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736 Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol. 38, No.

8, 736∼742 (1991)〔 総 説〕 (74)

総 説

カ ー ドラ ンめ 性 質 と食 品 へ の 利 用

中 尾 行 宏*

Curdlan: Properties and Application to Foods

Yukihiro NAKAO*
*Vita
min and Food Research Laboratories, Vitamin and Food
Division, Takeda Chemical Ind., Ltd. 17-85, 2 cho-me,
Juso-Honmachi, Yodogawa-ku, Osaka 532

カ ー ド ラ ン は 微 生 物(Alcaligenes faecalis var . 有 す る.一 般 分 析 値 の 一 例 は 水 分3%,た ん 白 質0.9%,


myxogenes)が 産 生 す る 多 糖 類 で あ り,そ の水 分 散 液 脂 質0.1%以 下,炭 水 化 物90.4%,灰 分5.7%で あ る.
を 加 熱 す る と 凝 固 す る と い う 特 異 な 性 質 を も って い る . カ ー ド ラ ン は 安 定 な 物 質 で,ポ リ袋 な ど に 密 封 して 保 存

カ ー ド ラ ン は1966年,原 田 ら1)に よ っ て 発 見 さ れ,そ す れ ば 長 期 間 安 定 で,ゲ ル 化 能 を 失 う こ と は な い.


のcurdle(凝 固 す る)に ち な み カ ー ドラ ンと命 名 さ れ (3) 溶解性
た.カ ー ドラ ン の 示 す 特 異 な 性 質 は 多 く の 研 究 者 の 興 味 カ ー ドラ ンは 水,ア ル コ ー ル,そ の 他 の ほ とん どの有
を 呼 び,そ の 構 造,性 質,物 性,生 産 お よ び応 用 な どが 機 溶 媒 に 溶 け な い.水 酸 化 ナ ト リ ウ ム,リ ン酸 三 ナ ト リ
研 究 さ れ,こ れ ら の 成 果 は原 田 らの 総 説 な ど に 詳 し く報 ウ ム 水 溶 液 な ど の ア ル カ リ性 水 溶 液 に 溶 解 す る10).

告 さ れ て い る2)∼8). (4) ゲ ル形 成 性
本 稿 で は,カ ー ドラ ン の 食 品 用 途 に 限 り,関 連 す る性 カ ー ド ラ ン は 水 に 不 溶 で あ る が,そ の水 分 散 液 を加 熱

質 と 食 品 へ の 利 用 に つ い て 概 説 す る. す る と ゲ ル を 形 成 す る.こ の 加 熱 に よ っ て 得 られ る ゲ ル

に は,そ の 処 理 温 度 に よ っ て 二 つ の 型 が あ る .一 つ の型
1. カ ー ドラ ン の 性 質
は カ ー ド ラ ン の 水 分 散 液 を80℃ 以 上 の 温 度 で 加 熱 して

(1) 化学 構 造 で き る ゲ ル(High-set gel)で あ り ,そ の ゲ ル は熱不


カ ー ド ラ ン はD-グ ル コ ー ス 残 基 が グ ル コ ー ス のC1 可 逆 性 で あ る11).も う 一 つ の ゲ ル の 型 は 約60℃ で加熱
とC3位 で β-グ ル コ シ ド結 合 した 直 鎖 状 の β-1, 3-グ し た の ち,冷 して で き る ゲ ル(Low-set gel)で あ り12),
ル カ ン で あ る(図1)9). 寒 天 や κ-カ ラ ギ ー ナ ン の ゲ ル と 類 似 して い る .な お,
(2) 品 質 加 熱 を し な くて も カ ー ド ラ ンを0.05N程 度 の 水酸 化 ナ
カ ー ドラ ン は 流 動 性 の 良 い 白 色 粉 末 で,加 熱 凝 固性 を ト リウ ム な ど に溶 解 し,こ れを 静 置 した まま炭 酸 ガ スで

