The Physioal

The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ｝
Japan (JPS)

・・… ・・…
交流

放射線 の 人 体 へ の 影 響
泉 雅 子 く理 化 学 確 所仁科加速跚 究セ ・ タ ー 351−0198 和 光 市広 沢 2−1＞

世 界 を 震 撼 さ せ た 東 京 電 力福 島第 一原 子 力 発 電 所 の 事 故 か ら二 年 近 くが 経 過 し た ．原 子 炉 は 冷温 停止 状態 に 至 り，事
故 そ の もの は 収 束 に 向 か い つ つ あ る が ，環 境 中 に 大 量 に 漏 洩 した放 射 性 物 質 の 回 収 は 容 易 で は な く，環 境 や 人 体へ の 影
響が 憂慮さ れ て い る ．近 年 の 分 子 生 物 学 の 進展 に よ り，放 射 線 に 対 す る 細 胞 応 答 を分 子 レベ ル で理 解 で き る よ うに な っ

た が ，そ の 一方 で ，長 期 に わたる 低 線量被曝や 内部被曝の 人体 へ の 影響 に つ い て は情報が 少 な く，社 会 に 不 安 と混 乱 を

生 む 一因 と な っ て い る ．本 稿 で は ，放 射 線 の 生 物 影 響 に 関 して こ れ ま で 得 ら れ て い る 知 見 や ，放 射 線 防 護 の た め の 規 制

値の 根拠 につ い て 解説 する ．

1． は じ め に げ る エ ネ ル ギ ーに す ぎ な い ．こ う し た 放 射 線 の 効 果 は ，体
放射 線 の 生 物 影 響 を 研 究 す る 放 射 線 生 物 学 は ，19 世 紀 内 に 放射線 に 感受性 の 高 い 標 的 （DNA ）が あ る と 考 え る と ，
末の レ ン トゲ ン に よ る X 線 の 発 見 や ，ベ ク レ ル や キュ リ う ま く説 明 で き る ．放 射 線 の エ ネ ル ギ ーは ，人 体 を 構 成 す
ーに ・ 当時か
1 Z｝
よ る 放射 性物 質 の 発見 に 始 ま る ． ら ，放 射 る 水，タ ン パ ク 質 脂肪 核酸 な ど す べ て の 物質 に 吸 収 さ

線 の 被 曝 に よ り火 傷 や 脱 毛 な ど が 誘 発 さ れ る こ と は 知 ら れ れ る が ，人 体 の 設 計 図 で あ る DNA に 損 傷 を与 え る こ と で

て い た が ，そ の 本 質 や 危 険性 が 正 し く 理 解 さ れ な い ま ま 医 細 胞 の 機 能 に 影 響 を及 ぼ し ，重 篤 な 結 果 を引 き起 こ し得 る
療 に 応 用 さ れ た た め に ，多 くの 放 射 線 障 害 を引 き起 こ した ． の で ある．
放射線 防護 の 概念が 生 ま れ た の は 1920 年 代 に 入 っ て か ら 放 射 線 が DNA に 損 傷 を 与え る 際 に は ，直接 DNA 分子 の
の こ とで ，医療 に お け る 放 射 線 の 危 険 性 が 広 く認 知 さ れ る 電 離 や 励 起 を 引 き起 こ して 損傷 を 与 え る場 合 （直接作 用）
よ う に な り，国 際 的 な基 準 を定 め る た め の 委 員 会 （
後の 国 と ，生 体 の 約 70％ を 占め る水分子 を介 して DNA に 損傷 を

間 接作 用 ）が あ る ．，
際 放 射 線 防 護 委 員会 ）が 設 立 さ れ た ． し か し ，放 射 線 の 影 与 え る 場合 （ ，
5〕
放射線 が 水 中 を通 過
］2

響につ い て は完全 に 理 解 さ れ て お ら ず ，当 初 ，委 員 会 が 勧 す る と水 分 子 の 電 離 と励 起 が 起 こ り，ヒ ドロ キ シ ラ ジ カ ル

告 し た 被 曝 許 容線 量 は 2mGy ！日 と い う高 い もの であ っ た． （・OH ），水 素 ラ ジ カ ル （ H・），水 和 電 子 （ 嘱 ），過 酸 化 水 素

第 二 次 世 界 大 戦 後 ，広 島 ・長 崎 の 被 爆 者 を対 象 と し た大 （H202 ），水 素 分 子 （ H2 ）な ど 反 応 性 に 富 む ラ ジ カ ル や 分 子

規模 な健康調査 が行 わ れ ，こ の 貴重な デ ータ を も っ て 本格 が 生 成 さ れ ，DNA と反応 して 直接作 用 と同樣の 損傷 を与

的な ヒ トの 放射 線 障害 の 研究 が進 ん だ ， また ，1950年 代 え る ． 一 に X
般 的 ， 線 ガ ン マ 線 電 子 線 で は 間 接作 用 の
に は 哺乳類 の 細胞 を試験 管の 中で 培養す る技術が 確立 され ， 割合 が 高 く （ 60 〜80％ ），陽 子 線 中 性 子 線 ア ル フ ァ 線
1・
2・S
で は 直 接 作 用 の 割 合 が 高 くな る ，
〕
実 験 材 料 と し て 普及 し た こ とで ，細胞 レ ベ ル での 解析が 進
ん だ ．こ れ ら の 知 見 を 元 に 放 射 線 防 護 の 考 え 方 も 大 き く変 DNA は ，糖 と リ ン 酸か ら構 成 され る 主鎖 か ら塩基 が 突

わ り，1977 年 に は 国 際 放 射 線 防護 委 員 会 （ICRP ＞が 勧 告 す き 出 した 構 造 を し て い る （
図 1 ）．放 射 線 に よ り，DNA 上

る 規 制 値 や そ の 基 礎 と な る 考 え方 が ，現 在 に 近 い も の に 改 に は 塩 基 損傷 塩基脱 落 DNA 鎖 切 断 な ど様 々 な 損 傷 が
め られ た ．
コ〕
さらに こ の 20 年 間 は ， こ れ まで 個 体 レ ベ ル ・ 作 ら れ る，
・・ 塩 基損 傷 は ，酸 化 や 二 重 結 合 の 切 断 な ど が
1 2 5〕

細胞 レベ ル で 観察 され て い た 事象 を ，分子 レ ベ ル で 理 解 し 起 き て ，化 学 的 に 塩 基 が 変 化 す る も の で あ る ．ま た ，塩 基
よ う とす る 研 究 が 精力 的に 進 め ら れ て い る ．放 射 線 の 生 物 と 糖 の 間 の 化 学 結 合 が 切 れ る と，塩 基 が 脱 落す る ．あ る い

影 響 の 解 析 は ，細 胞 の 癌 化 や 老 化 の 問 題 と も密 接 に 関 連 し は ，DNA 鎖 の 骨 格 で あ る 糖 や リ ン 酸 が 損 傷 を 受 け る と

て い る こ とか ら ，現 在 ，分 子 生 物 学 に お け る 最 も 注 目 を 集 DNA 鎖 の 切 断 が 起 こ る が ，二 重 鎖 の 片 側 だ け に 切 断 が 起
め る 学 問 分 野 の 一つ と な っ て い る ．本 稿で は ，最 近 得 ら れ こ る ケ ース （ DNA 一本 鎖 切 断 ）と ，両 側 が 切 断 さ れ る ケ ー
た 知 見 も交 え て ，放 射 線 生物 学 の 現状 につ い て 紹 介 した い ， ス （ DNA 二 本 鎖切 断 ）が あ る ．こ れ ら の 損 傷 の 中 で ，DNA
二 本鎖切断 につ い て は 細胞 内に
一箇 所 で も存 在 す る と ，ヒ

2． 放 射 線 に よ る DNA 損 傷 と細 胞 の 防御機構 トで は 細 胞 分 裂 が 停 止 し ，最 終 的 に は 染 色 体 異 常 や 細 胞 死

1 ） 放 射 線 の 生 物 効 果 と DNA 損傷の 種類 に 至 る 最 も重 篤 な損 傷 で あ り，放 射 線 の 生 物 影 響 は DNA

放射線の 特徴 と して ，わ ず か な エ ネル ギ ーで 人 体 に 大 き 二 本 鎖 切 断 の 頻 度 に 大 き く依 存 す る ，

な 影 響 を 与 え る と い う こ と が 挙 げ ら れ る ， 例 え ば ，ヒ ト DNA 損 傷 の 内 容 は ，放 射 線 の 線 質 に も 依 存 す る ，た と
41

4 J！kg ） 1
4Gy （ X線 を 全 身 に 浴 び る と ，約 半 数 が 60 え ば ，陽 子 線 や ア ル フ 線 の よ うな 粒 子線 は ，物 質 内 を 通
＊
は の ァ

ーを熱 エ
日以 内 に 死 ん で し ま う． しか し こ の エ ネル ギ ネル 過す る と きに その 経路 に 沿っ て 電 離 や 励 起 を 引 き起 こ し な
ギ ーに 換 算 す る と ，約 1cal ！kg と な り，体 温 を 0 ，
001 度 上 が ら進 み ，粒子 が 停 止 す る 直 前 に エ ネ ル ギ ー損 失 が 最 大 と
な る ，こ の 最 大 と な る ポ イ ン トは ブ ラ ッ グ ピ ーク と 呼 ば れ
＊ 1
こ 単位 か ら分か る よ うに Gy ，
Sv の 単位 は ，す べ て 体 重 且kg 当 た り
ーを 与 え る の
の

