Comic Scroll

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2011 年度 (平成 23 年度)

卒業制作

COMIC SCROLL: 電子書籍における漫画のデザイン

2012 年 1 月 21 日提出

慶應義塾大学 環境情報学部 山中俊治デザイン研究室


学籍番号:70849488

矢島 光
HIKARU YAJIMA

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目次

1. はじめに........................................................................................... 3

2. 制作手順........................................................................................... 3

3. 漫画の要素........................................................................................ 4

3-1. 漫画のコマと絵巻 ............................................................................................... 4


3-2. 漫画のセリフと絵巻 ........................................................................................... 4

4. 電子媒体だからできること................................................................. 6

4-1. アニメーション ................................................................................................... 6


4-2. 読者参加 ............................................................................................................... 8

5. 本のために描く漫画...........................................................................10

6. 電子書籍のために描く漫画.................................................................12

6-1. 原稿用紙との比較 ............................................................................................... 12


6-2. 新たに生まれる制限 ........................................................................................... 12

7. おわりに...........................................................................................13

謝辞......................................................................................................14

参考文献................................................................................................15

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1. はじめに

昨年2010年、電子書籍元年と騒がれ1年以上が過ぎた。電子書籍のコンテンツの多く
は、既に出版された印刷書籍をデジタルな文字情報や画像情報へ変換して、電子ファイ
ルとし、印刷、製本、流通の経費削減や省スペースを実現している。本の中でも、「漫
画」は、近年レンタルが盛んにおこなわれている。巻数がかさみ、1度読んでしまえば
多くは用済みとなる漫画の単行本は、省スペースという目的において、真っ先に標的と
なるコンテンツではないだろうか。
日本は以前から旧作の漫画をパソコンや携帯電話向けに配信していたので、電子書籍
への適応は早いと思われた。しかし、漫画における電子書籍への適応は未だ達成されて
いないと私は考える。なぜなら、本から電子書籍端末へメディアが変わったにもかかわ
らず、「ページ」をひとつの単位とする本の形式を、そのまま電子書籍上に映し出して
表現しているからだ。
近年の本から電子書籍へのメディアの変遷は、包括するコンテンツの在り方を再考す
る機会を我々に与えており、本における「ページをめくる」という行為をいかに電子書
籍端末にあわせて変換するかは、スクリーン上において今後進化すべき表現といえるだ
ろう。
本制作の目的は、本の形式を電子書籍に移植することは漫画において適切ではないと
強調し、漫画の電子書籍における適切なあり方を考察していくことである。

2. 制作手順

紙の原稿に描いた漫画を電子書籍のコンテンツとして移植するためには、原稿用紙に
漫画を描き、その上でどのようにデザインされているのかを把握する必要がある。そこ
で、まず紙で漫画原稿を制作する。そして、制作した漫画と、以下の3,4章で述べる、
「漫画を構成する要素」「電子媒体だからできること」とを比較して、電子書籍端末の
スクリーンにおいてどのようなデザインが適切であるかを検討する。

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3. 漫画の要素

3-1. 漫画のコマと絵巻
漫画を特徴づける要素にコマがある。夏目房之介は、コマを「ページに展開する漫画
の時間と空間を表現する根底の形式」と定義し、「物語漫画はコマ割りされてはじめて
マンガになる。」という。[1]では、漫画の起源とされる「絵巻」から、どのようにし
てコマが誕生したのだろうか。
絵巻の物語は、どこまでも続く横長の形状の中で、文章→絵→文章→絵と、右から左
へ順序よく展開していく。しかし、その単純さから抜け出すには、ひとつの絵がひとつ
の場面に対応することから抜け出さなければならない。そこで登場したのが《伴大納言
絵巻》冒頭の火事の野次馬の場面や《信貴山縁起絵巻》飛倉の巻である。ここでは、山
屋水などの風物や雲や霞が描かれて、さりげなく複数の場面を隔てている。なかでも霞
は、異なる時間や空間を接続したり、区切ったりするための機能に特化している。[2]
こうした霞の形状は、時代が下るとともに直線的になり、形式化が進む。[3]
こうして当時の絵巻の絵師は、横長の画面に対し、異時同図(図 3.1)や霞を駆使し
て表現したい時間と空間を、適切な形に変えていった。
以上のことから、絵巻から漫画へ移り変わる過程において「コマ」の存在は必須であ
ると判断できる。すなわち、本から電子書籍へ漫画を適切な形で表現する上で、
「コマ」
を無くしてしまっては漫画と呼べるものではなくなる可能性があるだろう。

