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小川未明 ものぐさなきつね
小川未明 ものぐさなきつね
小川未明 ものぐさなきつね
ものぐさなきつね
小川未明
+目次
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2021/1/29 小川未明 ものぐさなきつね
さむ よる やま やま えさ
寒い夜のことでした。山にすんでいるきつねはもう山には餌がなかったの
さと で さが のはら うえ ある むら
で、里へ出てなにか探してこようと野 原の上を歩いてきました。きつねは村へ
にわとり こや おそ おも
いって 鶏 の小舎を襲おうと思っていたのです。
さむ そら む ふと いき
「おお、寒い。」と、きつねはつぶやいて、空を向いて、太い息をしました。
さむ ほし
「この寒いのに、どこへゆくのですか?」と、星はたずねました。
やま た さと にわとり と おも
「山に食べるものがなかったから、里へいって 鶏 でも捕ってこようと思うの
だ。」と、きつねはめんどうくさそうにいいました。
ほし とし こうかつ
星は、びっくりしました。しかし、きつねは、なかなか年をとっていて狡 猾
ほし おも
でありましたから、星はちょっとだますことはできないと思いました。
こんや かりゅうど ね ばん ほし
「今 夜あたり、 狩 人が寝ずに番をしているかもしれない。」と、星はささや
きました。
き わら
きつねは、これを聞いてせせら笑いをしました。
かりゅうど にわとり ばん
「なんで 狩 人が、 鶏 の番などをしているものか。」といいました。
にわとりごや あ ば し ほし
「おまえさんは、鶏 小 舎の在り場を知っているのですか。」と、星はきつね
と
に問いました。
むら なか こた
「なに、村の中をうろついてみればすぐわかることだ。」と、きつねは答えま
した。
ほし め わら
星は、目もとに笑いをたたえて、
かりゅうど う
「そんなことをして、うろついていると、 狩 人に撃たれてしまいますよ。そ
ま にわとり な じぶん
れよりここに、もうしばらく待っておいでなさい。やがて 鶏 が鳴く時 分で
こや み しんぼう かんじん
す。そうしたら、じきにその小舎を見つけることができます。辛 棒が肝 心で
ほし さと
す。」と、星は諭すようにいいました。
むら ほう み
「そうしようか。」と、ものぐさなきつねは村の方を見て、そうすることにし
みみ す よ ゆき ふ
ました。そしてじっと耳を澄ましていました。その夜は雪こそ降らなかった
さむ よる がまん
が、いつにない寒い夜でありました。きつねはもう、なんとも我 慢をすること
ができなくなりました。
はや にわとり な おも まぢか くろ もり
「早く、 鶏 め鳴かないかなあ。」と思っていますうちに、間 近の黒い森の
ほう いぬ こえ き
方で、犬のなく声が聞こえました。きつねは、びっくりしました。
わたし かりゅうど いぬ
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2021/1/29 小川未明 ものぐさなきつね
わたし かりゅうど いぬ
「そら、きつねさん、 私 のいわないことではありません。 狩 人の犬です
ほし
よ。」と、星はいいました。
た お ゆき うえ こご
きつねは、あわてて起とうとしましたが、尾が雪の上に凍えついてしまっ
と おも いた ひ はな
て、どうしても取れませんでした。やっとの思いで、痛いめをして引き離す
むな やま なか か こ
と、きつねは空しく山の中へ駆け込んでゆきました。
底本:「定本小川未明童話全集 3」講談社
1977(昭和52)年1月10日第1刷
1981(昭和56)年1月6日第7刷
初出:「読売新聞」
1922(大正11)年1月23~25日
※初出時の表題は「ものぐさな狐」です。
入力:ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正:江村秀之
2013年12月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫
(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったの
は、ボランティアの皆さんです。
●表記について
●図書カード
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