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F-77

住宅におけるエアコン不使用時の環境調整行動に応じた快適温度に関する検討
Study on the comfort temperature by occupants’ behaviour without AC use in dwellings

学 生 会 員 ○今川 光 (東京都市大学/JSPS 特別研究員 DC) 正 会 員 リジャル H.B.(東京都市大学)


非 会 員 宿谷 昌則(東京都市大学)
Hikaru IMAGAWA*1*2 H.B. RIJAL*1 Masanori SHUKUYA*1
*1 Tokyo City University *2 JSPS Research Fellow DC

It is important to conduct some thermal adjustment behaviours in dwellings during the AC off. In order to clarify the effect
of occupant behaviour without AC-use for comfort temperature, thermal comfort survey and thermal measurement were
conducted in 120 dwellings in Kanto during 4 years period. The number of collected samples was 36,114. The main results
are as follows: 1) The comfort temperature when the window is opened is higher than its when the window is closed. 2) The
comfort temperature for 0.5 clo is higher than that of 0.30 clo. The comfort temperature for with and without fan use is
similar.

1. はじめに の必要性が高まると考えられる。COVID-19 に限らず、今


私たち人間は、日々の生活の中で様々な環境調整行動 後も新たな感染症の流行があり得るので、在宅勤務の必
を取捨選択して実行することで、季節変動に応じた熱的 要があることが考えられる。このことをふまえると、住宅
快適性をできるだけ多く確保できるようにしている。快 内の温熱環境の研究は執務者にとっても重要となること
適と知覚する温度が外気温変動に応じて変更されること が見込まれる。
を表す Adaptive Model 1) 2)は適応的な熱的快適性に関する 以上のことから、換気を積極的に実行した住宅環境に
研究によって作られてきた考え方の代表例である。環境 関する検討は重要であると考える。夏季が非常に暑くな
調整行動に関する研究は数多くの取り組みがあるが、そ る日本の多くの地域では、エアコン冷房は涼しさを得る
の一つである環境調整行動モデル例えば 3)-7)では、室内外気 重要な手段として多く使用されてきた。エアコン機器は
温を説明変数として、環境調整行動の状態や頻度がどの 近年で約 90%以上の普及率 10)である。エアコンの運転効
ように変化するかを表現している。日本における生活文 率の観点から、住宅では窓閉鎖を伴ってエアコンを使用
化では、着衣調整や窓開閉、エアコンや扇風機、ヒーター することが一般的である。しかし、COVID-19 感染症によ
の使用など、様々な環境調整行動の手段が挙げられる。日 る換気の重要性を勘案すると、窓をある程度開放した状
本の先行研究 4)-7)ではこれらについても取り上げられて 況でエアコンを効率的に使用するにはどうしたらよいか
いる。環境調整行動の研究は、居住者行動の理解のために は重要な課題と考えられる。このような状況下において、
重要と著者らは考えている。 空調技術者はいかにして窓開放環境においてエアコン運
最近では COVID-19 感染症の流行が人々の生活に大き 転効率の低下を抑制したり、新たな空調機器の仕組みを
く影響しているが、対応策の一つとして換気の重要性が 開発したりするかが重要になると考えられるが、その一
いわれている 8)。室内の空気質や温熱環境の改善のための 方で、着衣調整や扇風機使用といった環境調整行動に加
換気は重要であるが、換気の方法は窓やドアの開放によ えて、窓開放による温熱環境調整を効果的に行う方式が
る「自然換気」と、換気扇や空調機の使用による「機械換 重要と考えられる。
気」の 2 つが挙げられる。高層オフィスは窓開放ができ 一般オフィスの執務環境は執務者が大きな執務室を共
ない構造であることが多く、機械換気が行われる一方で、 有しているため、着衣に制限が設けられたり、エアコン冷
一般住宅では窓開放による自然換気が行いやすい。 房設定温度の個人差を考慮せざるを得ず、執務者個人に
COVID-19 感染症の流行によって、 一部の業種では在宅 対応した環境調整行動を実施することが困難であった。
勤務が進められている。 (一社)日本経済団体連合会によ しかし、在宅勤務では着衣の制限やエアコン使用など、各
る会員企業を対象とした調査 9)では、2 月の段階で企業の 個人の好みに応じた環境調整行動が実施しやすい。した
68.6%がテレワークを推奨しており、今後の動向によって がって、自由度が高い在宅勤務環境における適切な環境
は、自宅を執務環境とした場合の室内環境に関する研究 調整行動の解明は重要だと考えられる。

