从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译 毛静

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大 大摩



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从顺 应论看 《 骆驼祥子 中 文 化 负 载 词 的 日 译

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以三 个 译 本为 中 心

学科专 业  巨 m邑 

作 者姓 名 
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指 导 教师 
竺 色色 

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答辩 日 期 
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硕 士 学 位 论 文

从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译

——以三个译本为中心
順応論から見る『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳
——三つの翻訳本を中心に

作 者 姓 名: 毛静

学科、 专业: 日语语言文学

学 号: 21514015

指 导 教 师: 孟庆荣

完 成 日 期: 2018 年 5 月 1 号

大连理工大学

Dalian University of Technology


大 连理 工 大 学学 位 论 文独创 性 声 明

作者郑重 声 明 :
所呈 交 的 学位 论文 , 是 本人在 导 师的 指 导 下进 行研 究 工

作 所取 得 的 成 果 。 尽我 所知 , 除文 中 已 经 注 明 弓 用 内 容 和 致谢 的地方 外



本论文 不 包 含其他个 人 或集体 已 经 发表 的 研 究成 果 ,


包含其他 已 申 请

学位 或其他用 途 使用 过 的 成 果 。 与我 一

同 工 作 的 同 志对本 研 究 所做 的 贡献

均 已 在 论文 中 做 了 明确 的 说 明 并表 示 了 谢意 

若 有 不实 之 处 ,
本人 愿 意 承担 相 关 法律责任 

学位 论文题 目 从 侦&论 i 《絲 欢科初 中 夂 化 藏 词 的 B 详 认 lT 洚 本制





作 者 签 名 :

時 
日期 :
加 1
8 年 /T 月 丨 丨 


大连理工大学硕士学位论文

摘 要
本文旨在探讨《骆驼祥子》中文化负载词的日译,以竹中伸、立间祥介、中山高
志三位译者的日译本为研究对象,从顺应论的选择和顺应视角对文化负载词的日译进
行分析。首先,本文借鉴奈达关于文化要素的分类,将《骆驼祥子》中文化负载词分
为生态文化负载词、物质文化负载词、社会文化负载词、宗教文化负载词、语言文化
负载词五大类,并按照此分类从原作中抽取相关语例及三个日译本中的对译。其次,
借鉴藤濤文子提出的《翻译方法一览表》,并根据《骆驼祥子》三个日译本的具体翻
译,将三位译者的翻译方法归纳为直译、意译、移植、直译+补注、移植+补注、同
化、加笔、音译、音译+补注、同化+补注、略译等 11 类。再者按文化负载词分类分
别分析了三个日译本中翻译方法的选择。然后,结合顺应论中的选择和顺应视角研究
了每类文化负载词在日译中体现的选择和顺应。通过研究得出以下结论:
(1)在翻译过程中,译者在充分理解原文中文化词汇含义的基础上,选择顺应中
国的文化背景或日本的文化背景向日语读者解读文化词汇。其中,译者以中国文化背
景为顺应方向时,选择直译、移植、直译+补注、加笔、同化+补注的翻译方法;以日
本文化背景为顺应方向时,选择同化、同化+补注、意译的翻译方法。(2)译者选择
适当的翻译方法并选择相应的顺应对象。顺应对象包括文化词汇的语言结构、兼顾日
语读者的理解和认知的日语表达、中国或日本的文化背景、语言语境、以及原文中的
交际环境。(3)文化词汇的日译过程是动态选择和顺应的过程。在中日文化背景下,
译者从解读文化词汇、选择顺应方向、选择翻译方法、到兼顾语言结构、译文读者的
理解和认知、原文语境等,使译文接近原文的过程体现了空间上的动态顺应。此外,
译者还根据原文交际环境的变化相应地调整译文也体现了时间上的动态顺应。(4)译
者选择加笔、补注以及使用“”、『』、「」等引用符,突出强调了原文中文化词汇
的独特性,凸显了译者在翻译过程中,为实现翻译的目的和有效传达原文内容,在选
择和顺应方面具有较高的能动性,凸显了其意识程度。
以上为三译本中针对文化词汇的日译的选择和顺应。在今后翻译文化词汇的过程
中,我们可以参考和借鉴三译本中的选择和顺应,努力保留文化词汇的文化特性、兼
顾原文中的语言语境、交际语境以及译文读者的理解与认知,作出合理的选择和顺
应。

关键词:《骆驼祥子》;文化负载词;顺应论;选择;顺应

-I-
从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

順応論から見る『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳
——三つの翻訳本を中心に

要 旨
本研究では、『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳に焦点を絞り、竹中伸、立
間祥介および中山高志の各日本語訳本における対訳を研究対象にした。まず、
Eugene A.Nida の文化要素の分類に基づき、『駱駝祥子』における文化語彙を生態、
物質、社会、宗教や言語と言う五つの文化語彙に分けた。次いで『駱駝祥子』から
この五種類の文化語彙の語例及び三つの翻訳本における対訳を抽出した。それに、
藤濤文子の「翻訳手法の一覧」を踏まえ、三つの日本語訳本に使われた翻訳法を直
訳、意訳、移植、直訳+補注、移植+補注、同化、加筆、音訳、音訳+補注、同化
+補注、略訳と言う 11 の分類にし、文化語彙の種類毎に翻訳手法の選択を分析し
た。最後に、順応論から、三つの日本語訳本における選択と順応の解析を試みた。
結論を以下に述べる。
(1)翻訳過程において、訳者らは中国文化を反映する文化語彙の持つ意味を理解
し、文化語彙の有する独特さを把握しており、原文を解読する際、中国の文化背景
か日本の文化背景かの順応方向の選択をする。中国の文化背景に順応方向にしよう
とする場合、訳者らは、直訳、移植、直訳+補注、移植+補注、加筆、同化+補注
の六つの翻訳手法を選択し多用している。また日本の文化背景に順応しようとする
場合、訳者らは、同化+補注、同化、意訳の三つの翻訳手法を選択し多用してい
る。(2)訳者らは翻訳手法を適切に選択しており、ふさわしい順応対象を選択し順
応している。順応対象には、文化語彙の言語構造、日本語読者の理解に気を配った
日本語表現、中国の文化背景あるいは日本の文化背景、言語文脈、コミュニケーシ
ョン環境などがある。
(3)中日両国の異なる文化背景のもとで、訳文の意味を最大
限に原文に近づける過程において、訳者らが原語を解読し、順応方向を選択し、さ
らに翻訳手法を選択し多様な側面を考慮して順応することは、空間的、動態的な順
応を体現している。その他、原文におけるコミュニケーション環境の変化によって
行われる訳文調整も時間的、動態的な順応を体現している。(4)訳者らが文化語彙
を翻訳する過程において、能動性を発揮し、“”、『』、「」などの引用符を用いて文

-II-
大连理工大学硕士学位论文

化語彙を強調することや、補注や加筆手法を用いて自分の理解と認知を活かしてい
ることから、訳者らの意識程度側面の順応が窺われる。
以上は三つの日本語訳本に見られる選択と順応であり、これからの文化語彙の日
本語訳過程において参考にすべき価値がある。これにより、文化語彙を翻訳する
際、最大限に文化語彙の文化的意味を残すとともに、原文の言語文脈、コミュニケ
ーション環境及び日本語読者の理解と認知に気を配り、ふさわしい選択と順応をす
べきである。

キーワード:『駱駝祥子』;文化語彙;順応論;選択;順応

-III-
从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

目 次
摘 要............................................................ I
要 旨........................................................... II
1 序論............................................................. 1
1.1 研究のきっかけ ............................................... 1
1.2 研究内容、方法と目的 ......................................... 2
1.3 『駱駝祥子』について ......................................... 2
2 先行研究......................................................... 4
2.1 文化語彙に関する先行研究 ..................................... 4
2.2 『駱駝祥子』の日本語訳に関する先行研究 ....................... 5
2.3 翻訳における順応論の応用に関する先行研究 ..................... 6
2.4 まとめ ....................................................... 7
3 理論的枠組み..................................................... 8
3.1 順応論の概説 ................................................. 8
3.1.1 言語の三つの特徴......................................... 9
3.1.2 順応論における選択....................................... 9
3.1.3 順応論における順応...................................... 10
3.2 翻訳における選択と順応 ...................................... 11
3.3 文化語彙の分類 .............................................. 12
3.4 翻訳手法について ............................................ 12
4 順応論から見る文化語彙の日本語訳................................ 14
4.1 生態文化語彙の日本語訳及び選択と順応 ........................ 14
4.1.1 生態文化語彙の日本語訳手法.............................. 14
4.1.2 日本語訳における選択と順応.............................. 15
4.1.3 まとめ.................................................. 17
4.2 物質文化語彙の日本語訳及び選択と順応 ........................ 18
4.2.1 物質文化語彙の日本語訳手法.............................. 18
4.2.2 日本語訳における選択と順応.............................. 20
4.2.3 まとめ.................................................. 27
4.3 社会文化語彙の日本語訳及び選択と順応 ........................ 29
4.3.1 社会文化語彙の日本語訳手法.............................. 29
4.3.2 日本語訳における選択と順応.............................. 31
4.3.3 まとめ.................................................. 34
4.4 宗教文化語彙の日本語訳及び選択と順応 ........................ 36
-IV-
大连理工大学硕士学位论文

4.4.1 宗教文化語彙の日本語訳手法.............................. 36
4.4.2 日本語訳における選択と順応.............................. 37
4.4.3 まとめ.................................................. 39
4.5 言語文化語彙の日本語訳及び選択と順応 ........................ 41
4.5.1 言語文化語彙の日本語訳手法.............................. 41
4.5.2 日本語訳における選択と順応.............................. 43
4.5.3 まとめ.................................................. 50
5 結論と今後の課題................................................ 53
5.1 結論 ........................................................ 53
5.2 今後の課題 .................................................. 55
参考文献........................................................... 56
添付資料........................................................... 58
发表学术论文情况................................................... 78
謝 辞........................................................... 79
大连理工大学学位论文版权使用授权书

-V-
大连理工大学硕士学位论文

1 序論

1.1 研究のきっかけ
1999 年、スイスの言語学者である Jef Verschueren は『語用学新解』[1]の中で、
「言
語順応論」と言う概念を立てた。この理論によれば、言語使用は選択と順応の過程で
あり、言語の使用者はコミュニケーション目的に応じて、かつコミュニケーション環
境に適応させながら絶えず言語方略を選ぶと言う。加えて、翻訳活動も言語コミュニ
ケーション活動と見なされ、その過程で訳者は多くの選択をすることで翻訳本を特定
の環境に適応させている。つまり、翻訳過程も言語使用の選択と順応の過程であると
言えるのである。さらに、この理論が提唱されてから、戈玲玲(2001、2002)[2][3]、
宋志平(2004)[4]、李占喜(2009)[5]などの研究者によって翻訳分野に応用され始め
るようになった。これにより、翻訳活動における強い説明力が証明されている。
そのうえ、文学作品を他言語に翻訳することで、広く世界の人々が親しむことが可
能となることから、翻訳活動が文学作品を通して、国際文化交流の一翼を担っている
と言える。世界から高い評価を受けた優れた中国文学作品がたくさんあるが、中国近
代小説の不朽の名作で 1936 年雑誌『宇宙風』に発表された老舎の『駱駝祥子』は、相
次いで日本語、英語、ロシア語など 16 種類の言語に翻訳され[6]、世界中で愛読されて
おり、代表的な例として挙げることができる。さらに、孟澤人(1982)[7]は『駱駝祥
子』の日本語翻訳本が七つあると述べている。大山潔(2017)[6]も 1943 年から今日ま
で既に七つの異なる日本語訳本があることを言及している。このことから老舎の『駱
駝祥子』が日本において広く受け入れられていると判断できる。
偶然の好機に恵まれ、筆者はその中で三つの日本語訳本を手に入れることができた。
それらは、竹中伸(1952)[8]、立間祥介(2002)[9]、中山高志(1991)[10]の三人の各
日本語翻訳本であり、これらは現在『駱駝祥子』の日本語訳の分析テキストとされて
多く研究されている。
老舎は中国言語の大家として、
『駱駝祥子』に文化語彙を活用し、中国独特の民族文
化や社会のあり様を表現したことで、読者を素晴らしい小説の世界に惹き付けること
ができた。そこで、本研究は『駱駝祥子』に用いられた文化語彙及び三つの翻訳本に

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

おける日本語訳の翻訳過程に着目し、順応論の視点から、その過程における訳者達の
選択と順応に焦点を絞り、文化語彙の日本語訳に対して訳者がどのような選択と順応
をとったのか解析する。

1.2 研究内容、方法と目的
本研究は、老舎の『駱駝祥子』[11]に用いられた文化語彙及び三つの日本語翻訳本に
表された対訳の翻訳過程に着目する。順応論から例示分析を通して、
『駱駝祥子』にお
ける文化語彙及び三つの翻訳本におけるそれらの対訳を研究内容とする。まず、
Eugene A.Nida(1975)[12]の文化要素の分類を基に文化語彙の分類を明らかにする。
さらに、藤濤文子(2005)[13]の「翻訳手法の一覧」を踏まえ、文化語彙の種類毎に三人
の訳者が使った選択と順応を解析する。
これにより、三つの日本語訳本で採られた文化語彙の翻訳手法からそれぞれの語彙
選択及び順応の手本を提示し、翻訳実践の指針とすることで今後の翻訳実践に役立て
たい。

1.3 『駱駝祥子』について
『駱駝祥子』は言語の大家と称された老舎の代表作の一つで、中国現代文学史に
おいて、重要な位置を占めている。物語は 1920 年代の北京を舞台に、貧しい主人公
の人力車夫祥子の悲惨な一生を描いた。老舎は「闘志満々で向上する-失敗に甘ん
じない-落ちぶれる」と言う主人公の運命の三つの局面を通じて、旧社会の労働人
民の辛さを徹底的に読者に訴え、旧社会の暗黒を暴くとともに、労働人民へ深い同
情の気持ちを表現した。
また、
『駱駝祥子』は 1936 年雑誌『宇宙風』に発表された後、1943 年竹中伸によ
り日本語に翻訳されたあと、1945 年 Evan King により英訳されてベストセラーにな
った。竹中伸は 1920 年代に北京に留学した経験があり、日本で通訳として有名であ
った。それゆえ、『日本語訳老舎全集』の翻訳に携わり、翻訳熱を巻き起こした。ま
た、『三国志』研究大家の一人であり、諸葛孔明等の評伝論考も多数出筆し中国文学
研究に尽力した立間祥介は、1970 年に世界文学全集第 62 に『駱駝祥子』の翻訳を著
している。さらに、中山高志は 1938 年に北京で病院の仕事をしながら、中国人の家
庭教師をしたのをきっかけに中国語を学び始めた。その時期、『駱駝祥子』に描かれ

-2-
大连理工大学硕士学位论文

た北京の実情を自分の足で実地調査し、北京庶民の生活を身近に体験したことをも
とに、日本語訳の執筆に着手した。

-3-
从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

2 先行研究

2.1 文化語彙に関する先行研究
孟子敏(1993)[14]によると、文化語彙は特定の文化範疇に属する語彙であり、民
族文化を直接あるいは間接的に反映していると言う。また、文化語彙の定義に対し
て「文化語彙は明確な民族文化情報を備え、奥深い民俗文化を隠していると同時
に、物質文化、制度文化及び心理文化などと直接な関係があり、それらの文化を反
映する」と言うことに注意すべきであると主張している。伏春宇(2011)[15]は文化語
彙の定義と分類に対する見解がさまざまあることを証明するとともに、「文化、特
定、特殊、特有、独特、民族」などの言葉がキーワードとしてよく言及されるとま
とめた。また、廖七一(2002)[16]によると、文化語彙(culture-loaded words)と
は、ある文化における特有な単語、連語や慣用句などであり、特定の民族が長い歴
史の発展のなかで蓄積した、他の民族と異なった独特の活動様式であると言う。
上述の文化語彙の定義から、文化語彙とは「国家、民族や地域などにより、独特
な文化情報を反映する語彙である。
」と理解できる。
また、文化語彙は独特の表現であるため、ほかの言語に翻訳する際、内容と形式に
完全に対等させることができない場合がほとんどであり、翻訳の難点になる可能性が
大きい。文化語彙の翻訳に関して、Peter Newmark(2001)[17]は「文化語彙とは翻訳の
難点につながる文化空白語であり、独特で直訳できない」と言う考えを示している。
黄信(2010)[18]は、文化語彙は翻訳可能性と翻訳不可能性を持つので、翻訳過程にお
いて、訳者は文化語彙を文化と言語の統一体と見なし、翻訳可能性と翻訳不可能性を
最大限に統一し、文化語彙の真意を翻訳することで訳文の読者に原語の文化情報をで
きるだけ多く提供すべきであるとしている。それに、文化語彙の翻訳手法に関して、
鄭徳虎(2016)[19]は中国文化を世界に広めるするために、文化語彙を翻訳するとき、
できるだけ異化の翻訳方略をとり、中国文化の特色を最大限体現する必要があると述
べている。王理(2017)[20]は、「文化語彙の翻訳可能性は有限である」と考え、その
原因を「等価表現がない、等価の文化含意がない」とまとめると同時に、解釈、説明、
注解などの翻訳手法を示している。その他にも、文化語彙の翻訳に焦点を絞った研究
者に、夏目漱石の『坊っちゃん』とその英訳を対象として研究を行った霜崎實(2013)