の 量 で 表 記 され る 、 る が ，そ の 近 傍 で 物 質 に 大 き なエ ネ ル ギ で ，

交流 放射線 の 人体 へ の 影響 141

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ｝
Japan (JPS)

B）
（
、
鸞灘 鑛撫 腿
纛驫 蠶
韈 灘礁 慧 蝋蠶 ↓ 靉靉馨
・ 化学
鰭
騰 覊蠶 灘 蠶 賦
塩基 硼 軈
灘 鞭
一本 鎖 ・ ・
韈 鑼 灘灘獺 灘 、
鱗 纛鱇
・ 本 鎖 切断

騾 灘 蠶韈蠶 韈 蠹灘 鑞
驚戀
リ
↓
（G）
e 0
驚 嫐 轢 蠶難
意 ＞ 綜 》
1
一

H H
8 一ヒ
蠶 蠶攤
グア ニ ン ドロキ シ グア ニ ン

0 0 図2 塩基除去修復 ．

。
か 丿 ， ン
−

。
蛇）ll
チ ミン グ
H
リコ ール
複 数 の 修 復 機 構 を進 化 さ せ
よ り生 じる 損傷 の う ち，DNA
て きた ．）
二
7
ヒ トで は ，放 射 線 に

本 鎖 切断 とそ れ 以 外 の 損
傷 で は ，修 復 経 路 が 異 な る ．
図 ］ DNA の 構造 と放射線 に よ り作 ら れ る 損 傷 〔 A ）DNA の 構造 （ B ＞放 ．
射 線 に よ りDNA ヒに f ．
乍 られ る 主 な 損 傷 C ）酸 イ
（ ヒに よ り生 成 す る 塩 基 損 傷 ． 塩基損 傷 一本 鎖 切 断 は 塩 基 除 去 修 復
塩 基 脱 落 ，DNA
の例 ． 一
グ ア ニ ンが S オ キ ソ グ ア ニ ンに チ ミ ンが チ ミ ン グ リコ ル に 変化 ， ー s・9）
する
と呼 ば れ る 共通 の 経 路 で 修復 され る （ 図 2）． ま ず ，化学

変化 し た 異常 な 塩 基 は ，DNA グ リ コ シ ラ ーゼ と 呼ばれ る
DNA 二 本 鎖 切 断 が 起 きや す い 上 ，様 々 な タ イ プ の DNA 損 塩 基 と糖 の 間 を切 断 す る 酵 素 に よ りそ の 構 造 が 認 識 さ れ ，
傷 が 狭 い 領 域 に 作 られ る ， こ の よ うな複 雑 な損 傷 は 修 復 し 切 り取 られ る ．次 に ，塩 基 が 脱 落 した 部 位 の DNA 鎖に，
に く い た め 、生 物 影 響 が 大 き くな る ，そ こで ，放 射 線の 人 AP エ ン ドヌ ク レ ア ーゼ ， キ ソ ヌ ク レ ア ーゼ と
エ い う DNA
休へ の 影 響 を評 価 す る と き は ，単 な る 物 理 的 な 吸 収 線 量 鎖 を 切 断 す る 酵 素 が 働 き ．こ の 部 位 の DNA 鎖 を 完 全 に 取
Gy ）で
（ は な く，人 体 へ
の 影 響 を考 慮 した 尺 度 を 採 用 す る ， り除 く．こ う し て 隙 間 が で きた と こ ろ へ DNA 合 成 酵 素 が
す な わ ち ，放 射 線 の 種類や エ ネル ギ ーに 応 じて 荷 重 係 数 を 来 て ，損 傷 を 受 けて い ない 方 の DNA 鎖 を鋳 型 に し て 相 補
定め ，吸 収 線量 に こ れ ら の 係数 を 乗 じ た値 を等 価 線 量 （シ 鎖 を合 成 す る ．最 後 に ，DNA リ ガ ーゼ と呼 ば れ る DNA 鎖
ーベ ル ト，Sv） と し て 用い て い る ．’’ X
1 2 5）
線 ，ガ ン マ 線， を繋 げ る 酵 素 が 働 い て ，DNA 鎖 の 切 断 部 分 を 修復 す る ．
電子線 の 荷重係数 は 1で あ り，1Gy は 1Sv に 相 当す る ． 一方 ，DNA 二 本 鎖切 断 は ，全 く 異 な る 経 路 に よ り修 復
一方 ，こ れ以外の 粒子線 の 場 合 は ，X 線 や ガ ン マ 線 を基 準 され る （図 3 ）．7・） 二
10
本 鎖切 断 の 修 復 経 路 に は 二 種 類 あ る

と して 生 物 効果 を比 較 し，荷重 係 数 を定 め て い る ．粒 子 線 が ，い ず れ も塩 基 損 傷 や DNA −・
一
・本鎖 切断の修 復経路 に比
は X 線や ガ ン マ 線 と比べ て 上記 の よ うに生物 影響 が大 き べ る と多 くの タ ン パ ク質が関与す る複 雑 な反応 で あ る ，一
く，陽子 線 の荷重係数 は 2 ，ア ル フ ァ 線 は 20 と定 め ら れ て つ は 非 相 同末 端 結 合 と 呼 ば れ ，末 端 の 損 傷 部 位 を
る経路 で
6）
い る ， ま た ，中性 子 線 は 周 囲 の 原 子 核 と 直 接 反 応 を 起 こ 取 り除 い て 再 結 合 さ せ る 方 法 で あ る，
「ま ず ，切 断 し た
し や す い こ とか ら影 響 が 大 き く，荷 重 係 数 は エ ネ ル ギ ーに DNA 一
DNA 結合 タ ン パ ク 質 の つ で あ る Ku タ ン パ
の 端 へ

応 じて 連 続 関 数 で 定 め ら れ て い る ．中 性 子 線 の 荷 重 係 数 は ク 質 が 認 識 し て 結 合 し，そ こ へ DNA 依 存 性 タ ン パ ク質 リ

2 〜20 の 範 囲 内 と な り，IOO keV ・ か ら 2MeV 付 近 が 最 も高 ン酸化 DNA

酵素 （ −PK ）、Artemis ，XLF ，XRCC4 な ど と呼 ば
くな る ．
6）
れる 複数 の タ ンパ ク 質 が逐 次的 に 呼 び込 まれる ．DNA −PK
2 ） DNA 損 傷修 復 機 構 は集 ま っ た修復 タ ン パ ク 質 を活 性 化 して ，修 復 反 応 を 促 す ．
生 物 は ，宇 宙 か ら の 放 射 線 や ，地 表 や 空 気 巾 に 含 ま れ る ま た ，Artemis は DNA 朱 端 を 分 解 し て 再 結 合 しや す く形 を

放 射 性物質 か ら の 放 射 線 を 絶 え ず浴 び て お り ，バ ク テ リア 整 え，XLF や XRCC4 な ど は 再 結 合 の た め の 足 場 を 形 成 し，

か ら ヒ トに 至 る まで ，樣 々 な タ イ プ の DNA 損傷 に対 して 最終 的 に DNA リ ガ ーゼ （
Lig4） と 呼 ば れ る DNA 鎖をつ な

142 目本 物 理 学 会 誌 Vol．
68，No ．
3，2013

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ）
Japan (JPS)

非相 同 末端結 合 相 同組み 換え修復 相 同 配 列 部 分 と塩 基 対 を 形成 す る ．こ の よ うに して 9い の

DNA 鎖 を交換 し た 後 に に の よ うな DNA 鎖 の 交換 は 組換

放射線 放射線
え反 応 と呼 ばれ る1 ，損 傷 を 受 け て い な い 姉 妹染色分 体 を
」 」
DN八鎖 鋳 型 に して 損 傷 部 位 は DNA 合 成 酵 素 に よ り 合成 さ れ ，交
．
↓ ．． Ku ↓ ’
．Slxli
タ ク質
DNA Mus8FEmd
Slx4等 の DNA 切 断 酵 素
ン パ
差 した は
＿ 魯 蠱二＿ 劇 鶴 1
一
へ
諧
タ ンパ ク質 。
貼熟
，、

切 断末端 の結 含
曇 に よ り切 断 さ れ て 冉 結 合 し ，元 の 遺 伝 情 報 を 有 す る 二 本 の

− ↓ ↓ DNA 鎖 が 完 成 す る ．
DNA PK の
ー ク 蠱蠱 蠱 i
騾黯 黙器
リ

ル トと 修 復 因 ＝ ＝
τ 、相 同 組 換 え 修 復 反 応 よ i）
子の 活性 化
痴 ↓
ヒ トな どの 高等真核細胞 で は
R、d51
も 非 相 同 末 端 結 合 反 応 の 方 が 優 位 で あ り，99％ の 二 本鎖 切
．
↓ ・ ・51 鰮 ＝
細 綻 11 ・
断 は 非 相 同 末 端 結 含 に よ り修 復 さ れ る ． 方 ，出 芽 酵 母
刪
肥

