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第 10 号 Fe−Ni−Ti系マルエージング鋼の析出挙動と切欠靱性に及ぼすCrの影響 879

日本金属学会誌第50巻第10号(1986)879−886

Pb−Ni−Ti系マルエージング鋼の析出挙動と
切欠靱性に及ぼすCrの影響

浅 山 行 昭*

J.Japan Inst.Metals,Vol.50,No.10(1986),PP.879−886

Effects of Chromium on the Precipitation Behavior and Notch


Toughness of Fe−Ni−Ti Maraging Steels

Yukiteru Asayama*
In the steels with composition of Fe−10Ni−3Cr−1.5Ti, the severe embrittlement occurred with
the progress of aging regardless of presence of molybdenum. The embrittlement is not thought to
be caused by grain boundary segregation of impurities giving rise to temper embrittlement in low
alloy steels. The relationship between the embrittlement and precipitation behavior was studied in
consideration of“activation energies”determined from Arrhenius plots. It is suggested that the
embrittlement in these steels results from the formation of low temperature precipitates associated
with the presence of titanium.
Also in the steel with composition of Fe−14Ni−2Mo−1.5Ti, the severe embrittlement occurred
with the progress of aging as well as in the steels with composition of Fe−10Ni−3Cr−1.5Ti. When
chromium is added to Fe−14Ni−2Mo−1.5Ti, the steel shows a good toughness even after the progress
of aging. It was found that addition of chromium supPressed the formation of low temperature
precipitates associated with the presence of titanium produced at an early stage of aging and pro−
moted the formation of Laves phase produced with the progress of aging.
It is presumed that a close relationship exists between the precipitation behaviors and the notch
toughness.
(Received May 22,1986)

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30γ一1.5:τ1ゼ,θZ60〃∫oσZγ6s♂s干鰯♂彦夕

リックス中のNiは消費されることはなく,Mo低温相を
1.緒 言
cutした転位が粒界に堆積しても, cross slipの発生によ
18%(以下mass%で示す)のNiを含有するFe−Ni系合 って集中応力は緩和される(8).このことも18%Niマルエ
金に第3元素を添加して時効硬化性を付与する場合に, ージング鋼が優れた靱性を示す理由の1つと考えられ
Tiは最も有効な添加元素の1つとされているが(1)(2), Ti る(9).

を添加して強化を計った材料の靱性は,CoとMoの共存 Tiを添加したFe−Ni系合金においても,適正なNi含
によって強化した18%Niマルエージング鋼の場合と異な 有量のもとに,他の元素を添加することによって,Ni以
り,1500MPa以上の強度になると急激:に劣化する(3). 外の元素と結びついたTi析出相を生成させ,これを強度
Tiを添加したFe−Ni系合金においては,時効の初期に と靱性にとって理想的な分散状態にすることができれば,
はNiTi(B2)(4)ないしはNi3Ti(DO3)規則相(5)ともいわれ 1500MPa以上の強度においても高靱性を保持させること
ているTi低温相が析出し,これが強化に寄与するけれど が可能と考えられる.
も,同時に,このTi低温相が析出すると,靱性は極度に 著者は先にCrを含むマルエージング鋼の等時時効にお
劣化すると報告されている(6). いて,低温時効相が18%Niマルエージング鋼や, Fe−Ni−
一方,18%Niマルエージング鋼の析出強化の主役であ Ti系マルエージング鋼よりも,はるかに大きく復元する
るMo低温相は,おそらく,Ti低温相のように, Niと結 ことを見出した(10).この大きな復元の機構は明確ではな
びついていなと考えられるので(η,これが析出してもマト いが,Crが何らかの理由で, Fe−Ni−Ti系合金の析出相と

*三菱重工業株式会社名古屋航空機製作所(Nagoya Aircraft Works, Mitsubishi Heavy Industries,


Ltd., Nagoya)
880 日本金属学会誌(1986) 第 50巻

して最も安定なFe2Ti Laves相の析出を促進していると 薄板から採取した.試験片形状は前回(9)と同様である.