-4-
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[21]
などがいる。これらの研究は文化語彙の翻訳に注目しており、翻訳手法と注意点を
探究しいる。

2.2 『駱駝祥子』の日本語訳に関する先行研究
中国では、袁荻涌(1998)[22]は、日本の研究者が老舎の作品をいかに評価してい
るかと言うことに関して、北浦藤郎、岡本隆三、藤井栄三郎、日下恒夫、実藤恵秀
など日本人中国文学者の『駱駝祥子』に対する見解をまとめた。謝淼(2012)[23]
は、世界における『駱駝祥子』の広めと受容をめぐり、主な研究視点を祥子の悲劇
的命運、北京の民俗伝統、他の作品との比較、芸術的成果と言う四つの側面を主な
研究視点として受容の影響要因を分析した。付真真(2013)[24]は、1936 年から 2013
年までの『駱駝祥子』に関するさまざまな異なる時期の研究状況を基に、階級の革
命、人間性の啓蒙、都市と農村の文化及び言語、翻訳などの側面から『駱駝祥子』
に関する研究過程を考察した。さらに、筆者が中国知網を利用して『駱駝祥子』を
テーマにした論文を検索した結果、107 篇の修士論文があった。それらの内、英訳に
関するものが 59 篇、日本語訳に関するものが 3 篇であった。この日本語訳 3 篇のな
かで、斉微微(2011)[25]は、『駱駝祥子』の三つの日本語訳本を選択し、翻訳本に出
てくる文化語彙を言語文化語彙と民俗文化語彙に分類して翻訳手法と注意点を研究
している。張楠(2013)[26]は、関連理論の視点から『駱駝祥子』における文化語彙
の日本語訳の影響要素を言語差異、生活方式差異及び思想差異の三つの側面から三
つの日本語訳本を対比し、文化語彙の翻訳手法を探求した。陳文婷(2014)[27]は、
『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳を研究対象とし、三つの日本語訳本から
対訳文を抽出し、定量及び定性研究の手法で、スコポス理論から三人の訳者の翻訳
方略の優劣を詳しく解析した後、文化語彙の翻訳方略と注意点をまとめた。いずれ
も文化語彙の翻訳に焦点を置いた研究であった。
次は、翻訳本研究に関する理論視点に関して、主な研究視点を図 2.1 に示した。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

8
6
篇数

4
2
0
訳者主体
目的論 改写論 風格論 機能論 関連論 順応論 異化帰化

研究視角 4 2 3 5 4 6 4 2

図 2.1 『駱駝祥子』の翻訳本に関する研究視点

図 2.1 から、目的論、機能論、順応論などが研究視点であることが分かった。し
かし、
『駱駝祥子』翻訳本に関して順応論を研究視点としたものに、英訳本に関する
研究はあったが、日本語訳本に関しての研究はまだ着手されていない。
日本では、『駱駝祥子』に関して、原作に焦点を当てた研究はあったが、日本語翻
訳本に関する研究はなかった。例えば、渡辺武秀(1997)[28]は、老舎の初期の文学
成果を明らかにすることを目指し、『駱駝祥子』を取り上げ、孫刑事と劉四爺が祥子
を不幸に陥れる二つの事件を分析して、祥子が「車引き」であったがために受けた
迫害と祥子の性格との関係に注目した。分析の結果、悲劇は社会の最下層の人々に
おける「正直」「真面目」「大人しい」性格の人物に最も顕著に現れると結論で述べ
ている。齋藤匡史(2001)[29]は、『駱駝祥子』に現れた食品を取り上げ、物語の展開や
文脈におけるそれらの意味を研究して、老舎の小説世界の文脈において、「食」は極
めて重要な部分を占めると述べている。また老舎文学の世界の「食」には、山海の
珍味はなく、あったとしても庶民の視点からの美味しいものであると述べている。
その他、『駱駝祥子』に反映された老舎の女性観に注目した研究者に弘田恭子
(2004)[30]がいる。

2.3 翻訳における順応論の応用に関する先行研究
順応論は中国に導入されて以来、言語学と密接に結合し、言語研究における重要
な課題となっており、ここ数年来、翻訳との関係が研究者に注目されている。例え
ば、戈玲玲(2001)[2]は、順応理論における文脈順応の視点から翻訳活動において
訳者の語義選択の制約要素を研究した。順応理論の視点から翻訳活動を分析すれ
ば、起点テキストと目標テキストを完全に等価にすることはできず、ただ「信、
達、切」と言う標準に即した語用等価を実現させると述べている。(戈玲玲、2002)
[3]
宋志平(2004)[4]は、順応論から翻訳活動の過程とモデルを「原語文脈を解読し、

-6-
大连理工大学硕士学位论文

意味を選択する-目的語で選択した意味を表現するとき、さまざまな表現方略と技
巧を選択する-翻訳目的を明確にし、順応の対象と側面を選択する-適切な方略と
テックニックを選択してふさわしい順応を実現する」と述べている。また、宋志平
(2007)[31]は、順応論から翻訳過程における選択と順応を論述する基に、実証手法
で翻訳選択の性質を明らかにした。
龚龙生(2008)[32]は順応論の主張した言語の変異性、協調性と順応性から、言語
と非言語のコミュニケーション環境により、通訳過程に体現した文脈順応を研究し
ている。李占喜(2009)[5]は、言語の変異性、協調性と順応性がコミュニケーター
の言語選択の動態を体現するので、翻訳活動も言語選択活動の一つであると指摘す
ると同時に、変異性、協調性と順応性と言う三つの特徴が翻訳活動の全過程を貫く
と述べている。
つまり、順応論からの翻訳研究に関して、言語の三つの特徴、言語の選択、順応
及び具体的な順応方面の視点から研究を行ったのである。本研究は、これら先行研
究の視点を参考とし、順応論の選択と順応から文化語彙の日本語訳を研究する。

2.4 まとめ
2.1 節、2.2 節、2.3 節における先行研究から以下のようにまとめることができ
る。
文化語彙の定義を明らかにするとともに、文化語彙の翻訳可能性を証明した。ま
た、順応論の視点から『駱駝祥子』における文化語彙の翻訳研究において、日本語
翻訳本に関するものは未だない。しかし、文化語彙は翻訳の難点として日本語訳の
時にも重視すべきである。さらに、順応論が翻訳研究に適用できることは多くの研
究者によって証明されている。つまり、順応論から文化語彙の日本語訳を研究する
ことは、実行できる。
以上のまとめから、本研究は順応論の視点から『駱駝祥子』に使われた文化語彙
の日本語訳を研究することは、一定の難度があると同時に、新しい視点を提言でき
る可能性が窺われる。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

3 理論的枠組み

本研究は、Jef Verschueren が立てた順応論の選択と順応から、『駱駝祥子』に使


われた文化語彙の日本語訳を研究する。文化語彙の分類に関して、Eugene A.Nida の
文化要素の分類を基にする。さらに、文化語彙の翻訳手法を解析するために、藤濤
文子の「翻訳手法の一覧」を踏まえる。そこで、本節では、本研究の理論的内容を
明らかにすることを目指し、順応論の概説、翻訳における選択と順応、文化語彙の
分類及び翻訳手法を説明する。

3.1 順応論の概説
李捷[33]による順応論の構成を図 3.1 に示す。

選択する

変異性
言語順応論 文脈順応
協調性
構造順応
順応性
動態順応

意識程度の体現

図 3.1 言語順応論の構成

図 3.1 から、言語順応論の構成において、選択することが語用研究の起点となる
ことが分かる。Jef Verschueren(1999)[34]によると、言語の変異性、協調性、順応
性と言う三つの特徴は言語選択の前提であり、変異性と協調性は順応性の内容であ
り、順応性とは言語選択の機能を発揮してコミュニケーション活動を順調に進める
過程であると言う。また、Jef Verschueren は順応論において、言語の順応性を基に
して、文脈、言語構造、動態、意識程度と言う四つの順応面から語用現象を解析し
た。

-8-
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3.1.1 言語の三つの特徴
Jef Verschueren(1999)[34]による言語の三つの特徴を以下に説明する。
(1)言語が変異性を持っている。コミュニケーションする過程において言語構造
と言語方略は言語の多様性と柔軟性を体現している。コミュニケーターはコミュニケ
ーション目的に応じて柔軟に言語形式と方略を選択することができる。
(2)言語が協調性を持っている。コミュニケーターは或る一定の原則と方略に基
づき、選択活動を柔軟に進めるが、言語選択の不確定性を反映する。
(3)言語が順応性を持っている。コミュニケーターはコミュニケーション目的に
応じ、選択できる言語形式や言語項目から適切に選択する。

3.1.2 順応論における選択
Jef Verschueren(1999)[34]による言語の選択を以下のような幾つかの側面から説
明する。
(1)言語構造の側面
例えば、コミュニケーションの言葉を選択する。言語の種類では、英語かロシア語
か、あるいは中国語かなどを選択する。言語体裁では、小説か詩歌かあるいは会話体
かなどを選択する。また、コミュニケーションのとき、標準語であるか方言であるか
を選択するほか、語義、語彙、文法、語音などの言語形式も選択の対象になる。
(2)言語方略の側面
例えば、敬意を表すとき、言葉遣い、呼び方や言い方などの面を同時に選択するこ
とはよくある。
(3)選択意識程度の側面
コミュニケーション環境によって選択は異なり、意識程度の高低は不確定である。
例えば、祝福を表す場合、言葉遣いによく気を配るようになる。その時の選択意識の
程度は高くなる。しかし、日常のコミュニケーション環境では、文法などの選択意識
の程度は低くなる。
(4)選択には相互性がある。
コミュニケーターにおける話し手と聞き手は選択活動に共同に参加する。話し手は
言葉を話すとき、多様な選択を行うが、同時に聞き手も言葉を理解するときに多様な
選択を行うことで、コミュニケーションの相互理解を促すことができる。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

3.1.3 順応論における順応
3.1 節で紹介した言語順応論の構成をもとに、順応性において①文脈順応②構造順
応③動態順応④意識程度の体現と言う順に四つの研究視点を紹介する。
文脈関係とはコミュニケーターの言語選択とコミュニケーション環境の統合であ
る。言語文脈とコミュニケーション環境は文脈研究において関連するものである。
コミュニケーション環境は、心理世界、社交世界と物理世界の三つの側面からな
る。その中で、心理世界とはコミュニケーターが持つ個性、意図、気持ちなどの認
知と情感要素である。社交世界とは、特定な社交場合、文化の雰囲気や社交環境で
ある。物理世界とは、時間的・空間的な要素である。言語文脈は前後文、言語のチ
ャンネル(生理的な表情や手ぶりなど、人間自身が創った人工表情や手ぶりなど)
を含めている。そのうち、各要素の関係を図 3.2 に示す。[35]

物理世界

社交世界

心理世界

言語の 言語の

発話者 解読者

言語 言語

生成 理解
チャンネル

(言語文脈)

図 3.2 順応における文脈要素

Jef Verschueren(1999)[34]によれば、文脈順応における物理世界、社交世界や心
理世界に明確な境界はなく、言語の発話者と言語の理解者は順応の中核位置を占め
ると言う。言語選択はこの図に隠された情報として、発話者の言語生成から聞き手
の言語解読まで存在している。
構造順応とは言語構造と構造原則の選択である。コミュニケーション環境の制約
を受け、言語構造の選択は発話者の文化背景、言語手段や政治的立場などの面に関

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大连理工大学硕士学位论文

連する。また、言語文脈の制約を受け、言語選択は言葉遣い、言語コードや言語構
造成分、言葉構造原則などの選択を含める。その中で、言語構造成分に関する選択
は文法面における語彙、語音、声調、リズム、ポーズ、音色、短文と文および命
題、長文構造などに関わっている。
動態順応とは、コミュニケーターが時間的・空間的な場合によって異なる言語を
選択する過程である。詳しく言えば、動態順応の側面では、コミュニケーターは三
つの世界(心理世界、物理世界と社会世界)の変化に触れ、言語使用の実況を結合
し、言語選択の順応を解釈する。
意識程度の側面では、Jef Verschueren(1999)[34]によれば、コミュニケーション
過程において、コミュニケーターの言語行為には意識成分があると言う。例えば、
言語選択は時によって目的性が強く、意識程度が強くなる。この意識や認知理解は
人と場合により程度の高さは異なる。

3.2 翻訳における選択と順応
順応論では、翻訳過程とは、選択と順応の過程である。陶源(2014)[35]による順
応論から見る翻訳過程を図 3.3 に示す。

百科知識

文化習俗

心理思惟

原作者 訳者 読者
原作表現時の選択 訳本理解時の選択

原作 訳本

原語言語文脈 訳語言語環境

原作理解時の選択 構造の転換 訳本表現時の選択

図 3.3 順応論から見る翻訳過程

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

図 3.3 に示した翻訳活動では、訳者が中心の位置を占め、原作、原作者、原作の
文脈、訳本、訳語の言語文脈及び訳文読者の間で多重選択することを示してい
る。その過程において、訳者はまず、翻訳作品を選び、原語文化に即した立場を選
択する。また、訳者は原作の解読意味を選択する。さらに、原文内容の伝達方略を
選択する。ほかに、原作に最も近い訳文を作るために、語彙、語義、文構造や前後
文のつながりなどの言葉面で選択を行う。
順応論の視点から見れば、翻訳は選択の過程であると同時に、順応の過程であ
る。翻訳過程において、訳者はまず、原語文化に順応し、原作を正しく理解し解読
する。その上で、翻訳手法を選択して目的語に翻訳するとき、読者の理解、目的語
の表現習慣や目的語の文化背景などに気を配り順応すべきである。
Jef Verschueren(1999)[34]では、言語選択の目的はコミュニケーション活動を支
障なく進めることであると述べている。したがって、翻訳活動では、翻訳目的を実
現するために、適切に選択し順応すべきであると言える。
そこで、本研究は順応論から見る翻訳過程を踏まえ、順応論から『駱駝祥子』に
使われた文化語彙の日本語訳における選択と順応を解析する。

3.3 文化語彙の分類
翻訳実践と理論に取り組んだ Eugene A.Nida(1975)[12]は等効翻訳を求める過程
において文化要素の翻訳が主な難点であることを述べた後、言語における文化要素
を「生態文化、物質文化、社会文化、宗教文化、言語文化」に分類した。
本研究では、『駱駝祥子』における文化語彙を Eugene A.Nida の文化要素の分類を
基に、①生態文化語彙②物質文化語彙③社会文化語彙④宗教文化語彙⑤言語文化語
彙の五つに分類した。

3.4 翻訳手法について
翻訳手法に関して、翻訳理論を専門の研究領域としている藤濤文子(2005)[13]は
スコポス理論に基づき、「翻訳手法の一覧」で翻訳手法を以下のように分類した。

(1)移植:原語の綴りをそのまま導入する。
(2)音訳:原語の音声を目的語に導入する。
(3)借用翻訳:原語の構成要素の意味を訳す。

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(4)逐語訳:一語対一語のように訳し、直訳とも呼ばれる。
(5)パラフレーズ:目的語の統語構造で同じ意味を表し、意訳とも呼ばれる。
(6)適応:目的語文化におけるもので代替し、同化する。
(7)省略:原語における要素を削除する。
(8)加筆:原語に含まれていない要素を加える。
(9)解説:注などにより解説する。

その中で、(1)~(4)は原文を中心にし、(5)~(8)は目的語を中心にした翻
訳手法である。(9)は訳文読者の理解に気を配り、訳文の忠実性を高める手法であ
る。
本研究では、以上の翻訳手法を踏まえ、『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳
を整体的に分析して、三つの日本語訳本に使われた翻訳手法を①直訳、②意訳、③
移植、④直訳+補注、⑤移植+補注、⑥同化、⑦加筆、⑧音訳、⑨音訳+補注、⑩
同化+補注、⑪略訳の 11 に分類する。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

4 順応論から見る文化語彙の日本語訳

本章は、『駱駝祥子』から生態文化語彙、物質文化語彙、社会文化語彙、宗教文化
語彙と言語文化語彙の五つの分類に関する原文語例、及び竹中伸、立間祥介、中山
高志の三人よる各日本語訳本で示される対訳文をそれぞれに、「a.竹中訳」、「b.立間
訳」、「c.中山訳」として抽出する。さらに、類別した翻訳手法の統計を基に、順応
論のもとで、五つに分類した各語彙毎に日本語訳における選択と順応を解析する。

4.1 生態文化語彙の日本語訳及び選択と順応
生態文化語彙とは、それぞれの国家や民族が異なった地域環境及び自然生態にお
いて長く暮らしていくうちに、独自の見解と認識を表すようになった言葉であり、
あるいは自然環境を表す語から派生した言葉である。