L3 R 、
。51 ↓
な ど で は 相 同 組 換 え 修 復 反 応 の 方 が 優 位 で あ る ．こ の 理 中
C 一
酢 s によ る
A禾 端の分

馬
剛 解

↓ ・難 は不明で あ るが ， 単細胞生物 と多細胞生物の 違い や ， ゲ ノム

ー ． ’
リガ ／ サ イ ズ が 大 き く異 な る こ と （
ヒ トの ゐ が 200 倍 大 きい
11 と
ー 駄 。 。 。 、、 。
・
↓
リ ガ ゼ な ど によ
る DNA の 再 結 合
iXrDNAe 成酵素
無関係で は な い と思 わ れ る ．哺 乳 類 は 多 細 胞 生 物 で あ り，後
lil
w

髫
”

述す る よ うに DNA 損 傷 が 生 じた と き や ．DNA 損傷 の 蓄積
↓
躡欝 「蛎 『 TS1 1S
に よ 哺 e癌 状 態 の 細 胞 や 癌 細 胞 が 発 生 した と き に ，そ の 細
↓ 豐
マ：？〒 胞 を排除 する メ カ ニ ズ ム 1チ ェ ッ ク ポ イン ト機 構 や 免 疫 機

能 丿 が 働 く、そ し て 排 除 され た 細胞 は ．IE 常 な 細 胞 が 分裂
する こ と に よ り補 わ れ る ，一方 、酵 母 は 単細 胞 生 物 の た め ．
図 3 DNA ：本 鎖 切断 の 寥復 機 構 ．DNA
fl ：本 鎖 切 断 は 、
非 相同 末端結 合
2 左 1 あ る い は 椢 1司組 換 え 右 ．
： に よ i〕 修 復 さ れ る 3 之 me IO よ 1）改 変 し て 掲 遺伝 r一
情報の 損失 は生 物 の 死 に 直結す る 可能 性 が 高 く．多
載丿 ．
細 胞 生 物 に 比 べ て 正 確 に 修 復 す る 必 要性 が 高 い ．ま た ，ヒ
トの ゲ ノ ム サ イズは大 きく ，遺 伝 子 と し て 使 わ れ て い る 領
げ る 酵 素 が DNA 鎖 を 再 結 合 す る ，こ の 方 法 は 、修 復 の 過 域は わ ずか 2 ％ に 過 ぎな い 、さ らに． 個 々 の 細胞 内で 実 際に
程 で ，DNA の 切 断末端 の 塩 基が 数 個 か ら 数十 個欠 けて し 機 能 して い る 遺 伝 了 は そ σ）一部 なの で ，突 然 変 異 が 入 て っ

ま う こ とが 多 く，突 然 変 異 を 伴 い や す い 修 復 経 路 で あ る ． も細 胞 の 生 存 に 大 き く影 響 を 与 え な い 場合が ほ とん ど で あ
も う一 つ の 経 路 は ，相 同組 換 え 修 復 と 呼 ば れ る 経路 で ．そ る ．そ れ に 対 して 酵 母 は ゲ ノ ム サ イ ズ が 小 さ く無 駄 な 部 分

れ よ り さ ら に 多 くの タ ン パ ク 質 が 関 与す る 経 路 で あ る ．こ が少 ない た め ，正 確 に 修 復 す る 必 要性 が 高 い と考 え ら れ る ．

の 経 路 は ，DNA 複 製後 に で き る 同 じ遺 伝 情 報 を 持 つ 染色 不 ⊥E 確 な DNA 損 傷 II
多復 に よ り引 き起 こ され る 突然 変 異

体 （姉 妹 染 色 分 体 丿 を 鋳 型 に して 修 復す る 方法で 、遺 伝情 や 染 色 体 異 常 は 、個 体 レベ ル で は 老化 や 癌 の 原 因 とな る な

報が 正 確 に 修復 され る ．そ の た め ，非 相 同末 端 結 合が 細 胞 ど不利 に 働 く こ とが 多 い ． しか し，種 の 維 持 とい う観 点 で

周期の す べ て の 時期で 起 きるの に 対 し て ．細 胞 周 期 の 特 定 は ．有 利 に 働 い て い る ．た と え ば ．突 然 変 異 に よ り個 体 問

の 時期 NA 複 製 が 完 r して か ら細 胞分 裂 す る まで の 時 の 多 様 性 が 生 まれ ，環 境 が 変 化 して もそ の 中 で 生 き延 び る
期1 で の み 働 く ，切 断 さ れ た DNA 末端 に は 、ま ず DNA 末 個 体 が 出 る 確 率 が 高 く な り，種 の 維 持 に 有 利 となる ．また ，
端結 合 タ ン パ ク 質 で ’
・
あ る Mrel1 ．
Rad50 ，
Nbsl 複 合 体 が 結 合
’
突然変異や 染色体異常 は ．時 と して 新 し い 形 質 の 獲 得 に 繋
し，そ の 末 端 か ら 片 方 の DNA 鎖 が 分 解 され て ’
本鎖 DNA が り，進 化 の 原 動 力 と な る ．さ ら に ，老 化 は 世 代 交 代 を も

が 露 出 す る ．そ こ ，． ・
． た ら し，進 化 を 促 進 す る ．
本 鎖 DNA 結 合 タ ン パ ク 質 で あ る
へ

Rad51 タ ン パ ク 質 が 結 合 し、姉 妹 染 色 分 体 の 相 同 配 列 の 部 図 4 は ，ヒ ト細 胞 に 3Gy の x 線 を照 射 した と きに ．修

分 を開 裂 して 一 本 鎖 DNA を滑 り込 ませ ，姉 妹 染 色 分 体 の 復タ ンパ ク 質 〔リ ン 酸化 型 ピ ス トン H2AX ）が 生 成 され て

照射前 30 分 後 2 時間後 8 時 間後 24 時 間 後

図4 ヒ トRGB 細 胞 に 3Gv の X 線 を照 射 L た 後 に 経 時 的 に 細 胞 を 固定 L DNA を DAPI 色 素 灰 色 3 DNA ． ：本 鎖 切 断 修 復 タ ン t ／ ク 質 ． ．

P 酸 化型 己 ．
： ス トン
’ 1
， 、 ． ．
の 働 き に よ 1］1 ）ン 酸 ∫ヒ型 と ス 1 U H2AX ・ ． 1一
H2AX ： を蛍光抗 体 U 1色 3 で 検 出 た X 線 照 射 後 細 胞 内 に ATM 後述 が 生 成 し DNA 損 傷 の 周辺 に 集 積 て点

状 に 観 察 され る ． ． また こ の 巣 積 は 時 間 の 経 過 ヒ と もに 減 少 し ．
24 時 間 後 に は ほ ヒん ど の 損 傷 か 「 彦復 して い る こ と が 兮 か る

交流 放 射 線 の 人体 へ の 影響 143

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ｝
Japan (JPS)

（図 5 ），， ATM
DNA 損 傷 To 14 ）
A ）
（ い る は DNA 損 傷 に 伴 う DNA の 高次構造
↓
DNA高 次 構 造 の 変 化
の 変 化 を感 知 し ，そ の下流 に ある複数 の タン パ ク質 に リン
li
酸 基 を 付 与す る ． リ ン 酸 化 を 受 け た タ ン パ ク 質 は ，高 次
）

↓
AT閇 の 活 性化 構 造 が 変 化 し て 活 陸化 さ れ ，様 々 な 生理 活 性 を発 揮 で きる
一つ
！ ↓ 丶 よ うに な る ．ATM の 標的 の は DNA 修 復 酵 素 で あ り，
修復タン パ ク質の 活性 化 細 胞 周期 制御 因 子 の 不活 化 DNA 損傷 の 量 が 多 い と き）
（ 複 数 の DNA 修 復 酵 素 の 活 性 を亢 進 し，DNA 修 復 反 応 を促
■
↓ ↓ ↓ 進す る ，ま た ，ATM は 細 胞 周 期 の 進 行 を止 め る タ ン パ ク
DNA 修 復 細胞 周 期 の停止 細 胞死

■ 質 を活性化 し，修 復 反 応 が 完 ア す る まで 細 胞 増 殖 を停 止 さ
↓ ↓ ウ せ る ．こ れ は ，DNA に 損 傷 を 残 し た ま ま細 胞 が 分 裂 増 殖
導 鷹 伝 噸 黼 娘 細 胞へ の 誤 っ た 遣伝 帽 報
の伝遣防止
癌化 す る可 能性 の あ る
細 胞 を体 内か ら椦除
し，誤 っ た 遺 伝 情 報 が 次 世代 に 引 き 継 が れ て 突然 変 異 を 起

こ した り，染 色 体 異 常 を起 こ す こ と を防 ぐ た め で あ る ．さ
B）
（
ら に ，DNA 損 傷 の 量 が 多 く細 胞 の 修 復 能 力 を超 え て い る
場 合 は ，細 胞 死 を 引 き起 こ す タ ン パ ク 質 を活 性化 し て ，積
16 ．
分裂 停止 極 的 に 細 胞 死 を 誘導 す る ，： こ の こ と に よ り，有 害 な 突 然
分化
老化 変 異 を 持 可 能 性 の あ る 細胞 が ，個 体 か ら 排 除 さ れ る ，
つ

