Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 4

特 集 人口減少下での地方公共団体の役割⑤

2
自治体デジタルトランスフォーメーション
ひがしがわ れい
東川 玲
内閣府企画官(博士/法学)
元新潟県魚沼市副市長
国と地方で
「デジタル・ガバメント」実現

第 3 種郵便物認可
G
o
v
C
l
o
u
d
などの超高速モバイル通信網を活用した行政サー ら 年3月までを対象期間とし、
「 ─ 」

26

2021 年(令和 3 年)12 月 6 日(月) 地方行政


1.
自治体DXの意義とは
ビスの提供において、DXやデジタル化が果たす (以下、ガバメント・クラウド。注4)の活用に
近年、注目を集めるデジタルトランスフォーメ 役割は重要な意義を持つことが見込まれる。 向けた検討状況や、デジタル庁の設置に伴う国の
ーション(DX)とは、
「情報通信技術(ICT) 全国の自治体は自らが担う行政サービスについ 動向を反映させるよう適宜、見直しを行うととも
を活用し、われわれの生活全般のサービスの向上 て、デジタル技術やデータを活用して住民の利便 に、自治体の取り組み状況に応じたPDCAサイ
しんちょく
を図り、より良い方向へ変化させること」とされ 性を向上させるとともに、ガバナンス(統治)の クルにより、進捗管理を行う(注5)。
る。企業でDX化が進められる中、行政サービス 観点からDXや人工知能(AI)などの活用を通 総務省は国の施策展開を踏まえつつ、業務改革
を提供する地方自治体でもDXの重要性が指摘さ じて行政事務の効率化を図りつつ、有限の人的資 (BPR)を含めた標準化などの進め方について、
れているが、DXの意義とは何か。 源を生かして行政サービスのワンストップ化や即 「自治体DX全体手順書」
(注6)を公開している。
国は「デジタル社会の実現に向けた改革の基本 時性を高めていくことが求められる。 手順書作成の経緯として、自治体ごとにICT化
方針」
( 注1) で、 目 指 す べ き デ ジ タ ル 社 会 の ビ の取り組み状況は異なっており、その状況に応じ
ジョンとして「デジタルの活用により、一人ひと 1─1.自治体DX推進計画の策定 てDXを推進することが求められるが、情報主管
りのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、 総務省は、2020年 月に「自治体DX推進 課の職員数が少ないなど体制が十分ではない自治

12
多様な幸せが実現できる社会」により、
「誰一人 計画」
(注3)を策定し、「デジタル・ガバメント 体でも、全国統一的なシステムの標準化やオンラ
取り残さない、人に優しいデジタル化」を目標に 実行計画」における自治体関連の各施策について、 イン化などに着実に取り組まなければならないこ
掲げた。 自治体が重点的に取り組むべき事項・内容の具体 とを考慮したものとなっている。
デジタル庁の設置などで国の役割が明確化(注 化に着手した。関係省庁の支援策などを取りまと また自治体は、総務省策定のDX推進計画を踏
2)された一方、住民に身近な行政を担う自治体、 め、デジタル社会の構築に向けた取り組みを全自 まえつつ、自らの創意工夫でDXを推進していく
とりわけ市区町村では、住民のスマートフォンを 治体で着実に進めていくこととしている。 ことも期待される。
は じ め と す る 電 子 機 器 の 保 有 が 進 む 中、
「5G」 デジタル・ガバメント実行計画は、 年 月か

20
12
1─2.
自治体によるDX取り組み事例 準まで達成すべきだとした。憲法や関係法令が保 台帳システムを用いたサービスをこのクラウド上
DXの認識共有・機運醸成のため、大阪府豊中 障する社会保障などの水準に、自治体ごとに大き に、各自治体がアプリケーションとして利用でき
市は市長が自ら「とよなかデジタル・ガバメント な差異があってはならないのと同様に、DX化に ることなどが想定される。政府は、基幹業務(住
宣言」を行い、デジタルによる価値創造と変革を ついても全国一律の水準を求めている。 基、税、介護などのいわゆる 業務。注9)にお

17
進めることを打ち出している。また千葉県市川市 もっとも自治体の行政サービスには、後述する い て 標 準 仕 様 に 準 拠 し て、 各 自 治 体 は ガ バ メ ン
は、行政の「投資対効果の向上」や住民への価値 ように税や社会保障の徴収など、国が基準を定め ト・クラウドに自治体システムを構築できるとし
創 造 を 目 的 と し て、
「 市 川 市DX憲 章 」 を 制 定 し る基幹業務が多く含まれている。中山間地域など ている。
ている。憲章は、整合性の取れたDXの推進に必 を抱える町村では、新型コロナウイルス対策の給 ガバメント・クラウドにより、これまでは国か
要な指針や判断基準を共有するため、それらを明 付金支給などは、対面による提供が効率的な場面 らの給付金のような住民向けサービスを行う場合、
文化している。 も考えられることから、小規模自治体のDX化に それぞれの自治体が構築した自治体情報システム