4.1.1 生態文化語彙の日本語訳手法
本節では、地域環境及び自然生態に関して、『駱駝祥子』から 9 例を抽出し、具体
的な語例、三つの翻訳本における対訳及び翻訳法を分類した。結果を添付資料 A に
示す。さらに添付資料 A から三者が採用した翻訳手法を数値化し比較した結果を表
4.1 に示す。

表 4.1 三つの翻訳本に使われた翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ②意訳 ③移植

a.竹中訳 1 7 1
b.立間訳 1 8 0
c.中山訳 1 7 1
合計 3 22 2

表 4.1 から、三つの翻訳本に①直訳、②意訳や③移植と言う三つの翻訳手法が使
われており、その中でも、②意訳手法が多用されていることが分かる。

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4.1.2 日本語訳における選択と順応
『駱駝祥子』に使われた生態文化語彙は中国の自然、地理環境などと密接な関係
を持つ。したがって、訳者にとって、中国の生態文化を理解することが重要であ
る。順応論の視点から見ると、生態文化語彙に対し、訳者はまず既有知識を活用
し、原文の意味を解読する。そのうえで、翻訳目的を有効に達成するためには、言
葉遣いの選択と調整を適切に行い順応すべきである。以下に例示する。

例(1)他们一听见风声不好,赶快就想逃命;
a.竹中訳:彼らは、「妙な具合だよ」と言うことをちょっと小耳に挟むが早い
か、大慌てで逃げ支度をする。
b.立間訳:彼らはおかしな噂を耳にすると、とたんに浮足立つ。
c.中山訳:彼等は形勢が怪しいと見とると、慌てて避難を始める。

原文における意味:
魯枢元(2015)[36]は中国語の「風」が常用漢字として、その語義は生命力が満ち
あふれた「文化生態系統」であり、中華民族の生存知恵を体現していると述べてい
る。そのことは生態文化語彙における「風」の独特性を示唆するものである。「风
声」は文字のとおりに理解すれば、風の吹く音を表すと言う意味であるが、原文に
おける「风声」は戦争がもうすぐ来ると言う噂の喩えであり、原文文脈に社会状況
を表している。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は②意訳方法で「风声」を「具合」と翻訳している。日本語の「具合」は
物事の状態を表す意味で、社会状況を指していると理解できる。それゆえ、原文の
語用文脈にふさわしい語彙選択と言えるであろう。これを順応論の視点から見れ
ば、「具合」と言う言葉遣いの選択は文脈順応の結果である。つまり、原文には「风
声」が使われた文脈即ち「戦争がもうすぐ来る」と言う社会環境があり、それは原
文における言葉選択のコミュニケーション環境である。「具合」は社会状態を表すの
で、そのコミュニケーション環境に順応していて原文内容に忠実であると言える。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

立間(b)は②意訳方法で「风声」を「噂」と翻訳している。日本語の「噂」は原文
の「风声」と同じように、世間の人々が戦争がもうすぐ来ると巷で話していること
を指す。これは、「风声」の意味に忠実である。
中山(c)は②意訳方法で「风声」を「形勢」と翻訳している。日本語の「形勢」は
社会の状況、情勢を表す言葉である。これは竹中訳と同じく、原文における「戦争
がもうすぐ来る」と言う社会環境に順応しているもので、ふさわしい訳文と言え
る。
また、三人の訳者がいずれも②意訳方法を選択して「風」の言葉を用いていない

ことは、日本の生態文化に順応すると同時に、日本語の読者に気を配った日本語表

現に順応していると理解できる。

例(2)可是事情是事情,我不图点什么,难道教我一家子喝西北风?
a.竹中訳:そこんところを少し考えりゃ、俺の家族どもに寒い思いをさせて知
らん顔も出来めえ
b.立間訳:ビタ一文いただかずでやってみねえ、女房子供は干しあがっちまわ
あな。
c.中山訳:だが、用件は用件だ、空き手で帰って餓鬼どもを飢え死にさせられ
ると思うか。

原文における意味:
「喝西北风」における「西北风」は気象名詞で、冬に中国北方で西北方から吹く
冷たい風であり、また、一方で生活の窮迫を表す意味を持つ。原文において、警察
官が祥子に旨味を要求するとき、「旨味を要求しないと、自分の家族の暮らしは貧苦
になる」と言う件がある。これは「喝西北风」が文化語彙として使われた言語文脈
である。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は②意訳方法で「喝西北风」を「寒い思いをさせる」と翻訳し、「貧苦な
生活」の意味を表している。立間(b)は②意訳方法で「喝西北风」を「干しあがっち
まわあな」つまり干しあがってしまうと翻訳することで、「食べ物もなく、生活に苦
しむ」と言う意味を表している。中山(c)は②意訳方法で「飢え死にさせられる」と

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翻訳している。三人の訳者はいずれも②意訳手法を選択し、生活の貧苦さを表現し
ている。これは、順応論から見れば、訳者らは文化語彙の「喝西北风」の持つ意味
を正しく理解しており、原文における言語文脈に順応していると言えるであろう。
それと同時に、訳者らが選択した言葉遣いに、「風」を含む表現を使わなかったこと
から見れば、日本語の読者の理解に気を配った日本語表現と日本の生態文化に順応
して原語の意味を適切に翻訳していると言える。

4.1.3 まとめ
本研究は 4.1 節で、『駱駝祥子』から生態文化語彙 9 例を抽出し、三つの日本語訳
本で用いられた翻訳手法を分類して数値化し表 4.1 に示した。さらに、順応論の視
点から、三つの訳本における選択と順応の解析を試みた。そこで、順応論から見る
生態文化語彙の日本語訳過程を図 4.1 に示す。

順応方向 構造順応
文化背景 翻訳
・日本語の読者の理解に気を
生 手法
態 配った日本語で解読する

化 日本の生 意訳
語 文脈順応
彙 態文化背 ・日本の生態文化背景に順応

理 景に順応 する

す する方向 ・原語文脈、原文におけるコ

ミュニケーション環境に順
応する

図 4.1 順応論から見る生態文化語彙の日本語訳過程

図 4.1 から、順応論から見る生態文化語彙の日本語訳を次のように説明できる。
(1)訳者らは中国の生態文化を反映する文化語彙を理解し、生態文化語彙の有す
る独特さを把握する。

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(2)訳者らは日本の生態文化背景を順応方向にして②意訳手法を多用し、原文に
おける言語文脈及びコミュニケーション環境における社会環境を把握し順応すると
同時に、原文に使われた生態文化語彙の持つ正しい意味を解読して、日本語の読者
の理解に気を配った日本語を用いて翻訳している。即ち日本語の言語構造に順応し
ていると言える。

4.2 物質文化語彙の日本語訳及び選択と順応
物質文化語彙とは、生活様式、地理環境や風俗環境の影響を受けた、人間の基本
的な生活と密接な関係がある語彙である。その中には、飲食、衣服、住居や交通な
どに関するものも含まれる。

4.2.1 物質文化語彙の日本語訳手法
本節では、食べ物、衣服、住宅や生活用品などに関して、『駱駝祥子』から 74 例
を抽出した。その中に、異なり語数が 33 例あった。語例を頻数で表し数値化した結
果を図 4.2 に示す。語例、対訳及び翻訳手法の具体的な例は添付資料 B に示す。

25 23
20
15
頻数

10
10
4 4 3
5 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
0
芝麻酱烧饼

棒子面饼子
大杂院
窝窝头
黄狮子
老豆腐

八仙人

棒子面

涮羊肉
硬面-饽饽

虎皮冻
酱萝卜

煎包儿
千层底青布鞋

熏肝酱肚

三黄宝腊
夜壶挑子

马蹄烧饼
焦油炸鬼

荤汤腊水
元宵

馒头

皮糖

酱鸡

骨牌

年画
年货

扒糕
凉粉

花糕

炒肉
馄饨挑儿

物質文化語彙の語例

図 4.2 『駱駝祥子』における物質文化語彙

『駱駝祥子』に使われた物質文化語彙のうち、食べ物に関する語例は 30 例があ
り、異なり語数は 22 例である。衣服に関する語例は 1 例がある。住宅に関する語例
は 10 例があり、異なり語数は 1 例である。その他生活用品に関する語例は 33 例が
あり、異なり語数は 9 例である。

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本研究では、衣服とその他の生活用品をまとめて「ほかの類」として、食べ物、
住宅、ほかの類と言う三つの側面から三つの翻訳本に使われた翻訳手法を分析す
る。
(一) 食べ物
食べ物に関する物質文化語彙に関して、添付資料 B から三者が採用した翻訳手法
を数値化して比較した結果を表 4.2 に示す。

表 4.2 三つの翻訳本に使われた食べ物類の文化語彙の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ②意訳 ③移植 ⑤移植+補注 ⑥同化 ⑦加筆 ⑪略訳

a.竹中訳 7 1 17 0 1 3 1
b.立間訳 7 3 8 3 5 4 0
c.中山訳 1 1 16 10 0 2 0
合計 15 5 41 13 6 9 1

表 4.2 から、三つの翻訳本では、食べ物に関する物質文化語彙に対し、①直訳、
②意訳、③移植、⑤移植+補注、⑦加筆、⑥同化及び⑪略訳の七つの翻訳手法が使
われていることが分かる。その中でも③移植の翻訳手法が三者に一番多く用いら
れ、次いで①直訳、⑤移植+補注、⑦加筆の順で用いられている。
(二) 住宅
住宅に関する物質文化語彙では「大杂院」が 10 例であった。添付資料 B から三者
が採用した翻訳手法を数値化して比較した結果を表 4.3 に示す。

表 4.3 三つの翻訳本に使われた「大杂院」に対する翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
③移植 ⑤移植+補注 ⑥同化 ⑦加筆 ⑪略訳

a.竹中訳 0 0 3 7 0
b.立間訳 0 0 10 0 0
c.中山訳 8 1 0 0 1
合計 8 1 13 7 1

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表 4.3 から、三つの翻訳本における「大杂院」に対して、三人の訳者が採った日
本語訳の手法には違いがあると分かる。その中で、竹中(a)は⑦加筆手法を多用して
いる。立間(b)は⑥同化手法のみを用いている。中山(c)は③移植手法を多用してい
る。

(三) その他

衣服、生活用品に関する語例を合わせて 34 例があり、異なり語数は 10 例であ


る。具体的な語例、三つの翻訳本における対訳及び翻訳手法を添付資料 B に示す。
さらに、添付資料 B の統計を基にして、三つの翻訳本で使われた翻訳手法を数値化
した結果を表 4.4 に示す。

表 4.4 その他の物質文化語彙の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文 ①直訳 ②意訳 ③移植 ④直訳+ ⑤移植+ ⑥同化 ⑦加筆 ⑪略訳
補注 補注
a.竹中訳 4 2 20 1 4 0 0 3
b.立間訳 4 3 18 0 3 3 1 2
c.中山訳 3 1 25 0 4 0 1 0
合計 11 6 63 1 11 3 2 5

表 4.4 から、ほかの類に関する物質文化語彙の場合、三つの翻訳本には八つの翻
訳手法が採用されていることが分かる。その中で、いずれの翻訳本も③移植手法が
一番多く用いられ、次いで①直訳と⑤移植+補注の順で用いられている。

4.2.2 日本語訳における選択と順応
本節では、順応論の視点から、三つの翻訳本において、食べ物、住宅、衣服及び
生活に密接に関わる物質文化語彙の日本語訳における選択と順応を解析する。
(一) 食べ物
本節は、本研究で抽出された食べ物に関する物質文化語彙のうち「窝窝头」と言
う語例が一番多く用いられ、頻数は 4 例である。そこで、「窝窝头」を例として解析
を行う。

例(3)“地道窝窝头脑袋!你先坐下,咬不着你!”
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a.竹中訳:まあお掛けよ。
b.立間訳:ほんとにどこまでばかなのさ!まあお坐り。
c.中山訳:真からの“窩頭”あたまだね。お掛けよ。

原文における意味:
『日下七事诗』[37]と言う明朝詩で、「爱窝窝」に言及していることなどから、「窝
窝头」は明朝期には既に知られていた。詩の注解部分に、材料は五穀雑穀で、主に
玉蜀黍の粉である等々「窝窝」の作り方や形状などの説明や名の由来を解説しい
る。梁実秋(2012)[38]は散文集『雅舍谈吃』において、「窝窝头」は北方貧民の主食
であり、貧苦の象徴であるとともに、素寒貧(すかんぴん)の人を嘲笑うとき、「瞧他
那个窝头脑袋!」と言う表現が使われると述べている。
原文における「窝窝头」は「祥子」の素寒貧の喩えである。「虎妞」は思いを寄せ
ていた祥子に結婚後は良い暮らしを立てることができると誘惑したが、「車を引くほ
うがいい」と返事をした祥子に、「地道窝窝头脑袋!」と言い放ち、「祥子」を皮肉
った心理を表している。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は原文の前半部分を略訳している。順応論の視点から見れば、これは原文
の言語構造に順応していない。原文にある「虎妞」の話を省いたことで、二人の会
話において「祥子」に対する皮肉な意味を失い、「虎妞」の気持ちに気づくことが難
しくなっている。立間(b)は「窝窝头脑袋」を「ばか」と意訳し、皮肉った意味を表
している。これは、順応論の視点から見れば、
「虎妞」と「祥子」のコミュニケーシ
ョンにおいて「虎妞」の「祥子」を皮肉った心理世界に順応しているものであり、
原文の内容に忠実な訳と言える。中山(c)は③移植手法で「“窩頭”」の原形を日本語
に導入している。さらに、中山(c)は引用符「“”」を使うことで、「窝窝头」の独特
性を強調したと言える。これは、順応論の視角から見れば、原文の物質文化背景と
原文の言葉遣いに順応すると同時に、訳者の意識程度の高さを体現している。しか
し、訳文読者の理解にさらに気を配るためには、補注に「窝窝头脑袋」の語用意味
を加えるべきであったと考えられる。

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例(3)のとおり、「窝窝头」の語用は「貧苦の象徴」として使われている。原作
に「窝窝头」の語数は 4 例があるが、例(3)以外の 3 例は食べ物を表す意味で用い
られている。次は、例(3)以外、三つの翻訳本における 3 例の対訳を、添付資料 B
を基に数値化した結果を図 4.3 に示す。

a.竹中訳 b.立間訳 c.中山訳

3.5 3
3 2
2.5
2
頻数

1.5 1 1 1 1
1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
0.5
0

「窝窝头」の対訳

図 4.3 三つの翻訳本における「窝窝头」の対訳

図 4.3 から、訳者により言葉遣いの違いがあると同時に、同一の訳者が「窝窝
头」に関して、幾つかの異なった対訳を作ったことが分かる。
順応論から見る「窝窝头」の対訳
順応論では、言語は変異性と協調性を持っており、言語の多様性、不確定性が反
映される。したがって、順応論から見れば、図 4.3 に示した「窝窝头」の対訳の多
様性は、言語の変異性と協調性を体現したものである。
竹中(a)は③移植手法で「窝窝头」を同じ日本語の漢字を当てて「窩窩頭」と翻訳
していることもあれば、⑦加筆の手法で「窝窝头」の材料を提示して「玉蜀黍の饅
頭」と翻訳していることもある。「玉蜀黍」と「饅頭」は日本において普通に使われ
ている言葉である。順応論の視点から見れば、③移植手法を選択した場合、中国の
物質文化に順応すると同時に、原文における言葉遣いの選択に順応している。また
⑦加筆手法を選択した場合、日本語の読者の理解と認知に気を配り、分かりやすい
日本語に翻訳している。
立間(b)は⑦加筆手法で「窝窝头」の食感の特徴である「ぽろぽろ」感を加えて訳
し、それぞれに、「ぽろぽろの饅頭」、「ぽろぽろの蒸しパン」、「ぽろぽろのパン」と

-22-
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解読している。「蒸しパン」も「パン」も「饅頭」と同じように日本では普通に使わ
れている言葉である。順応論の視点から見れば、立間(b)は⑦加筆手法を選択し、
「窝窝头」を読者にとって身近なものに解釈することで、読者の理解や認知に順応
している。
中山(c)は③移植手法や⑤移植+補注の手法で「“窩窩頭”」と翻訳し、引用符
「“”」を使うことで、物質文化語彙である「窝窝头」の独特さを強調したと考えら
れる。これは、順応論の視点から見れば、③移植手法や⑤移植+補注の手法を選択
した場合、中国の物質文化に順応すると同時に、原文における言葉遣いの選択や日
本語の読者の理解に順応している。また、中山(c)が能動性を発揮し、引用符「“”」
を使ったことから見ると、中山の翻訳過程における高い意識程度を読み取ることが
できる。
(二) 住宅
4.2.1 で言及したように、本研究で抽出した住宅に関する物質文化語彙の語例は、
「大杂院」である。以下に例示する。