アポト シス
ー
ATM に 先 天的 な 異常 を 持つ 毛細 血管拡 張性 運動失 調症
S期 （
合成 AtaxiaTelangiectasia
（ ： AT ）の 患 者 は ，進 行 性 の 運 動 失 調 を

示す の み で は な く，放 射 線 に 高 感 受 性 で 染 色 体 異 常 の 頻 度
が 高い ．ま た ，発 癌 率 が 高 く，早 老 症 状 や 免疫不 全 も呈 す
図 5 チ ェ
ポ イ ン ト経 路 と細 胞 周 期 の 関 係 （
ッ ク A ）チ ェ ッ ク ポ イ ン ト経 る な ど 重 篤 な 臨 床 症 状 を示 し，多 くが 10代 か ら 20 代で 亡
路の B ＞細 胞 周 期 の 概 略 と チ
概 略 〔文 献 10 よ り改 変 して 掲 載 ） （ ッ クポ， ェ
イ ン ト機構 に よ る 細 胞周 期の 停止位置 増 殖 し て い る 細 胞 は G1 期 S期． ． → くな る ．こ の こ とは ，チ ェ ッ ク ポ イ ン ト機 構 が 生 体 に と っ
（DNA 合 成期 ） G2 期 → →
M 期 （分 裂 期 ）と い う細 胞 周 期 を 繰 り返 し て い る ． て 極 め て 重要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と を 示 して い る 、
チ ェ ク ポ イ
ッ ト機 構 は ， 増 殖 中 細 胞 細 胞 周 期 を G1 期 ，S 期 ，
ン のG2 期 の

で 一時 的 停 止 させ た り （ ト プサ イ ），分 裂 停 止 や ア ポ トーシ
に ス ッ 誘 ン ス へ

導 す る （ ーサ イ ン ）．一
ゴ 方 ，分 裂 を 停 止 し る細胞 対 し は ，増 殖 サ
イ ク に 入 る
ル を 止 め （ ト
の プ イ ）、DNA 損 傷 修 復 経 路
る ス ッ う ち ，
サ ン
て い に て

の
3． 個 体 レベ ル で の 放 射 線 影 響
相 同組 換 え 修復 だ け S 期 と G2 期 に 限 て 機 能 す る ．
は っ 1 ） 確 率 的影 響 と確 定 的 影 響

放 射 線 の 人体 へ の 影 響 は ， し きい 値 が 無 い と 考 え ら れ て

い る 確率 的影 響 と ，し きい 値 が あ る 確 定 的 影 響 に 分 け ら れ
1，5・
z，IQ）
二 本 鎖 切断部位 に 集積 し，そ の 後 ，修 復 反 応 の 完 了 と と も る （
図 6 ）． 確 率 的 影 響 は ，線 量 が 大 き くな る ほ ど発
に 消 失 す る 様 子 を蛍 光 色 素で 可 視 化 し た もの で あ る ． リ ン 生 の 確 率 が 増 す が ，症 状 の 重 篤 さ と は 無 関 係 で あ る ．一方，
酸化型 ピス トン H2AX は DNA 切 断末 端 に大量 に 結 合 して 確 定 的影 響 は 線 量 が 大 き い ほ ど 障 害 の 重 篤 さ が 増 す ．
DNA の 構 造 を 変 化 さ せ ，修 復 反 応 を促 す 機 能 を持 っ てお 確 率 的 影 響 と は ，発 癌 と 遺 伝 的 影 響 の こ とで あ り，
り，集 積 す る と蛍 光 顕 微 鏡 で 点 状 に 観 察 さ れ る （
図中 の 白 DNA 修 復 時 の エ ラ ーに 起 因 す る ．た とえば ，あ る種 の 塩
い 点 ）．こ の 一個 の 点 が ，一箇所 の DNA 二 本鎖切断末端 に 基 損 傷 は 本 来 と は 異 な る 塩 基 と 塩 基 対 を形 成 す る の で ，除
相 当 す る ．x 線 を 照 射 す る と ， ヒ ト 細 胞 で は lGy 当 た り 去 され な い ま ま DNA 複 製 が 起 こ る と突 然 変 異 に つ ながる ．
12
約 40 箇 所 の 二 本 鎖 切 断 が 生 じる． 照 射後 数分 か ら数十
）
ま た ，DNA 二 本 鎖 切 断 が 非 相 同 末 端 結 合 に よ り修 復 され

分 以 内 に DNA 損 傷 の 周 囲 に ピ ス トン H2AX を含 む 多 くの る と ，末 端 部 分 で い くつ か の 塩 基 が 欠 落 して 突然変 異 を 起

修復 タ ンパ ク 質 が 集 合 して 修 復 反 応 を 開 始 す る ．数 Gy の こす ，あ る は ，再 結 合 が 正 し く行 わ れ ない
い と ，染 色 体 の

照 射 で あ れ ば ，数 時 間 以 内 に は 大 部 分 の 二 本 鎖 切 断 は 再 結 一部 が 失 わ れ た り，別 の 染 色 体 と な ぎ 合 わ つ され て ，様 々
合 し ，そ の 後 ，経 時的 に 修 復 タンパ ク 質の 集積 は 減少 して な タ イ プ の 染 色 体 異常 が 引 き起 こ さ れ る ．こ う し た 突 然 変
い き，24 時 間 後 に は ほ とん ど観察 さ れ な くな る ． 異 や 染 色 体 異 常 が 蓄 積 し た 結 果 ，細 胞 増 殖 の コ ン トロ ール
3） チ ェ ッ ク ポ イ ン ト機 構 が 失 わ れ て 癌が 発 生 す る ．ま た ，遺 伝 的 影 響 と は ，突 然 変

真 核 細 胞 は ，DNA 損 傷 の 修 復 機 構 に 加 え て ，DNA の 損 異 や 染 色 体 異 常 が 生 殖細胞 で 起 こ り，放 射 線 の 影 響 が 次 世

傷 を常 に 監 視 し，生 体 を DNA 損 傷 か ら積 極 的 に 守 る た め 代 で 現 れ る 事象 で あ る ．
の チ ェ ッ ク ポ イ ン ト機 構 を 備 え て い る ．
11 〕
チ ェ ッ クポイ ン ヒ トの 場 合 は ，広 島 ・長 崎 の 被 爆 者 を 対 象 と した 調 査 か
ト機 構 は 核 内 の DNA に 異 常 が な い か 監 視 し，損 傷 が 発 生 ら，100mSv の 被 曝 で 発 癌 に よ る 死 亡 率 が 0．
5％ 増 加 し ，
す る と 細 胞 の 増 殖 を 止 め た り細 胞 死 （ア ポ トーシ ス ）を 誘 それ 以上 で は 線 量 に 比 例 し て 発 癌 率 が 増加 す る こ とが 明 ら

導 す る 機構 で あ る ， か に なっ て い る．
17 〕
こ の 被 爆 者 を 対象 と し た 調査 は ，被 曝
チ ェ ッ ク ポ イ ン ト機 構 は ，ArM と呼 ば れ る タ ン パ ク 質 線量 の 推定が 正 確で ある こ と ，数 十 万 人 を対 象 と し た 大 規
リ ン 酸 化 酵 素 を頂点 と し た 数 多 くの タ ン パ ク 質 が 協 働 して 模 な 調 査 で あ る こ と ，さ ら に は 追 跡 の 完 全 性 か ら ，世 界 的

144 日本物理 学会誌 Vo ．

68 ，
【 No ．
3，2013

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
oE Japan （JPS ）
Japan (JPS)

承 表 1 成 人 の 確 定 的 影 響 の 発 症 1％ の し きい 値 ．
）

∠ 一回 X 線 短 時 間 被 曝 にお け る線 橇 （Gy ）
の
褂
一 0．
153
凵 男性 時的不妊
男性永久不妊 5−6．
． 02
隊 女性永久不妊 5−6、
、 05
’
ρ−
崢 ．
0，5％増 加 白内障 00
0
t

％ ヨ 造 血 機能 低 下 ．
51
U 100mSv よ り低 い 線 量 で は 発 癌 率 の
致 命的骨 髄 不 全 ．
54
脱毛 ．
03
増加 は確 認 され て い ない
火傷 0 −6 、
． 0

一
mSv ）
線量 （ ス な ど の 実 験 動 物 で 報 告 さ れ た ． しか し，被 爆 二 世 を 対象
と し た 大 規 模 な 調 査 が 長 年 に わ た り行 わ れ て い る が ，現 在

の ところ 被爆二 世 と そ れ 以 外 の 人 の 間 で ，染 色 体 異 常 の 頻
度 ，流 産 率 （染 色 体 異 常 は 流 産 の 主 要 な 原 因 の 一つ で あ
る ），発 癌 率 の 差 は 検 出 さ れ て お ら ず ，ヒ トで は まだ 確認
− 19 2J〕
されて い な い ，
＠
確 定 的 影 響 に は ，火 傷 脱 毛 ，血 球 細 胞 の 減少 ，不 妊 ．
白内障 な ど が 該 当 し，そ れ ぞ れ し き い 値 が 存 在 す る （表
しきい 値 ・・
1）． fi 12
23
確 定 的 影 響 は ，チ
）
ク ポ イ ン ト機 構が 作 動 し ェ ッ

