日本建築学会 樟 2017v9

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冬季室内環境の潜熱蓄熱材の足接触快適感に関する研究

正会員 ○陳 佳樟*1 同 中川 純*1


同 宮嶋 裕基*2 同 田辺 新一*3
非会員 宇山 直樹*4 非会員 清田 健*4
接触快適感 デマンドレスポンス 潜熱蓄熱材
被験者実験 素足 冬季
1.研究目的 ル、アルミ)及び表面材厚さを比較とした 2mm 表面材に
近年、ソーラーパネルなどの再生可能エネルギーの積 対しては 26 oC 相変化(B)のゲル PCM10mm であった。
極的な導入が行われている。需要家へのエネルギー供給
量は一定とならないことが予想されている 1)。このため、
実験場所:早稲田大学61号館人工気候室
需要家がエネルギーの供給量に応じて需要量を変動させ 人工気候室温22℃、着衣量1clo、被験者数8名
表 1 被験者実験条件
るデマンドレスポンスによる負荷調整が期待されている 姿勢 代謝量[met]
冬季は暖房によるエネルギーが消費し、蓄熱材を導入す 椅坐安静 1.1
表面材 表面材厚さ[mm] 下地材料 下地厚さ[mm] PCM種類
ることで、昼にエネルギーを蓄え、夜にエネルギー需要
ゲルPCM 相変化20℃
量のピーク削減ができる。 ゲルPCM 相変化26℃
一般的に単位時間あたりの蓄熱量[W/m2]は蓄熱材と熱源 0.4 木材 12 なし
木材
との温度差[K]×熱伝達率[W/m2K]による。常温域潜熱蓄熱 モルタル なし
アルミ なし
材(以下ゲル PCM)は相変化した場合に顕熱蓄熱材より
2 ゲルPCM 10 相変化26℃
大きな温度差を維持できる。また、既往研究 2)3) により、 ゲルPCM 相変化20℃
空気式床暖房においてゲル PCM の熱伝達率は 2015 年度に ゲルPCM 相変化26℃
0.4 木材 12 なし
開発した指向性蓄熱材 3)により、熱伝達率が向上した。そ PVC
モルタル なし
のため、人体足部がゲル PCM に接触する機会が増加する アルミ なし 比熱
温度域 熱伝導率 密度
ことが予想される。しかし、人体足部がゲル PCM を有し 材料名称2 ゲルPCM 10 相変化26℃
[℃]
表2 [W/m・K]
床材の熱特性 [g/cm^3] [J/g・K]
た床材との接触した際の利用者の熱的快適性への影響は 木材 0.12 0.40 1.3
塩化ビニル(PVC) 0.17 1.39 1.2
未だ不明であり、被験者実験によって生理量及び心理量
モルタル 1.5 2.00 0.8
で検討する必要がある。 スタイロ 0.036 0.02 1.0
2.実験概要 アルミ 283.94 2.68 0.9
表 1 に被験者実験条件を示す。実験は冬季の快適な室内 銅(熱流計) 410 8.94 0.4
ゲルPCM顕熱(凝固)A 20以下 0.39 0.84 2.0
温度を想定し、温熱環境室は 22 oC、50%RH、静穏気流と 0.22 0.78 2.0
ゲルPCM顕熱(融解)A 22以上
した。床材の表面材 2 種類、下地 6 種類を組み合わせた計 ゲルPCM潜熱(相変化)A 20-22 0.3 0.81 75.0
12 条件で行った。実験開始時の代謝量を揃えるため、30 ゲルPCM顕熱(凝固)B 26以下 0.38 0.91 2.0
ゲルPCM顕熱(融解)B 28以上 0.19 0.71 2.0
分間被験者を待機させた後、接触実験を 10 分間行った。1
ゲルPCM潜熱(相変化)B 26-28 0.29 0.81 100.0
条件あたりの実験時間は足を断熱材に置いた待機 10 分間、
足を実験用床材に置いた接触実験 10 分間、計 20 分とした。
8 名の 20 代の男性被験者を対象とし、着衣は冬季に居室 温度計 表面材
熱流計 0.4mm
80mm
で一般的のものとした。下着、パンツ、半袖 T シャツ、
長袖 T シャツ、ジャケットとし、計 1.0 clo となった。被
験者実験に関しては、早稲田大学倫理委員会の承認(申 60mm
請番号:2016-200)を得た。 下地材料 10mm