例(4)大杂院里有七八户人家……
a.竹中訳:この貧乏長屋には、外に七八戸の者が住んでいるが……
b.立間訳:長屋には七、八所帯もいたが……
c.中山訳:この“大雑院”には七、八家族の人間が住んでいたのだが……

原文における意味:
「大杂院」は文字通りに「大」、
「杂」、「院」と言う三つの特徴がある。「大」とは
敷地面積の広さの意味であり、「杂」とはそこに住む住民たちの複雑さ(職業、身
分、経済条件や民族などの多様性)の意味であり、「院」とは中国の「四合院」、「三
合院」の意味であり、一般的に東西南北と言う四つの方向の家屋からなる住宅様式
である。老舎の小説『四世同堂』[39]に「再过去,还有一家,里外两个院子,有二十
多间房,住着至少有七八家子,而且人品很不齐,这可以算作个大杂院。」と言う描写
がある。これから、「大雑院」に居住した人間成分の複雑さが間接的に理解できる。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

また、老舎の『龙须沟』[40]の中にも、「南边中间是这个小杂院的大门。」と言う描写
があり幾つかの家族が「杂院」の「大门」を共用していることが分かる。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は⑦加筆手法で「大杂院」を「貧乏長屋」と翻訳している。日本語の「長
屋」は「大杂院」と類似した集合住宅を意味する。よって、「貧乏長屋」は貧乏な
人々の住む集合住宅の意味であり、「大杂院」に住む人間の貧乏さを表現している。
これは、順応論の視点から見れば、「貧乏長屋」の言葉遣いは「大杂院」と言う文化
語彙に隠された社会環境に順応しているものであり、日本語の読者に「大杂院」に
住む人間の貧乏さと言う社会現実を反映すると同時に、日本の「長屋」と言う類似
な住宅様式に翻訳することで、日本語の読者の理解と認知に順応している。
立間(b)は⑥同化手法で「大杂院」を「長屋」と翻訳している。長屋とは棟を細長
く建てた一軒の平屋を数戸に区切ったものである。順応論では、言語選択は文脈順
応の結果である。立間(b)は翻訳過程において、原文の物質文化語彙を理解し、⑥同
化の手法を選択することで、日本語の読者に原文の文化的意味を解読し、解読の過
程において読者の認知と日本の物質文化背景に順応している。
中山(c)は⑤移植+補注の手法で「大杂院」を「“大雑院”」と翻訳し、引用符
「“”」と補注を加えた。内容と形式上に、原文の物質文化語彙に忠実な形をとっ
た。これは、順応論の視点から、引用符を用いることで「大杂院」の独特さを強調
し、原文の言葉遣いと原作に反映された物質文化背景に順応しているものである。
それは、訳文の読者に中国の物質文化をうまく紹介した例と言えるであろう。
それに、原作には「大杂院」の語例が 10 例あった。添付資料 B から、その 10 例
及び三つの翻訳本における「大杂院」の対訳を数値化して比較した結果を図 4.4 に
示す。

a.竹中訳 b.立間訳 c.中山訳


9
10 5
4 3 4
頻数

5 1 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0
0
邸宅 裏長屋 貧民窟 貧乏長屋 長屋 “雑院” “大雑院”
「大杂院」の対訳

図 4.4 三つの翻訳本における「大杂院」の対訳

-24-
大连理工大学硕士学位论文

図 4.4 から、三つの翻訳本において7種類の「大杂院」の対訳があることが分か
った。その中で、竹中(a)は「邸宅」、「裏長屋」、「貧民窟」、「貧乏長屋」、「長屋」の
五つの対訳を使った。立間(b)は「裏長屋」、「長屋」の二つの対訳を使った。中山
(c)は「“雑院”」と「“大雑院”」の二つの対訳を使った。
順応論から見る「大杂院」の対訳
「大杂院」の対訳から見れば、同一文化語彙に対し、訳者らは異なった対訳を使
っていることが分かる。これは順応論から見れば、言語選択の多様性と不確定性を
表し、言語の変異性と協調性を反映した。
翻訳過程において、竹中(a)は⑥同化と⑦加筆の手法を選択した。⑥同化手法で
は、「邸宅」、「長屋」と「裏長屋」と翻訳している。⑦加筆の場合、「貧民窟」、「貧
民長屋」と翻訳している。立間(b)は⑥同化の手法を選択し、「長屋」と「裏長屋」
と翻訳している。順応論の視点から見れば、⑥同化手法では、読者の認知と日本の
物質文化背景に順応している。⑦加筆手法では、「大杂院」と言う文化語彙に隠され
た社会環境に順応すると同時に、訳文読者の理解と認知に順応している。
中山(c)は原作における最初の「大杂院」に対し、⑤移植+補注の手法を選択する
と同時に、引用符「“”」を使い、「
“雑院”」と翻訳している。原作に残りの 9 例で
は、③移植手法を使い「“雑院”」または「“大雑院”」と翻訳している。順応論の視
点から、中山(c)は引用符で「大杂院」の独特さを強調し、高い意識程度を表すと同
時に、原文の言葉遣いと原作に反映された物質文化背景に順応している。
(三) その他
4.2.1 で言及したとおり、その他の分類は、衣服と生活用品に関する物質文化語彙
である。その中で、23 例と一番多い語例である「炕」の例を解析する。

例(5)回到家,她一头扎在炕上,门门的哭起来,一点虚伪狡诈也没有的哭了一大
阵,把眼泡都哭肿。
a.竹中訳:虎娘は伯母の家を戻って来ると、炕の上に突っ伏してシクシクと泣
き出した。
b.立間訳:家に帰ってくるなり、彼女は布団をひっかぶってオンオン泣き出し
た。

-25-
从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

c.中山訳:ひのえ午は家に帰るやいなや、“炕”の上に頭を押し付けておいおい
泣き出した。

原文における意味:
「炕」とは、中国北方地方特有の床で、部屋を暖めることができる暖房装置のこ
とで、日本では朝鮮語の「オンドル」の呼び名のほうがなじみがある。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は③移植手法で「炕」の原形を残している。順応論から見れば、竹中(a)
は原文における言葉の構造に順応し、形式に忠実な翻訳をしている。
立間(b)は「一头扎在炕上」と言う情景に注目し、②意訳手法で「布団をひっかぶ
って」と言う日本語表現に翻訳している。これは、順応論の視点から見れば、言語
文脈における言語使用の情景に順応しているものであり、訳文の読者に場面で表現
している。中山(c)は竹中と同じく、⑥移植手法で「“炕”」の原形を残している。さ
らに、
「“”」と言う引用符を使い、原文における「炕」の独特さを強調し、原文の物
質文化背景に順応している。
以上は順応論のもとで、例(5)における「炕」の日本語訳における選択と順応の
解析を試みた。原文に「炕」の語数は 23 例があり、三つの翻訳本における具体的な
対訳を数値化し図 4.5 に示す。

a.竹中訳 b.立間訳 c.中山訳

25 20
20 17
15
15
頻数

10
1 0 0 2
5 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 0
0

「炕」の対訳

図 4.5 三つの翻訳本における「炕」の日本語訳

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図 4.5 から、三つの翻訳本において、
「炕」の対訳は合わせて 7 種類がある。その
中で、竹中(a)は「炕(中国式オンドル)」、「炕」の二つの対訳を使った。立間(b)は
「炕(オンドル)
」、「寝台」、「寝床」の三つの対訳を使った。中山(c)は「“炕”
(オンドル)
」と「“炕”」の二つの対訳を使った。
順応論から見る「炕」の対訳
同一文化語彙の日本語訳に対し、訳者らは異なった言葉遣いを選択している。こ
れは順応論から見れば、言語選択の多様性と不確定性を表し、言語の変異性と協調
性を反映した。
三つの翻訳本には、「炕(中国式オンドル)
」、「炕(オンドル)」、「“炕”(オンド
ル)」と言う対訳がある。これは、順応論の視点から見れば、訳者らが③移植手法で
「炕」と言う物質文化語彙の原形を残し、原文の言語構造と原文における物質文化
背景に順応している。さらに、(オンドル)と言う補注を加えることで、訳文読者の
理解と認知に順応している。
ほかに、立間(b)は⑥同化手法で「炕」を「寝床」及び「寝台」と翻訳している。
日本語の「寝床」は「寝るための床」の意であり、「寝台」とは寝るための床に置く
台である。「炕」と同じ、寝るための所ではあるが、「炕」の持つ暖房機能はない。
順応論の視点から見れば、「寝床」と「寝台」の対訳は原文の物質文化背景に順応し
ていなかった。しかし、それらは日本読者の認知と理解に気を配り、日本の物質文
化世界に順応した言葉遣いを選択した結果である。中山(c)は引用符「“”」で物質文
化語彙の独特さを強調し、原文の物質文化背景に順応するとともに、訳文読者の理
解に気を配り補注を加え、適切に順応している。さらに、訳者が引用符「“”」を使
うことから、「炕」の日本語訳過程における訳者の意識程度の高さが窺われる。

4.2.3 まとめ
本研究は 4.2 節において、『駱駝祥子』における食べ物、住宅、衣服及びほかの生
活用品などに関する物質文化語彙に注目し、合わせて 74 例を抽出し、これらを食べ
物、住宅、ほかの類と言う三つの側面に分けた。まず、三つの翻訳本に使われた翻
訳手法を明らかにした。また、順応論の視点から食べ物、住宅、ほかの類の三つ分
類において頻数の高い「窝窝头」、
「大杂院」、「炕」をそれぞれの対訳における選択

-27-
从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

と順応を分析した。そこで、順応論から見る物質文化語彙の日本語訳過程を図 4.6
に示す。

順応方向 構造順応
・原文の言葉遣いの
文化背景
翻訳手法 選択に順応する
・日本語の読者の理
移植 解に気を配った日
中国の物 本語で解読する
質文化背 直訳

質 景に順応

化 する方向 移植+
語 文脈順応
彙 補注
を ・中国の物質文化背

解 景に順応する

る 加筆 ・日本の物質文化背
日本の物
景に順応する
質文化背
同化 ・言語文脈、原文に
景に順応
おけるコミュニケ
する方向
意訳 ーション環境に順
応する

図 4.6 順応論から見る物質文化語彙の日本語訳過程

図 4.6 に示した、順応論から物質文化語彙の日本語訳過程を以下に説明する。
(1)訳者らは中国の物質文化を反映する文化語彙を理解し、物質文化語彙の有す
る独特さを把握する。
(2)訳者らは中国の物質文化背景に順応しようとする場合、訳者らは③移植、⑤
移植+補注、⑦加筆などの翻訳手法を多用している。
訳者らは③移植手法を選択し、原文における文化語彙の言語構造に順応してい
る。形式的には原文に忠実である。

-28-
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訳者らは⑤移植+補注の手法を選択し、文化語彙の言語構造に順応すると同時
に、日本語の読者の理解に気を配った日本語を用いることで、日本語の言語構造に
順応している。物質文化語彙の内容と形式に忠実である。
訳者は⑦加筆手法を選択し、分かりやすい日本語訳で日本語の読者の理解に順応
している。
(3)日本の物質文化背景を順応しようとする場合、訳者らは②意訳手法と⑥同化
手法を多用している。
訳者らは⑥同化手法を選択し、原語を日本の物質文化語彙で代替する。これによ
り、日本の物質文化に順応すると同時に、日本語の読者の理解に気を配った言葉を
選択し、日本語表現に順応している。
訳者らは原文の言語文脈及び文化語彙が使われたコミュニケーション環境を把握
し、②意訳手法を選択して原語の語用意味を日本語の読者の理解に気を配った言葉
で解読して日本語表現に順応している。

4.3 社会文化語彙の日本語訳及び選択と順応
李建軍(2010)[41]によれば、社会文化語彙とは経済、伝統習俗、歴史や政治など
の語彙が含まれる言葉であると言う。異なった社会生活環境に育まれる社会文化に
は大きな差異がある。例えば、中国で、陰暦の五月五日の「端午節」で、その日
は、粽を食べ、ボートレースをすることで、戦国時代の詩人屈原を弔う。それに対
し、日本にも「端午節句」があり、古来から男子の健やかな成長を願う行事が行わ
れていた。現在では「こどもの日」と言う国民の祝日になっている。したがって、
訳者は翻訳過程において、このような社会文化の差異を十分に把握しなければなら
ない。

4.3.1 社会文化語彙の日本語訳手法
本節では、職業、民間娯楽活動、伝統習俗、歴史などの社会文化語彙に関して、
『駱駝祥子』から 20 例を抽出した。内訳は添付資料 C に示し、職業に関する語例が
5 例、民間娯楽活動に関する語例が 9 例、その他の語例が 6 例である。
(一) 職業

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

職業の社会文化語彙に関して、添付資料 C から三者が採用した翻訳手法を数値化
して比較した結果を表 4.5 に示す。

表 4.5 職業に関する社会文化語彙の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
③移植 ⑤移植+補注 ⑥同化

a.竹中訳 1 0 4
b.立間訳 1 0 4
c.中山訳 1 1 3
合計 3 1 11

表 4.5 から、三つの翻訳本に③移植、⑤移植+補注、⑥同化と言う三つの翻訳手
法が採用され、⑥同化の翻訳手法が多用されていることが分かる。
(二) 民間娯楽活動
民間娯楽活動の社会文化語彙に関して、添付資料 C から三者が採用した翻訳手法
を数値化して比較した結果を表 4.6 に示す。

表 4.6 民間娯楽活動に関する社会文化語彙の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ③移植 ④直訳+補注 ⑥同化 ⑩同化+補注

a.竹中訳 1 1 0 6 1
b.立間訳 3 0 0 6 0
c.中山訳 1 0 2 0 6
合計 5 1 2 12 7

表 4.6 から、三つの翻訳本に、①直訳、③移植、④直訳+補注、⑥同化、⑩同化
+補注などの六つの翻訳手法が採用されていることが分かる。その中で⑥同化手法
と⑩同化+補注の手法が多用されている。
(三) その他
その他の社会文化語彙に関して、添付資料 C から三者が採用した翻訳手法を数値
化して比較した結果を表 4.7 に示す。

-30-
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表 4.7 その他の社会文化語彙の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
②意訳 ③移植 ⑤移植+補注 ⑦加筆 ⑧音訳 ⑨音訳+補注

a.竹中訳 1 3 2 0 0 0
b.立間訳 0 0 2 3 1 0
c.中山訳 0 0 5 0 0 1
合計 1 3 9 3 1 1

表 4.7 から、三つの翻訳本に②意訳、③移植、⑤移植+補注、⑦加筆、⑧音訳、
⑨音訳+補注と言う六つの翻訳手法が採用されていることが分かる。その中でも、
⑤移植+補注が多用されている。

4.3.2 日本語訳における選択と順応
順応論から見れば、社会文化語彙を翻訳する過程において、訳者は原文に含まれ
た社会文化の内容を訳文読者にうまく解読するには、両国の社会文化の知識をよく
理解すべきである。また、原文内容に忠実である上に、読者の理解に気を配った選
択と順応を行うべきである。以下に例示する。
(一) 職業
例(6)他叫来个“打鼓儿的”,一口价卖了十几块钱。
a.竹中訳:屑屋を呼んできて、一切合切十五、六円で売ってしまった。
b.立間訳:折柄表を通りかかった屑屋を呼び込んで、何もかも込めて一口計十余
円也で売り渡した。
c.中山訳:彼は“打鼓児的”を呼んできて言い値どおり十把一からげに売って十
数円受け取った。

原文における意味:
「打鼓儿的」とは旧北京時代、小鼓を打ち、町や路地をあちこち歩きまわって、
中古の品物を買い集める行商人を指す。中古品の種類により、「打小鼓儿的」と「打
软鼓儿的」の呼び方がある。原文において、「祥子」は「打鼓儿的」を呼び、「虎
妞」の古い衣服や家具などを売り払った。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

順応論から見る日本語訳:
竹中(a)と立間(b)は⑥同化手法で「屑屋」と翻訳している。日本語の「屑屋」は
廃品回収業者を指す言葉であり、「打鼓儿的」は日本語ではいわゆる古物商に近い意
味合いがあり、
「打鼓儿的」と「屑屋」の語義には差異があると言える。原文の文脈
により、「祥子」は廃品を売ったのではなく、中古品を売ったのである。この点につ
いて、順応論の視点から見ると、竹中(a)と立間(b)は原文文脈に順応しなかった。
それに対し、中山(c)は⑤移植+補注の手法で文化語彙「“打鼓儿的”」を訳文に残す
とともに、「“打鼓儿的”」について「屑屋と言うよりは古物屋といったほうがいいか
もしれない」と言う補注を加えた。順応論の視点から見れば、中山(c)は⑤移植+補
注の手法で文化語彙の言語構造に順応すると同時に、引用符「“”」を使って中国の
社会文化を強調し順応して原文の持つ文化的意味を訳文の読者に忠実に伝達できい
る。
三つの翻訳本における「打鼓儿的」の日本語訳から、訳者が⑥同化手法を採り日
本語の類義語で原語を代替して日本語表現に順応すれば、原文の文化的意味を一定
の程度に失う可能性があることが分かった。この場合は、⑤移植+補注あるいは⑩
同化+補注の手法で翻訳するのが適切である。
(二) 民間娯楽活動
例(7)…说相声的,耍狗熊的,变戏法的,数来宝的,唱秧歌的,说鼓书的,练把

