2013_gesuido50_11

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S-4-1-1(1/3)

津波シミュレーションを用いた
津波対策基本計画の策定について
日本上下水道設計(株) ○ 中井 博貴
中山 義一

1.はじめに
平成 23 年に発生した東北地方太平洋沖地震では、津波により人命、財産に未曽有の被害が生じ、下水道施
設も甚大な被害を受け、多くの自治体で下水道機能が停止した。これを受けて、内閣府中央防災会議は南海
トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループを設置し、平成 24 年に新たな被害想定を公表している1。太平
洋沿岸部に位置する下水道施設においては、津波対策が今後の課題となっている。
本稿では、東北大学で開発され我が国の多くの津波解析で採用されている TUNAMI-N2 モデルを用いて、
震源域から下水処理場までのシミュレーションを実施した内容を報告し、被害想定方法や津波対策計画策定
にむけて留意すべき事項について検討を行うものである。
2.解析方法 断層モデル

津波浸水シミュレーションは、①地震の断層モデルから計算された
①地殻変動量計算
初期水位のもとで、②外洋から沿岸への津波の伝播・到達、沿岸から
陸上への津波の遡上を数値計算して実施する。シミュレーションの解
津波初期水位 地形の隆起沈降
析フローを図 1 に示す。
(1)地形データのモデル化 地形データ
中央防災会議では被害想定結果だけでなく、解析に用いられた基礎 粗度係数
堤防等構造物
データ(地形、粗度、堤防、初期水位)についても公開しており、こ 潮位
れを活用するものとした。津波解析では、図 2 に示すように外洋部の
広大な範囲の計算では空間格子(メッシュ)を粗くとり計算時間の短 ②津波伝搬・遡上計算

縮を図り、検討対象とする沿岸部に近づくにつれてメッシュを徐々に
時系列結果
細かくすることにより解析精度を高めるネスティング手法が用いら 水深、流速
中央防災会議データは 2430m から最小で 10m
れるのが一般的である。
図 1 解析フロー
メッシュ単位で整理されている。

計算メッシュを徐々に細かくする

270m

810m
下水処理場
2430m 領域

図 2 ネスティング手法のイメージ 図 3 地形データ 2m メッシュ(左:DSM、右:DEM)

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本検討では、下水処理場内での対策に主眼を置くために、処理場周辺については 10m メッシュを更に細分
化して 2m メッシュで解析を行うものとした。国土地理院より航空レーザ測量結果を提供いただき、2m メッ
シュの作成を行った。図 3 に示すような構造物等を含む地形 DSM (DigitalSurfaceModel)とともに、以下の 2
点の理由から構造物の影響を考慮するために、構造物等を含まない地形 DEM(DigitalElevationModel)のデータ
を作成して解析を実施した。
①津波のせき上げ高を比エネルギーから算出する。
②「津波避難ビル等の構造上の要件に係る新ガイドライン」2の津波波圧算定式において、遮蔽物による津
波波力の低減係数を検討する。
(2)断層モデルによる地殻変動量の計算
断層運動に伴う変形は、均質半無限弾性体での食い違い理論による Okada(1985) 3、Okada(1992)に基づいて
地殻変動量を計算した。この方法では、表 1 に示すような断層長等の断層パラメータを入力して鉛直変位分
布を計算する。複数のセグメントを設定して、図 4 のようにすべり量の不均質な領域(アスペリティ)を表現
している。
津波の初期水位がこの海底地盤の鉛直変位分布に一致するものとして津波伝搬計算を開始する。また、初
期水位と同時に、鉛直変位量(沈降・隆起)を陸域や海域の地形データの高さから差し引くものとした。た
だし、地震による陸域の隆起が想定される場合には、安全側の観点
から隆起量を考慮しないものとした。
表 1 断層パラメータ
沈降量大
セグメント 緯度 経度 長さ 幅 上端深さ 走行 傾斜角 すべり角 すべり量
No. 度 N 度 E km km km 度 度 度 m
1 40.168 144.507 100.0 100.0 1.0 193.0 14.0 81.0 10.00
2 39.300 144.200 100.0 100.0 1.0 193.0 14.0 81.0 20.00
3 38.424 143.939 100.0 100.0 1.0 193.0 14.0 81.0 35.00
4 37.547 143.682 100.0 100.0 1.0 193.0 14.0 81.0 10.00
5 36.730 143.070 100.0 100.0 1.0 193.0 14.0 81.0 7.50
6 40.367 143.394 100.0 100.0 24.2 193.0 14.0 81.0 1.00
隆起量大