図 3.1 信貴山縁起絵巻 中巻 - 七条通りの子どもの喧嘩

3-2. 漫画のセリフと絵巻

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中世の絵巻物には、セリフが入る吹き出しが存在しない。しかし、12世紀∼13世紀
(平安時代末期 - 鎌倉時代初期)に描かれたとされる鳥獣人物戯画のカエルの口から
出ている線(図 3.2)が、効果線、あるいはオノマトペとしてとらえられた。また、同
じく鳥獣人物戯画の猿の坊主が経を読んでいる絵(図 3.3)にも、その効果線が認めら
れ、これが吹き出しの原点という説がある。これに関する判断はかなり恣意的である。
しかし、フキダシの原点と言われていることは確かであり、漫画の絶対的な要素として
「コマ」と同様に「フキダシ」が存在することを示唆している。

図 3.2 鳥獣人物戯画(部分)- 蛙と兎が相撲を取っている場面

図 3.3 鳥獣人物戯画(部分)- 供花の図

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4. 電子媒体だからできること

4-1. アニメーション
電子書籍は様々な動きをつけることが可能である。漫画の域を出てしまわない範囲の
動きとはどのようなものかを以下考える。
日本で最初に劇場公開用として制作されたアニメーションは1917年の『芋川椋三玄
関番之巻』(下川凹天)である。黒板にチョークに絵を描いて撮影してから、少しずつ
絵を消したり書き加えたりしながら1コマずつ撮影する方法をとっていたため、奥行き
に乏しく「アニメーション」ではなく「漫画映画」と呼ばれていたという。また、1930
年頃には、『動絵狐狸達引』(大石郁雄)のように、遠近法が採り入れられ、立体的な
空間の中でキャラクターが縦横無尽に駆け巡るようになる。[4]
このように、漫画の中のオブジェクトが自立して動くコンテンツは、漫画の域を超え
て「漫画映画」となってしまう可能性がある。たとえば「Tron:Legacy」(図 4.1-4.6
http://disneydigitalbooks.go.com/tron/ 、2010年)というweb漫画のサイトがある。
左から右へスクロールして閲覧すると、何もない空間にコマがアニメーションで挿入さ
れていく。ディズニーとインターネットエクスプローラ9とが、HTML5と現代のweb
技術を用いて「新しいストーリィーテリングの方法を探っているものである」という趣
旨が、サイトの冒頭に記されているのだが、上記のアニメーションの歴史的背景と照ら
し合わせると、web「漫画」という表現は妥当ではないといえる。それは、以下の図の
ように、コマとその中のオブジェクト双方が遊動しており、漫画というにはリッチコン
テンツとなりすぎているためである。

(図 4.1)Tron:Legacy 1

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(図 4.2)Tron:Legacy 2

(図 4.3)Tron:Legacy 3

(図 4.4)Tron:Legacy 4

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(図 4.5)Tron:Legacy 5

(図 4.6)Tron:Legacy 6

しかし、変則的なコマ構成は、その立体的遊動への志向において、限りなく電子漫画
を連想させる物であり、もし遊動するものが、コマのみで、その中のオブジェクトが静
止していたならば、web「漫画」と捉えられるのではないだろうか。
以上をまとめると、電子漫画の中で動きを持つことができるのは「コマ」のみである
と考えられる。

4-2. 読者参加
電子書籍はオンライン接続が可能であるため、容易に読者参加型コンテンツになり得
る。例えば、読者の選択によって展開が変わってゆく漫画や、読者たちが描き進める漫
画など、可能性は限りなく広がってゆく。
実際に読者参加型のスタイルで編集が行われている雑誌がある。株式会社BookLive
は、電子書籍販売サイト「BookLive!」においてオリジナル電子雑誌「月刊GEN-SAKU!」
を創刊している。毎回読者アンケートをおこない、最下位作品については休載や作品入

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れ替え対象となる。また2011年6月に、『Harry Potter』(J.K. Rowling)の世界を仮
想体験できる参加型のウェブサイト「Potter more」がJ.K.Rowlingにより開設された。
このサイトでは、読者は自身の魔法名を登録して参加することが可能で、読者自身のコ
メントやイラストを投稿したり、ユーザー同士が友達になったりするSNS的な機能があ
るほか、物語に登場するゲームなども実際に体験できる。ストーリーにはところどころ
でJ.K.Rowlingによる新たな物語が加えられている。世界各国にファンがいることを考
慮し、英語だけでなくフランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語など各国版の準
備もされている。さらに、オンラインショップにて、電子書籍とオーディオブックを販
売している。(http://www.pottermore.com)
上記ふたつの事例が、電子書籍をめぐるエポックメイキングなコンテンツであること
は明らかであるが、漫画に対し、どの程度機能を盛り込むかの検討が今後の課題となる。

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5. 本のために描く漫画

電子漫画との比較のために、原稿用紙で漫画を描いた。以下にその考察を述べる。
まず、原稿用紙にあらかじめ記されている印について、図5.1を参照しながら述べる。

図5.1 漫画原稿用紙

(1)内枠・・・「基準枠」とも言う。大事な絵や文字、タチキリにしないコマは普通こ
の枠の中に収まるように描く。
(2)仕上がり線・・・「外枠」「タチキリ線」「仕上げ線」など、いくつか呼び方があ
る。基本的にこの枠の中にあるものが印刷される。
ノンブル・・・本のページ数。原稿用紙の上に3ヶ所、下に3ヶ所、それぞれ左右と中
央部分にある。