すれば,低温時効で析出してくるTi低温相はFe2Tiの生 これらの試験片は溶体化処理のために,中性ソルト中で
成と共に生長が阻止され,場合によっては早期に復元する 1173K(No.57合金の一部は後述するように,1093 Kで溶
可能性もあり,靱性にとっては好影響を及ぼすことも考え 体化処理した.)に1.8ks加熱後水冷した.切欠付引張試
られる. 験片は溶体化状態で切欠先端に正確に1.Omm深さの疲労
本研究は以上の理由から,靱性向上が期待されるCrと, き裂を入れてから,所定の時効処理を施して引張試験に供
不純物元素の粒界偏析防止に有効とされているMoを添加 した.時効処理は硝石系の中性ソルト中で行った.時効処
し,さらに,Ni含有量を変えたFe−Ni−Ti系マルエージ 理した切欠付引張試験片は引張試験を行う前に,すべて
ング鋼について,時効に伴う析出挙動と,硬度ならびに切 463Kで3.6ksのべーキングを施した.また,試験中に大
欠靱性との関係を調べたものである. 気の影響によって起るおくれ破壊を防止するために,引張
試験は5×10−3Paの真空中で行った.
II・実 験 方 法 電気抵抗は試験片を液体窒素中に浸漬したまま,電位差
本実験に用いた試料の化学成分をTable 1に,また, 計法によって測定した.

変態点をTable 2に示す. また,必要に応じて時効後のオーステナイト(γR)や析出

これらの試料は略報(9)と同様の方法によって溶解製造 相をX線回折によって調べた.γRについては,γ(200),
γ(220),γ(311)とα(200),α(211)の回折線から求めた(11).
し,厚さ2・Omm,幅100mmの板材に仕上げた.板材か
ら:Fig.1に示す片側切欠付引張試験片を板の圧延に対し なお,微量のγRについては,γ(111)からの回折線を参考

て直角の方向から採取した.電気抵抗測定のための試験片 にした.析出相は試料をピクリン酸5g,塩酸5mL,エチ
は,2・Omm板材をさらに冷間圧延して0・5mm厚にした ルァルコー・ル100mしの比率を有する溶液で溶解した残渣
について同定した.用いたX線はCoKαである.
Table l Chemical compositions of alloys used in the
inVeStigatiOn. 組織はレプリカを電子顕微鏡で観察した.

Chemical composition in mass%


III.実験結果
Alloy No. C Si Mn P S Ni Cr Mo Ti
1・:Fe−101Ni−3Cr−1.5Ti鋼の切欠靱性に及ぼす析出
52 0,001 0,010 0,010 0,003 0,003 12.58 2.68 2.82
1.30
0,013 0,003 0,003 8.05 1.45
の影響
53 0,006 0,017 3.05 1.99
54 0,006 0,011 0,012 0,003 0,003 10.16 2.95 1.48
1.95
55 0,006 0,007 0,012 0,002 0,003 12.02 3.04 1.96
1.46 10%Ni,3%Cr,1.5%Tiの組成を有するNo.57合金を,
56 0,006 0,004 0,011 0,003 0,002 14.05 2.99 1.50
1.95
57 0,005 0,001 0,008 0,002 0,002 10.15 3.03 1.53 まず1093Kで1.8ks加熱後水冷の溶体化処理を施し,続
一 1.54
67 0,003 0,010 0,010 0,005 0,002 13.65 1.98
一 3.00 1.51
68 0,002 0,010 0,010 0,003 0,002 13.75
一 3.03 1.56 50
70 0,002 0,008 0,011 0,003 0,002 14.57 2.70 星

、 45
Table 2 Transformation temperature of alloys used

in the investigation.
2
Transformation temperature/K P

40 受.。▲ 劉
Alloys No. As Af Ms Mf
35 ◇

52 950 995 533 443


53 993 1043 693 613
54 993 1033 643 563 歪
1000
55 983 1013 583 508 Σ
56
57
936
993
983
1043
523
673
443
598 、 瘁@、Ol、
Nナ耐’
67
68
943
973
983
1018
568
598
488
518

2 @①し』t\』聡亀
70 945 983 496 408 2
あ500

84 2
64

6.0
弍返 ち
z 102
O 103 104 105
1
106

一の一一。
1/ 8 「
㊦一
1互 Aging Time , s
Foti ue Crock Fig.2 Notch tensile strength and hardness of No.57
alloy aged isothermally at tamperatures ranging from
Fig.1 Dimensions of notched tensile specimen used 693to 813 K after solution heat−treated at 1093 K for
in tensile test. Dimensions are in mm. 1.8ks.
第 10 号 Fe−Ni−Ti系マルエージング鋼の析出挙動と切欠靱性に及ぼすCrの影響 881