中 和 す る か14),透 析 膜 を用 いて 水 酸 化 ナ ト リウム を除去

し て も ゲ ル に な る13).ま た,pHの 高 い カ ー ドラ ンアル


カ リ液 にCa++, Mg++な どの カチ オ ンを 添加 して解離

した水 酸 基 と カチ オ ンに よ る架 橋 構 造 を つ く らせ る こ と

に よ って も ゲル を 形 成 さ せ る こ と が で き る .こ の よ うに
各 種 の カ ー ド ラ ン ゲ ル が あ る が ,以 下 本 稿 で述 べ る ゲル
図1 カ ー ドラ ンの化 学 構 造 は80℃ 以 上 で 加 熱 して で き る ハ イ セ ッ トゲ ル を 示 す も
* 武 田薬 品 工業 株 式 会 社(〒532 大 阪市 淀 川 区 十 三 本 町2丁 目 17-85)
中 尾:カ ー ドラ ンの性 質 と食 品 へ の利 用 737
(75)

の とす る.カ ー ドラ ンの ゲ ル 化 機 構 は 充 分 に は 解 明 さ れ ゲ ル強 度 は ほぼ 直線 的 に増加 す る19).

て い な い が,60℃ 加 熱 後 冷 却 あ るい は 中和 に よ るゲ ル (3) pH
カ ー ド ラ ン はpH 2∼10の 広 いpH域 で ゲ ルを 形 成
生 成 に は 水 素 結 合 が 関 与 し,80℃ 以 上 の加 熱 に よ るゲ
ル生成 に は疎 水 結 合 が 関 与 す る 三 次 元 的 網 目 構 造 に も と す る11)18)19).
pHが 約4∼10で 一 定 の ゲ ル 強度 を示 し,

づ くもの と考 え ら れ て い る12).カ ー ドラ ンゲ ルの 高 次 構 約2∼4で 若 干 ゲ ル 強 度 が高 くな る.こ れ に対 し,寒 天


で はpH約4.5以 下,ゼ ラ チ ンで はpH約6以 下,卵
造 は次 の 様 に 考 え ら れ て い る15)∼17).カ ー ドラ ン ゲ ル は

カ ー ドラ ン分 子 の 集 合 した ミ セ ル の 網 状 構 造 と ミ セ ル 内 白 アル ブ ミ ンで はpH約4∼4.5で ゲル 強度 は低 下 す る.

お よび ミセ ル間 に 存 在 す る 水 と か ら成 り立 っ て い る.ミ この こ とはカ ー ドラ ンが中 性 多糖 類 で あ る こと に起 因 し,

セ ル内 の カ ー ドラ ン分 子 は グ ル コ ー ス残 基7個 が1ピ ッ 他 の天 然 ゲル 化剤 と比 較 して カ ー ドラ ンの特 長 の一 つ で

チ とな った ヘ リ ッ ク ス構 造 を と っ て い る.カ ー ドラ ン分 あ る.

子 のヘ リ ック ス 構 造 は シ ン グ ル ヘ リ ッ ク ス と ト リ プ ル ヘ (4) 共 存 成分

リックス の混 在 した も の で あ り,ト リプル ヘ リ ック スの カ ー ドラ ンの ゲ ル強 度 に及 ぼ す無 機 塩,多 価 アル コー

部分 が ミセ ル の 接 点 域 で は な い か と 考 え ら れ て い る.な ル,有 機 酸 塩 な どの影 響 は低 濃度 で あ れ ば ほ とん ど無視

お,120℃ 以 上 の 熱 処 理 に よ っ て カ ー ド ラ ン分 子 の ほ と で き る11)19).庶糖 は30%以 上 に な る とゲ ル強 度 が低 下

ん どが ト リプ ルヘ リ ッ ク ス に 変 る こ と が 報 告 さ れ て い る. す るが,ぶ ど う糖 や 果 糖 で は ゲ ル 強 度 の低 下 が す くな

(5) 安 全 性 い18).で ん 粉 類 は ゲ ル強 度 を低 下 させ るが,後 述 す るよ

カ ー ドラ ン は各 種 の 毒 性 試 験 で 安 全 性 の 高 い こ と が 確 うに カ ー ドラ ンゲ ル の離 水 防止 に有 効 で あ る.