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(3)トンボ・・・仕上がりサイズに断裁する際に位置や多色刷りの見当合わせのための、
版下の天地・左右の中央と四隅などに付ける目印。これをトーンやベタで消さないよう
に描く。
(4)枠の外の目盛・・・コマ割りをするときのために入っている。
原稿用紙の上だけで以上4点のルールがある。それが電子書籍端末ではどのように変
換されるのかを6章で述べる。また、本として読むために実際に制作したものを、外部
ファイルとして添付する。(book_p.1-p.9.pdf参照)

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6.電子書籍媒体のために描く漫画

本のための漫画は、見開き2ページのコマがつながって全体でひとつのストーリーを
構成している作品が多くを占めている。これが、連続して縦に表示されスクロールだけ
で次々と読めることで、連続したストーリーをより強く体感して楽しむことができるの
ではないだろうか。[5]

6-1. 原稿用紙との比較
まず5章で述べた、原稿用紙上でのルールが、電子書籍端末上ではどのように変換さ
れるのかを示す。
(1)内枠は、タチキリにしない大事な絵や文字のためのものだが、スクリーン上では
印刷による影響がないため考慮しなくてよいとする。しかし、(2)仕上がり線は、電子
書籍端末の「スクリーンサイズ」であると考えられ、基本的にこの枠の中に収まるよう
にコマを流動的に並べることになる。本制作では、電子媒体端末にiPadを使用するため、
スクリーンサイズ横幅:768px、縦幅:1024pxを想定している。(3)ノンブルは、ページ
数がスクリーン上には存在しないので、考慮しなくてよいとする。(4)トンボも、電子
書籍端末では印刷の影響がないので考慮しない。(5)枠の外の目盛も不要である。

6-2. 新たに生まれる制限
ウェブサイト1ページ当たりのデータ量は、回線速度の都合上200KB∼2MB程度であ
る。[6] これは、オンライン接続を考慮する限りでは、電子書籍端末でのデータサイズ
による制限の存在可能性を示している。
ここで、解像度および階調で200KB∼2MBの範囲で画像サイズを求める。階調:2値
モノクロ、横幅:768px、縦幅:1024px(iPadスクリーンサイズ)と設定する。このとき
非圧縮画像のファイルサイズは以下の式で求められる。
縦のピクセル数*横のピクセル数*ビット数
すると、コマを並べるための画像サイズはiPadのスクリーン2枚∼20枚程度であること
がわかる。
本制作は上記の制限の中で、変則的なコマ構成を用いて、新たな漫画表現を目指した。
そして、iPadのスクリーン2枚∼20枚程度のファイルサイズの空間に並べられたコマの
集合を1単位とし、1roll(1ロール)と名付ける。また、3章と4章で述べたことを考慮
しながら制作した電子書籍端末用の漫画COMIC SCROLLを、外部ファイルとして添付
する。(scroll_r.1.png, scroll_r.2.png 参照)

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7. おわりに

生まれた時からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ってきた「デジタ
ルネイティブ」と呼ばれる世代がこれからの漫画出版を先導するとき、我々を更に魅了
する電子漫画の表現が生まれるはずである。本制作が、その手助けとなることを願って
いる。

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謝辞

本制作を進めるにあたり、ご指導・ご助言を賜りました本塾環境情報学部 山中俊治
教授に深く感謝いたします。
また、執筆にあたり、熱心に作画指導・編集担当をしてくださった本塾環境情報学部
講師 竹之内博史講師、たくさんの助言をくれた山中研の岡本貴裕くん、西谷圭さん、
私の協力要請に快く応えてくれた、檜垣万里子さんをはじめとする山中研の仲間・先輩
方と脇田研の仲間・先輩方に深く感謝いたします。作画では、高校時代の友人である加
藤花子さん、崔元美さんに手伝っていただいたことで、たくさんの苦悩を乗り越えられ
ました。この場を借りて御礼申し上げます。そして最後に、大学での貴重な教育の機会
を与えてくれ、更には作画にも協力してくれた家族に感謝し、謝辞といたします。

平成 24 年 1 月 21 日
慶應義塾大学 環境情報学部4年
矢島 光

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参 考 文 献
1)夏目房之介『マンガの読み方』第四章「マンガをマンガにしているのは「コマ」である」、1995年

2)山本陽子「大人げないもの」が発達するとき――相似形としての絵巻とマンガ、2011年

3)若杉準治「絵巻の時間表現――ストーリー展開のための工夫」、1995年

4)佐野明子「「アニメーション」の名称の変遷と「芸術性」について」、2011 年

5)白木高広 http://enixcomic.fan-site.net/enix8/tatescroll.html

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