いて,693Kから813Kの各温度で等温時効を施したあ Fig.4は1093 Kで溶体化処理したNo.57合金を713 K


と,硬度と切欠引張強度を測定した,その結果を:Fig.2に から813Kの各温度で等温時効した場合の電気抵抗変化を
示す.1093Kの溶体化温度はTable 2に示すNo・57合金 示したものである.抵抗変化の対数時効時間に対する微分
のAf点よりも50 K高い温度として選んだものである. 曲線においては,最初の大きな抵抗減少に対して1つのピ
硬度は時効温度の上昇に伴い,短時間側に平行移動した ークが認められる.このピークを形成する析出反応は,お
形で時効時間と共に増加する.一方,切欠引張強度は時効温 1.0

度によって決まる一定の潜伏期間を経たのちに硬度とは逆
に,時効時間と共に急激に低下し,顕著な脆化を示した. 言
騨§熱・ R

このような脆化が起る原因としては,不純物元素の粒界へ

の偏析が,まず第一に考えられる(3).不純物偏析に伴う脆 .0.9

化であれば,その防止にはMoの添加が有効とされている 診
ξ
ので(3),10%Ni,3%Cr,1.5%Tiの組成に,さらにMo 馨

を2%添加したNo.54合金と,比較のためにMoを含ま 」 ㌔\1

『こてトき
ないNo.57合金を1173 Kで1.8ks溶体化処理したあと,
、気

0.8
一dR,d(log t)
753Kで等温時効を施して硬度と切欠引張強度を測定し 1.0
〆㌻・
た.その結果をFlig・3に示す,溶体化温度をFig.2の場 ヂ
〆!隈
合よりも高くしたが,1093Kで溶体化したNo.54合金に 9
尊 七1/ 、
ρ’ 塵 、
は金属間化合物が未溶解のまま若干残存していることが分 言 曳

かったので,これを固溶させるのに十分な温度として §σ5 ノ
渉 、・一 リご♪・
1173Kを選んだ.しかし,1093Kの場合とほとんど差は 年 ノ あ

認められなかった.それでも詳細にみれば,No.57合金 亀


の切欠引張強度は時効が進行すると,Fig.2に示した値よ
(〉

りもさらに若干低下した.No.54合金もNo.57合金と同 0
102 103 104 105 106
様に,時効の進行に伴って急激に脆化したが,切欠引張強 Aging Time ’ s
Fig.4 Electrical resistivity changes and their loga−
度の値そのものは実験した時効時間の全域にわたってNo・
rithmic time derivative curves of No.57 alloy in
57合金よりも高い値を示しているので,Moの効果を完全 isothermal aging at temperatures ranging from 713
には否定できないにしても,その差は僅少であり,脆化の to 813K after solution heat−treated at 1093Kfor
1.8ks.
主原因を不純物元素の偏析と考えることはできない.
106 105

50
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1/e’

く●一●一・司駄、

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45 誘

も ノ 105 2104 諺・
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石 詩α57
ぢ 1d∼
10
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102 103 104 105 1.2 1.3 1.4
T−1,10−3K畠1
Aging Timeαt 753K , s
Fig.3 Changes in hardness and notch tensile strength Fig.5 Arrhenius plots constructed from the data of
in Nos.54 and 57 alloys aged at 753 K isothermally hardness, notch tensile strength and resistivity
after solution heat−treated at 1173 K for 1.8ks. changes of No.57 alloy.
882 日本金属学会誌(1986) 第 50巻

