製造方法
クスを複合化させた SiC/SiC 複合材料である.この中で
SiC/SiC 複合材料の SiC 系繊維は,日本カーボン が事業 気中,1 0 0
0℃以上で焼成されて,SiC 系繊維となる.1 9
90
化したニカロンTM(現在は,NGS アドバンス ト フ ァ イ 年頃までは,この不融化処理を,大気中での熱酸化など,
バー に事業移管されている)と宇部興産 が事業化した 酸素を介して前駆体となる分子を架橋する方法により行わ
チラノ繊維TM が主に使用されている.ニカロンTM が主と れてきた.代表的な繊維としては,ニカロンTM やチラノ
してSiとCのみから構成されるのに対して, チラノ繊維TM 繊維 LoxMTM がある.これらの1st SiC 繊維には,ケイ素
は Si 以外に Ti,Zr あるいは Al の金属を含有している. や炭素以外に,不融化処理により繊維中に導入された多量
本稿では,SiC 系繊維やその用途開発ついて紹介する. の酸素が含まれており,1 200∼1 30
0℃を超える温度に加
熱されると,繊維中の酸素が CO や SiO として放出される.
2.SiC 系繊維の開発について
それに伴って繊維組織が大きく変化して繊維の力学的特性
現在市販されている SiC 系繊維には,炭素繊維を芯線と は著しく低下する3).結果として,市場からは,耐熱性改
して化学気相蒸着法(以下,CVD 法と略す)により製造 善が強く求められる事となり,第2世代の SiC 系繊維開発
される SCS 繊維TM と有機ケイ素重合体を出発原料として へと移行した.
前駆体法により製造される SiC 系繊維がある.特に,前駆 2.2 第2世代のSiC系繊維(以下,2nd SiC繊維と略す)
体法により製造される SiC 系繊維は,東北大学金属材料研 1st SiC 繊維の耐熱性改善のためには繊維中の酸素の問
究所・矢島聖使教授が1 95年に発表して以来2),世界各
7 題を解決する必要がある.その対策として,チラノ繊維TM
国で盛んに研究・開発が進められてきた. とニカロンTM ではアプローチが異なった.チラノ繊維TM
1 第1世代の SiC 系繊維(以下,1st SiC 繊維と略す)
2. の場合,1st SiC 繊維のチラノ繊維 LoxMTM は Si 以外の金
図1に,前駆体法による SiC 系繊維の製造プロセスを示 属として Ti を含有する Si―Ti―C―O 系繊維であった.この
す.多くの場合,前駆体としては熱可塑性のポリマーが利 Ti を Zr に置き換える事(Si―Zr―C―O 系繊維,チラノ繊維
用され,溶融紡糸等により繊維化された後に,不融化処理 ZMITM)によって不融化処理で取り込まれた酸素を Zr―O
により熱可塑性から熱硬化性に転換され,更に不活性雰囲 結合として高温まで繊維中に確保しておく方法である.こ
の場合,出発原料となる有機ケイ素重合体を改良すること
Silicon Carbide Fibers
* Sato, Mitsuhiko
で,基本的な製造プロセスを変更することなく実施でき
東京工科大学 片柳研究所 る.他方,ニカロンTM では,酸素が繊維中に取り込まれ
東京都八王子市片倉町1 404―1(〒19 2―0 982) る原因となった不融化処理を,He ガス中,電子線照射に
satohmh@stf.teu.ac.jp
2020. 12.7受理 より行った.その結果,繊維中の酸素含有量は1. 0wt%
https : //doi.org/10.4325/seikeikakou.33.121 以下まで低減化し(ハイニカロンTM) ,繊維の耐熱性は約
1
50 0℃に向上した(図2参照) 4). 素や余剰炭素を含有する繊維を1 500℃以上で分解させ,
2.3 第3世代のSiC系繊維(以下,3rd SiC繊維と略す) 繊維中の酸素や余剰炭素を除去して,一旦,多孔質ではあ
2nd SiC 繊維の登場により,SiC/SiC 複合材料の開発が るが SiC 結晶の集合体に転換する.その後,2 00
0℃以上
進んだ(IHPTET 計画,AMG 計画,等) .しかしながら, で SiC 結晶を焼結させて多結晶性 SiC 系繊維とする方法で
後述するように,SiC/SiC 複合材料の中には製造プロセス ある.この方法で開発された繊維としては宇部興産 のチ
が高温になる物もあり,更なる耐熱性の改善が求められる ラノ繊維 SATM と COI Ceramics,
Inc の SylramicTM があ
ようになった.また,SiC 系マトリックスとの力学的特性 る.SiC 材料は難焼結性であるため,Al や B のような焼
のバランスから,SiC 系繊維の弾性率向上も必要となって 結助剤が必要となる.例えば,チラノ繊維 SATM では Al
きた.そこで,繊維組成が SiC の化学量論組成に近く,主 を含有するポリアルミノカルボシランを前駆体として使用
として多結晶 SiC から構成される3rd SiC 繊維が開発され し,SiC 結晶が焼結した多結晶 SiC 系繊維を開発した5).
るようになった.3rd SiC 繊維の製法コンセプトは大きく 二つ目は,2nd SiC 繊維のハイニカロンTM 中の余剰炭
二つに分かれる.一つは,1st SiC 繊維のような多量の酸 素を低減化する方法である.ハイニカロンTM では,電子
表1 各種炭化ケイ素繊維の特性
Tensile Strength
3.
0 3.
2 3.
1 3.
3 3.
4 2.
8 3.
0
(GPa)
Tensile Modulus
2
20 2
70 3
80 1
87 2
00 4
10 4
20
(GPa)
Elongation
(%) 1.
4 − − 1.
8 1.
7 0.
7 0.
7
(g・cm−3)
Density 2.
55 2.
65 2.
85 2.
48 2.
48 3.
02 >3.
1
(μm)
Diameter 1
4 1
4 1
2 8&1
1 8&1
1 8&1
0 1
0
Specific
Resistivity 03―1
1 04 − − 3
0 2.
0 − −
(Ω・cm)
Thermal
3.
2 4.5
Expansion − − 3.
1 4.
0 −
(2
5―50
0℃) (2
0―13
20℃)
coeff.
(1 0−6/K)
Thermal
2.
97(2
5℃)
Conductivity − − − 2.
52 6
4.6 4
0-4
5
2.
20
(500℃)
(W/mK)
図5 溶融 Si 金属含浸法(RMI 法)の概念図