第 3 種郵便物認可
他にも、各自治体におけるDXの方針・計画の ついては今後、配慮が必要となる(注8)。 を用いて行われてきたが、①時間や場所の制約を
策定過程で、▽若手職員を中心としたプロジェク 減らし、新しいサービスを住民に早く届けること
トチームなどを設置する事例▽業務担当部門のヒ 2─2.ガバメント・クラウドによる標準化 ができる②システム調達などの業務に関する決済
アリングで課題の抽出を行った事例▽民間企業や 自治体情報システムの標準化については、「地 や入札といった人的コストを削減できる③カスタ

2021 年(令和 3 年)12 月 6 日(月) 地方行政


地域住民と意見交換を行った事例──などがあり、 方公共団体情報システムの標準化に関する法律」 マイズの抑制などにより、システムの導入・維持
こうした取り組みも認識共有や機運醸成を図る上 で、標準化対象事務の処理に関する情報システム 管理が効率化されるとともに、法令改正対応に関
で有効と考えられる。 について、国が定める標準化基準に適合しなけれ するシステム改修費用を削減できる④各自治体が
ばならないとされた。自治体は、国による全国的 個別にセキュリティー対策や運用監視を行う必要
2.行政サービスとガバメント・クラウド
な ク ラ ウ ド 環 境 の 整 備 状 況 を 踏 ま え つ つ、 当 該 性が減少する──ことが指摘されている。
2─1.
自治体情報システムのクラウド化 環境において情報システムを利用するよう「努め また、自治体間で情報システムの標準化がなさ
DX推進計画では、国と自治体はDX化の前提 る」とされており、デジタル庁を中心としてガバ れていれば、住民が転居した際にも移動先の自治
として用いられるさまざまな保有データが、住民 メント・クラウドの構築に向けた取り組みが進め 体の行政サービスへの移行手続きを簡易化し、速
サービスの価値創造の源泉であることについて、 られている。 やかに利用することができるといったメリットが
認識を共有する必要があると指摘している
(注7)。 ガ バ メ ン ト・ ク ラ ウ ド と は、 政 府 の 情 報 シ ス ある。今後、自治体は住民サービスが滞らないよ
このため、自治体による行政サービスを通じた テ ム を 指 す が、 共 通 的 な 基 盤・ 機 能 を 提 供 す る う、データの様式の統一化などを図りつつ、多様
住民の利便性向上や業務効率化は、DX推進計画 複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、 な主体によるデータの円滑な流通を促進すること
などで目標時期が設定されているシステムの標準 SaaS)の利用環境を提供するもので、自治体 が求められる。
化やオンライン化に当たり、全国一律に一定の水 の情報システムにも活用できる。例えば住民基本

3
2─3.
標準化スケジュール 自治体がDXを推進するに当たっては、専門的 措置( 年度から各年度2000億円程度)を行

21

4
国と自治体は2021年に先行事業を始め、 知見を持つ外部デジタル人材の登用が望ましいが、 う。こうした地域のデジタル化は、DX推進計画
23

年からは標準準拠の業務アプリの実装を開始する 最高情報責任者(CIO)補佐官を設置する市区 にも基づいており、住民向けサービスのDX化に


本格移行期となる。 年度末までにすべての自治 町村はおよそ1100団体あり、約600団体が 伴う手続き利用の説明会などで、自治体による電
25

第 3 種郵便物認可
体で、原則として主要な手続きを「オンライン・ 設置していない。また、情報化担当職員が5人以 子行政をさらに推進していくこととしている。
ワ ン ス オ ン リ ー」
( オ ン ラ イ ン で1 度 提 出 し た 情 下の市町村が6割以上となっている。このうち外
4.小括
報は、2度目の提出を不要とする)で行えるよう 部人材を登用している自治体は、特別職非常勤職
にする。 員などを活用した 団体にとどまっている(注 )。 自治体の行政サービスは従来、各自治体ごとに
37

11
国は標準化に向けた取り組みに対する財政支援 デジタル庁は都道府県と連携し、市町村の外部 構築した情報システムに基づいて行われてきた。

2021 年(令和 3 年)12 月 6 日(月) 地方行政


の観点から、自治体情報システムの標準化・共通 人材任用を支援する。その内容は情報提供にとど 一方で国の基幹業務などのサービス提供が、自治
化のための基金を1509億円( 年度まで)計 まらず、必要経費について特別交付税措置(措置 体ごとにシステム改修などの面で財政的・人的負
25

