Download as pdf or txt
Download as pdf or txt
You are on page 1of 10

JES 2022-07-18

「新自由主義=グローバル化」観から問い直す小学校英語
寺沢拓敬
関西学院大学(在外研究中@University of British Columbia)
連絡先:https://terasawat.jimdo.com/

研究概要 「グローバル化」は小学校英語論議の枕詞だが、同時に、「呪文」でもある。なぜなら、論者は
誰もGlobalisation Studies の先行研究を参照せず、単なるキャッチフレーズとして使っているだけだからであ
る。Globalisation Studiesでは、通常、グローバル化と新自由主義の密接な関係が頻繁に言及されるが、以上
の事情から、日本の英語教育論議ではグローバル化=新自由主義に関する諸概念の検討は進んでいない。一
方で、英語圏の英語教育学ではすでに、早期英語教育と新自由主義を関連付けた研究が増えている。こうし
た知見を踏まえながら、日本の早期英語を改めて問い直すことが重要である。以上が本発表の目的である。
想定オーディエンス 学会・学界

1
呪文としての「グローバル化」
• 早期英語教育の意義を強調するために頻繁に言及されるわりに、誰もグロー
バル化について読んだり調べたりした形跡がない?
• 全国英語教育学会編『英語教育学の今』には、「グローバル」は46回、「グ
ローバリゼーション」は2回出現。一方、引用文献には、グローバル化論の
文献0点
単語がタイトルに含まれる文献を含めても4点のみ。
• 文部科学省(2013)「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」
• 日本国際理解教育学会 (2010) 『グローバル時代の国際理解教育~実践と理論をつな ぐ
~』明石書店
• 大津和子 (1997) 『グローバルな総合学習の教材開発』明治図書出版
• 鳥飼玖美子(2013)「グローバリゼーションのなかの英語教育」 広田照幸他(編)
『グローバリゼーション,社会変動と大学』139-166. 東京:岩波書店

• 自明ではない概念が、まるで「自明なもの」として流通(呪文)
2
「グローバル化」の語られ方 現場の能動的対応(自律性)を強調

現場=主、グローバル化=従 グローバル化=主、現場=従
「大変だけど頑張ってグローバル化に対応しよう」 「他所の事情で勝手に教育が決まり、振り回される」

XX国のため
グローバル資本家のため
子供のため 多国籍企業のため
日本のため
未来のため

現場
現場

3
グローバル化、新自由主義、教育政策

新自由主義
• 伝統的に政府の役割とされてきた領域(例、公教育、福祉、インフラ整備)を、市場(=人々の自
由な選択)に移管すべきだとする考え方
• ハーヴェイ (2007): グローバル資本家階級(多国籍企業等)の利益にかなう形で様々な制度(例、教
育)が市場化されること
• グローバル資本家にとって各国政府の規制は障害
• グローバル資本家に逃げられては困るので、各国政府も必死にアピールする
グローバル化の拘束力
• 世界相互のつながりの強化
• 様々な決定事項が、ローカル・国内の都合よりもグローバルな権力・動向によって左右される。
教育も拘束される
• 「グローバル人材」、PISA(国際的な学力テスト)、ユネスコ
• 小学校現場の事情よりも、グローバルな政治経済が優先され、直接の関係者(児童、教員、その
他)の利益が軽視される
4
新自由主義と英語教育
先行研究
• 英語圏において既に多数ある (e.g., Block, Gray,
& Holborow, 2012; Block, 2018)
• 日本語圏はわずか(例外:江利川, 2018; 久保
田 2018)
論点
• グローバル労働市場における英語の重要性
→ 市場の原理に取り込まれる英語コミュニケーション
能力

• 英語教育の産業化
→語学産業、ICTビジネス、教職のアウトソーシング等

5
小学校英語の文脈での先行研究
Sayer (2015)
• メキシコの公立小学校英語政策
• グローバル市場を利する労働者(い
わばグローバル人材)の創出を目的
として、小学校英語が導入
• ただし、学校リソースに予算を大規
模に投入したわけではない
• むしろ改革の「足かせ」になり得る
教員組合を再編成

6
なぜ小学校段階?
矛盾?
• 資本家階級の利益となる「グローバル人材」育成にとって、初等教育
への注力は効率が悪い(cf. 寺沢, 2020: 6章)
• しかも、早期化そのものには劇的な効果が認められないことは研究者
の間で定説化している (Pfenninger & Singleton, 2019)
答え
• Sayer (2015): 「見栄え」のため。早期化=国際競争力指標が高くなり、
グローバル資本家へのアピールが増す。
• 日本の場合、ここまで露骨なメカニズムはないかも。

7
「他国も小学校英語をはじめたから日本も…」

• 「他国もやっているから我が国も」という意識が政策借用を促
す (Enever, 2018. 「早期英語のグローバルトレンド」)
• 「他国もやっている」は政治的過程・政策立案過程でも重要
• 前例主義
• 政策パッケージとしての説得力(必ずしも合理的ではない説得力)
• 反対派の政治的アクターを黙らせる

8
まとめ
拘束性
• 早期英語教育は、私たちの自律的対応の結果だけでなく、他所の事情
で押し付けられたものである面も。
• 「文科省・教委→現場」というパタンだけでなく、そもそも文科省・
教委の決定が、グローバル資本主義から拘束されている
学術的示唆
• 政策・行政の研究が必要。学界レベルで取り組む必要(モデルとして
の英語圏TESOL・応用言語学)

9
引用文献
Block, D. (2018). Political economy and sociolinguistics : neoliberalism, inequality and social class.
Bloomsbury Academic.
Block, D., Gray, J., & Holborow, M. (2013). Neoliberalism and applied linguistics. Routledge.
Enever, J. (2018). Policy and politics in global primary English. Oxford University Press.
Pfenninger, S. E., & Singleton, D. (2019). Making the most of an early start to L2 instruction. Language
Teaching for Young Learners, 1(2), 111–138. https://doi.org/10.1075/ltyl.00009.pfe
Sayer, P. (2015). “More & Earlier”: Neoliberalism and Primary English Education in Mexican Public
Schools. L2 Journal, 7(3). https://doi.org/10.5070/l27323602

江利川春雄. (2018). 『日本の外国語教育政策史』. ひつじ書房.


久保田竜子. (2018). 『英語教育幻想』. 筑摩書房.
スティーガー, M. (2010). 『新版グローバリゼーション』 (櫻井公人他訳). 岩波書店.
寺沢拓敬. (2020). 『小学校英語のジレンマ』. 岩波書店.
ハーヴェイ, デヴィッド. (2007). 『新自由主義 : その歴史的展開と現在』. 作品社.

10

You might also like