て 一時 的 あ る い は 恒 久 的 に 増 殖 を停 止 した 細 胞 や ．ア ポ ト

ーシ ス に よ り死 ぬ 細 胞 が ，あ る 一定 量 に 達 した と き に 初 め
線量
図 6 確 率 的 影 響 （上 〕 と 確 定 的 影 響 〔下 ） 〔文 献 且0 よ り改 変 し て掲載〕 ． て 臨床的所見が 認 め られ る 現象 で ある ．た とえ ば 体内の
血 球 系 の 細 胞 は ，絶 え ず骨 髄 幹 細 胞 の 細 胞 分 裂 に よ り新 た

に 作 り 出 さ れ る 一方 で ，寿命 に 達 し た 細 胞 は 死 滅 し，ほ ぼ
に 最 も信 頼性 の 高 い 疫 学 的 調 査 と さ れ て お り，放 射 線 防 護 一定 量 に保 た れ て い る ．被 曝 に よ り．柑 当 数 の 骨 髄 幹 細 胞

の 基盤 と な る デ ータ と して 採 用 さ れ て い 一
る ． 方 ，こ の デ の 細胞分裂が チ ェ ッ ク ポ イ ン ト機 構 に よ り停 止 した り，ア
ータ か ら は ，100mSv 未満 の 線量 で は 発癌率 の 上昇 は 確認 ポ トーシ ス に よ り死 滅 し て 新 た な血 球 細 胞 の 供 給 が 減 少 す

さ れ て お らず ，100mSv 未 満 の 線 量 で 発 癌 率 が 上 が る か ど る と，血 球 細 胞 の 減 少 と い う臨 床 症 状 と して と ら え ら れ る

うか に つ い て は 明確 な結 論 が 得 られ て い ない ．マ ウス な ど よ うに な る．
ータ
の よ うに 寿命 の 短 い 実験動物 の デ を ヒ トに 適用 す る に 人 休 は 様 々 な 種 類 の 細 胞 か ら構 成 さ れ ，〔 常 に 分裂 増 D
は 無 理 が あ り，10mSv の リス ク を 評価 す る た め に は 500 殖 を繰 り返 して い る 骨 髄 ，消 化 管 ，生 殖 腺 ．皮 膚 な
細胞 （
181
万 人 規 模 の 疫 学 的調 査 が 必 要 と も見 積 も られ て お り， 現 2 ）通 常 は 分 裂 し て
ど ）， （ い ない が ，必 要 に 応 じて 分裂増
状で は低線 量 の リス ク評価 は容易 で は な い ． しか し． し き 3 ）完 全 に 分 化 し て 分 裂 能
殖 す る 細 胞 （肝 臓 ．腎 臓 な ど ）．（
い 値 の 存 在 が 証 明 さ れ て い な い 以 上 ，安 全 性 を 考慮 して し を失 っ た 細胞 （
神経 ，筋 肉 な ど）に 分 け ら れ る が ．一般 的

きい 値 は 無 い と 仮 定 し て （し き い 値 無 し 直 線 モ デ ル ），被 に 未 分 化 で 盛 ん に 増 殖 し て い る 細 胞 ほ ど放 射 線 感 受 性 が 高

曝 の 様 々 な規制値が 設定 され て い る の が実状 で あ る ． く，完 全 に 分化 し て 分 裂 能 を失 っ た細胞 は 感受性が 低

J・・ ／
51・
放 射 線 に よ る 発 癌 の リ ス ク は ，被 曝 した 年 齢 ，性 差 に よ い ． コ
こ れ は ，分 裂 増 殖 を し て い る 細 胞 で は DNA 損傷
21i 一 ・小 児 期 に 被 曝
っ て も異 な る ． 般 的 に ，幼 児 した場合 が起 こ る と ，誤 っ た 遺 伝情報 突然変 異 や 染色 体 異 常 ）が
（
の 発 癌 率 は ，同 じ線 量 を 成 人 で 被 曝 し た と き に 比 べ て 2 〜3 次 世 代 に 引 き継 が れ な い よ う ，細 胞 周 期 を 停 止 し た り ア ポ

倍高 い ，ま た，女 性 は 男性 よ り も リ ス ク が 高 い ．後 者 理 の トーシ ス を誘 導 す る 経 路 が 積 極 的 に 働 く た め で あ る ，放 射

由 は 不明 で あ る が DNA 修 復 能 力 の 差 で は な く，ホ ル モ 線 障 害 に よ る 死 亡 は ，骨 髄 が 再 生 で き な くな る こ と に よ り
ン な どの 差 に 起因 す る の で は な い か と 考 え ら れ て い る ．ま 引 き起 こ され ，4Sv で 半 数 の ヒ トが 、7Sv で 全 員 が 死 亡 す

た ，被 曝 ，通 常 10 年 以 lt 長 年 月 を 必
か ら発 癌 まで は の い る． この 段 階 で は ．骨髄 移 植 に よ り治 療 可 能 で あ る が ，被

晩 発 影 響 ）．癌 は ，た
要 とす る （ た 一個 の 遺 伝 子 の 突 然 っ 曝 量 が 10Sv を超 え る と消 化 管 の 幹 細 胞 の 再 生 が 不 能 と な
変 異 で 生 じ る こ と は な く，増殖 に 関 わ る 遺 伝 子 の う ち 5 〜6 り，治 療 は 困難 と な る ．
個 に 突 然 変 異 が 同 時 に 入 る こ と に よ り生 じ る ． しか し ，
一 2） 線 量 率 効 果
度 の 被曝 で ，こ れ ら の 遺 伝子 す べ て に 突然変異 が 入 る 確 率 放 射 線 の 生 物 効 果 は ，被 曝 線 量 だ け で は な く線 量 率 （
単
1・
41
は 低 く，多 くの 場 合 、被 曝 に よ る 影 響 に 加 え て 加 齢 に よ る 位 時 間 当 た りの 線 量 ）に も 依存 し て い る ． 細胞内 に は ，
突 然 変 異 が 加 わ り発 癌 に 至 る た ，長 い 時 聞
め を要す る ． 元 々 ，還 元 型 グ ル タチ オ ン ，シ ス テ イン ，ア ス コ ル ビ ン 酸

遺 伝的影響 に つ い て は ，当 初 ，シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ や マ ウ な どの よ うに 活 性 酸 素 を 吸収 す る 物 質 や ．ス ーパ ーオ キ シ

交流 放 射 線 の 人体 へ の 影響 145

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ｝
Japan (JPS)

ドデ ィーゼ ，ペ ル オ キ シ ダ ーゼ な ど 活 性 酸 素 を 分 解
ス ム タ 内皮系 と呼 ば れ る 免 疫 系 の 細 胞 が 異 物 と し て 貪 食す る の で ，
す る 酵 素 が存 在 す る ．そ こ で ，同 じ線 量 を被 曝 して も，低 リン パ 腺 肺 胞 ，骨 髄 ，肝 臓 な ど に 蓄積 し や す い ．
い 線 量 を 時 間 を か け て 被 曝 す る と活 性 酸 素 の 効 果 が 薄 れ る 2011 年 3 月 に 東 京 電 力 福 島第 一原 子 力発 電 所 で 起 きた 事

こ とに加 え ，DNA 修 復 機 能が 十分 に 機 能 し た り，免 疫機 故に 伴 い 放 出 さ れ た 放射性核種 に は ヨ ウ 素，セ シ ウム ，ス

能 に よ り前 癌 状 態 の 細 胞 が 効 率 よ く排 除 さ れ る と 考 え ら れ トロ ン チウム ，プ ル トニ ウ ム な ど が あ る ，放 射 性 ヨ ウ 素 は
る ．実 際 に ，同 じ線 量 を 被 曝 し た 場 合 で も ，低 線 量 率 で 時 甲 状 腺 機 能 亢 進 や 甲 状 腺 癌 の 治療 薬 と して 用 い ら れ て き た

間 を か け て 照 射 す る 方 が ，高 線 量 率 で 照 射 した と き に 比 べ こ とか ら ，体 内 で の 動 態に つ い て 他の 核種 に比べ て 詳細 な

て生 物 効果が軽 減 され る こ とが ，哺 乳 類 の 培 養 細 胞 や ウ マ 情報 が 得 られ て い る ，そ れ に よれ ば 放射性 ヨ ウ 素 は 甲状 腺
ら 示 さ れ て い る ，， ま た ，地 球
24 2s
蓄 積 す る が ，甲状 腺 の 機 能 が 活 発 な乳 幼 児 ほ ど 影 響 が 大
〕
ス を使 っ た 複数の 実験か に

上 に は 自然放射 線 量 の 多 い 地 域 が 複 数 有 り，そ こ に 居 住 す き く，40 歳 以 Eで は ほ と ん ど リ ス ク は な い と考 え ら れ て

18〕
る人 た ち の 年 間被 曝 量 は 10mSv に 達 す るが ．こ れ らの地 い る ． ま た ，日 本 人 は 日 頃 か ら 海 藻 な ど を 摂 取 して い る