認 され て い る3).ま た,カ ー ド ラ ン は 寒 天 同 様,栄 養的 油 や 脂 溶 性物 質 を カ ー ドラ ン水 分 散 液 中 に機 械 的 に均


に不 活 性 で あ り7)食 物 繊 維 で あ る. 一 に分 散 後 ,加 熱 して ゲ ル化 させ る と多量 の油 や脂 溶 性

(6) 製造 法 物 質 を含 ん だ ゲ ルが 得 られ る.た とえ ば,カ ー ドラ ン3


カー ドラ ンは発 酵 法 で 生 産 さ れ る.ぶ ど う 糖,窒 素 源, %,コ ー ンオ イ ル24%,水73%の ゲ ル を乾 燥 す る と,

微量 の ミネ ラルな どを 含 む 培 地 中 で 生 産 菌(Alcaligenes 乾 物 中85%の 油 を含 む 乾燥 物 とす る ことが で きる.こ

faecatis var. myxogenes)を 培 養 し,カ ー ドランを れ を32℃ の 水 中 に浸 す と,吸 水 して か な り も との ゲ ル


産生 させ る.培 地 中 に 蓄 積 した カ ー ドラ ンを ア ル カ リで の 状 態 に もど る20).さ らに,乳 化 剤 を 用 いて 乳 化液 を調

溶 解 して 菌体 と分 離 し,中 和,濃 縮,洗 浄,乾 燥 して粉 製 し油 脂 含 有 ゲ ル をつ く る場 合,カ ー ドラ ン2∼3%で


末 とす る2)∼4),7). 油 脂 を50%程 度 ま で 含 有 さ せ る こ とが で き る.他 の ゲ
ル化 剤,ガ ム類 は カ ー ドラ ン と併 用 す ると一 般 にお互 い
2. カ ー ドラ ン ゲ ル の 性 質

(1) ゲ ル の テ ク ス チ ャ

カ ー ドラ ンゲ ル はか た く て も ろ い 寒 天 ゲ ル と や わ ら か

く弾力 の あ る ゼ ラチ ンゲ ル の 中 間 的 性 質 を 持 つ テ ク ス チ

ャを与 え る18).沸 と う水 中 で 加 熱 す る 場 合,カ ー ドラ ン

濃度1∼2%で 得 ら れ る ゲ ル は ゼ リー 程 度,4∼5%で こ

んに ゃ く程 度 の か た さ に な る .

(2) ゲル 化 に影 響 を 及 ぼ す 因 子

(1) 加 熱 温 度 と 時 間

カ ー ドラ ン に水 を 加 え ホ モ ジ ナ イ ズ し て 調 製 した 水 分

散液 を種 々 の 温 度 で 加 熱 し た 後 ,30℃ で ゲ ル強 度 を 測
定 す る と 図2の よ う に な る11).カ ー ド ラ ン は80℃ 以上

の加熱 で 熱 不 可 逆 性 の ゲ ル を 形 成 し,加 熱 温 度 の 上昇 と
共 に ゲ ル 強 度 は 増 加 す る .ま た,80℃ 以 上 で は加 熱 時

間が長 くな る と ゲ ル 強 度 は 増 加 す る18).
図2 カ ー ドラ ンの ゲ ル強度 に及 ぼ す 加 熱温 度 の影
(2) カー ドラ ン濃 度
響11)
カー ドラ ン濃 度 が5%程 度 まで で は 濃度 の増 加 と共 に
738 日本食品工業学会誌 第38巻 第8号 1991年8月 (76)

の 性質 が相 殺 され,ゲ ル強 度 が低 下 す る場 合 が多 い.
3. カ ー ドラ ンゲ ル の 実 用 的 調 製 法
(3) 冷 凍耐 性
カ ー ドラ ンゲ ル は冷 凍 耐 性 が あ る21).カ ー ドラ ンゲ ル カ ー ドラ ンの均 一 なゲ ル を調 製 す るた め に は,十 分分
は冷 凍 ・解凍 した場 合,離 水 が大 き くな る もの の ゲル の 散 され た水 分 散 液 を調 製 す る こ と,お よび水 分 散 液 を脱
組織 は保 持 され,ゲ ル強 度 はそ れ ほ ど変 化 しな い.一 方, 気 す る こ とが 必 要 で あ る(図3).十 分 分散 され た カー
寒 天,カ ラギ ー ナ ン,こ ん に ゃ くゲ ル は冷 凍 ・解 凍 によ ドラ ン水分 散 液 は粘 稠 な 液 また はペ ー ス ト状 で あ り,分
り物 性 が 著 し く劣化 す る22)(表1). 散 液 を 静 置 した と き カ ー ドラ ンが 沈 降 せ ず,上 部 に水 の
(4) ゲル の離 水防 止 分 離 が な い状 態 と な る.以 下 に 水分 散 液 の調 製 法 につ い
カ ー ドラ ン はゲ ル化 時 に水 を遊 離 しや す い.ま た,カ て 要 約 す る.
ー ドラ ンゲ ルを 保存 した り (1) 高速 撹 拌 法
,冷 凍 や レ トル ト処理 す る と
水 を遊 離 す る離 水現 象 を お こす.一 般 に離 水 は ゲ ル調 製 カ ー ドラ ンの 水 分 散 液 の調 製 に は30∼40℃ で 高速 回