そらくTi低温相の析出にもとつくものと推定される(5). と切欠引張強度を示す.両合金共時効時間の増加に伴って
Fig.2に示した切欠引張強度の変化をFig.4の抵抗変化と 急速に硬化するが,溶体化状態での硬度差を考慮しても,
対比してみると,時効に伴う脆化がTi低温相の析出と密 時効初期におけるNo.56合金の硬度はNo.67合金よりも
接な:関係にあることを窺わせている. 若干高い値を示している.一方,切欠引張強度はCrの有
Fig・2と4に示したデータのうち,硬度はHRC 45,切欠 無によって大きく異なる.Crを含有するNo.56合金は時
引張強度は500MPa,抵抗変化は微分曲線のピークに対応 効が進行してもあまり大きな変化は認められないけれど
したそれぞれの時効時間から,アレニウスプロットを求め も,Crを含有していないNo.67合金では時効時間が103 s
てみると,:Fig.5に示すように,いずれも良好な直線関係 を過ぎると急激に低下しはじめ,104sでほぼ最低値に達
が得られ,これから見掛の活性化エネルギーを求めると, する.その時の値は時効初期の絶以下となる.そのあとは
216ないし220kJ/mo1となり,実験誤差の範囲で一致し 時効時間と共に漸増傾向を示す.このように,Crは切欠
た値が得られた.この点からも脆化はTi低温相の生成と 引張強度に大きな影響を及ぼすが,切欠靱性にはオーステ
密接な関係を有しているものと推定される. ナイト相も強く影響すると考えられるので,両合金のオー
ステナイト相の有無をX線回折によって調べた.しかし,
2.Fe−14Ni−1.5Ti鋼の切欠引張強度に及ぼす
753Kで時効した両合金には,長時間時効してもオーステ
Crの影響
ナイトは全く認められなかった.したがって,No.56合金
Fe−10Ni−3Cr−1.5Ti鋼ではMoの有無にかかわらず,
が753Kの時効で脆化しなかった理由を残留,ないしは逆
時効の進行に伴って切欠靱性は急激に劣化した.この靱性
変態オーステナイト(γR)に求めることはできない.両合金
劣化を防止するためには,Niを増やすことが最も有効な
の切欠靱性が時効によって大きく異なる理由は,Crが低
手段と考えられるので(12),No.54や57合金よりもNiを
温時効相の析出に強く影響したためと考えられる.
さらに増やしたNo.67合金(14%Ni,1.5%Ti,2%Mo)と,
:Fig・7は,753 Kで10.8ks時効したときの硬度と切欠
Crの効果を調べるために, No.67合金にCrを3%添加
引張強度を,Table 1の合金すべてについて求め,それら
したNo.56合金(14%Ni,1.5%Ti,2%Mo,3%Cr)につい
をNi含有量に対してプロットしたものである.
て,1173Kで1.8ks溶体化したあと,753 Kで等温時効
したときの硬度と切欠引張強度の変化を測定した.なお, 硬度はNiの増加に伴って若干上昇するが, MoやCrの
不純物元素の偏析に伴う脆化が重複しないように,両合金 有無によって顕著な変化は認められない.一方,切欠引張強

共Moを2%添加した. 度はCrを含有する合金においては, Niが12%を越える


:Fig.6は753 Kで等温時効したNo.56と67合金の硬度 と急に高くなり,脆化状態から良好な靱性状態に転移する
ことを示している.Crを含有していなければ,14%近い
Niを含有していても切欠引張強度は低く,脆化状態のま
050

まであるので,Crは12%以上のNiを含有する合金にお
、45

いては靱性向上に大きく寄与することが分かる.

1。
二40
σ

50 ・而一石ρ一

20
σ
象1000
35

コ=
45
1000


30 8遷
2 25 5
2 6
1


1
6

薯 500 2 1
8

お 1

1 ●
2 薯 500 8
o
1
● ♂ノ
盤 ’ ,」r
章 ’Cr free

0 石 _一.」△一一一
αssol.102 103 104 105 ぢ
i Mo free
Aging Timeαt 753K, s Z 0 8 10
1

12 14
Fig.6 Changes of hardness and notch tensile
strength in Nos.56 and 67 alloys aged isothermally Nickel Content,mαss%
at 753 K after solution heat−treated at 1173 K for Fig.7 Hardness and notch tensile strength l plotted
1.8ks. against nickel content in the alloys shown in Table 1.
第 10号 Fe−Ni−Ti系マルエージング鋼の析出挙動と切欠靱性に及ぼすCrの影響 883

1.0

3.Fe−14Ni−1.5Ti合金の時効に伴う抵抗変化と ・・一筆ελ鞠κ

析出相 ‘
1∼N:1
ぬ ロヅ
午09 ら も もと

析出挙動におよぼすCrの影響を調べるために,溶体化
α 母黙薬ミiミ昏:響敷_
処理したNo.56と67合金を573 Kから973 Kまで20 K §

ごとに600sの累積加熱を施しつつ抵抗を測定した.Flig・8 遷 46 1℃ (一
招08
はそのときの抵抗変化と,その温度微分を示したものであ 産

る.