2.1 床材の種類 断熱材(


スタイロフォーム) 50mm
25mm
表 2 に床材の熱特性を示す。年間居住室内の快適温度範 300mm×300mm
囲は 20℃から 26℃となり、この快適温度範囲に近い相変 図1 床材測定点配置

化をするゲル PCM を選定した。表面材は木または PVC と 2.2 測定項目


し、床材の下地材については、0.4mm 表面材に対しては、 図 1 に床材測定点配置を示す。熱流温度計
相変化温度の異なる 2 種類(20℃相変化(A)と 26℃相 (50mm×50mm)を右足の足裏と床材の間及び床材と断熱
変化(B))のゲル PCM12mm、顕熱材の 3 種類(木、モ 材の間に挟むことで接触熱損失量及び温度を 0.1 秒間隔で
ルタ 測定した。また、床材温度を確認するため、床材の左と

Comfortable Sensation of Sole Contact with Latent Heat Storage Material in Winter Indoor CHEN Chia-chang et al.
Environment
下から 25mm に 0.1 秒間隔で測定した。被験者に足部接触
温冷感及び接触快不快感(開始 0,1,3,5,7,10 分に申告)、
32
接触粗細感(開始 0,10 分に申告)を 0.5 刻みの 7 段階に申

足裏温度[℃]
30
告させた。
28
3.実験結果
26
表 3 に足裏接触生理量及び心理量実測結果、図 2 に足裏
接触温度変化を示す。表 3、図 2 により、下地材料(モル 24
-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
タル以外)の熱伝導率大きな方の損失熱流量が多いと足
快適感
裏温度の低下しやすい関係があると見られる。足裏接触
木PCM(A) 木PCM(B) 木木
温冷感は同じ下地の場合に表面材 PVC が木より寒かった。 木モルタル 木アルミ 木PCM(B)(10mm)
快適感は同じ下地の場合に表面材木が PVC より高かった。 PVCPCM(A) PVCPCM(B) PVC木
PVCモルタル PVCアルミ PVCPCM(B)(10mm)
また、表面材が厚い方が薄い方より快適である。 0.5 32
下地材料が木またはゲル PCM(A)の場合に足の損失 0.0 31
-0.5
熱流量が小さく、足の熱を貯めすぎて接触してから 1 分間 30
-1.0

足裏温度[℃]
以後に足裏温度が上昇した。一方、下地材料がアルミの 29

温度[℃]
-1.5
28
場合に足の損失熱流量が大きく、足の熱が奪われすぎて -2.0
-2.5 27
足裏温度が他の条件より著しく低下した。 26
-3.0
4.足接触熱的快適条件の考察 -3.5 25
4.1 接触快適感と足裏温度 -4.0 24
-1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1
図 3 に接触快適感と足裏温度を示す。足裏温度は 31℃ 時間[min] 快適感
から 25℃の範囲で推移し、接触快適感は+1 から-1.5 の範 図2 足裏接触温度変化 図3 接触快適感と足裏温度
囲であった。足裏温度の下がりと接触温冷感の減少との
接触快適感申告
正相関が確認された。但し、条件 3、9(下地:木)は条
100 100
件 6、12(下地:ゲル PCM(凝固)B)より足裏温度が高 -100
-100
損失熱流量[W/m^2]

いが、快適感が低下した。冬期においても足温度が高け -300
損失熱流量[W/m^2]