時 の加 熱 温 度 が 高 い ほ ど増 大 し,カ ー ドラ ン濃度 が高 い 転 の ホモ ジナ イ ザ ー,カ ッ ター ミキ サ ー な どで 激 し く撹


ほ ど減 少 す る.こ の カー ドラ ンゲ ル の離 水 防止 に はで ん 絆 す る方 法 が 推 奨 され る.ミ キ サ ー容 器 に約30℃ の水
粉 の添 加 が 有 効 で あ る23)24).種々 の生 で ん 粉 は離 水 防 止 と カ ー ドラ ンを加 え,液 が 粘稠 に な る ま で高 速 で 混合 す

効 果 が あ る が,食 品 に添 加 す る場 合 に は食 品 の保 存 中の る.混 合 時 間 は使 用 機 器,カ ー ドラ ン濃 度(最 大 約8%

品 質 を 劣化 させ な い よ う老 化 の少 くな いで ん 粉 が望 ま し 程 度),液 温 な ど に よ り異 な るが,約5∼20分 で あ る.
い.ワ キ シー コー ンス ター チや 酢 酸化,リ ン酸架 橋 な ど 真 空 カ ッ ター ミキ サ ーを 用 い る とカ ー ドラ ンの分 散 と分
に よ る加工 で ん粉 の 使 用 が推 奨 され る.で ん 粉 の添 加 は 散 液 の脱 気 が 同時 にで き る.
ゲ ルの 冷 凍 ・解 凍 時 及 び レ トル ト時 の離 水 防 止 に も有 効 しか し,適 当 な高 速 撹 拌 機 が な い場 合 や,粘 度 の調 整

で あ る21)22). (高 粘 度 化)の 必 要 な 場 合 の た め以 下 の分 散 法 が 開発 さ

表1 カー ドラ ン,カ ラギ ー ナ ン,寒 天 お よび コ ンニ ャ クゲ ル の ゲ ル強 度 お よ び離 水
に及 ぼ す冷 凍-解 凍 の影 響
中 尾:カ ー ドラ ンの性 質 と食 品 へ の利 用 739
(77)

却 して 得 られ る ローセ ッ トゲ ル を ミキサ ー な どで 高速 撹
拌 す る とペ ー ス ト状 にな る.こ の方 法 は粘性 の高 い カ ー
ドラ ン水 分散 液 をつ くる場 合 に有 効 で あ る.

4. カー ドラ ンの食 品 へ の利 用

カ ー ド ラ ンの 食 品 へ の利 用 法 は,(1)既 存 食 品 の 品質

改 良 な どの 目的 で品 質 改 良 剤 と して使 用 す る場 合 と,(2)
食 品 成 分 と して使 用 し,新 規 な食 品 を つ くる場 合 とに大
別 され る.一 般 に カ ー ドラ ンを品 質 改 良 の 目的 で 既存 食
品 に少 量 添 加 す る場 合 に は粉 末 添 加 で もよ いが,カ ー ド
ラ ン主 体 に新規 な食 品 を つ くる場 合 に はカ ー ドラ ンの水

分 散 液 を 調 製 し使 用 す る必 要 が あ る.ま た,カ ー ドラ ン
を食 品 に使 用 した場 合,そ の品 質 改 良 効果 が よ り発揮 さ
れ るよ う業 種 別 製 剤 が開 発 され,上 市 され て い る26)27).
食 品 への 用 途例 を表2に 示 す.以 下 若 干 の利 用 例 に つ い
て紹 介 す る.