No.56合金の抵抗は低温側においてNo・67合金よりも
0.7
やや大きな減少を示すが,760Kを越えると,その減少は 102 1♂ 104 105 106
Aging Time , s
緩やかになるので,760K以上でも依然として大きく減少
Fig.9 Electrical resistivity changes of Nos.56 and
し続けるNo.67合金とは異なった様相を示す.930 K以上 67alloys in isothermal aging at temperatures ranging
from 753 to 873 K after solution heat−treated at 1173
で両合金に認められる抵抗の増加はγRの生成によるもの
Kfor 1.8ks.
であろう.

微分曲線においては,両合金とも,生成してくる析出相 No.67合金の抵抗は大きく減少し続けるので,両者の抵抗
に応じて3つのピークが現われる.低温側からTi低温相, 差はますます大きくなる.

続いてNi3Ti(DO24)η相,さらに900 Kに認められるピー 等温時効温度が高くなると,No.56合金では時効の初期


クは後述するように,Fe2(Ti,Mo)Laves相と推定される. に認められる抵抗減少は,やがて強く停留するようになる

等時時効で認められた析出反応をさらに詳しく検討する が,そのあとに抵抗は再び大きく減少する.一方,No・67

ために,No.56と67合金について等温時効に伴う抵抗変 合金は等温時効温度の上昇と共に,抵抗の2段階低下現象

化を測定した.その結果を:Fig・9に示す. がやや明瞭になるものの,抵抗減少は総体的に短時間側に
平行移動した形で促進され,No.56合金との相違が一層大
753Kの等温時効において, No.56合金は時効の初期に
きく現われてくる.
No.67合金よりも大きな抵抗減少を示すが,抵抗減少速度
等温時効に伴う抵抗変化を対数時効時間で微分すると,
はNo.67合金よりも小さいので,およそ103 sを過ぎたと
析出反応に応’じてピークがいくつか現われてくる.Fig・10
ころで両者の抵抗は逆転する.しかも,No.56合金は103 s
はFig.9に示したデータのうち,753 Kと843 Kの等温時
を過ぎると抵抗減少はやや停留ぎみになるのに対して,
効における抵抗変化について微分した結果を示したもので
1.0
ある.753Kの等温時効においては, No.56と67合金の
’へ:、・

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Ro:Resistivity
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No.67
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600 700 800 900


106
Aging Tbmperoture , K 102 103 104 105
Aging Time , s
Fig.8 Electrical resistivity and their temperature
derivative curves of Nos.56 and 67 alloys in iso− Fig.10 Logarithmic time derivative curves of Lelec−
chronal aging at 20 K step for 600 seconds after solu− trical resistivity changes in Nos.56 and 67 alloys
tion heat−treated at 1173 K for 1.8ks. aged isothermally at 753 and 843 K、
884 日本金属学会誌(1986) 第 50巻

いずれにも2つのピークが認められるが,No.56合金のピ 1.5

ークはNo.67合金よりもはるかに小さく,しかも,ピー チ

クに達する時効時間はやや短かくなっている.843Kの等 一一⊃一一一 8Nト2Mo−1・5Ti−3Cr

梭鼈黶@ 10Ni−2Mo−1・5Ti−3Cr
温時効では短時間の時効で第1と第2ピークが現われたあ ρ 一一 ,” ?v.
b1.0 一一
ハ一一 12Ni−2Mo−1.5Ti一・3Cr
と,No.56合金では,さらに第3ピークが現われてくる.
3 一一
揶鼈黶@ 14Ni−2Mo61・5Ti−3Cr
一一一。・6一一一一 14Ni−2Mo−1.5Ti
1
この第3ピークはNo.67合金では不明瞭である. 宅

873Kで86.4ks時効したNo.56と67合金をX線回折 、
砦。・5 ’

すると,αとγ相の外に,さらに,いくつかの回折線が認

1 ’

