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分析化学実習レポート1
分析化学実習レポート1
・抱水クロラールの滴定
・測容器の補正
・酸塩基滴定
2022 年 5 月 1 日
学籍番号 062101289
氏名 藤井康平
抱水クロラールの滴定
実験日 2023/4/19 気温 24℃ 気圧 1012hPa 湿度 55%
目的
逆滴定を用いることにより, 抱水クロラールの純度を求める. 逆滴定の原理や利点, 空試験の意
味, 抱水クロラールの構造, 水酸化ナトリウムとの反応などについて学ぶことが目的である.
実験手順
結果
フェノールフタレイン水溶液を入れると共栓つき三角フラスコ中の水溶液は濃い赤色へと変化
し, 硫酸を滴定するにつれその赤色は次第に薄くなり, 薄いピンク色へと変化していった.
滴定終了後の共栓つき三角フラスコの底には白色沈殿が生成していた.
4 回の滴定でそれぞれ用いた抱水クロラールの重さと滴定終了までに加えた硫酸の体積を以
下の表に示す.
表 1 滴定で用いた抱水クロラールの重さと滴定終了までに加えた 0.5M 硫酸の体積
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
抱水クロラールの重さ(g) 1.0104 1.0065 1.0120 1.0170
滴定終了までに加えた 0.5M
10.12 4.80 3.99 3.90
硫酸の体積(ml)
次に, 4 回行った空試験で滴定終了までに加えた硫酸の体積を以下の表に示す.
表 2 空試験の滴定で用いた 0.5M 硫酸の体積
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
滴定終了までに加えた
10.01 10.02 9.97 10.05
0.5M 硫酸の体積(ml)
抱水クロラールを用いた滴定のデータから抱水クロラールの純度を求める.
ただし 1 回目の滴定において, 用いた NaOH は 1.00×10-2mol であり, 加えた硫酸は 1.01×10-2mol
である. この時点で抱水クロラールが意味をなしていないことになる . そのため純度は求められな
い. 原因については考察で述べる.
表 4 実際に量り取った抱水クロラールの mol 数
2 回目 3 回目 4 回目
実際に量り取った抱水ク
6.09×10-3mol 6.12×10-3mol 6.15×10-3mol
ロラールの mol 数
以上のデータから純度を計算した. 結果を以下に示す.
表 5 抱水クロラールの純度
2 回目 3 回目 4 回目
抱水クロラールの純度(%) 85.4% 98.2% 99.1%
データサンプルが 3 つしかないため Q 検定を用いることはできないので, 3 つの平均を取ると,
94.23%となる.
考察
次に, どのような反応が起こったかを考える.
まず, 抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反応で C2HCl3(OH)2+NaOH→CHCl3+HCOONa+H2O
が起こると考えられる. クロロホルムとギ酸ナトリウムが生成するとして考えた . 詳しい反応機構に
ついての考察は後ほど行う.
そして, 硫酸と水酸化ナトリウム水溶液の反応で H2SO4+2NaOH→Na2SO4+2H2O が起こる.
図 1 抱水クロラールの反応機構
抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反応を調べると, 自分が考えたもの以外の反応機構で名前
がついた反応があることが分かった. その反応について調べたことを述べる. 反応名はリーベンハ
ロホルム反応といい, 本来はアセチル基を持つ化合物にハロゲンと塩基を作用させ, カルボン酸と
トリハロメタンが得られる反応で, ヨードホルム反応はこの反応の一例である.
図 2 リーベンハロホルム反応の反応機構※1※2※3
このリーベンハロホルム反応機構の下段の最初の構造の X を Cl で置き換えたものがクロラール
である. ヘミアセタール構造はとらないが, 最終生成物も抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反
応生成物と同じであることから, この反応機構をたどっている可能性もあると考えられる.
明らかになった反応生成物から, 実験中に生じた白い沈殿はギ酸ナトリウムであると考えられる.
調べたところ, ギ酸ナトリウムの性質の一つに吸湿性があった※4. ここで, なぜ吸湿性が高いかにつ
いて考える. 他に吸湿性があるものとして, 塩化カルシウムやシリカゲルなどが挙げられる. 塩化カ
ルシウムは中心金属のカルシウムがルイス塩基として働き, そこに水が配位する形で結合するため,
水との反応性が高く吸湿性が高い. 一方シリカゲルは, 結晶構造に隙間が多く表面積が大きくな
り, 分子間力によって多くの水分子を引き付けるために吸湿性が高くなる . ギ酸ナトリウムの場合
は, シリカゲルのように長くつながった結晶構造は持たないが, ルイス酸として働くことのできるナト
リウムが存在しているので, 塩化カルシウムと同じ理由により吸湿性が高いと考えられる.
図 3 アセトンの構造
続いて二つ目の理由について考察する. 実際に量り取った抱水クロラールの量と丁度中和される
ように水酸化ナトリウム水溶液の体積を計算し, 中和点の pH を求める.