図3 カ ー ドラ ン ゲ ル の 調 製 法 (1) 食 品 改良 剤 と して の使 用
(1) 麺 類

れている. 中華 麺,う ど ん,即 席 中華 麺,そ ば な どで,カ ー ドラ


(2) 熱水添加 法 ンを 原 料 小 麦 粉 や そば 粉 に対 し0.2∼1%程 度 添加 す る

カー ドランの水 けん濁 液 を 加熱 した際 の カー ドラ ン粒 と,麺 の 腰 が 強 くな る,湯 もど しした麺 に ス ー プを入 れ

子の挙動 を位相差顕 微鏡 で観 察 す る と,カ ー ドラ ン粒 子 放 置 した と きの麺 のの び を抑 え る,ス ー プの 濁 りを少 な


の膨潤 は45℃ で始 まり,60℃ で 完 成 して い る25).熱 水 くす る,な どの 効 果 が認 め られ る28)29).カー ドラ ンを生
添加法 はカー ドラ ン粒 が60℃ で膨 潤 し,粘 稠 に な る性 中華 麺 へ 使 用 した場 合 の 一例 を図4に 示 す.
質を応用 した もので,カ ー ドラ ン濃 度 約3%以 下 の分 散 (2) 水 産 練製 品
液を調製する場合 に適 用 で き る.カ ー ドラ ンに添 加 す る 原 料 す り身 に対 し カー ドラ ンを0.2∼1%程 度 添加 す
水の全量の約4割 の水 を加 え混 合 した後(こ の と き脱 気 る と,製 品 のpHに 変 化 が な く,弾 力 が 向上 す る30)31).
してお くこ とが望 ま しい),撹 拌 しなが らこれ に残 りの また,製 造 に使 用 す る水 を 用 い,別 途 カ ー ドラ ンの ロー
水を沸 と う水 と して添加 す る と(約60℃ にな る)水 分 セ ッ トゲ ル をつ く り,こ の ゲ ル をす り身 に加 え る とす り

散液が得 られ る.水 分散 液 は40℃ 以 下 に な る とゲ ル化 身 が硬 くな り,成 型 が し易 くな る な ど作業 性 が向 上 す る.


するため,ま た約60℃ で放 置 す ると加 熱 ゲル の 強度 が (3) 食 肉加 工 品
経時的 に低 下 す る ので,こ の 分 散液 の処 理 は40℃ 以 上 食 肉 ソ ー セ ー ジ,ハ ムの場 合,加 熱 温度 は80℃ 以 下
で20分 以内 に行 な うこ とが 必 要 で あ る. で あ るが,カ ー ドラ ンを添 加 す る と保 水 性 を 向上 させ る
(3) 熱水添加 ・粉 末分 散 法 効 果 が あ る27).ソ ー セ ー ジで は 油脂 含 有 ゲ ル の利 用 が 開
カー ドラ ン1部 に常温(約25℃)の 水 約32部 を加 え 発 され て い る.た とえ ば カ ー ドラ ンを用 いて植 物 油 含 有
混合 した後,熱 湯(90∼100℃)約17部 を加 え 混 合 す る ゲ ルを調 製 し,そ れ を豚 脂 の 代 わ りに使 用 す る と,外 観
(45∼50℃ にな る).そ れ に撹 拌 しな が ら常 温 の 水50部 は豚 脂様 で低 脂 肪,低 カ ロ リーの 荒挽 き ソー セ ー ジを つ
を加え1% (w/w)の カ ー ドラ ン水分 散 液 を調 製 す る. くる こ とが で き る.こ の場 合 の 植物 油 含 有 ゲ ル の組 成 の
この1%水 分 散 液 が30℃ 以 下 に な った後 一 例 は水85部 ,植 物 油15部,カ ー ドラ ン2.5部,シ ョ
,カ ー ドラ ン
を所定濃度にな るよ うに粉 末 で加 え混 合 す る と水 分散 液 糖 脂 肪 酸 エ ス テ ル0.3部,ワ キ シ ー コ ー ンス ター チ10
が得 られ る.本 方法 は手 作 業 な ど低 速 の撹 拌 で 実 施 で き 重 量 部 で あ る.ま た,カ ー ドラ ンを ハ ンバ ー グな ど に添
る.
加 す る と焼 き時 の歩 留 が 向上 し,食 感 は 肉汁 が 多 く ソ フ
(4) ローセ ッ トゲル化 法(高 粘度 化) トで,ふ っ く らす る改 良 効果 が あ る.
(2)の熱 水添加 法で得 られ た 水 分散 液 を40℃ 以 下 に 冷
740 日本 食 品工 業 学 会 誌 第38巻 第8号 1991年8月 (78)

表2 カー ドラ ンの食 品 へ の用 途 例

カ ー ドラ ンゲル は耐 熱 性,耐 冷 凍 性 が あ るの で,電 子


レ ンジな ど で加 熱 して食 す る ホ ッ トゼ リーや 冷 凍 ゼ リー
を つ くる こ とが で き る26).ま た,果 汁 な どを含 む カ ー ド
ラ ンの 水分 散 液 を 球形 の鋳 型 に入 れ 加 熱 す る と,ゼ リー
は外 部 か ら熱 凝 固 す るの で,内 部 が 凝 固 しな い うち に冷
却 す る と,内 部 が 液 状 の球 状 ゼ リーが 得 られ る35).
カ ー ドラ ンはで ん 粉 と併 用 す る と,歯 切 れ の 良 い食 感

を もつ新 しいス ター チ ゼ リーを つ くる こ とがで き る36).