域 の 住民 は ，末 梢 白 血 球 の 染 色 体 異 常 の 頻 度 が や や 高 い も た め 血 中の ヨ ウ 素 濃 度 が 比 較 的 高 く，生 物 学 的 半 減 期 は 約
の の ，低 放 射 線 地 域 と比 較 して ，発 癌 率 ，流 産 率 ，先 天 異 1 ヶ 月で あ る ．チ ェ ル ノ ブ イ リ事 故 後 ，汚 染 地 域 で 子 供 の
常 の 発 生 率 に 差 は 認 め ら れ て お ら ず ，累 積 被 曝 線 量 が 600 甲状 腺 癌 が 増 え た の は大 量 の 放 射 性 ヨ ウ 素 を 取 り込 ん だ こ

mSv を超 えて も発癌率が 上 が っ て い な い こ とが 確 認 さ れ て と が 原 囚 で あ る が ，こ の 地 域 は 内 陸 部 の た め 日 頃 か ら ヨ ウ

る ．・
26 27）
い も し ，確 率 的 影 響 に し きい 値 が な く，確 率 が 線 素 が 欠 乏 して い た た め に ，よ り効 率 的 に 放 射 性 ヨ ウ 素 を取

量 に比例す るの ，どん な に 微量 の 放射線 で もそ の

で あ れば り込 ん で し まっ た 可能性が 指摘 され て い る ．今 回 の 原発事

影 響 は 蓄 積 す る は ず で あ る が ，実 態 は 異 な る ，国 際放 射 線 故 直後 に ，原 発 周 辺 地 域 の 小 児 約 1，
000 人 を対 象 に 行 っ た

防護委 員 会 も 2007 年 の 勧 告 の 中 で ，低 線 量 率 で の 被 曝 や 内 閣府 の 調査に よれば 甲 状 腺 等 価 線 量 の 最 高 値 は 35

微 量 放 射 線 の リ ス ク を， し きい 値 無 し直 線 モ デ ル に 従 て っ mSv で あ り，甲状 腺 癌 の リ ス クが 高 ま る と さ れ る 100 mSv
29〕
発癌の リ ス ク を評価す る よ う勧 告 は し て い る が 不確実性 を下 回 っ て い た ． チ ェ ル ノ ブイリ 事故後 の ウ ク ラ イナや

が 大 き く，必 ず し も適 切 で は な い こ と も指 摘 し て い る ．）
6
ベ ラル ーシ で の 15〜3 Sv 程 度
甲状 腺 等 価 線 量 の 平 均 値 が 0 ． ・

30）
3）外部被曝 と 内部被曝 で あ っ た こ と を考 え る と， 今 後 ，国 内で 小児 の 甲状腺癌
被 曝 の 形 態 は ，体 外 の 放射 線 源 か ら被 曝 す る 外 部 被 曝 と ， が 増加す る こ と は な い と 予測 さ れ て い る ．
飲食や 呼吸 な どに よ り体 内に摂取 した 放 射性物質 か ら被 曝 生 活 空 間 に 関 して 言 え ば ，現 在 ，原 発 由来 の 主 要 な 放 射

す る 内部 被 曝 と に 分 け られ る ，・・，） 外 部 被 曝 が 問 題 と な
T 2 5 2B
線源 は物理 的半減期の 長 い セ シ ウ ム で あ る ．セ シ ウム の 体
る の は ，X 線 や ガ ン マ 線な どの 透過力が 高 い 放射線 に つ い 内で の 挙動 は カ リ ウ ム と似 て お り体 全 体 に 分 布 す る が ，生
てで あ り ，線 源 か ら距 離 を 取 る こ と ，適 切 な 遮 蔽 を設 け る 物学 的半減期 は 約三 ヶ 月 で あ り比 較的 短期 問で 排 泄 され
こ と ，被 曝 の 時 間 を 短 くす る こ とが 重 要 に な る ．一方 ，内 る．
28） 一方 ，ス ト ロ ン チ ウ ムの 挙動 は カ ル シ ウ ム と似 て お

部 被 曝 の 場 合 は ，透 過 力 が 弱 い 放 射 線 ほ ど放 射 線 の エ ネル り，骨 に 沈着す る の で 生 物 学 的 半 減 期 は 数 十』
年 と され て い
ーをす べ 体 内 で 失 うた め ，そ の 影 響 が 大 き くな る ．内 28 〕 一般
ギ て る， 的 に 30 歳 ，
を 過 ぎ る と骨 の 代謝 が 遅 くなる が

部 被 曝 は ，放 射 性 物 質 が 減 衰 ま た は 排 出 さ れ る ま で 組 織 や 成長期の 子 一
供 取 り込 み や す く， 度 沈 着 す る と長 期 に わ
は

器 官 を絶 えず 照 射 す る こ と，被 曝 量 の IE確 な 測定 が 困 難 で た り影 響 を受 け る こ とに な る ．プ ル ト ウ ム は 消 化 管 か ら ニ

あ る こ と ，体 内 に 沈 着 し て しま っ た 場 合 は 放 射 性 物 質 を 排 の 吸 収 は 少 な く，呼 吸 器 系 か ら 摂 取 さ れ る ケ ース が 多 い が ，

泄 させ る手段が 無い こ とな どか ら ，同 じ核 種 同 じ数 量 の 生 物 学 的 半 減 期 は 器 官 に よ り 40 年 か ら 100 年 と 長 い ．
2s ）
な
核種 の 外部被曝 よ り も危 険性 は は る か に 高 く，ベ ク レル か お ，国 と 福 島 県 が 事 故 後 に 実 施 し た 調 査 に よ れ ば ，飛 散 し
ら シ ーベ ル トに 換 算 す る 実 効 線 量 係 数 に もそ れ が 反 映 さ れ た ス ト ロ ン チ ウ ム や プ ル トニ ウ ム の 量はセ シウム に 比べ て
5・
る． ・ ・関 東 の
2s） 2 ＊
少 な く， ス トロ ン チ ウ ム の 降下物 は 東北 10 都 県
内部 被 曝 の 影 響 は ，放 射 線 自体 の 半 減 期 だ け で は な く， で 観察 され た もの の ，そ の 量 は セ シ ウ ム の 19 eOO 分 の 1 か
，

そ の 物 質 が 生 体 内 に ど れ く ら い 取 り込 ま れ や す い の か ，ど ら 600分 の 1 程 度 で あ り，過 去 の 大気 圏 内核 実 験 に よ る 影
31）
れ くらい の 期間生体 内に と どまっ て い るの か 生 物学 的 半
（ 響 に 比べ て も小 さい と い う こ とが 判 明 し た ． また プ ル ト
減 期 ），特 定 の 器 官 に 蓄 積 さ れ や す る．
・5 28 ）
い か に依存 す こ ニ ウ ム につ い て は ，飛 散 し た地域 は 原発周 辺 に限 られ て お
れ ら生 体 内 で の 挙 動 は 放 射 性 物 質 の 化 学 型 や 物 理 的性 質 に り，事 故 発 生 前 に 観 測 さ れ て い た プ ル トニ ウ ム の 測定値 の
も依 存 す る ．た とえ ば ト リ チ ウ ム の 化 合 物 で は ，水 で あ れ 範囲内 に収 まる レ ベ ル で あ っ た，
32）

ば 全 身 に 分 布 し排 泄 さ れ や す い が ，DNA の 前 駆体 （チ ミ
ジ ン な ど ）で あ れ ば 遺 伝 子 に 取 り込 ま れ ，排 泄 は 困 難 と な 4． 事 故 後 の 被 曝限度 の 規制値 と今後 の リス ク に
る ．ま た ，一般 的 に コ ロ イ ド状 に な っ て い る 場 合 は ，細 網 つ い て
日 本 は 自然 放 射 線 量 の 低 い 地 域 で あ り ，自然 放 射 線 に よ
率2
逆 に
言え ば シ ベ
， ー ル トで 表 した 数 字 が 同 じで あ れ ば ，内部 被 曝 ，外
部被曝 に かかわらず 、 影響 の 大 き さ は 同 じ で あ る ． る 被 曝 量 は 1．
5mSv 年で
〆 あ り （世 界 平 均 は 2 ．
4 mSv1 年 ），医 ・

146 日本 物理 学 会 誌 Vol，
68 ，No ．
3，2013

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ｝
Japan (JPS)