式……
a.竹中訳:「漫才師」、「猿芝居」
、「手品師」、「講釈師」、「鼓姫(太鼓を叩いて物
語的な歌を歌う女、日本の娘義太夫を更に大衆化したもの)」、「武術
使い」
b.立間訳:「漫才」、「熊使い」
、「手品師」、「祭文語り」、「講釈師」、「剣術使い」
c.中山訳:「声色使い」、「熊使い」
、「手品師」、「樽敲き」、「物語り」、「武芸」

原文における意味:
原文における「说相声」、「耍狗熊」、「变戏法」、「数来宝」、「唱秧歌」、「说鼓书」、
「练把式」などは中国で伝承されている特有な民間娯楽活動であり、強い民族性や
独特性がある。
順応論から見る日本語訳:

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日本にも類似の娯楽活動はある。しかし、順応論の視点から見れば、翻訳活動に
おいて、中日両国は二つの物理世界である。よって、民間娯楽活動にも地域による
差異がある事は容易に推測できる。即ち、中日両国の文化背景が異なるところによ
ると言える。したがって、社会文化語彙を翻訳する過程において、両国の文化背景
の違いを考慮すべきであり、適切に選択し順応すべきである。
竹中(a)は⑥同化の手法を採り、原文における娯楽活動を指す文化語彙を翻訳して
いる。日本の社会文化と読者の認知に順応している。立間(b)は①直訳手法を採り、
「耍狗熊」を「熊使い」と翻訳している。原語の言葉遣いに形式的に忠実であり、
順応している。原文における「耍狗熊」以外の文化語彙に対して、立間(b)は⑥同化
手法を選択し、日本の社会文化と読者の認知に順応している。それに対し、中山(c)
は④直訳+補注の手法で、「耍狗熊」を「熊使い」と翻訳している。また、原文にお
ける「耍狗熊」以外の文化語彙に対して、⑩同化+補注の手法を採り、日本におけ
る類似の娯楽活動と比べて詳しく紹介することで、訳文の読者に中日両国における
こられの娯楽活動を明らかにした。これは、中日両国の社会文化にも順応してい
る。
(三) その他
例(8)彩屏悬上,画的是“三国”里的战景,三战吕布,长坂坡,火烧连营等等…

a.竹中訳:絵は『三国誌』の武者絵であって、『呂布三戦の図』『長坂坡』『火焼
連営』といった類で……
b.立間訳:絵入りの衝立にはいったのは、劉備、関羽、張飛が呂布と戦う場、長
坂坡での趙雲奮戦の模様、陸遜の蜀軍本陣焼き打ちの場など、『三国
志』の名場面ばかりで、……
c.中山訳:絵は『三国志』の戦争画で、「三戦呂布」「長坂坡」「火焼連営」など
であった。

原文における意味:
「三战吕布」、「长坂坡」、「火烧连营」と言う言葉は、いずれも歴史書『三国志』
に記載されている歴史事件である。その中で、「三战吕布」とは、張飛、関羽、劉備

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の三人の英傑が呂布と戦った事件である。
「长坂坡」とは、趙雲が長坂坡で劉備の息
子の阿斗を抱いたまま、曹操軍の包囲を見事に突破した戦いである。「火烧连营」と
は、陸遜が劉備の蜀軍本陣を焼き討ちし打ち負かした戦いである。
順応論から見る日本語訳:
これらの歴史事件は日本語の読者によく知られていない可能性があるので、翻訳
過程に、読者の理解を重視すべきである。
竹中(a)は③移植方法を用い、『呂布三戦の図』『長坂坡』『火焼連営』の言葉を訳
文に残している。これは、順応論の視点から見ると、竹中(a)は原文の言葉遣いに順
応している。立間(b)は⑦加筆方法を用い、原文における三つの歴史事件を訳文の読
者に詳しく解読している。これは、日本語の読者の理解に順応すると同時に、読者
に三つの歴史事件を説明して中国の社会文化に順応している。中山(c)は⑤移植+補
注の方法を採り、原文の言葉を残して読者の理解に気を配った補注で説明すること
で、文化語彙の形式及び内容に忠実で中国の社会文化及び日本語の読者の理解に順
応している。
さらに、竹中(a)と中山(c)は、それぞれ二重かぎ括弧『』とかぎ括弧「」を用
い、原文における社会文化語彙の有した独特さを強調していることから、翻訳過程
における訳者の意識程度の高さが窺われる。

4.3.3 まとめ
本研究は 4.3 節において、『駱駝祥子』に使われている社会文化語彙について、職
業 5 例、民間娯楽活動 9 例、そのほか 6 例を抽出した。具体的な語例、三つの翻訳
本における対訳及び翻訳手法を添付資料 C に示す。まず、添付資料 C から、三つの
翻訳本における各類の翻訳手法をまとめた。次いで順応論の視点から、三つの日本
語訳本における選択と順応を解析した。そこで、三つの翻訳本における日本語訳過
程を図 4.7 に示す。

-34-
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順応方向 翻訳手法 構造順応


・原文の言葉遣
文化背景
直訳 いの選択に順
応する
・訳文読者の理
移植
中国の社
解に気を配っ
会文化背
た日本語で解
直訳+
社 景に順応
読する
会 補注
文 する


彙 移植+

理 補注

す 文脈順応
る 加筆
日本の社 ・中国の文化背景

会文化背 に順応する
同化+
景に順応
補注
する ・日本の文化背景
に順応する
同化

図 4.7 順応論から見る社会文化語彙の日本語訳過程

図 4.7 から、順応論から社会文化語彙の日本語訳過程を以下に説明する。
(1)訳者らは中国の社会文化を反映する文化語彙を理解し、社会文化語彙の有す
る独特さを把握する。
(2)中国の社会文化背景に順応しようとする場合、訳者らは①直訳、③移植手
法、④直訳+補注、⑤移植+補注、⑦加筆、⑩同化+補注の翻訳手法を選択してい
る。
訳者らは①直訳手法あるいは③移植手法を選択し、原文における文化語彙の言語
構造に順応し、形式的には原文に忠実である。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

訳者らは④直訳+補注の手法あるいは⑤移植+補注の手法を選択し、社会文化語
彙の内容と形式に忠実である。文化語彙の言語構造に順応すると同時に、日本語の
読者の理解に気を配った日本語で説明することで、日本語の読者の理解に順応して
いる。即ち日本語の言語構造に順応している。
訳者らは⑦加筆手法を選択し、社会文化語彙の持つ意味を正確に且つに詳しく説
明することで日本語の読者の理解に順応するとともに、中国の社会文化に順応して
いる。
訳者らは⑩同化+補注の手法を選択し、原語を日本の社会文化語彙で代替して日
本語の読者の理解と認知に順応するとともに、補注を用いて中国の社会文化を説明
することで、中国の社会文化背景に順応している。
(3)日本の社会文化背景に順応しようとする場合、訳者らは⑥同化と⑩同化+補
注の手法を選択し多用している。
訳者らは⑥同化手法を選択し、原語を日本の社会文化語彙で代替し日本の社会文
化背景に順応するとともに、日本語の読者の理解と認知にも順応している。
訳者らは⑩同化+補注の手法を選択し、前文に言述したように、日本語の読者の
認知と理解及び中国の社会文化背景に順応するとともに、原語を日本の社会文化語
彙で代替して日本の社会文化背景に順応している。

4.4 宗教文化語彙の日本語訳及び選択と順応
宗教文化語彙とは、価値観や宗教信仰などの観念形態と哲学理念と密接に関わる
語彙である。国家や民族間においては、特定な自然環境、社会環境や歴史背景など
があるため、精神観念が異なり宗教信仰も不同になる。したがって、訳者は翻訳過
程において、宗教文化の差異を十分に把握すべきである。

4.4.1 宗教文化語彙の日本語訳手法
本節では、『駱駝祥子』から精神観念及び宗教信仰に関する宗教文化語彙 11 例を
抽出した。原文語例、対訳及び三つの翻訳本に使われた翻訳手法の具体的な例を添
付資料 D に示す。
まず、添付資料 D から三つの日本語訳本における宗教文化語彙の翻訳手法を数値
化して比較した結果を表 4.8 に示す。

-36-
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表 4.8 宗教文化語彙の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ②意訳 ③移植 ⑦加筆 ⑩同化+補注 ⑪略訳

a.竹中訳 2 6 0 2 0 1
b.立間訳 2 6 0 2 1 0
c.中山訳 2 4 1 3 1 0
合計 6 16 1 7 2 1

表 4.8 から、三つの翻訳本に①直訳、②意訳、③移植、⑦加筆、⑩同化+補注、
⑪略訳と言う六つの翻訳手法が採用されていることが分かる。その中でも、②意訳
手法、①直訳や⑦加筆の翻訳手法が多用されている。
次は、順応論の視点から、三つの翻訳本において宗教文化語彙の日本語訳におけ
る選択と順応を解析する。

4.4.2 日本語訳における選択と順応
李伟(2013)[42]によれば、中日両国の宗教信仰には、多神崇拝や強い包容力を体
現するなど、多くの部分で類似性があるが、同時に多くの宗教観念に差異もあると
言う。それにより、宗教文化語彙を翻訳するとき、訳者はその差異に注意する必要
があると考えられる。以下に例示する。

例(9)街上越来越热闹了,祭灶的糖瓜摆满了街,走到哪里也可以听到"糖来,糖"
的声音。
a.竹中訳:暮の街は日毎日に賑やかさを増して行く。竈祭の飴を売る露店や屋代
店が到るところに出来て、このところ北京は全く飴の洪水である。
「エー飴や飴!」
b.立間訳:町は日ごとに賑やかになり、荒神祓い(中国では旧暦十二月二十三
日)の飴屋がずらりとならんで、どこもかしこも売り声であふれてい
た。
c.中山訳:街はだんだん活気を帯びてきた。竈の祭りに供える飴が至る所で見か
けられ、どこを歩いてもこの飴を売る声でいっぱいだった。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

原文における意味:
例(9)の「祭灶」は中国の陰暦十二月二十三日に行われる、竈神即ち「灶神」の
祭のことである。竈神は中国の民間で代表的な神で、人々は竈神を祭ることによ
り、竈神に魔除けと生活の安楽を願う。
順応論から見る日本語訳:
王静(2015)[43]によると、日本では、荒神を竈神とする地方は、毎月末を祭祀の
日にしている。ただ、沖縄地方では中国の竈神信仰の影響を受けて、陰暦の十二月
二十四日に祭るが、それ以外にも、毎月の一日や十五日も祭祀の日にしている。ま
た、結婚、旅立ち、農耕、出漁などの儀礼を行うときも、竈神を祭る習慣があると
言う。これらのことから、中日で竈神を祭る日取りに違いがあることが分かる。
竹中(a)は①直訳手法で「竈祭」と翻訳している。立間(b)は⑩同化と補注の手法
で「荒神祓い」(中国では旧暦十二月二十三日)と翻訳している。中山(c)は⑩同化
手法で「竈の祭り」と翻訳し、補注を加え、補注に「祭灶」の由来と日取りを紹介
した。
図 3.3 の順応論における翻訳過程に図示されたように、訳者が翻訳過程の中心に
あり、原作における作者の述べた文化習俗を解読した後、順応方向を選択し、訳語
の表現手段を選択して、訳文読者に解読された文化習俗を伝達する。これにより、
三つの翻訳文を見れば、訳者らは中国の竈神信仰をよく理解したうえに、日本の竈
神信仰環境にも順応し、異なった翻訳手法を選択しているが、日本語表現の自然な
かたちで翻訳している。その中に、立間(b)と中山(c)は原文の竈神信仰環境も順応
し、補注を加えることで、原文に忠実であると同時に、日本語の読者の理解に順応
している。

例(10)冻死鬼,据说,脸上有些笑容!
a.竹中訳:凍死人の顔は常ににっこりと笑っているそうだ!
b.立間訳:そういえば、行き倒れの顔は笑っているように見えるそうである。
c.中山訳:道端で凍死している者の顔はほほえみを浮かべているといわれてい
る。

原文における意味:

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大连理工大学硕士学位论文

中国では、人が死んだあと、魂になり、鬼になると言う観念がある。原文におけ
る「冻死鬼」は凍死した人を指す言葉である。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は②意訳手法で「冻死鬼」における「鬼」を「人」と翻訳している。立間
(b)は②意訳方法を採り、「冻死鬼」を「行き倒れ」と翻訳している。中山(c)は⑦加
筆手法で「凍死している者」と翻訳している。三つの対訳でいずれも「鬼」と言う
言葉を使っていない。これは中日両国において「鬼」文化の観念の違いと関係があ
ると考えられる。中日の鬼像の違いについて、高嵐嵐(2008)[44]は中国の「鬼」は
人が死んだ「魂」であり、日本の「鬼」は妖怪や怪物の形であると述べている。ま
た、中日両国の「鬼」と言う文字の使用状況を調べた結果、中国の「鬼」にはマイ
ナスのイメージがあるのに対して、日本の「鬼」にはプラスのイメージがあり、
「鬼」の受け入れかたにも違いがあると結論付けている。また、陳宝英(2012)[45]
は中日両国の「鬼」文化はそれぞれ道教と仏教の影響を受けて形作られ、地域や民
族文化の差異によって共通点と相違点があると指摘している。
そこで、順応論の視点から三つの訳文を見れば、訳者らは中日における「鬼」文
化の差異を正確に把握し、原語の持つ意味を正しく理解していたがために、「鬼」と
言う文字を使わず、「冻死鬼」を適切に翻訳することで日本の「鬼」文化に順応して
いる。

4.4.3 まとめ
本研究は 4.4 節で、『駱駝祥子』における精神観念や宗教信仰に関する宗教文化語
彙 11 例を抽出した。原文語例、三つの翻訳本における対訳及び翻訳手法の具体的な
例を添付資料 D に示す。まず、添付資料 D の統計を踏まえ、三つの翻訳本に使われ
た翻訳手法を解析した。次いで順応論から見る宗教文化語彙の日本語訳過程の解析
結果を図 4.8 に示す。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

順応方向 構造順応
翻訳 ・原文の言葉遣い
文化背景
手法 の選択に順応す

中国の宗
宗 直訳 ・読者の理解に気
教文化背

文 を配った日本語
景に順応

語 加筆 の表現で説明す
する方向

を る

解 同化+ 文脈順応
す 日本の宗 ・中国の宗教文化
る 補注
教文化背 背景に順応する
景に順応 ・日本の宗教文化
意訳
する方向 背景に順応する

図 4.8 順応論から見る宗教文化語彙の日本語訳過程

図 4.8 に示した、順応論から宗教文化語彙の日本語訳の過程を以下に解析する。
(1)訳者らは中国の宗教文化を反映する文化語彙を理解し、宗教文化語彙の有す
る独特さを把握する。
(2)中国の宗教文化背景に順応しようとする場合、訳者らは①直訳、⑦加筆、⑩
同化+補注の翻訳手法を選択し多用している。
訳者らは①直訳手法を選択し、原文の言葉遣いの選択に形式的に忠実で、宗教文
化語彙の言語構造に順応している。
訳者らは⑦加筆手法を選択し、日本語の読者に気を配った日本語で原語を解読し
て日本語の読者の理解に順応している。
訳者らは⑩同化+補注の手法を選択し、原語を日本語の宗教文化語彙で代替して
日本語の読者の理解と認知に順応するとともに、補注を用いて中国の宗教文化を日
本語の読者に説明することで、中国の宗教文化背景にも順応している。
(3)日本の宗教文化背景に順応しようとする場合、訳者らは②意訳と⑩同化+補
注の手法を選択している。

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訳者らは②意訳手法を選択し、日本語の読者の理解に気を配った日本語表現を採
ることで、日本語の読者の理解に順応している。即ち、日本語の言語構造に順応し
ている。
訳者らは⑩同化+補注の手法を選択し、補注で日本語読者の認知と理解及び中国
の宗教文化背景に順応するとともに、原語を日本語の宗教文化語彙で代替して日本
の宗教文化背景に順応している。

4.5 言語文化語彙の日本語訳及び選択と順応
言語文化語彙に関して、梅艶紅(2016)[46]は異なる民族は語音、語彙、文法など
の面に不同な言語表現があり、その中には人名の命名と慣用語、成語やかけことば
の使用などが含まれると述べている。

4.5.1 言語文化語彙の日本語訳手法
本節では、人名、成語、かけことばや慣用句に関して、『駱駝祥子』から 46 例を
抽出し、原文語例、三つの翻訳本における対訳及び翻訳手法の具体例を分類する。
結果を添付資料 E に示す。
(一) 人名
本節では、人名の言語文化語彙に関して、
『駱駝祥子』から 7 例を抽出し、添付資
料 E から三人の訳者が採用した翻訳手法を数値化し比較した結果を表 4.9 に示す。