抹 茶 風 味 の ス タ ー チ ゼ リ ー の組 成 の 一 例 は カー ドラン
1.4%,ワ キ シ ー コ ー ンス ター チ7%,砂 糖20%,抹 茶
0.2%,水71.4% (w/w)で あ る.
(2) 成型 加 工 食 品
図4 カ ー ドラ ンの生 中華 麺 へ の利 用 例 カ ー ドラ ンの熱 凝 固 性 を利 用 す る と種 々の 特 長 の あ る

成 型 加 工 食 品 が得 られ る.
食 品 成 分 の溶 液 に カ ー ドラ ンを加 え,3(4)で 述 べ た ロ
ー セ ッ トゲ ル化 法 に よ り高 粘度 の水 分 散 液 を調 製 し
,細
孔 よ り熱 水 中 へ押 出す と,そ うめ ん状 や き しめ ん状 の食
(4) そ の他 品 が 得 られ る32).豆 乳 に カ ー ドラ ンを使 用 してつ くった
も ち粉 を 使 用 した餅 の煮 くず れ の抑 制26),ス ポ ン ジケ 豆 腐 めん の 一 例 を写 真 に示 す .本 品 は温 時 で も煮 くず れ
ー キ の冷 蔵 又 は冷 凍 保 存 時 の し っと り さの 保持32),ア イ しな い ので 温 め た り,煮 込 ん だ り,妙 め た りす る料 理 に
ス ク リー ム の 保 形 性 の 向 上33)34)などで カ ー ドラ ンの効 も使 用 で き る.同 様 の方 法 で,高 粘 度 の カ ー ドラ ンの4
∼5%水 分 散 液 を使 用 す る と冷 凍 耐性 の あ る糸 こん に
果 が 認 め られ て い る. ゃ
(2) 食 品成 分 と して の使 用 く様 食品 が 得 られ る.そ の他,常 温 ∼ 熱 時 に 溶 けな い ゼ

(1) ゼ リー類 リー寄 せ32),粘 稠性 原料,フ レー ク状 ・魚 卵 状 原料 の シ


中尾:カ ー ドラ ンの性 質 と食 品 へ の 利 用 741
(79)

14) KANZAWA, Y., HARADA, T., KOREEDA, A.


and HARADA, A.: Agric. Biol. Chem., 51,
1839 (1987).
15) KASAI, N. and HARADA, T.: ACS Symp.
ser. No. 141 (American chemical society,
Washington) p. 363 (1980).
16) FULTON, W.S. and ATKINS, E.D.T.: ACS
Symp. ser. No. 141 (American chemical
Society, Washington) p. 386 (1980).
写真 豆 腐 め ん の一 例
17) HARADA, T., KOREEDA, A., SATO, S. and
KASAI, N.: J. Electron Microsc., 28, (3),
ー ト状 や棒 状 へ の 成 型37)38),カ ー ドラ ンを 結 着 剤 と して
147 (1979).
利用 した 米 飯 成 型 品39)な ど が 開 発 さ れ て い る.こ れ ら 18) KIMURA, H., MORITAKA, S. and MISAKI,
の成型 品 は冷 凍 保 存 が 可 能 で,使 用 時 加 熱 し て も溶 け な M.: J. Food Sci., 38, 668 (1973).
19) 中西 造 ・楠 井 貞 郎 ・木 村 一 次 ・金 丸 恒 雄 ・大 西
い特長 が あ る.
功 二:日 本 農 芸 化 学 会 関 西 支 部278回 例 会,大 阪
(3) 食 用 フ ィル ム
(1972).
カー ドラ ン は フ ィ ル ム形 成 性 を 有 す る の で,水 や加 熱
20) 神 沢 慶 美 ・高 橋 央 ・原 田 篤 也 ・原 田 明;家 政
に よ り溶 け な い カ ー ド ラ ン フ ィ ル ム を 調 製 で き る40).カ 誌,38, 363 (1987).
ー ドラ ンに天 然 糊 料 ,で 21) 高 橋 央 ・ 原 田 篤 也:家 政 学 雑 誌,37, 251
ん 粉 な ど を 併 用 す る と,性 質及

び食感 の異 な っ た フ ィ ル ム が 得 ら れ る41). (1986).