療 被 曝 は 平 均 2．
3mSv 〆年 で あ る ．）
2
こ れ らの 被 曝 を 除 き， 同
一細 胞 内 で 細胞 増殖 に 関わ る 遺伝 子 の う ち 5 〜6 個 に 突
34
平 常 時 の 公 衆 の 許 容 量 は 1mSv ！年 と定 め られ て い る ．こ れ 然変異が 入 る こ とが 癌 の 原 因 と考 え ら れ て い る ．） こ うし
に 対 し て 職 業 被 曝 の 許 容 量 は 100mSv15 年 で あ る ．
・・ 職 L 2 5｝
た 自然 発 癌 の 主 要 な要 因 は 代 謝 に よ る活 性 酸 素 で あ り，日
業 被 曝 に お い て は ，18 歳 か ら 65 歳 ま で 一様 に 連 続 し て 被 本人 の 癌 の 罹 患率が 高 い の は ，長 生 きの 代 償 に 他 な ら な い ．
5％ 1Sv
曝 す る と仮 定 し ，発 癌 に よ る 死 亡 率 は 5 ． で しきい 値 一方 ，1 年 間 か けて 20mSv の ガ ン マ 線 を 被 曝 し た と きの ，
は 無 い と して ，発 癌 リ ス ク を算 出 して い る ．そ して ，被 曝 02 箇 所 ！細 胞 ，DNA 一本 鎖 切 断
1 日 当 た りの 塩 基 損 傷 は 0 ，
に よる 死 亡 率 の 増 加 や 18 歳 時 に お け る 平 均 余 命の 損失 が ， は 0．
05 箇所1細胞 ，DNA 二 本 鎖 切 断 の 頻 度 は ，0 ，
002 箇 所 1細
7
自然 災 害 や 不 慮 の 事 故 な ど他 の リス ク と 比較 して 受 け 入 れ 胞程 度 と見積 も ら れ て お り，） 代謝 に よ り生 じた 活 性 酸 素
られ る 線 量 と し て ，100mSv ！5 年が 定 め ら れ て い る． による DNA 損 傷 の 影 響 に 比 べ て 放射線 に よ る影響 は か な

国 際放 射 線 防 護委 員会 は ，公 衆 り少 な く，よ り大 きな 日 常 的 な リス ク や 喫 煙 ・運 動 不 足 な
今回 の 原 発事故 を受 け て
の 非 常 事 態 収 束 後 の 被 曝 限度 を 1 〜20mSvt 年の 範 囲 で 設定 どの 生活習 慣 に よ る リス ク に 埋 もれ て しま う可 能 性 が 高 い

す る こ と を 勧告 し た ． この 上限 の 20mSv1 年 と い う値 は ， と 予 想 され る ．

職 業 被 曝 限 度 （100mSv ！5 年 ）を参 考 に して お り，現 在 ，政 食品中の 放射性物質 につ い て は 国 内 に 規 制す る 法律が な

府 もこ の 値 を 採 用 して 避 難 区域 な ど を設 定 して い る ． しか か っ た が ，事 故 後 ，原 子 力 安 全 委 員 会 で 示 され た 指 標 を 元

し，放 射 線 の 確 率 的 影 響 に は し き い 値が ない と仮 定 さ れ て に 暫定規制 値が 設 け られ た ．当 初 設 定 さ れ た 規 制 値 は ，セ
い るの で ，事 故 を 受 け て 急 遽 数 値 が 引 き上 げ ら れ た こ と に シ ウム につ い ては 5mSv1 年 ，ヨ ウ 素 に つ い て は甲状腺で の

不 安 を感 じて い る 人 も少 な くな い よ う に 思 わ れ る ．ま た ， 等価線量 が 50mSv1 年 に達 しな い よ うに 算 出 さ れ て い た．

しか し，食 品 の 国 際 規 格 を作 成 して る ーデ クス 委員
少 しで も余 計 な放 射 線 を 被 曝 した くな い と人 々 が 考 え る の い コ ッ

も も っ と も な こ とで あ る ． 会 の 指標 が lmSv1 年 で あ る こ と ，多 くの 食 品 か らの 検 出 濃
そ れ で は ，今 後
一般 住 民 が 受 け る 可 能 性 の あ る 20 度 が 時 間 の 経 過 と と も に 低 下 傾 向 に あ る こ とか ら ，平 成
mSv ／年 と い う線 量 は ，ど の 程度の リス ク な の だ ろ うか ． 24 年 4 月 よ り年 間 の 線 量 の 上 限 を ス トロ ン チ ウム ，プ ル ト

20mSv1 年 は 白 血 球 が 減 っ た り，髪 の 毛 が 抜 け る と い っ た ニ ウム な ど も含 め て lmSv とす る 新 た な基 準 値 を採 用 して

35〕
確 定 的影 響 が 出 る線量で は な ．懸 念 さ れ うる の は 確 率的
い い る， 新 し い 基 準 で は ，食 品 を飲 料 水 ，牛 乳 ，乳 児 用 食

将来 の 発癌率
影響 （ の 増 加 ）で あ る ．20mSv ！年 を 50 年 間 品 ，一般 食 品 の 4群 に 分 け，世 代 を 1 歳 未 満 ，1〜6 歳

被曝 し 続 け た と きの 積 算 線 量 は lSv な の で，被 爆 者 の デ 7 〜12 歳 13〜18 歳 ，19 歳 以 上 ，妊 婦 の 6 群 に 分 け ，そ れ

ータ を 元 に す る と発 癌 リ ス ク は 55 ％ とな
16）
る ． し か し， ぞ れ の 世 代 の 摂 取 量 を 考 慮 し，い ず れ の 世 代 に お い て も年

前述の よ うに 生 物 効 果 に は 線 量 率 も影 響 を与 え る こ と を考 間 の 総摂 取 量 が lmSv を 超 え な い よ う に 設 定 さ れ て い る ．
え る と，発 癌 リス ク は こ の 値 よ り小 さ くな る こ と が 予想 さ

れる，
24・
25 〕
5 ． 今後 に 向 け て
実は 我々 の ，酸 素 呼 吸
体内で は に よ り反 応 性 の 高 い 活性 放 射性 物 質 に よ る 汚 染 は 広 域 に わ た っ て お り，完全 な 除

酸 素 が 常 に 発 生 し て お り，放 射 線 を 被 曝 し な く と も DNA 染 は 容 易で は な い ．長 期 間 に わ た る 低 線 量 放 射 線 の リ ス ク
て は ，限 ら れ た デ ータ か ら 危 険 性 を 推 測 せ ざ る を 得
8〕
は 絶 えず 損 傷 を 受 けて い る ． こ れ ま で に ，DNA 修 復 に必 に つ い

要な タ ンパ ク 質 を 先天 的 に 欠 損 す る 症 例 が 複 数 報 告 され て ない こ と， 内部 被 曝 の モ タ リ ン グ は 困難 な こ と か ら ，
ニ 空間
い る が ，患 者 は 放射線 を浴 び な くて も，高 発 癌 性 ，重 篤 な 線量 の 高い 地域 で は 被 曝 線 量 を 最小 限 に 留 め る た め の 実 効
・
33 ） 13
くこ とが 重 要 で あ る ．また ，
原子 炉
奇 形 ，発 達 異 常 を示 す ， 事 実 は ，放 射 線 を浴 性 の あ る 対 策 を 講 じて
この び な い

くて も体 内 で DNA 損 傷 が 発生 して い るこ とを 示 唆 して い は 冷 温停 止 に 至 っ た が ，最 終 的 な 原 子 炉 の 廃 止 措 置 に は 数

る ．実 際 代謝 に よ る DNA 一本 鎖切 断 や 塩 基 修 飾 の 数 は ， 十 年 とい う長 い 年 月 が 予 定 され て い る ．原 発 敷地 内は 依 然

それぞ れ 1 個の 細胞 で 1 日 当 た り数 千 箇 所 か ら 数 万 箇 所 に と して 線 量 が 高 く，作 業 環 境は 厳 しい 状 況 に あ り，作 業 員

1〜10 箇 所 程 度 生 じ て い る と考 え ら
達 し，二 本 鎖 切 断 も 0 ． の 被 曝線 量 の 低 減 化 や 作 業 性 向 上 の た め の 対 策 も急 が れ る ．
今 後 の 震 災 か ら の 復興 の 過程 で ，原 子 炉 の 廃 止 措 置 の た
7）
れ て い る ． 人 体 は約 70 兆 個 の 細胞 か ら構 成 さ れ て い る の
ら れ ，修 め の 技術 的 支援 ，代 替 エ ネル ギ
ーの 開 発 ，放 射 線 の モ タ
で ，毎 日 ，天 文 学的 な数の DNA 損 傷 が 体 内 で 作 ニ

復 され る こ とが 繰 り返 され て い る ，こ れ ら の 損 傷 は ，放 射 リ ン グ ，除染 の ため の 技 術 的 支 援 な ど，科 学 技 術 が 貢 献 し

線 に よる 損 傷 と 同 様 に 修 復 さ れ ，一部 が 修 復過 程 で 突 然 変 うる 課題 は 多数 存 在 す る ．ま た ，こ れ らの 過 程 の 中 で ，研
異 を 引 き起 こ す ．突 然 変異 を 起 こ す と， もは や 遺 伝 情 報 は 究 に 携 わ る者 が 国民 に 対 して正 しい 科学的情報 を提供 し，

修正 され る こ とは な い の で ，加 齢 と と もに 細 胞 内 に は 突 然 分 か りや す く伝 え て い く努 力 も必 要 で あ る ，そ して これ ら

・技 術 者
変 異 が 蓄 積 して い く．突 然 変 異 は 細 胞 内 の 遺 伝 子 に ラ ン ダ の 活 動 が ，震 災 と原 発 事 故 に よ り失 わ れ た 科 学 者
ム に生 じる が ，細 胞 増 殖 に 関 わ る 遺 伝 子 に 突 然 変 異 が 生 じ に 対 す る 国 民 の 信 頼 を 取 り戻 す こ と に も繋 が る こ と を期 待