められる.また,試料をピクリソ酸溶液で溶解した残渣に
ついてもX線回折を行った.その結果をTable 3に示す.
これらの回折線から求めた面間隔をASTMカードと対比 0 600 650 700 750
してみると,Ni3Tiη, Fe2Ti,およびFe2Moとよく一致す Aging ’陀mperαture , K
るので,Fig・10に認められた微分曲線の各ピークに対応 Fig.11 Logarithmic time derivative curves of elec−
trical resistivity in Nos.53,54,55 and 56 alloys con−
する析出相は,第1ピークをTi低温相とするならば,第
taining chromium and in No.67 alloy without
2ピークはNi3Ti(DO24)η相であり,さらに第3ピークは chromium aged isothermally at 20 K step from 573 K
Fe2(Ti,Mo)Laves相の析出に対応したものと推定される. for 600 seconds after solution heat−treated at 1173 K
for 1.8ks.
第1ピークのTi低温相は,多くの研究者がNi3Ti(Do24)η
相の析出前段階として指摘している規則化zoneや, NiTi ば,短範囲規則相の形成にもCrの影響が当然現われてく
(B2),あるいはNi3Ti(DO3)といった規則相のいずれかと るものと予想される.
推定される(1)(5)一(7)(13).
Fig.11はNi含有量が8か日14%まで異なってはいる
が,すべてCrを3%含有するNo.53∼No.56合金と, Ni
Table 3 “4”spacings and intensities obtained from
X−ray diffraction patter:ns of Nos.56 and 67 alloys は14%含有しているけれども,Crを全く含まないNo・67
aged at 873K for 86.4ks and of the extracted 合金を,573Kから20 Kおきに600s加熱の累積時効を
precipitates.
施したときの抵抗変化の温度微分を示したものである.Ni
Extracted Phases or 短範囲規則相の形成に伴う抵抗変化が最も顕著に現われる
Bulk precipitates
compounds といわれている(14)一(18).680K付近の微分値に注目する
estimated
No.56 No.67 No.56 No.67
?窒盾香@ASTM と,Crを含む合金には,すべて若干のふくらみが認めら
o o o o Cards*
4,A 〃10 4,A 1/∫o
4,A 1/∫o
4,A 1/10
れ,微分値もNi量と共に増加している様子が分かる. Cr
を含有していないNo.67合金では, Crを含有している合
2.20
VW
2.20
VW
2.20
M 2.20
M Fe2Ti, Fe2Mo
2.13
2.08
VW
S
2.13
2.08
VW
2.13
2.08
MS 2.13
2.08
MS Ni3Ti
7 ,Ni3Ti 金のうちでもNi量の最も少ないNo.53合金より,さらに
W VS α ,Fe2Ti
2.03
VS 2.03
VS 2.03
M 2.03
Fe2Ti
小さい微分値にとどまっているので,Crは明らかに680 K
一 一 一 一
2.00
M 2.00 S
付近の微分値に強く影響していることが分かる.
1.95
VW
1.95
VVW
1.95
M 1.95
M Ni3Ti
} 一 一 一
1.91
M 1.91
M 等温時効の初期に,No.56合金の抵抗減少がNo.67合
VW Ni3Ti
1.73 1.73
一 『 一 一 VW
1
一 一 一 一
1.62
VW
1.62
VW Fe2Ti 金よりも大きく,硬度も若干高い値を示したのは,この
*ASTM Cards:5−0717,6−0696,15−336,6−0622,5−0723 Ni短範囲規則相の形成によるものと推定される(17).
等温時効が進行すると,No.56合金の抵抗減少は,やが
て停留傾向を示すのに対して,No・67合金の抵抗は依然と
IV.考 察
して減少し続けるので,この違いが切欠引張強度にも強く
753Kの等温時効の初期には,Crを含有しているNo.56 現われたものと思われる.
合金はCrを含有していないNo・67合金よりも抵抗減少は Fe−10Ni−3Cr−1.5Tiの組成を有するNo。57合金は等温
大きい.Fig.6に示したように, No・56合金の硬度が時効 時効においてTi低温相の析出に伴って切欠引張強度は大
の初期にNo.67合金よりも高い値を示したのは,そのた きく低下したが,No・67合金の場合も抵抗変化の微分曲線
めであろう. から分かるように,Ti低温相の析出によって切欠引張強
Fe−Ni系合金においては,高温の固溶体1相領域におい 度は大きく低下したものと推定される.
てもNiクラスターが生成していて,これが冷却によって 一方,No.56合金においては,753 Kの等温時効にみら
凍結されたあと,時効の初期に短範囲の規則化配列を起こ れるように,時効の効期にはNo.67合金よりも大きな抵
し,それに伴って抵抗減少が生ずるといわれている(5).Cr 抗減少を示すけれども,これはTi低温相の析出の外に,
の添加によってNiクラスターの生成が助長されるなら 先に述べたように,Ni短範囲規則相の形成にもとつく抵
第 10 号 Fe−Ni−Ti系マルエージング鋼の析出挙動と切欠靱性に及ぼすCrの影響 885