22) NAKAO, Y., KONNO, A., TAGUCHI, T.,
文 献 TAWADA, T., KASAI, H., TODA, J. and
TERASAKI, M.: IFT Annual Meeting,
1) HARADA, T., MASADA, M., FUJIMORI, K. Chicago (1989).
and MAEDA,I.: Agric. Biol. Chem., 30, 23) 石 田 欽 一 ・志 賀 一 三 ・横 尾 良 夫:日 食 工 誌,25,
196 (1966). 673 (1978).
2) HARADA, T.: Process Biochem., 9, 21 24) ISHIDA, K. and TAKEUCHI, T.: Agric. Biol.
(1974). Chem., 45, 1409 (1981).
3) 原 田篤 也 ・佐 藤 重 彦:発 酵 と 工 業,36, 86 25) 岡 智:カ ー ド ラ ン研 究 報 告 集(武 田薬 品 工業
(1978). (株)),p. 77 (1972).
4) 佐 藤 重 彦 ・奥 村 健 吾 ・原 田 篤 也:ニ ュ ー フ ー ドイ 26) 中 尾 行 宏 ・片 桐 清:フ ー ドケ ミカ ル,No. 2,
ンダ ス ト リー,20, 49 (1978) . 72 (1990).
5) 原 田篤 也:ニ ュ ー フ ー ドイ ン ダ ス ト リ ー,29 (3), 27) 中 尾 行 宏:ニ ュ ー フ ー ドイ ン ダ ス ト リー,32 (4),
79 (1987). 1 (1990).
6) 原 田篤 也:ニ ュ ー フ ー ドイ ン ダ ス ト リ ー,29 (4), 28) 田 口 哲 也 ・大 倉 裕 二 ・中 尾 行 宏:日 特 開,平2-
58 (1987). 97361 (1990).
7) HARADA, T., SATO, S. and HARADA, A.: 29) 永沢 信:ニ ュ ー フ ー ドイ ンダ ス ト リー,20 (10),
Bull. Kobe Women's University, 20 (2), 49 (1978).
143 (1987). 30) 笠井 博 ・中 尾 行 宏:日 特 開,平2-65762 (1990).
8) 楠 井 貞 郎:フ ー ド ケ ミ カ ル,No . 3, 67 (1989). 31) 笠井 博 ・中 尾 行 宏:日 特 開,平2-79960 (1990).
9) HARADA, T., MISAKI, A. and SAITO, H.:
32) 中 尾 行 宏:日 本 食 品 工 業 学 会 関 西 支 部 第22回 秋
Arch. Biochem. Biophys., 124, 292 (1968).
期 シ ン ポ ジ ウ ム 講 演 要 旨 集,p. 29 (1990).
10) 木 村 博 ・日 下 部 健 介 ・ 徳 田 靖 則:日 特 公
,昭 33) 田 口 哲 也 ・大 倉 裕 二 ・中 尾 行 宏:日 特 開,平2-
52-43840 (1977). 145152 (1990).
11) MAEDA,I., SAITO, H., MASADA, M., MISAKI, 34) 中 尾 行 宏 ・戸 田 準 ・寺 崎 衛:調 理 科 学,22,
A. and HARADA, T.: Agric. Biol. Chem., 164 (1989).
31, 1184 (1967). 35) 木村 博 ・ 日下 部 健 介 ・佐 藤 重 彦 ・中 谷 弘 実:日
12) 紺野 昭 ・木 村 博 ・中 川 鶴 太 郎 ・原 田 篤 也:農
特 公,昭49-34824 (1974).
化,52, 247 (1978). 36) 石 田 欽 一:愛 知 県 食 品 工 業 試 験 所,生 菓 子技 術 講
13) 岡 本 奨 ・山 田 あ き 子:カ ー ドラ ン研 究 報 告 集
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(武 田 薬 品 工 業(株)),p, 45 (1972) . 37) 中尾 行 宏 ・奈 良 潔:食 品 加 工 技 術,10, 124
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