て ，細 胞 増殖 に ブ レ ーキ が か か ら な く な た状態が 癌 で あ っ した い ．
る ．発 癌 率 は 年 齢 の 5 〜6 乗 に 比 例 し て 上 昇 す る こ と か ら， 最 後 に ，執 筆 に あ た り数 々 の 有 益 な 助 言 を 頂 き ま し た 理

交流 放 射 線の 人 体へ の影 響 147

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service
The Physioal
The Sooiety
Physical Society of
of Japan （JPS ｝
Japan (JPS)

化 学 研 究 所 仁 科 加 速 器研 究 セ ン タ ーの 阿 部 知 子 博 士 に 深 く 29 ） 原 子 力 安 全 委 員 会 ： 「
福 島県 にお け る 小 児 甲 状 腺 被 ば く調 査結 果 に つ
い て 』（2D11 年 5 月 且2 、
日 第 31 回 原 子 力 安 全 委 員 会 資 料 第 4 3 号 ） − ．
感 謝 い た し ます ． 3e ）UNSCEAR ； UNSCEAR 2008 Report VoL JI Effectc ．of Ienining Radiation
〔UNSCEAR 、2008 ），
参考文献 31） 文 部 科 学 省 「都 道 府 県 別 環 境 放 射 能 水 準 調 査 〔
： 月 間降 下 物 ）に お け る

2 田 2 年 7 月 24 日，報 道 発 表
ス トロ ン チ ウ ム 90 の 分 析 結 果 に つ い て』 （
1） 山 口 彦之 ：『放 射 線 生 物 学 』〔裳 華 房 ，1995）．
資料） ．
2） 江 島 洋介 ， 木村 博編 『放 射 線 生 物学 」（オ ー ム 社， 改 訂 2 版 、2ell）．
：

32） 福 島 県 災 害 対 策 本 部 ：『
福 島県 に お ける⊥壌の 放射 線 モ ニ タ リン グ調
26，
3 ）ICRP Recommendationsef the iCRII ICRP Publication Ann ．
ICRP 1 （
3）
2012 年 4 月 ）．
：

1−53 ．
査結果 』（
（1977 ）pp ． 33） S ． ，
Matsuura et al 、Nat．
Genet．
19 〔1998〕179，
．J， Ha 1 著 ，浦 野 宗 保 訳 『
：
4） E ］ 放 射 線 科 医 た め 放 射 線 生 物 学 』〔篠 原
： の の
34 〕 B ．Alberts， ．Moiceutar Bioiog ｝ ・ the CeV （Garland Science ，2007 ＞
．
et al ： of

出版 新社 ． 第4 版， 2002 ）
5 hed ．
5 ） 日 本 ア イ トープ協 会 編 『ラ ジ オ ア イ ソ ト ープー基 礎 か ら 応 用 ま で 』
匸
ソ ：
35 〕 厚 生 労 働 省 ：
乳 及び 乳製 品
『 の 成 分規格等 に関 する 省令 の 一部 を 改正
（丸 善 ， 1993）． 一
す る 省令 ．乳 及 び 乳 製 品 成 分規格 等 に 関す る 省令別 表の の （ ）
Commissionon Ra −
の 二
6 〕ICRP The 2007 Recommendationsof the Internationol
：

ICRP 37 （2−4 ） 〔
の 1）の 規定 に 基 づ き厚 生労 働 大 臣 が 定め
（ る放射性 物 質 を定 め る 件及
Protection． iCRP Pubtication iO3 ， Ann ．
，添 加 物 等 の 規 格 基 準 の 一部
diological 2007 ）
2012 年 3
1−332 ．
び食 品 を改 止 す る 件 に て 』（
PP ．
つ い

月 IS 口 ．食 安 発 e31S 第 E 号 ）．
7 ）A ． Ciccia and S ． ． Elledge Mol ．
∫ Cell 40 （ 2010 ）t79 ，
：

8） S． Maynard， et al ． Carcinogenesis
： 30 （2009）2．
9） L ． Gros ， et Oncogene 21 （
aL ： 2002 ）8905 ， 非 会 員 著 者 の紹 介
10） 泉 雅 子 ぶ ん せ き441 （
： 2011）527 ． 泉 雅子氏 ： 1992年 お 茶 の 水 女子 大 学大 学 院 博 士 課 程 修 了 、現 在 ，理 研
ll） M ． Takata ， et aL EMBO J、
； 17 （1998 ）5497 ． 仁科 加速器研 究セ ー専 任 研 究 員 ．真 核 細 胞 の
ン タ DNA 複製 ・修復 機構 に
12） M 、 M ． Vitenchik and A ． G． Knudson Proc． Natl． Acad、 Sci．USA 100 （
： 2003） つ い て 研 究 して い る ．

12871 ．
2012 年 8 月 30 日原 稿 受 付 ）
（
13） M ． ELavin and S ． Kozlov Ce ］1 Cyc］e 6 〔2007〕931．：

14）K ． Savitsky ， et aL Science268 （ ： 1995 ＞1749 ．

15）C ． J．Bakkenistand M ． B． Kastan Nature421 〔 2003）499 ． ／
The Effects of Radiation on the Human Body
16）N ． D ．Lakin and S ． P． Jackson Oncegene IS （1999 ）7644 ． ：

17） D ． L． Pr ston ，
弓 et al ． Radiat． Res， ：160 （2003〕 38 ． 且
Masako lzumi
18）D ． ．Brenner ， et al ． ProG ． Natl． Acad． Sci．USA 100 （ 2003）13761， The FukUshima
」 ：
abstract ： nuclear reactor of power plantfinany
19） S ． 1 i，et al ． Br． J， Cancer89 〔 2003 ） 709 ． −shaking ，However，
； 且
reached cold shutdown after its world accident
20 ） YYoshirnoto ， ．
etRad ． Res ．
aL 3Z 〔1991 ）327，
／ 」

are stilldeeplyconcemed
21） M 、 ． Res． 122 （1990 ）1， people about thじ radiation effects on
many
Otake， et aL Radiat ：

22）ICRP Nonsteehastic Effects of Ionizing Radiation

； ．1CRP Publication4J， the human body and environment since there is no effective way to
Ann ． 3 ） （1984 〕PP ． 1−33．
ICRP l4 （
． decont inate the radioactive matcrials in the environment ．Recent
23） UNSCEAR VNSCEAR
： 1988 Report ． Sources ， Effects and Ri・
sks qf Jonizing
progress in biologyenables us to understand hQw radiation af ［¢ cts the
Radiation （ UNSCEAR ， ）．
1988
24） 1． Furuno−Fu shi ， et al ． Int， J， Radiat． Bio ．
； 70 （996 ）2G9 ， 且 且 hulnan body at the molecular loveL On the othcr hand ，the biologica盟
25 ）S ． Tanaka ， et ．Radiat．
al Res．
／ 160 〔2003）376． effec しs of low −dose radiation and thcinterna1
exposure in the long term
26） M ． A． Barcinski ， et aL Am ． J．Hum ． Genet 、27 〔1975 ）802 ．
；
are controversial sincc only a limitednumber of reports are available ．
27）R ． R． K ．Nair ， et Health Phys ．
aL ： 96 （2009 ）55 ．
『環 境 放 射 能 一挙動 ・ 生 物濃縮 ・
Here I review the historyand recent progress of radiation biQlogy as
28 ） 佐 伯 誠道 編 ：
人体被曝 線量 評 価 」、〔 ソ

フ トサ イ エンス 社， 1984 年 ）． weU as the ground fbrthe regulation by the govemment ．

Notice
本 誌 を複写 され る 方 に （ about photocopying） （
参照 ：本 誌 47 （
1992 ）4 号 会 告 ）
本 誌 に 掲 載 さ れ た 著 作 物 を 複 写 し た い 方 は ，（ 社 ）日 本 複 写 権 セ ン タ ーと 包 括 複 写 許 諾 契 約 を 締 結 さ れ て る企 業 の 方 で な 限 り、 い い

日 本 物 理 学会 が 複写 権 等の 行使 の 委 託 を して る 次 の 団 体 か ら許 諾 を受 け て 下 さ い ， い

（ order to photocopy any work frorn this publication ， you or your organization must obtuin permission from the f 110wing organization whlch （
）

hasbeendelegated fcr copyright clearance by the copyTight

） owner ofthis publication．）

−
〒 107 0052 東 京 都 港 区 赤坂 9 6 41 − − 乃木 坂 ビ ル 3F ては，
ア メ リカ 合衆国 にお け る複 写 に 下 記 CCC つ い

一般 社 団 法 人学術著作 権協会 に連絡 して 下 さ ． い

−
電 話 03 3475−5618Fax O3 −3475 −5619 infb＠ jaacc ．
jp Copyright Ciearance Center，Inc．
222Rosewood Drive， Danvers， MA OI923 USA
Phone 1−978 −750 −8400 Fax l−978 −646 −8600

なお ．著作 物 の 転 載 ・翻 訳 の よ うな ，複 写 以 外 の 許 諾 は ，直 接 日 本 物 理 学 会 へ ご連 絡 下 さ い ．

148 日 本 物理 学会誌 Vol．

68，No ．
3，2013

一
NNII-Electronic
工 工 Eleotronio Library
Library Service