抗減少も加算されているとみるべきであろう.また,この 1.0

抵抗減少は,やがて早期に停留傾向を示すようになるの 843K

で,Ti低温相の析出にもとつく抵抗減少は,おそらく
左0.9
No.67合金よりもはるかに小さく,切欠引張強度が低下す 卍

るほどTi低温相は析出しないまま,やがてNi3Ti(DO24)η ご

相に変換していくものと思われる, 三

盤。・8
753Kよりさらに高い温度で時効すると,Crを含有する &

No.56合金においては,停留していた抵抗は再び大きく減
少しは’じめる.これはFe2(Ti,Mo)Laves相の析出によっ
0.7

て生じたものであろう.Fig.10に示したように,843 Kで
等温時効したNo.56合金においては,抵抗変化の微分曲 戸へ

線にLaves相の析出に伴う第3ピークは認められるけれ 040
ども,No.67合金にはそのようなピークは明瞭に現われて つ

こない.No.67合金の843 Kにおける抵抗変化は長時間の
董oo5
時効で若干増加しており,逆変態オーステナイト相(γR)生 宅
1

成の影響が現われていると考えられる.したがって,
Laves相の析出に伴う抵抗減少がγRによって相殺された
0 102 103 104 105 106
可能性もあるので,この点を明確にしておく必要があろ
Aging Time , s
う.
Fig.12 Electrical resistivity changes and their
TaMe 4はNo.56と67合金の時効後のγRをX線回折 logarithmic time derivative curves of Nos.68 and
70alloys aged isothermally at 843 K.
により求めた結果である.753KではγRは両合金共認め
られないが,843ないしは873Kにおいては, No・67合金 2ピークはCrを含有しているNo.70合金よりも大きく・
よりもむしろNo.56合金に多量のγRが認められるので, その様相はNo.56合金に対するNo、67合金の場合と同様
Laves相の析出に伴う抵抗減少がγRの生成によって相殺 である.第3ピークはCrを含有していないNo・68合金に
されるとしても,それはむしろNo・56合金であろう. も長時間の時効で明瞭に現われてくるので,No・67合金も

Table 4 Relationship between reverted austenite con− さらに長時間の時効を施せば出現してくるものと推定され


tent and aging temperature when aged for 86.4ks. る.このように,第3ピークはCrを含有していないNo・
Austenite content/vol.% 68合金では長時間の潜伏期間を経たのちに現われてくる
Agingtemperature/K

No.56 No.67 のに対して,Crを含有するNo・56や70合金では第2ピ


0 033
ークに引続いて現われてくるので,Crが添加されると何
753
W43 P0 らかの理由でLaves相の析出は促進されるものと推定さ
W73 P5
れる.

No.67合金を873 Kで等温時効した場合は長時間側で Laves相は自由エネルギーの点から他の析出相より安定


であるといわれているので(19)(20),Crの添加によってこの
843Kよりもさらに減少傾向にある.これはLaves相がや
Laves相が比較的早期に形成されるとすれば,Ni3Ti(DO24)η
がて析出してくることを示唆しているものと思われる.
相の析出は抑制され,場合によってはTi低温相の析出も
Laves相にはMoも関与していると考えられるので,
:Laves相の影響を受けて靱性の劣化を来たすほど多量に析
No.56や67合金よりもさらにMo含有量の多いNo.68と
70合金について843Kで等温時効したときの抵抗変化を 出せず,753Kで等温時効したNo・56合金は良好な靱性を
測定した.その結果を:Fig.12に示す. No.70合金はNo・ 保持し,時効時間の如何にかかわらず切欠引張強度はほと

56合金と同様にCrを3%含有しているので,時効初期に んど低下しなかったものと推定される.