れば必ず快適なるとは言えないことが分かった。 -300 -500


4.2 接触快適感申告 -500 -700
図 4 に接触快適感申告、図 5 に足裏温度 30℃未満と -700 -900
30℃以上の快適申告割合を示す。図 4 により、足裏温度 -1100
-900
が 30℃以上かつ損失熱流量が 150W/m2 以上の場合に快適 -1300
-1100 -1500
感申告が-0.5 より不快の申告がほとんどなかった。図 5 に
-1300 22 24 26 28 30 32 34 36
より、足裏温度が 30℃未満の場合に快適感申告が-0.5 よ
足裏温度[℃]
り不快の申告が 5 割であったが、足裏温度が 30℃以上場 -1500
合に 1 割未満となった。そのため、足裏温度が 30℃以上 22 24 26 28 30 32 34 36
の場合に多くの人は満足であることが示された。 図4
足裏温度[℃]
接触快適感申告
5.まとめ (a)足裏温度<30℃ (b)足裏温度≥30℃
1)足裏が床材に接触した実験により、足裏接触快適が得
られる条件は足裏温度が 30℃以上に維持しながら損失熱
流量が 150W/m2 以上である場合と考えられる。
2)ゲル PCM の接触感と顕熱材の差が小さかったが、長
期間接触する場合に相変化によって一定な損失熱流量が
維持され、最適な床材に必要な要素があると考えられる。
謝辞:本研究の一部は早稲田大学と JXTG エネルギー株式
会社と共同研究による。
<-0.5(N=182)>-0.5(N=195) <-0.5(N=16)>-0.5(N=172)
参考文献
1)林ら:デマンドレスポンスを活用した需要家側調整力による系統対策、2015 図5 足裏温度 30℃未満と 30℃以上の快適申告割合
2)陳ら:ディマンドリスポンスを考慮した潜熱蓄熱式床暖房に関する研究、2015
3)陳ら:指向性蓄熱材を用いた空気式床暖房に関する研究、2016
4) 陳 ら : Heat Storage Efficiency of Floor Heating System under Demand Response 表3 足裏接触生理量及び心理量実測結果
、2016 接触直前の温度 損失熱流量
条件 床材
5)中田ら:最新建築環境工学、2013 6)英国保健省年次報告書、2010 温冷感 快適感 粗細感
足裏[℃] 床材[℃] [W/m^2]
1 木PCM(A) 31.1 22.1 -193.2 -0.8 -0.1 0.3
*1 早稲田大学大学院創造理工学研究科
2 木PCM(B) 29.9 22.1 -233.2 博士課程
-0.9 -0.3 0.0 *1 Graduate Student, Waseda University, M.Eng
3 木木 31.6 22.5 -153.3 -0.5 0.2 -0.2
*2 元早稲田大学大学院創造理工学研究科
4 木モルタル 29.1 22.3 -207.3
大学院生
-1.0 -0.2 -0.1
*2 Former Graduate Student, Waseda University
*3 早稲田大学創造理工学部建築学科
5 木アルミ 29.6 22.2 -353.2 教授 -1.6 工博-0.7 0.1 *3 Prof., Dept. of Architecture, Waseda University, Dr.Eng.
6 木PCM(B)(10mm) 30.9 22.1 -207.4 -0.8 0.2 -0.1
*4 JXTG エネルギー株式会社
7 PVCPCM(A) 30.4 22.2 -184.2 -0.8 -0.4 0.8 *4 JXTG Nippon Oil & Energy Co., Ltd.
8 PVCPCM(B) 29.0 22.1 -233.1 -1.0 -0.3 0.9
9 PVC木 31.6 22.4 -150.5 -0.6 -0.1 0.7
10 PVCモルタル 28.8 22.3 -211.1 -1.1 -0.3 1.1
11 PVCアルミ 28.9 22.3 -290.7 -1.8 -0.9 0.8
12 PVCPCM(B)(10mm) 30.5 22.2 -203.9 -1.2 -0.3 0.9

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