空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2020.9.9 〜 30(オンライン)} -313-


第6巻
そこで本研究では、関東地域の住宅から得られたフィ に依頼をした。本研究における外気温は気象庁が公開し
ールド調査のデータを用いて、エアコン冷暖房不使用時 ているデータ 13)から調査住宅に最も近い測定地点のデー
の着衣量と窓開放・扇風機使用における熱的快適性の改 タを使用した。
善の可能性を、快適温度を用いて検証を行う。これらのこ 2.2. 統計解析
とを解明することで、エアコン不使用時の温熱環境構築 本調査はリビングと寝室で調査を行っているが、在宅
の実態を解明するとともに、温熱環境調整の適切な選択 勤務といった日中の生活を対象として検証を行うため、
を新たに見い出すことに寄与しうる知見を得ることを目 リビングのデータのみ抽出して分析を行う。また、冷暖房
的とする。 不使用時を FR モード(Free Running)と呼ぶ。
本研究で得られる成果は、エアコン不使用時の適切な 3. FR モードにおける着衣量の実態
住宅温熱環境構築のための行動に寄与するだけでなく、 3.1. 着衣量の変動
建築熱負荷シミュレーションへの応用にも期待ができる エアコン冷暖房不使用時の着衣量の実態を明らかにす
3) 11)
。既往研究 11)では、エアコン不使用環境下における窓 るために、図 1 に FR モードにおける平均着衣量の年間
開閉行動の居住者設定を快適温度を用いて判断している 変動を示す。最大平均着衣量は 1 月の 0.9clo であるのに
ため、各環境調整行動の効果を熱的快適性と対応関係を 対し、8 月には 0.3clo まで低下しており、年間を通して大
解明することで、日本の住宅におけるエアコン不使用時 きく変動していることがわかる。つまり、居住者は FR モ
の温熱環境をシミュレーションでき、適切な温熱環境の ードにおいて年間の気候変動に対して積極的に着衣調整
構築への検討に役立つことが見込まれる。 を行なっている。盛夏の 8 月だけでなく 7〜9 月の 3 ヶ月
2. 研究方法 9)12) でも着衣量の平均値はが約 0.3clo で 8 月とほぼ同じ値と
2.1. フィールド調査 なった。 半袖半ズボンに相当するのが 0.3clo である。0.3clo
本研究では 2010~2014 年に 5 回に分けて実施された、 よりも薄着の状態を維持することは困難であるため、 8月
住宅のフィールド調査のデータを統計解析することで、 の平均着衣量は0.3clo 以下にならなかったと考えられる。
分析を行った。調査対象は関東地域にある 120 世帯の住 次に、実際の着衣量の傾向を把握するために、図 2 に
宅に住む計 244 名である。調査対象空間はリビングと就 各月の FR モードの着衣量の分布を示す。春季の 5 月か
寝前後の寝室である。本調査は室内環境を測定・記録する ら秋季の11月にかけて着衣量の分布は変動していること
「測定調査」と、居住者に熱的主観申告及び環境調整行動 がわかる。一方で夏季と考えられる 7〜9 月に注目してみ
の状態に関して回答をする「申告調査」を同時に行った。 ると、この 3 ヶ月間は 0.3〜0.5clo に集中しており、似た
なお、得られた申告数は計 36,114(リビング:22,386、寝 Mode: FR
室:13,728)である。着衣量の申告は申告時の状態を回答
してもらい、イラスト尺度から最も近い状態を選択して
もらう方法と、着衣の種類を一品ずつ選択してもらう方
法の 2 種類で実施された。エアコン冷房・暖房使用/不使
用についても、申告時の状態を「0. Off, 1. On」のように二
者択一方式で申告してもらった。
リビングの室内気温は、温湿度計を用いて 10 分間隔で
自動測定を実施しており、センサーは直射日光が当たら
ない床上約 110cm の高さに設置してもらうよう、居住者
Mode: FR

図 1 FR モードにおける各月の平均着衣量と 2S.E.14) 図 2 FR モードにおける各月の着衣量の分布(5〜11 月)