停留傾向にあった抵抗は104sを過ぎると大きく減少しは Crの添加によってLaves相の析出が促進される理由は
じめる.一方,Crを含有していないNo・68合金はNo・67 必ずしも明確ではないが,固溶化処理においてNiクラス
合金と同様に,時効の初期から抵抗は大きく減少し,104s ターの形成がCrの添加によって促進され,それに伴って
までにはNo.70合金よりもはるかに低い値にまで減少す 生ずる溶質元素の分配がLaves相の析出にも影響…を及ぼ
る.そのあとしばらくは一定の値を維持し,ほとんど変化 したことが考えられる.しかし,この点については今後の
しないが,時効がさらに進行すると105s付近から抵抗は 研究によって解明を要する課題と思われる.
再び低下しはじめる.これらの状況は微分曲線に明瞭に現 Fig.13はNo.56と67合金を753ないし843 Kで86・4
われてくる.Crを含有していないNo.68合金の第1と第 ks時効したときの組織を示す.843 Kで時効したNo・56
886 日本金属学会誌(1986) 第 50巻

753K

843K

No.56 No.67
Fig.13 Microstructures of Nos.56 and 67 alloys aged at 753 and 843 K for 86.4ks after solution
heat−treated at 1173 K for 1.8ks.

合金にγRがやや多量に認められる外は両合金は組織的に 終りに,試料の溶解,製造に多大の御協力を賜った三菱
も結晶粒径にもほとんど差はなく,Cr添加の有無で切欠 製鋼㈱の望月俊男,(故)土橋一雄,坂下修一の諸氏に深甚
引張強度が大きく異なる要因に組織や結晶粒径が関与した なる謝意を表します.また,実験に御協力頂いた三菱重工
㈱名古屋航空機製作所材料研究課の川瀬嘉孝,岡田真樹,
可能性は小さい.やはりCrの添加によるTi低温相の抑
森 俊正の諸氏ならびに高砂研究所の志水悦郎氏に深く感
制効果が切欠靱性劣化防止に有効に作用したものと思われ
謝いたします.
る.

文 献
V.総 括 (1)M.D.Perkas and V.1.Snitsar:Phys.Met.Meta1−
109・, 17(1964),75.
Fe−Ni−Ti系マルエージング鋼の析出挙動と切欠靱性に (2)S・Floreen:Trans. Quart, ASM,57(1964),38.
及ぼすCrの影響について調べた結果,次のことが判明し (3)S.Floreen and G.R.Speich:Trans.Quart, ASM,
57(1964),714.
た.
(4)V.M.Kardonskiy and M.D.Perkas:Phys. Met.
(1)Fe−10Ni−1.5Ti−3Cr合金の切欠引張強度は時効の Metallog.,19(1965),133.
(5)添野 浩:日本金属学会誌,39(1975),1059.
進行に伴って急激に低下し,脆性破壊する.
(6)三島良直,鈴木朝夫,田中 実:鉄と鋼,63(1977),
(2)Fe−10Ni−1・5Ti−3Cr合金にMoを2%添加しても 496.
(7)徳永洋一,高木節雄:日本金属学会会報,21(1982),
時効に伴う脆化は防止できない.この脆化は時効初期に析 234.
出してくるTi低温相と密接な関係がある. (8)W・Jolley:Trans. TMS−AIME,242(1968),306.
(9)浅山行昭:日本金属学会誌,49(1985),972.
(3)Ti低温相の析出に要する活性化エネルギーは216∼ (10)浅山行昭:日本金属学会誌,43(1979),778.
220kJ/mo1であった. (11)蜂須賀武治,飯塚 知:不二越技報,21(1965),
No.2,29.
(4)Niを増やしたFe−14Ni−1・5Ti−2Mo合金も753 K (12)河部義邦:日本金属学会会報,14(1975),767.
で時効するとTi低温相の析出に伴って脆化するが,これ (13)G.P.Miller and W.1.Mitche11:J.lron Stee11nstり
203(1965),899.
にCrを3%添加すると脆化は防止される. (14)添野 浩:日本金属学会誌,39(1975),528.
(5)Cr添加による脆化防止はNiが12%以上の場合に (15)浅山行昭:日本金属学会誌,48(1984),122.
(16)浅山行昭:日本金属学会誌,49(1985),972.
効果がある.
(17)浅山行昭:日本金属学会誌,44(1980),963.
(6)Fe−14Ni−1・5Ti−2∼3Mo鋼にCrが3%添加される (18)浅山行昭:日本金属学会誌,50(1986),695.
(19)鈴木朝夫:鉄と鋼,59(1973),822.
と,Ti低温相の析出に伴う抵抗減少は小さくなる.
(20)三島良直,鈴木朝夫,田中実:鉄と鋼,63(1977),
(7)Laves相の析出はCrの添加によって促進される.・ 496.

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