上している。国の基幹系情報システムについて、 率0・5)を講じるとする。また、同庁は自治体 担を掛けてきたものの、国はガバメント・クラウ


ガバメント・クラウドへの移行のために必要とな のDX化を支援するため、オンラインによる意見 ドを通じたアプリ搭載で、こうした国からの負担
る準備経費(現行システム分析調査など)や、シ 交換の場として「共創プラットフォーム」
(注 ) が大幅に減るとの見通しを立てている。

12
ステム移行経費(接続、データ移行、文字の標準 を創設している。こうした取り組みで外部人材の 今後、デジタル庁主導による全国一律の自治体
化等)に対する補助(国費で全額負担)を、自治 登用のみならず、自治体職員による「デジタル担 DX化が進展するか否かは、自治体によるガバメ
体に行うとしている。 当職員」の育成を支援する。 ント・クラウドの導入が努力義務となっている中
「情報通信技術を活用した行政の推進等に関す で、クラウド化によるサービス提供が住民や現場
る法律」を改正した「デジタル手続法」によれば、 3─2.地域全体のDX化 から高く評価される安全性や利便性を持つかどう
年度末を目指して、住民がガバメントシステム 国は、光ファイバーや5Gサービスなどの情報 かが、大きなカギとなろう。
22

による業務アプリを利用できるよう、マイナンバ 通信基盤の整備の進展を踏まえ、これらを活用し
ーカードの普及と、同カードを用いて申請を行う た地域社会のデジタル化を支援するため、地方公 注1=2020年 月に閣議決定。政府は、デ

12
の業務手続き(注 )については、マイナポー 共団体金融機構の準備金を活用した「地域デジタ ジタル化は国民生活の利便性を向上させ、行政機
31

10
タルからカードを用いてオンライン手続きを可能 ル社会推進費」を、地方財政計画の新たな歳出項 関や民間企業の効率化に資するとして、IT基本
とするなど対象事務の拡大を目標としている。 目として計上する。デジタル人材の確保や条件不 法 の 全 面 的 な 見 直 し を 行 い、
「人に優しいデジタ
利地域のインフラ整備、観光や福祉など、デジタ ル化」を進めるとした。
3.デジタル人材の確保と地域のデジタル化
ルを活用した地域づくりを支援の対象とする。 注2=基本方針は、デジタル社会の形成に関す
3─1.
デジタル人材の確保 同推進費に必要な財源については、地方交付税 る施策を迅速かつ重点的に推進する新たな司令塔
として、デジタル庁を設置するとした。 金、児童手当、生活保護、児童扶養手当などの
17
注3=総務省「自治体デジタル・トランスフォ 業務については、関係省庁のシステムも標準化す
ーメーション(DX)推進計画」 るとしている。
h
t
t
p
s
:
/
/
w
w
w
.
s
o
u
m
u
.
g
o
.
j
p
/
m
a
i
n
_

注 =マイナンバーカードを用いて申請を行う
10
c
o
n
t
e
n
t
/
0
0
0
7
2
6
9
1
2
.
p
d
f

ことが想定される手続き。子育て、介護、被災者
注4=政府の情報システムについて、共通的な 支援、自動車保有などが対象となる。
基 盤・ 機 能 を 提 供 す る 複 数 の ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 注 = 総 務 省「 地 方 自 治 情 報 管 理 概 要 」
11

(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境を、 (2019年3月)
自治体に提供することを目指すとしている。 注 =行政のデジタル化を進めるための自治体
12

注5= デ ジ タ ル・ ガ バ メ ン ト 実 行 計 画 で は、 職員と政府・官公庁職員の直接対話型のプラット

第 3 種郵便物認可
「各施策の取組状況やデジタル庁の設置を踏まえ、 フォームであり、利用者は自治体・官公庁の職員
その在り方を含めて見直しを検討するとともに、 に限定するとしている。
必要に応じて随時、改定等を行う」こととされて
いる。

2021 年(令和 3 年)12 月 6 日(月) 地方行政


注6=「第1・0版」が公開されている。
h
t
t
p
s
:
/
/
w
w
w
.
s
o
u
m
u
.
g
o
.
j
p
/
m
a
i
n
_
c
o
n
t
e
n
t
/
0
0
0
7
5
9
0
8
3
.
p
d
f

注7=データ活用は、個人情報などのプライバ
シー情報の活用を含むことから、不正利用の防止
ふっしょく
や不安の払拭などによる安全・安心なデジタル基
盤が求められる。
注8=国はデジタルディバイド(情報格差)対
策として、
「デジタル活用支援員」の周知・連携、
NPOや地域おこし協力隊など、地域の幅広い関
係者と連携した地域住民に対するきめ細かなデジ
タル活用支援を行う。
注9=住民基本台帳、選挙人名簿管理、固定資
産税、法人・個人住民税、国民健康保険、国民年

You might also like