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傾向である。これは、図 1 で述べた 7〜9 月の近似した平 4. 窓開閉・扇風機使用と快適温度の関係
均着衣量の傾向と対応している。 本章では、エアコン冷暖房不使用時における窓開放や
春季と考えられる 5~6 月と秋季の 10~11 月で比較する 扇風機使用による熱的快適性への影響度合いを検証する。
と、10~11 月の方が着衣量のばらつきが大きい。筆者らが なお、本節では節 3.2 に引き続き、暑熱期と考えられる 7
既往研究 14)で行なった春季と秋季における外気温変動の 〜9 月のデータを分析対象とする。
移り変りの違いによる居住者の経験的記憶(履歴)との関 4.1 窓開閉
係性を検討によると、同じ室内気温であっても秋季の方 窓開放によって、夏季の居住者の熱的快適性が現れる
が春季よりも着衣量が多い傾向である。住宅居住者の熱 かどうかを明らかにするために、図 4 に FR モードにお
的快適性や環境調整行動を対象とした研究では、このよ ける窓開閉ごとの快適温度の分布を示す。分布を見ると、
うな季節遷移期の差異を解明することで、暑熱期だけで 窓開閉のどちらも約 22〜30℃以上まで、快適温度が幅広
なく年間を通した快適性向上が見込める。これは、これか く分布していることがわかる。平均快適温度では、窓閉鎖
ら普及することが見込まれる在宅勤務環境にも関連する、 時に 26.8℃であるのに対して、窓開放時では 27.5℃であ
今後のさらなる研究課題であると考えられる。 り、窓開放時の方が快適温度が高い傾向である。また、年
3.2. 着衣量と適応モデルの関係 間を分析対象とした既往研究 7)の傾向と一致した。これ
暑熱期における FR モードにおいて、 着衣調整による熱 は、エアコン使用時でなくでも窓開放することによって
的快適性への影響を明らかにすることで、着衣調整によ 快適と知覚する温度が少し高くなる傾向を示している。
る室内温熱環境改善の可能性を定量的に検証したい。前 この理由としては、窓開放による室内対流の発生や排熱
述の通り、居住者の熱的快適性の指標の一つである快適 によると考えられる。
温度は外気温変動に応じて変更されることが適応モデル 次に、図 5 に窓開閉ごとの快適温度と外気温の関係を
1)2)
として明らかとなっている。このことから、外気温変 示す。全体的な分布は同等にみえるが、外気温が約 30℃
動に応じた快適温度の評価も重要となる。前節では、7〜 以上の時の快適温度は窓開放時の方がより高い快適温度
9 月の FR モードの着衣量は 0.3〜0.5clo となるケースが でもばらついていることがわかる。これらのデータから
比較的多いことが明らかとなった。そこで、図 3 に FR モ 回帰分析を行ったところ、外気温が約 33℃以下では窓開
ードの快適温度(Griffiths 法 15))と外気温の関係を小数点第 放時の方が快適温度が約 1℃高い傾向を示している。 本研
2 位で四捨五入した着衣量 0.3clo、0.4clo、0.5clo の各ケー 究でのデータは外気温 33℃以下のケースが大半であるこ
スごとに示す。分布をみてみると、どの着衣量であっても とをふまえると、全体的傾向として窓開放時の方が少し
快適温度にばらつきはあるものの、外気温が高いほど快 高くなることが、改めて確認ができた。
適温度も高い。回帰式を確認すると、着衣量が高いほど傾 4.2. 扇風機使用
きが大きく、外気温が約 24℃以上では着衣量が高いほど 窓開閉と同様に扇風機使用は、暑熱期においてエアコ
快適温度が高くなる傾向であった。これは着衣が薄いほ ン冷暖房不使用時の行いやすい行動の一つとして挙げら
ど快適と知覚する温度が低いことを意味しており、予想 れる。扇風機使用による熱的快適性改善の効果を明らか
される結果と逆の傾向であった。一方で、暑熱期における にするために、図 6 に扇風機の使用状況に応じた快適温
採涼のための環境調整行動は着衣調整以外にも、窓開閉 度の分布を示す。扇風機使用・不使用のどちらも最頻値
や扇風機使用などが挙げられるため、これらの行動が着 27℃を中心として、幅広い快適温度が分布している。平均
衣調整の代替手段となることで、着衣量が 0.5clo でも相 快適温度は扇風機使用時の方が不使用時よりも高いこと
対的に高い快適温度となると考えられた。そこで、次節で から、扇風機を使用することで快適と知覚する温度が全
は窓開放および扇風機使用についても検討する。 体的に少し高くなる傾向がみられた。
Mode: FR
(a)0.3clo (b)0.4clo (c)0.5clo

Tc=0.21To-1.5 Tc=0.23To-2.0 Tc=0.13To+0.8


(n=1561, S.E.=0.1,R2=0.23, p<0.001) (n=884, S.E.=0.01, R2=0.35, p<0.001) (n=170, S.E.=0.2,R2=0.46 ,p<0.001)