表 4.9 三つの翻訳本に使われた人名の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ②意訳 ③移植 ⑤移植+補注

a.竹中訳 1 0 6 0
b.立間訳 0 0 6 1
c.中山訳 0 1 6 0
合計 1 1 18 1

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

表 4.9 から、人名の日本語訳に関して、三つの翻訳本には①直訳、②意訳、③移
植と言う三つの翻訳手法が採用されていることが分かる。その中でも、③移植手法
が多用されている。
(二) 成語
本節では、成語に関して、『駱駝祥子』からを 21 例を抽出し、添付資料 E から三
人の訳者が採用した翻訳手法を数値化し比較した結果を表 4.10 に示す。

表 4.10 三つの翻訳本に使われた成語の翻訳手法
翻訳手法
対訳文
①直訳 ②意訳 ③移植 ⑤移植+補注 ⑥同化 ⑦加筆 ⑪略訳
a.竹中訳 5 7 1 0 1 7 0
b.立間訳 2 10 0 0 5 3 1
c.中山訳 6 6 0 1 5 3 0
合計 13 23 1 1 11 13 1

表 4.10 から、成語の日本語訳に関して、三つの翻訳本では七つの翻訳手法が採用
されていることが分かる。その中でも、①直訳、②意訳、⑦加筆、⑥同化手法が多
用されている。
(三) かけことば
本節では、かけことばに関して、
『駱駝祥子』から 7 例を抽出し、添付資料 E から
三人の訳者が採用した翻訳手法を数値化し比較した結果を表 4.11 に示す。

表 4.11 三つの翻訳本に使われたかけことばの翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ②意訳 ④直訳+補注 ⑥同化 ⑦加筆 ⑪略訳
a.竹中訳 3 1 0 1 1 1
b.立間訳 2 4 1 0 0 0
c.中山訳 5 0 1 1 0 0
合計 10 5 2 2 1 1

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表 4.11 から、かけことばの日本語訳に関して、三つの翻訳本では六つの翻訳手法
が採用されていることが分かる。その中でも、①直訳と②意訳の翻訳手法が多用さ
れていることが分かる。ただ、訳者らは④直訳+補注、⑥同化の手法、⑦加筆など
も翻訳手法に採用している。
(四) 慣用句
本節では、慣用句に関して、『駱駝祥子』から 11 例を抽出し、添付資料 E から三
人の訳者が採用した翻訳手法を数値化し比較した結果を表 4.12 に示す。

表 4.12 三つの翻訳本に使われた慣用句の翻訳手法
翻訳手法(頻数)
対訳文
①直訳 ②意訳 ⑥同化 ⑪略訳
a.竹中訳 4 4 1 2
b.立間訳 0 8 2 1
c.中山訳 2 7 2 0
合計 6 19 5 3

表 4.12 から、慣用句の日本語訳に関して、三つの翻訳本では四つの翻訳手法が採
用されていることが分かる。その中でも、三つの翻訳本に②意訳手法が多用されて
いることが分かる。

4.5.2 日本語訳における選択と順応
本節では、順応論の視点から、『駱駝祥子』における人名、成語、かけことば、慣
用句に関して、三つの日本語訳本における選択と順応を解析する。
(一) 人名
文学作品における人名について、宋钟秀(2008)[47]は世界的な名著における人名
には深い寓意及び特殊な文化的な意味を持つと述べている。崔飞(2012)[48]は人名
が特殊な言語問題であり、言語が文化のキャリアであるゆえ、人名に隠した文化情
報を表現することができると述べている。『駱駝祥子』は老舎の重要な文学作品と言
われており、『駱駝祥子』に出てくる人名に深い文化的意味があると言えるであろ
う。さらに、順応論のもとで、訳者らが人名を翻訳する時、原名の文化的な意味に

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

忠実である一方、訳文読者の理解に気を配る必要があるため、適切に選択し順応す
べきである。以下に例示する。
添付資料 E から、三人の訳者による「虎妞」の日本語訳を表 4.13 に示す。

表 4.13 三つの翻訳本における「虎妞」の訳名
a.竹中訳 b.立間訳 c.中山訳

虎娘 虎妞(妞は娘) 結婚前:ひのえ午嬢

結婚した後:ひのえ午

原文における意味:
「虎妞」は『駱駝祥子』における重要な登場人物の一人である。老舎が「虎头虎
脑」、「凶恶的走兽」と言う言葉で醜いイメージを与えている「虎妞」との出会い
が、祥子の悲劇を引き起こした原因の一つとなる。また、「虎妞」の「妞」は、漢語
の北方方言で女性の通称である。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は①直訳手法を採り、「虎妞」を「虎娘」と翻訳している。日本語の
「娘」は一般的に未婚の女性、若い女性を指す言葉である。これを順応論の視点か
ら見れば、竹中(a)は日本語の表現に順応している。しかし、「娘」は原名の「妞」
と比べ、結婚後の「虎妞」を指すとき、語用側面にずれがある。
立間(b)は③移植手法で「虎妞」の原形を残し、「(妞は娘)」と言う説明を加え
た。ほかに、
「妞」は日本語の辞典に収録されない漢語であるゆえ、辞典で調べられ
ない。従って、順応論の視点から見れば、立間(b)は日本語の読者の理解に気を配り
補説を加え、原名の言語構造及び日本語の読者の理解に順応している。
中山(c)は②意訳方法で結婚前の「虎妞」を「ひのえ午嬢」と翻訳している。日本
語の「嬢」は令嬢など未婚女性を指す言葉で娘と同じ意味で使われている。「ひのえ
午」は「丙午」で、干支の一つである。この年が火災が多く、この年に生まれた女
は夫を食い殺すと言う盲信がある。よって、「ひのえ午」はマイナスのイメージを持
つと言えるであろう。中山(c)は「虎妞」の結婚を境界にして訳名を調整し、結婚後
の「虎妞」を「ひのえ午」と嬢を省いて翻訳している。これは、順応論の視点から
見れば、コミュニケーション環境に動態的に順応している結果である。それと同時

-44-
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に、原名「虎妞」の持つマイナス意味に忠実であると同時に、日本語の「嬢」の語
用表現に順応している。
(二) 成語
成語とは、決まった意味をもついくつかの単語の組み合わせで、構造が固定され
て、主に四字からなる熟語のものである。成語の元となる語句は古代の歴史書であ
ったり、有名な詩であったり、人々の生活であったりする。次は、『駱駝祥子』にお
ける成語を以下に例示する。

例(11)骑马找马,他不能闲起来。
a.竹中訳:勿論その間でも決して遊んでいるわけにはいかない。一面辻俥を拉き
ながら、傭主を探すのだからなかなか容易なことではない。
b.立間訳:その間にも。彼はむろん辻待ちで稼いでいた。雇主があらわれるのを
漫然と待っているような、のんきなまねはできなかったからだ。
c.中山訳:すなわち、騎馬找馬(馬に乗りながら別の馬を探すこと)でぼんやり
しているわけには行かなっかったのである。

原文における意味:
「骑马找马」は文字のとおりに理解すれば、「馬に乗って馬を探す」と言う意味で
あるが、「自分の手元にある仕事を続けながら、他のもっとよい仕事を探し回る」と
言う意味の喩えである。祥子には雇主がいたが、自分が首になる恐れがあると心配
したこともあり、新しい雇主を探すために辻で俥を引いた。これは祥子の心理世界
を反映した言語文脈である。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は②意訳手法で「骑马找马」を「一面辻俥を拉きながら、傭主を探す」と
翻訳したのに対して、立間(b)は②意訳手法で「むろん辻待ちで稼いでいた。雇主が
あらわれるのを漫然と待っているような……」つまり「辻待ちで稼いで雇主があら
われるのを待つ」と翻訳している。二人の訳者は原文の語用文脈を正確に把握して
おり、②意訳手法で祥子の内心世界を正しく解読している。これを順応論から見れ
ば、原文の言語文脈に順応し、原文内容に忠実であると言える。また、日本語の読

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

者の理解に気を配った日本語表現で原文の文化語彙を解読することで、日本語の表
現に順応している。それに対し、中山(c)は⑤移植と補注の手法で「骑马找马」の言
葉を訳文に残し、日本語の読者の理解に気を配った補注を加えて適切に翻訳してい
る。これは、順応論の視点から見れば、原文における文化語彙の言語構造に順応
し、日本語の読者の理解に気を配った日本語表現にも順応している。

例(12)她也长得虎头虎脑,因此吓住了男人,……

a.竹中訳:彼女は生まれつき容貌が虎にそっくりで、大きくなるにしたがって声
といい、動作といい、全く親爺以上の獰猛さを発揮するようになり、
人々は皆彼女を恐れた。……
b.立間訳:彼女もまた虎並みの気性と顔の持ち主だったもので、男たちへのおさ
えもきき、……
c.中山訳:彼女もまた親方に負けず劣らずの虎の相で、このため男たちを恐れさ
せ、……

原文における意味:
「虎头虎脑」は逞しく素直な子供を形容するプラスのニュアンスを持つ言葉であ
る。『駱駝祥子』において、「虎妞」の父親「劉四」は、虎のような人物イメージが
あり、彼自身も自分を虎と見なしている。それゆえ、彼の娘が「虎女」であること
が分かる。また、原作から、「虎妞」は「黒い塔」のように、醜くて粗野な女である
ことが分かる。よって、原文の「虎头虎脑」は褒め言葉ではなく、「虎妞」の醜さ及
び粗野な人物イメージを形容したマイナスの意味を持つ言葉である。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は⑦加筆手法で「生まれつき容貌が虎にそっくりで、大きくなるにしたが
って声といい、動作といい、全く親爺以上の獰猛さを発揮するようになり」と翻訳
し、「虎头虎脑」を正確に解読して「虎妞」の人物イメージを生々しく表現してい
る。立間(b)は⑦加筆手法で「虎並みの気性と顔の持ち主」と翻訳し、「虎妞」の顔
立ち及び性格の特徴を正確に表している。中山(c)は①直訳手法で「虎の相」と翻訳
している。三人の訳者らがいずれも「虎妞」の容貌を「虎」に喩えて原作における
人物イメージの設定に即し、「虎头虎脑」のマイナスの語用意味を正確に把握してい

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る。順応論の視点から見れば、これは訳者らが原作の言語構造及び言語文脈に順応
している結果である。
(三) かけことば
中国語におけるかけことばは日常生活のしゃれとして用いられる修辞法として理
解できる。かけことばは二つの部分からなり、前半が謎かけで後半が謎解きであ
る。日常に、話し手は前半部分を言って、後半部分に隠された意味を聞き手に推測
させる。次は、『駱駝祥子』におけるかけことばを、以下に例示する。

例(13)“你真行!‘小胡同赶猪——直来直去’;也好!”
a.竹中訳:「お前さんは本当に石橋を敲いて渡る人だからね。まあ、それもいい
だろうよ。」
b.立間訳:「偉いよ、あんたは。ばか正直にやるだけのことをやってみるのも、
またいいだろうさ!」
c.中山訳:「おまえは本当に偉いよ。石部金吉式も結構だ」

原文における意味:
「小胡同赶猪——直来直去」と言う言葉は人の直接さと誠実を形容するときに使
われる言葉である。原文には人力車を買おうと思った「祥子」に対し、「高妈」は借
金を勧めたが、「祥子」は貧しい時期に慎重を期し、他人から借金せずに自分の能力
で買うことに決めた件がある。その場合、「高妈」は「小胡同赶猪——直来直去」と言
ったことで「祥子」の慎重さに皮肉気味の褒め言葉をを与えた。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は⑥同化手法で「石橋を敲いて渡る」と言う慣用語で原文のかけことばを
代替した。日本語の「石橋を敲いて渡る」は注意深く、極めて慎重であると言う意
味であり、原文と同じく「用心深い」意味を表現している。これは、順応論の視点
から見れば、中日両国の言語文化語彙の表現に動態的順応している結果である。
立間(b)は②意訳手法で「ばか正直」と訳し、「高妈」の皮肉を翻訳している。こ
れは、順応論から見れば、原文における「高妈」と「祥子」のコミュニケーション

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

環境に順応しているものであり、日本語の読者に原文の意味を分かりやすく忠実に
解読している。
中山(c)は⑥同化手法で「石部金吉」と言う人名めかした語で原文のかけことばを
代替した。
「石部金吉」とは融通の利かない人の意味である。順応論の視点から見れ
ば、中山(c)は竹中(a)と同じく、中日と言う二つの物理世界を越えて中日両国の言
語文化語彙の表現に動態的順応している。

例(14)我给他个‘徐庶入曹营——一语不发’。
a.竹中訳:そこで、妾ゃわざと黙って泣いていて一言も答えない。
b.立間訳:そうすりゃ、相手は誰だってことになるけど、あたしは知らぬ存ぜぬ
でおしとおす。
c.中山訳:あたしは徐庶が曹操の所に連れてこられた時のように一言もいわない
で、とことんまで焦らしておいてから相手の名を言おうと思うんだ。

原文における意味:
「徐庶入曹营——一语不发」は歴史の典故に関するかけことばである。三国時代
に、徐庶は劉備の謀士として、軍事的な知謀に長けていた。それゆえ、曹操は彼の
ことを気に入り、手を尽くし味方に引き入れた。しかし、徐庶は劉備の恩を忘れ
ず、曹操に献策などを一回もしなかった。原文に、「虎妞」は「劉四」に誰の子か問
い詰められても教えるつもりはないけど、自分は身ごもったと言うつもりだと言う
件がある。これは、「徐庶入曹营——一语不发」と言う言葉の言語文脈である。
順応論から見る日本語訳:
三人の訳者がいずれも、かけことばの後半部分に注目し、日本語の読者の理解に
気を配った表現で文化語彙の意味を解読し翻訳している。その中でも、竹中(a)は⑦
加筆手法を採り、「黙って泣いて」と言う言葉を加えて「黙って泣いていて一言も答
えない」と翻訳して日本語の読者に生々しい原文の意味を解読している。立間(b)は
②意訳手法を採り、原文におけるかけことばの意味を正確に把握して「知らぬ存ぜ
ぬでおしとおす」と翻訳している。中山(c)は④直訳+補注の手法で「一言もいわな
い」と翻訳し、補注において「徐庶入曹营——一语不发」と言う文化語彙の持つ意
味を読者の理解に気を配った日本語で解読している。順応論のから見れば、三人の
訳者の対訳は原文の文化語彙を忠実に解読して日本語表現に順応している。

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(四) 慣用句
慣用句とは二つ語以上が結合して、一つの意味を表すような固定した言葉であ
る。
次は、『駱駝祥子』における慣用句を、以下に例示する。

例(15)假若不知道,祥子岂不独自背上黑锅?
a.竹中訳:万一知らないとしたら自分一人が濡衣を着せられることになるので
はあるまいか。
b.立間訳:知らないでいるとしたら、祥子こそいい面の皮だ。
c.中山訳:また、もしそうでなかったら、祥子一人が大悪者にされてしまうに
決まっているではないか。

原文における意味:
「背黑锅」は無実の罪を負うと言う意味である。原文に、祥子は虎妞がもう既に
純潔な女ではないことが分かった後、劉四に自分が虎妞の純潔を奪ったと言うよう
に誤解されることを案じていた件がある。これは、原文における祥子の心理世界を
反映している。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は⑥同化手法で「背黑锅」を「濡衣を着せられる」と翻訳し、同じく無実
の罪に着せられると言う意味を表している。順応論の視点から見れば、竹中(a)は原
文の文化語彙を正確に理解しており、祥子の心理世界に順応すると同時に、中日言
語における文化語彙の言語構造に動態的に順応している。立間(b)と中山(c)は②意
訳手法でそれぞれ、「いい面の皮」と「大悪者にされる」と翻訳している。その中で
も、「いい面の皮」はとんだ迷惑の意味である。順応論の視点から見れば、立間(b)
と中山(c)の対訳は原文の内容に忠実であり、原文の言語文脈に順応している。

例(16)他是愿意一个萝卜一个坑的人。

a.竹中訳:略訳。

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b.立間訳:ものごとにきちんきちんとけじめをつけなければ気がすまない、彼は

そんな人間だったのである。

c.中山訳:彼は歯車のような男だったのだ。

原文における意味:
「一个萝卜一个坑」は仕事に真面目であると言う喩えの意味を表し、原文におい
て、祥子の着実さを表現している。これは、祥子が新しい人力車を買うには、少し
ずつ金を貯めることにすると言ったときに、使われた言葉である。
順応論から見る日本語訳:
竹中(a)は⑪略訳手法を採り、原文の文化語彙を省いている。立間(b)は②意訳手
法で「けじめをつける」に翻訳し、祥子の着実な仕事ぶりを表現している。順応論
の視点から見れば、立間(b)は日本語で読者の理解に気を配った日本語表現に順応し
ている。中山(c)は②意訳手法で「一个萝卜一个坑」を「歯車」と翻訳している。歯
車は全体を構成している一つ一つの要素の喩えであり、訳文において、原文と同
じ、祥子の仕事ぶりが着実であることを表している。順応論の視点から見れば、中
山(c)は立間(b)と同じく、訳文の読者に気を配った日本語を選択し、日本語表現に
順応している。