7 39.496 143.100 100.0 100.0 24.2 193.0 14.0 81.0 3.00
8 38.620 142.853 100.0 100.0 24.2 193.0 14.0 81.0 4.00
9 37.744 142.609 100.0 100.0 24.2 193.0 14.0 81.0 2.00
10 36.926 142.009 100.0 100.0 24.2 193.0 14.0 81.0 2.00
(4)


(3)津波伝搬・遡上計算 図 4 地殻変動量=初期水位

初期水位の決定後に、津波伝搬計算を浅水波理論に基づいて水位と流速を算出する。陸上遡上や引き波に
伴うによる浸水や構造物への波力を計算するために、陸域では遡上計算を行うものとした。計算条件をまと
めると表 2 のとおりである。
表 2 計算条件
項目 設定条件
メッシュ 2430m→810→270→90→30→10m 中央防災会議データ
構成 →2m(建物あり) 航空レーザ測量データ
モデル 2430~810m領域:線形長波理論
方程式 270~2m領域:非線形長波理論
数値解法 二次元 有限差分法(リープフロッグ法)
断層パラメータに基づいて海底地盤の
初期条件
鉛直変位量を算定し、初期水位分布と設定
沖合:自由透過境界
境界条件 海岸:2430~270m領域 完全反射境界
90~2m領域 移動境界(遡上)
潮位 朔望平均満潮位(初期水位として考慮)
地盤変位 初期条件として地震による地盤変位の隆起沈降分を反映
施設条件 河川堤防等を反映
計算時間 2時間 時間解像度:0.05sec
粗度係数:水域0.025、住宅地0.04~0.06、
粗度条件 図 5 津波伝搬計算結果(地震発生後 30 分後)
工場0.04、農地0.02、林地0.03 中央防災会議データ

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3.解析結果
解析結果として浸水深のみでなく、図 6 に示すように流
速や流向についても、空間的に時系列で表示することが可
能である。2m メッシュでは道路上や構造物の間を流れる状
況を確認できた。
流速や流向から各構造物の壁面に働く波圧算定式の低減
係数の検討が可能となる。また、漂流物の特定は困難であ
るものの、衝突方向等の概略検討が可能となる。
図 7 に示すように、県で想定された結果と今回計算を実
施した結果を比較すると、最大浸水深、浸水区域、津波到
達時間等が概ね一致しており、構築した計算モデルの妥当
性が確認できた。 図 6 遡上計算結果(2m メッシュ領域)

浸水深(m)
0.0 - 0.3
0.3 - 1.0
1-2
2-3
3-5
5 - 10
流速流向

図 7 最大浸水深 10m メッシュ(左:県想定、右:今回計算)


4.おわりに
(4)

下水処理場周辺を詳細にシミュレーションすることにより、津波対策について以下の検討が期待できる。
①断層パラメータが設定されていれば、断層モデルを用いて同様の津波解析が可能である。また、最大クラ
スとともに、頻度の高い地震について解析を実施することにより、段階的な津波対策の検討が期待できる。
②下水処理場内の水深、流速結果を用いて、従来の設計波力より低減した対策結果が得られる可能性や、各
施設の重要度と併せて対策優先度の検討が期待できる。
③下水処理場周辺の緊急輸送路等の状況も併せて解析することにより、避難計画や事業継続計画 BCP への活
用が期待できる。
謝辞:本稿の内容は、
(公財)日本下水道新技術機構(以下、下水道機構)と筆者らを含むメンバーによる「津
波シミュレーションモデル利活用マニュアル」策定に係る共同研究の検討作業成果に基づいている。多方面
でご協力頂いた防衛大学校 藤間教授、鴫原助教、各自治体、下水道機構研究第一部、並びにコンサルタン
ト各社の皆様に感謝の意を表します。
[参考文献等]
1
内閣府中央防災会議 http://www.bousai.go.jp/jishin/index.html
2
東日本大震災における津波による建築物被害を踏まえた津波避難ビル等の構造上の要件に係る暫定指針
3
Okada,Y.:Surface deformation due to shear and tensile faults in a half-space, Bull.Seism.Soc.Am., Vol.75, 1985
[問合せ先] 日本上下水道設計(株) 名古屋総合事務所設計一部 中井博貴
〒460-0022 名古屋市中区金山一丁目 14 番 18 号 TEL:(052)217-8612

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