図 3 各着衣量ごとの FR 時における快適温度と外気温の関係

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CLosed: Tc=0.24To+20.4
Open: Tc=0.18To+22.4

図 4 窓開閉状態に応じた FR モードの快適温度の分布
図 5 窓開閉状態に応じた FR モードの快適温度と外気温
の関係

Off: Tc=0.27To+20.0
On: Tc=0.13To+23.8

図 6 扇風機状態に応じた FR モードの快適温度の分布

次に、図 7 に扇風機使用状態に応じた FR モードの快


図 7 扇風機使用状態に応じた FR モードの快適温度と外
適温度と外気温の関係を示す。図 5 では窓開閉で分布の
気温の関係
違いが少しみられたが、図 7 ではどちらも扇風機使用状
況においても比較的似た分布を示しているようにみえる。
かった。
回帰分析を行ったところ、外気温が約 28℃で両線が交わ 4. 扇風機使用の有無は快適温度に明確な差異を生じる
っており、大小関係が明らかでないことから、扇風機使用 結果とはならなかった。この理由として、窓開放と
いったその他の環境調整行動が併用されるためと考
状況については快適温度との対応関係を十分に明らかに えられる。
することができなかった。この理由についても節 3.2 と同 謝辞
測定調査と申告調査に住民の方々に多大なご協力を頂いた。本研究は科研
様にその他の環境調整行動と併用されることで、快適温 費(基盤研究(C):24560726、基盤研究(B):24560726、特別研究員奨励費:
度と扇風機使用との対応関係が複雑になったと考えられ 19J15521)の助成を受けた。記して謝意を示す。
参考文献
る。なお、既報 16)において、扇風機は単独使用されるよ 1) deDear & Brager: ASHRAE Transaction, Vol. 104, Part 1A, pp.145-167, 1998
2) Humphreys & Nicol: ASHRAE Transaction, Vol. 104, Part 1B, pp. 911-1004, 1998
り窓開放と同時に実施される機会が多いことを明らかに 3) Kim et al., Energy and Buildings, Vol. 141, pp. 274-283, 2017.
していることから、前節の窓開放による影響度合いの方 4) 羽原:日本建築学会環境系論文集,Vol 80,No. 715,pp. 827-837,2015.9
5) Takasu et al.: Buildings and Environment, Vol. 118, pp.273-288, 2017.6
が強い可能性も考えられる。 6) KC et al. Journal of Building Engineering, Vol. 19, pp.402-411, 2018
7) Rijal et al.: Japan Architectural Review, Vol. 1, Isuue 3, pp. 310-321, 2018
5. まとめ 8) 公益社団法人空気調和・衛生工学会,新型コロナウイルス感染対策として
本研究では住宅における 4 年間にわたる温熱環境の測 の空調設備を中心とした設備の運用について,2020.4
9) 一般社団法人日本経済団体連合会,新型コロナ感染症拡大防止対策の実
定結果と居住者の熱的主観申告・環境調整行動の調査結 施状況に関する調査を実施,
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2020/0312_03.html (2020/05/26 確認)
果を用いて、エアコン冷暖房不使用時(FR モード)の着
10)住環境計画研究所:2014 年度版 家庭用エネルギーハンドブック,省エ
衣量と窓開閉・扇風機使用の関係性について、快適温度の ネルギーセンター,2013.12
11)Rijal et al.: Energy and Buildings, Vol. 39, No. 7, pp. 823-836, 2007
分析を行なった。その結果、以下のことを明らかにした。 12)今川ら:日本建築学会環境系論文集,Vol. 84,No. 763,pp. 855-864,2019.9
1. 7〜9 月おける着衣量はどの月も、0.30〜0.50clo が最 13)国土交通省,過去の気象データ
も多かった。 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
2. 着衣量が高い方が快適温度が高い傾向であった。こ 14)今川ら,日本建築学会大会学術講演梗概集,2019.9
15)Griffiths: Report to the commission of the European communities. EN3S-090 UK:
の理由として窓開放や扇風機使用といった環境調整
University of Surrey Guildford. 1990
行動によって、高めの着衣量でも快適と知覚する温 16)Imagawa et al.: IOP Conference Series: Earth and Environment Science, Vol. 294,
度が高くなったと考えられた。 No. 1, 2019
3. 窓開放時の方が窓閉鎖時よりも快適温度が約 1℃高

空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2020.9.9 〜 30(オンライン)} -316-

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