4.5.3 まとめ
本研究は 4.5 節で、『駱駝祥子』から人名、成語、かけことばや慣用句などの言語
文化語彙を合わせて 46 例抽出し、種類毎に三つの日本語訳本で用いられた翻訳手法
を数値化し表 4.9、表 4.11、表 4.12、表 4.13 に示した。さらに、順応論の視点か
ら、三つの翻訳本における選択と順応について解析した。順応論から見る三つの翻
訳本における翻訳過程を図 4.9 に示す。

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順応方向
構造順応
文化背景
・原文の言葉遣い
翻訳手法
の選択に順応す

中国の言 直訳 る

語文化背 ・読者の理解に気を

景に順応 移植 配った日本語の表
言 現で説明する
語 する
文 移植+
化 文脈順応
語 補注
彙 ・中国の言語文化背

理 景に順応する
解 加筆
す 日本の言 ・日本の言語文化背

語文化背 同化 景に順応する

景に順応 ・言語文脈、原文に
意訳
する おけるコミュニケ
ーション環境に順
応する

図 4.9 順応論から見る言語文化語彙の日本語訳過程

図 4.9 を基に、順応論から言語文化語彙の日本語訳を次のように説明する。
(1)訳者らは中国の言語文化を反映する文化語彙を理解し、言語文化語彙の有す
る独特さを把握する。
(2)訳者らは中国の言語文化背景に順応しようとする場合、①直訳、③移植、⑤
移植+補注、⑦加筆の翻訳手法を選択している。
訳者らは①直訳手法を選択し、原文の言葉遣いの選択に形式的に忠実で、原文に
おける文化語彙の言語構造に順応している。
訳者らは③移植手法を選択し、言語文化語彙の言語構造に順応している。形式的
には原語に忠実である。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

訳者らは⑤移植+補注の手法を選択し、言語文化語彙の内容と形式に忠実であっ
た。言語文化語彙の言語構造に順応すると同時に、日本語の読者の理解に気を配っ
た日本語で説明することで、日本語表現に順応している。
訳者らは⑦加筆手法を選択し、原文に使われた言語文化語彙を持つ文化的意味を
詳しく説明して日本語の読者の理解に順応するとともに、中国の言語文化背景に順
応している。
(3)訳者らは日本の言語文化背景に順応しようとする場合、②意訳と⑥同化の手
法を選択している。
訳者らは②意訳手法を選択し、原文におけるコミュニケーション環境及び言語文
脈を把握するとともに、原文に使われた言語文化語彙の持つ意味を解読して日本語
の読者の理解に気を配った日本語表現に順応している。
訳者らは⑥同化手法を選択し、原語を日本語の言語文化語彙で代替して日本の言
語文化に順応するとともに、日本語表現にも順応している。

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大连理工大学硕士学位论文

5 結論と今後の課題

5.1 結論
本研究では、『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳に焦点を絞り、竹中伸、立
間祥介及び中山高志の各日本語訳本における対訳を研究対象にした。まず、Eugene
A.Nida の文化分類に基づき、『駱駝祥子』における文化語彙を生態文化語彙、物質文
化語彙、宗教文化語彙、社会文化語彙、言語文化語彙の五種類に分類した。次いで
『駱駝祥子』からこの五種類の文化語彙の語例及び三つの翻訳本における対訳を抽
出した。さらに、藤濤文子による「翻訳手法の一覧」を踏まえ、三つの日本語訳本
における文化語彙の対訳を分析するとともに、訳者らの使った翻訳法を詳細に分類
して、文化語彙の種類毎に翻訳手法の選択を分析した。最後に、順応論から、三つ
の日本語訳本における選択と順応の解析を試みた。結論を以下に述べる。
はじめに、順応論から見る文化語彙の日本語訳を図 5.1 に示す。

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

順応方向 構造順応
翻訳手法 ・原文の言葉遣いの
文化背景
選択に順応する
直訳
中国の ・日本語の読者の理
文化背 移植 解に気を配った日本
文 景に順
化 語で解読する
語 直訳+補注
応する 文脈順応

を ・中国の文化背景に
方向 移植+補注

解 順応する
す ・日本の文化背景に
る 日本の 加筆
文化背 順応する方向
同化+補注
景に順 ・言語文脈、原文に

応する 同化 おけるコミュニケー

方向 ション環境に順応す
意訳

図 5.1 順応論から見る文化語彙の日本語訳過程

図 5.1 と本研究の解析に基づき、順応論から『駱駝祥子』に用いられた文化語彙
の日本語訳における選択と順応を以下に説明する。
(1)翻訳過程において、訳者らは中国文化を反映する文化語彙の持つ意味を理解
し、文化語彙の有する独特さを把握しており、原文を解読する際、中国の文化背景
か日本の文化背景かの順応方向の選択をする。中国の文化背景を順応方向にしよう
とする場合、訳者らは、直訳、移植、直訳+補注、移植+補注、加筆、同化+補注
の六つの翻訳手法を選択し多用している。また日本の文化背景を順応しようとする
場合、訳者らは、同化+補注、同化、意訳の三つの翻訳手法を選択し多用してい
る。
(2)訳者らは翻訳手法を適切に選択しており、ふさわしい順応対象を選択し順応
している。順応対象には、文化語彙の言語構造、日本語読者の理解に気を配った日
本語表現、中国の文化背景あるいは日本の文化背景、言語文脈、コミュニケーショ
ン環境などがある。

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大连理工大学硕士学位论文

(3)翻訳過程は、動態的に選択と順応を行う過程である。中日両国の異なる文化
背景のもとで、訳文の意味を最大限に原文に近づける過程において、訳者らが原語
を解読し、順応方向を選択し、さらに翻訳手法を選択し多様な側面を考慮して順応
することは、
、空間的、動態的な順応を体現している。その他、原文におけるコミュ
ニケーション環境の変化によって行われる訳文調整も時間的、動態的な順応を体現
している。
(4)訳者らが文化語彙を翻訳する過程において、能動性を発揮し、“”、『』、「」
などの引用符を用いて文化語彙を強調することや、補注や加筆手法を用いて自分の
理解と認知を活かしていることから、訳者らの意識程度側面の順応が窺われる。
以上は三つの日本語訳本が見られる選択と順応であり、これからの文化語彙の日
本語訳過程において参考にすべき価値がある。これにより、文化語彙を翻訳する
際、最大限に文化語彙の文化的意味を残すとともに、原文の言語文脈、コミュニケ
ーション環境及び日本語読者の理解と認知に気を配り、ふさわしい選択と順応をす
べきである。

5.2 今後の課題
本研究は順応論のもとで、『駱駝祥子』における文化語彙の日本語訳における選択
と順応を分析した。文化語彙の語例数が有限であるので、分析の普遍性に欠く可能
性もあるであろう。また、筆者の主観よる影響を排除できているか否か考慮しなけ
ればいけない。今後は本研究の結論を踏まえ、分析の実例を老舎のほかの作品やほ
かの作家の作品に広げ、主題である文化語彙の日本語訳における選択と順応をさら
に詳しく考察してみたいと思う。

-55-
从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

参考文献

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大连理工大学硕士学位论文

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

添付資料
添付資料A 『駱駝祥子』における生態文化語彙
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法
风声(风 形勢 ②意訳 おかしな噂; ②意訳 妙な具合 ②意訳
声不太
好)
风声(走 うっかりに ②意訳 うっかりに言 ②意訳 有り体に話 ②意訳
漏风声) 切り出す う す
喝西北风 寒い思いを ②意訳 干上がっちま ②意訳 飢え死にさ ②意訳
させる わう せられる
老头子没 そうこうし ②意訳 お父っつぁん ②意訳 爺さんがこ ②意訳
了主意, ているうち 頭をかかえて うして困っ
咱们再慢 に又お天気 しまう。そこ ている間
慢的吹风 が変わって でいよいよ本 に、われわ
儿,顶好 来て、お気 番にはいり、 れはゆっく
把我给了 に入りのお おまえのこと りとこうい
你。 前さんにで を持ち出す。 うふうに思
も呉れてや い込ますん
ろうと言う だ。いちば
ことになる んいいの
と思うわ。 は、あたし
をお前に片
付づかすこ
とだと、
ね。
风头 成功 ②意訳 得意の時代を ②意訳 上等の階級 ②意訳
持つ になる
你上哪儿 なあに何処 ②意訳 逃げたって、 ②意訳 手加減なん ②意訳
我也找得 へ逃げたっ どこまでだっ かしないん
着!我还 て、隠れた て追っかけて だから。
是不论秧 ってキッと ってやる!あ
子! 探してやる たし甘くはな
わよ いんだよ。
自己什么 もう自分の ②意訳 こうなれば破 ②意訳 俺にはすで ②意訳
都没了, のからだな れかぶれた。 に何もな
给它个不 どはどうな 誰かれの容赦 い、誰だっ
论秧子 ってもい はしねえか て構うもん
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大连理工大学硕士学位论文

吧! い。徹底的 ら、と思って じゃない、


に、足腰の いた。 ひと喧嘩や
立たなくな ってやると
るまでやっ 言う構えだ
つけてやろ ったのだ。
うと構えて
いたのだっ
た。

南北名花 南北の生き ①直訳 南北検番の美 ①直訳 南北の名花 ①直訳


た名花 形
丰年瑞雪 豊年の瑞雪 ③移植 豊年満作 ②意訳 豊年瑞雪 ③移植

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

添付資料B 『駱駝祥子』における物質文化語彙
食べ物類
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法

老豆腐 老豆腐 ③移植 湯豆腐 ③移植 老豆腐 ⑤移植+補注


(P383 補
注十一)
老豆腐 老豆腐 ③移植 湯豆腐 ③移植 老豆腐 ③移植
老豆腐 老豆腐 ③移植 湯豆腐 ③移植 老豆腐 ③移植
元宵 元宵 ③移植 元宵団子 ③移植 元宵餅 ③移植
元宵 元宵 ③移植 元宵団子(旧 ⑤移植 元宵餅 ③移植
暦一月十五日 +補注
の元宵節に食
べる団子)
窝窝头 窩窩頭 ③移植 ぼそぼその饅 ⑦加筆 “窩窩頭” ⑤移植+補注
頭 (P381 補
注一)
窝窝头 翻訳なし ⑪略訳 ほんとにどこ ②意訳 “窩頭” ③移植

(“地道窝窝 までばかなの
さ!まあお坐
头脑袋!你先
り。
坐下,咬不着

你!”


窝窝头 玉蜀黍粉の ⑦加筆 ぽろぽろの蒸 ⑦加筆 “窩窩頭” ③移植
饅頭 しパン
窝窝头 玉蜀黍粉の ⑦加筆 ぽろぽろのパ ⑦加筆 “窩窩頭” ③移植
饅頭 ン
芝麻酱烧饼 焼餅 ③移植 ゴマ味噌つき ①直訳 “芝麻酱焼 ⑤移植+補注
の焼餅 餅”(ごま

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大连理工大学硕士学位论文

味噌付きの
焼餅)
芝麻酱烧饼 芝麻酱焼餅 ③移植 ゴマ味噌つき ①直訳 “芝麻酱焼 ③移植
の焼餅 餅”
馒头 饅頭(マン ③移植 饅頭(マント ③移植 饅頭(マン ③移植
トウ) ウ) トウ)
馒头 饅頭 ③移植 饅頭(マント ③移植 饅頭 ③移植
ウ)
棒子面饼子 玉蜀黍粉の ①直訳 とうもろこし ①直訳 棒子麵餅子 ⑤移植+補注
大きな堅パ パン (p382,補
ン 注九)
皮糖 飴 ①直訳 飴 ①直訳 飴 ①直訳
棒子面 玉蜀黍粉の ①直訳 とうもろこし ①直訳 棒子麵 ③移植
堅パン パン
酱鸡 鶏の丸焼 ①直訳 醤油で煮た片 ①直訳 醤鶏 ③移植
身の鶏
熏肝酱肚 豚の贓物の ①直訳 贓物の燻製 ①直訳 燻肝醤肚 ③移植
煮込
马蹄烧饼 焼餅 ③移植 焼餅 ③移植 馬蹄焼餅 ⑤移植+補注
(p394,補
注三十三)
焦油炸鬼 油炸果 ③移植 揚げパン ⑥同化 焦油炸鬼 ⑤移植+補注
(p394,補
注三十三)
扒糕 抓糕 ③移植 くず餅 ⑥同化 扒糕 ⑤移植+補注
(p408,補
注六十五)

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

凉粉 凉粉 ③移植 寒天 ⑥同化 凉粉 ⑤移植+補注


(p408,補
注六十六)
涮羊肉 涮羊肉 ③移植 涮羊肉(羊肉 ⑤移植 北京の焼羊 ⑦加筆
の水炊き) +補注 肉
硬面-饽饽 硬麵ー餑々 ③移植 固焼きーパン ⑥同化 硬麵-餑餑 ⑤移植+補注
(麵をかた
くこねて焼
いたかたい
やきもの)
花糕 花糕 ③移植 花糕(重陽節 ⑤移植 花糕 ③移植
に食べる餅菓 +補注
子)
虎皮冻 皮付焼豚 ①直訳 にこごり ⑥同化 虎皮凍 ③移植
酱萝卜 漬物 ⑥同化 大根の味噌漬 ⑦加筆 醤蘿巴 ③移植
荤汤腊水 鳥のスープ ⑦加筆 ほっぺたが落 ②意訳 肉入りのス ⑦加筆
や上肉の料 ちるようなも ープなどお
理 の いしい食べ

当王八的吃俩 だが、幾ら ②意訳 つまり、「欲 ②意訳 それこそ姦 ②意訳
炒肉! 罵られて に目がくらん 婦の夫だ。
も、踏まれ だ恥知らず」
ても、蹴ら と言うところ
れても仕方 だ。
がない。落
ち着くとこ
ろへ落ち着
くのだ。
煎包儿 揚げ包子 ①直訳 煎包児 ③移植 煎包児 ⑤移植+
(p406,補 補注
注六十一)

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大连理工大学硕士学位论文

住宅
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法
邸宅 ⑥同化 長屋 ⑥同化 “雑院” ⑤移植+
(p381,補 補注
注四)
貧民窟 ⑦加筆 長屋 ⑥同化 “雑院” ③移植

杂 貧民窟 ⑦加筆 長屋 ⑥同化 “雑院” ③移植

( 貧民窟 ⑦加筆 長屋 ⑥同化 “雑院” ③移植

数 貧民窟 ⑦加筆 裏長屋 ⑥同化 “大雑院” ③移植

貧乏長屋 ⑦加筆 長屋 ⑥同化 “雑院” ③移植
10


貧乏長屋 ⑦加筆 長屋 ⑥同化 “大雑院” ③移植
貧乏長屋 ⑦加筆 長屋 ⑥同化 “大雑院” ③移植
裏長屋 ⑥同化 長屋 ⑥同化 “大雑院” ③移植
長屋 ⑥同化 長屋 ⑥同化 翻訳なし ⑪略訳
その他
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 原文 a.竹中訳 翻訳法
炕 炕(中国式 ⑤移植 炕(オンド ⑤移植 “炕” ③移植
+補注 +補注
オンドル) ル)
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕”(オ ⑤移植+
ンドル) 補注
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植

炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植


炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植


炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 炕 ③移植 “炕” ③移植
炕 ③移植 寝床 ⑥同化 “炕” ③移植
炕 ③移植 翻訳なし ⑪略訳 “炕” ③移植
炕 ③移植 翻訳なし ⑪略訳 “炕” ③移植
翻訳なし ⑪略訳 炕 ③移植 “炕” ③移植
翻訳なし ⑪略訳 炕 ③移植 “炕” ③移植
翻訳なし ⑪略訳 寝台 ⑥同化 “炕”(オ ⑤移植+
ンドル) 補注
(一头扎在炕 炕 ③移植 布団をひっか ②意訳 “炕” ③移植
上) ぶって
躺在炕上 寝込んでし ②意訳 寝込んでしま ②意訳 “炕” ③移植
まう う
上我的炕 うちへ入ら ②意訳 横にはいって ②意訳 あたしと寝 ②意訳
れる こられる る
黄狮子 黄狮子(煙 ⑤移植 黄狮子(タバ ⑤移植 黄狮子(煙 ⑤移植+
草の名) +補注 コの名) +補注 草の名) 補注
黄狮子 黄狮子 ③移植 黄狮子 ③移植 黄狮子 ③移植
八仙人 八仙人 ③移植 仙人(八仙人 ⑤移植 八仙人 ⑤移植+
はわが国の七 +補注 (p397,補 補注
福神) 注四十一)
八仙人 八仙人 ③移植 八仙人 ③移植 八仙人 ③移植

千层底青布鞋 千枚差しの ①直訳 先の丸い厚底 ⑦加筆 千枚張りの ⑦加筆


厚底のつい の黒靴 底の厚い黒
た黒繻子の 木綿短靴

馄饨挑儿 馄饨売り ①直訳 ワンタン売り ①直訳 馄饨屋 ③移植

のところ
骨牌 骨牌(かる ⑤移植 カルタ占い ⑥同化 骨牌 ③移植
た) +補注
三黄宝腊 「三黄宝 ⑤移植 三黄宝蠟丸 ③移植 三黄宝蠟 ③移植
蠟」(薬 +補注
名)

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大连理工大学硕士学位论文

夜壶挑子 夜壷売り ④直訳 尿瓶売り ①直訳 尿瓶屋 ①直訳


(夜壷につ +補注
いて解釈が
ある)
年画 春聯書き ①直訳 正月用の壁絵 ①直訳 壁絵 ①直訳
年货 正月用品 ①直訳 品々 ①直訳 品物 ①直訳

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

添付資料C 『駱駝祥子』における社会文化語彙
職業
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法
煤黑子 炭坑夫 ⑥同化 炭坑夫 ⑥同化 たどん屋 ⑥同化
胶皮团 車夫風場の仲 ⑥同化 車引き風情 ⑥同化 車夫渡せ ⑥同化

打鼓儿 屑屋 ⑥同化 屑屋 ⑥同化 “打鼓児的” ⑤移植+
的 (p406,補注五 補注
十八)
洋车夫 車夫 ③移植 車引き ③移植 洋車夫 ③移植
知县 県知事 ⑥同化 県知事さま ⑥同化 県知事様 ⑥同化
民間娯楽活動

老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳


原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法
说相声 漫才師 ⑥同化 漫才 ⑥同化 声色使い ⑩同化+
(p400,補注四 補注
十七)
耍狗熊 猿芝居 ⑥同化 熊使い ①直訳 熊使い ④直訳+
(p400,補注四 補注
十七)
变戏法 手品師 ⑥同化 手品師 ⑥同化 手品師 ⑩同化+
(p400,補注四 補注
十七)
数来宝 講釈師 ⑥同化 祭文語り ⑥同化 樽敲き ⑩同化+
(p400,補注四 補注
十七)
说鼓书 鼓姫(太鼓を ⑩同化 講釈師 ⑥同化 物語り ⑩同化+
叩いて物語式 +補注 (p400,補注四 補注
な歌を歌う 十七)
女、日本の娘
義太夫を更に
大衆化したも
の)
练把式 武術使い ⑥同化 剣術使い ⑥同化 武芸 ⑩同化+
(p400,補注四 補注
十七)
逛灯 燈籠見物に出 ①直訳 燈籠見物に遊 ①直訳 燈籠見物に浮か ①直訳

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大连理工大学硕士学位论文

かける びまわる れ歩く

秧歌 高脚踊り ⑥同化 高脚踊り ⑥同化 高脚踊り ⑩同化+


(p408,補注六 補注
十七)
狮子舞 獅子舞 ③移植 獅子舞い ①直訳 獅子舞い ④直訳+
(p408,補注六 補注
十七)
その他
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法
咚咚嚓 チャーンとお ②意訳 ドンドンピー ⑧音訳 ドンドンチャン ⑨音訳+
やすくない ピー (結婚の音楽) 補注
火烧连 『火焼連営』 ③移植 陸遜の蜀軍本 ⑦加筆 「火焼連営」 ⑤移植+
营 陣焼き打ち (p396,補注三 補注
十八)
长坂坡 『長坂坡』 ③移植 長坂坡での趙 ⑦加筆 「長坂坡」 ⑤移植+
雲奮戦の模様 (p396,補注三 補注
十八)
三战吕 『三戦呂布の ③移植 劉備、関羽、 ⑦加筆 「三戦呂布」 ⑤移植+
布 図』 張飛が呂布と (p396,補注三 補注
戦う 十八)
元宵节 元宵節(旧暦 ⑤移植 元宵節 ⑤移植+ 元宵節 ⑤移植+
正月十五日) +補注 (旧暦正月十 補注 (p401,補注四 補注
五日を中心と 十九)
した五つ日間
間の燈籠祭
り)
腊八 臘八粥を(陰 ⑤移植 臘八(旧暦十 ⑤移植+ 臘八 ⑤移植+
暦十二月八 +補注 二月八日。こ 補注 (p390,補注二 補注
日、この日八 の日から歳末 十七)
種の薬味入り にはいる)

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

のお粥を炊
き、八戸に配
って縁起を祝
う習慣があ
る)食べると

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大连理工大学硕士学位论文

添付資料D 『駱駝祥子』における宗教文化語彙
老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳
原文 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法
逛庙 各所の縁日 ⑦加筆 お寺の縁日に ⑦加筆 縁日に遊び ⑦加筆
に出かける 遊びまわる に行く
谈鬼说狐 お化けや狐 ②意訳 いくらしゃ ②意訳 お化けが出 ②意訳
べったところ たとか、狐が
の噂の類
でけっして本 化けたとか、
ものが出るこ この手のもの
とはない怪談 は見た見たと
言い触らして
いる
死后有知 翻訳なし ⑪略訳 死んだ後でも ①直訳 死後分かった ①直訳
意識があった
放阎王账 高利貸 ②意訳 高利貸をやる ②意訳 高利貸しをや ②意訳

一脚蹬在天堂,一 片足を天国 ①直訳 天国と地獄 ①直訳 片足は天国に ①直訳
脚蹬在地狱 に掛け、片 に足を片方ず 片足は地獄に
足は地獄を つおいている
踏みつけて
仁王立ちを
している
冻死鬼 凍死人 ②意訳 行き倒れ ②意訳 道端で凍死し ⑦加筆
ているもの
祭灶 竈祭 ①直訳 荒神祓い(中 ⑩同化 竈の祭り ⑩同化
国では旧暦十 +補注 +補注
二月二十三
日)

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

朝顶进香 娘々廟のお ⑦加筆 妙峰山の御開 ⑦加筆 妙峰山にお香 ⑦加筆


祭りの季節 帳の季節 を備える時節
末路鬼 なれのはて ②意訳 なれのはて ②意訳 末路 ③移植
人不知鬼不觉 人々の寝静 ②意訳 だれ知らぬ間 ②意訳 誰も知らない ②意訳
まっている に
間に、こっ
そりと
谢天谢地 有難いと思 ②意訳 ありがたいと ②意訳 ありがたいと ②意訳
う おもう 思う

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大连理工大学硕士学位论文

添付資料 E 『駱駝祥子』における言語文化語彙

人名

老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳

原名 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 c.中山訳 翻訳法

祥子 祥子 ③移植 祥子 ③移植 祥子 ③移植

虎妞 虎娘 ①直訳 虎妞(妞は ⑤移植+ ひのえ午嬢 ②意訳

娘) 補注 ひのえ午

刘四 劉四 ③移植 劉四 ③移植 劉四 ③移植

二强子 二強子 ③移植 二強子 ③移植 二強子 ③移植

阮明 阮明 ③移植 阮明 ③移植 阮明 ③移植

小马儿 小馬児 ③移植 小馬児 ③移植 小馬児 ③移植

小福子 福子 ③移植 小福子 ③移植 福子 ③移植

成語

老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳

原名 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 翻訳法 a.竹中訳 翻訳法

虎头虎脑 生まれつき ⑦加筆 虎並みの気性 ⑦加筆 虎の相 ①直訳

容貌が虎に と顔の持ち主

そっくり

一问三不 何を言いつ ②意訳 なにごとも知 ①直訳 なにを聞か ①直訳

知 けられても らぬ存ぜぬ れたって知

唯々諾々と らん

する

不约而同 期せず ⑥同化 言い合わせた ②意訳 期せず ⑥同化

ように

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

游手好闲 一定の仕事 ⑦加筆 仕事もせずに ⑦加筆 町をぶらっ ⑦加筆

もなくブラ ぶらぶらして いている

リブラリと いる

宛もなく町

を歩いてい

倚老卖老 年とってい ⑦加筆 情けをかけて ②意訳 年のせいだ ②意訳

ることを好 もらう と言う

い口実

立竿见影 十中八九 ②意訳 たちまち反響 ②意訳 火のない所 ⑥同化


まで正確 を呼ぶ に煙立たず
と言う

鸡飞蛋打 運命を共に ②意訳 元も子もなく ①直訳 元も子もな ①直訳


する なってしまう くなってし
まう

知书明礼 多少孔孟の ⑦加筆 学問がある ②意訳 学徳兼備の ②意訳


道に素養の 紳士
ある

过河拆桥 橋を渡って ①直訳 掌をかえすよ ⑥同化 渡ってしま ①直訳


しまったら うなことをす えば橋を渡
橋を壊す る せ

骑马找马 一面辻俥を ②意訳 雇主があらわ ②意訳 騎馬找馬 ⑤移植+


拉きなが れるのを漫然 (馬に乗り 補注
ら、傭主を と待っている ながら別の
探す 馬を探すこ
と)

无牵无挂 何物にも拘 ⑦加筆 天衣無縫 ⑥同化 足手まとい ⑥同化


束されない の一切ない

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大连理工大学硕士学位论文

水落石出 事の是非曲 ②意訳 決着がつく ②意訳 真相がはっ ⑦加筆


直が分かる きりする

有声有色 声あり、色 ①直訳 活気に充ちて ②意訳 音響と色彩 ①直訳


あり いる でいっぱい

顺水推舟 順風に帆を ①直訳 渡りに船 ⑥同化 渡りに船 ⑥同化


あげる

甘居人后 世の中の落 ⑦加筆 控え目になら ②意訳 甘んじて人 ①直訳


伍者たるこ ざるをえない 後に落ちて
とに甘んぜ いる
ざるを得な

老弱残兵 老弱車夫 ①直訳 敗残者 ⑥同化 人生の落後 ②意訳


善罢甘休 其のままで ②意訳 だまってひっ ②意訳 指をくわえ ②意訳


済ませる こむ て黙ってい

前功尽弃 今更折角の ⑦加筆 これまでの苦 ⑦加筆 九仞の功を ⑥同化


苦心を水に 労を洗いざら 一気に欠く
流す いうっちゃっ
てしまう

将计就计 そんな謀略 ②意訳 要領よくたち ②意訳 相手の裏を ⑦加筆


まわる かいて、自
的手段を以
分の虚名を
って
広める

嫁鸡随鸡 鶏に嫁した ①直訳 翻訳なし ⑪略訳 嫁しては夫 ②意訳


に従う
ら鶏に随え

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

骚人雅士 騒人雅士 ③移植 文人墨客 ⑥同化 雅を好む紳 ②意訳



かけことば

老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳

原名 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 原名 a.竹中訳 翻訳法

肉包子打 鉄砲玉みた ②意訳 出たったき ②意訳 “肉包子” ①直訳


ように飛び り、知らんぶ (肉まん)
狗一去不
出したっき り を犬にぶっ
回头
りさっぱり つけたよう
顔を見せな に、まるで
い 帰ってこな
い。

一条绳拴 一つの糸 ①直訳 堅く結ばれ ②意訳 糸でつなが ①直訳


で縛り合わ て、ばらばら れたばった
着俩蚂
されたバッ になれない で、お互い
蚱,谁也
タと同然、 にどっちも
跑不了
どちらも一 逃げられは
人で逃げる しない
わけにはい
かない

长老了的 かの長生き ①直訳 丸々太った虱 ①直訳 大きくなっ ①直訳


しつくした ーこいつに食 た虱はーこ
虱子-特别
大きな虱ー われたらたま いつは特に
的厉害
こいつは特 らないー 恐るべき存
に猛烈なや 在だ
つだ

哑巴吃扁 翻訳なし ⑪略訳 ちゃんとそろ ①直訳 口に出さな ①直訳


ばんはじてい くて、心の
食-心里有
る 中ではちゃ
数儿
んとそろば

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大连理工大学硕士学位论文

んをはじい
とる

小胡同赶 石橋を敲い ⑥同化 ばか正直にや ②意訳 石部金吉式 ⑥同化


て渡る るだけのこと
猪-直来直
をやってみる

周瑜打黄 周瑜が黄蓋 ①直訳 周瑜が黄蓋を ④直訳+ 周瑜が黄蓋 ④直訳+


を殴ったの 打擲したよう 補注 を打って大 補注
盖,愿打
と同じで、 なもの(苦肉 芝居をやっ
愿挨
一方がなぐ の策。「三国 た
りたいから 志の故事)、
(p387,補注
殴ったの 武士は相身お
二十三)
で、一方は 互いだ
喜んで殴ら
れている

徐庶入曹 わざと黙っ ②意訳 知らぬ存ぜぬ ②意訳 徐庶が曹操 ①直訳


て泣いてい おしとおす の所に連れ
营― 一语
て一言も答 てこられた
不发 えない 時のように
一言も言わ
ない
慣用句

老舎著 竹中訳 立間訳 中山訳

原名 a.竹中訳 翻訳法 b.立間訳 原名 a.竹中訳 翻訳法

过了这村 人間到ると ②意訳 あとで悔やん ②意訳 ここを過ぎ ②意訳


ころ青山あ だって追いつ たらあとは
便没这店
り けない もう一面の
砂漠だ

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

此处不留 棄てる窯あ ②意訳 何も一つ所に ②意訳 棄てる神あ ⑥同化


ればまた拾 こだわる必要 れば拾う神
爷,自有
う神ががあ がない あり
留爷处
るので、何
も悲観する
に及ぼない

常将有日 ある日に無 ①直訳 ころばぬさき ⑥同化 転ばぬ先に ⑥同化


き日のこと の杖 杖つけば転
思无日,
を思え。な んで杖に憎
莫到无时
き日に至っ むことなし
盼有时
てある日の
ことを思う
勿れ

跳到黄河 自分に降り ①直訳 死んでも濡衣 ②意訳 疑いは黄河 ①直訳


かかる嫌疑 を晴らすこと に飛び込ん
也洗不清
は黄河の水 が出来なくな でも洗い清
で洗っても ってしまう められな
容易に洗い い。
落とせない

太岁头上 仁王様の顔 ①直訳 楯つく ⑥同化 目の届くと ②意訳


に泥水を引 ころでちょ
动土
っかける ろちょろす

听风便是 風を聞けば ①直訳 気がまわる ②意訳 風の具合で ①直訳


すぐに雨を 雨を知る

予知する

眼里不揉 翻訳なし ⑪略訳 目はたしかな ②意訳 ごまかそう ②意訳


ものだ なんていう
沙子
ことはとん
なもない

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大连理工大学硕士学位论文

一个萝卜 翻訳なし ⑪略訳 ものごとにき ②意訳 歯車のよう ②意訳


ちんきちんと
一个坑
けじめをつけ
なければ気が
すまない

上气不接 自棄に呶鳴 ②意訳 必死に ②意訳 ごたごたが ②意訳


る 起こる
下气

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从顺应论看《骆驼祥子》中文化负载词的日译——以三个译本为中心

发表学术论文情况

1 从顺应论看《骆驼祥子》中“虎妞”的日译.毛静,孟庆荣.长江从刊,2018 年,14
期:79-81.主办单位:湖北省作家协会。CN42-1853/I,ISSN:2095-7483.(本硕士学位
论文第四章)

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大连理工大学硕士学位论文

謝 辞

本論文の作成に当たって、周りの多くの方々から熱心にご支援いただき、心から
深くお礼を申し上げます。指導教官の孟慶栄先生から温かいご指導をいただいたこ
とに、心から感謝しております。また、方々の先生からも色々と貴重なアドバイス
やご意見をいただき、深甚なる謝意を申し上げます。
また、坂元昭宏さんからは、微妙な日本語表現について指導いただき、心から感
謝しております。
そして、友達の楊明偉さんと樊冠男さんから様々な支援をいただき、ここで感謝
の気持ちを表します。
最後に、いつも励ましてくれている家族に感謝致します。これから共に歩む人生
をとても楽しみにしております。

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大 连 理 工 大 学 硕 士 学位 论 文

大连 理 工 大 学 学 位 论 文 版 权 使 用 授 权 书

本 人完 全 了 解学 校 有关 学 位 论文知 识 产 权 的 规定 , 在 校 攻 读学 位 期 间

于 大连 I 工大学 允 许 论 文被 查 阅 和 借 阅 学校 有权
I ,

 。

保 留 论文 并 向 国 家 有 关 部 门 或机构 送 交 论 文 的 复 印 件和 电 子 版 , 可 以将本


学 位 论文 的全 部或 部分 内 容 编 入 有关数据库进行检索 可 以采用 影
印 缩印 ,


或扫 描 等复 制 手段保 存和汇编 本 学位 论 文 

学 位 论文 题 目 :
从 獻論破释如 牧遍 絮词 的 曰 碎 -

译私 ^ 7 ,
1 

作 者 签 名 :

_ £  
日期 :
2〇 6 年 ( 月 I I



导 师 签 名 :
3 分 尊 日 期



义年 & 月 〖



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