4 回分量り取った抱水クロラールの質量はそれぞれ, 1.0104g, 1.0065g, 1.0120g, 1.0170g である.
この平均をとると, 1.0115g となる. 以下抱水クロラールの質量はこの値を用いる. すると, 抱水クロ
ラールの mol 数は 1.0115g/(165.4g/mol)で求められ, 値は 6.12×10-3mol となる. 使用した水酸化ナ
トリウムの濃度を 1.00M とすると, 丁度中和させるために必要な水酸化ナトリウム水溶液の体積 (x
と置く)は, 次のように計算できる.
1M×xL=6.12×10-3mol よって x=6.12×10-3L となる. 水を 2.5ml 用いているので, 水酸化ナトリウム水
溶液の体積と合計して 8.62×10-3L の溶液となった. 抱水クロラールの pKa は 10※6 であるので, 弱
酸である. この時, 中和点における水素イオン濃度[H+]=√KaKw/C と表せる. (Ka は酸解離定数, Kw
は水の自己解離定数, C は酸あるいは塩基の濃度である) 今回は C=6.12×10-3mol/8.62×10-3L とな
る. これを用いて計算すると, [H+]=1.19×10-12 Mとなり, pH は 11.9 となる. この pH が変色域に含ま
れるような pH 指示薬を探す. 以下に様々な pH 指示薬とその変色域, 変色をまとめた図を示す.
図 4 pH 指示薬の変色域と変色の仕方※7
まとめ
滴定の基本, 逆滴定, 適した pH 指示薬, 抱水クロラールの性質, その他周辺事項について学ぶこ
とが出来た. 滴定実験を実際に行って, 器具の扱い方や注意事項を理解した.
参考文献
1 Brown, M. K.; Corey, E. J. Org. Lett. 2010, 12, 172. DOI: 10.1021/ol9025793
2 Kawasumi, R.; Narita, S.; Miyamoto, K.; Tominaga, K.-i.; Takita, R.; Uchiyama, M. Sci. Rep.
2017, 7, 17967. doi:10.1038/s41598-017-17116-4
3 Cao, L.; Ding, J.; Gao, M.; Wang, Z.; Li, Z.; Wu, A. Org. Lett. 2009, 11, 3810.
doi:10.1021/ol901250c
4 国際化学物質安全性カード(ICSCs) CAS 登録番号 141-53-7 ENETICS 番号 205-488-0 ギ酸ナ
トリウム
5 国際化学物質安全性カード(ICSCs) CAS 登録番号 67-64-1 ENETICS 番号 200-662-2 アセトン
6 安全データシート(SDS) 抱水クロラール 昭和化学株式会社
7 http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q43 (キリヤ化学株式会社)
測容器の補正
実験日 2023/4/20 気温 25℃ 気圧 1011hPa 湿度 54%
目的
実験手順
あらかじめスタンドにクランプを用いて垂直にビュレットを固定した.
駒込ピペットを用いてビュレットに蒸留水を満たし, コックを開けて水を流した.
次に, 空の共栓つき三角フラスコの重さを, 蓋を含めて天秤で量った.
駒込ピペットを用いてビュレットの目盛りより上まで蒸留水を入れ, 0にメニスカスを合わせた.
共栓つき三角フラスコにビュレットを用いて蒸留水を流し入れ, 目盛りが 5cm3 になったところで
止めた.
その後, 共栓つき三角フラスコの重さを測った.
同様の操作をあと三回繰り返した.
蒸留水を流し入れる量を 15cm3, 25cm3 にして同様に四回ずつ実験を行った.
結果
5cm3 の時
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
空の共栓つき三角
140.0263 144.9958 149.9876 154.9312
フラスコの重さ(g)
水を入れた後の共
栓つきフラスコの重 144.9958 149.9876 154.9312 159.9205
さ(g)
蒸留水の重さ(g) 4.9645 4.9918 4.9436 4.9893
15cm3 の時
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
空の共栓つき三角
159.9205 174.8812 189.8231 204.7868
フラスコの重さ(g)
水を入れた後の共
栓つきフラスコの重 174.8812 189.8231 204.7868 219.7418
さ(g)
蒸留水の重さ(g) 14.9607 14.9419 14.9637 14.9550
25cm3 の時
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
空の共栓つき三角
140.3501 165.3194 190.2851 140.3886
フラスコの重さ(g)
水を入れた後の共
栓つきフラスコの重 165.3194 190.2851 215.2723 165.3678
さ(g)
蒸留水の重さ(g) 24.9693 24.9657 24.9872 24.9792
Q 検定の結果
5cm3 15cm3 25cm3
0.4336 0.6009 0.3702
次に,実際に得られた蒸留水の重さから容量の補正を行った.
まず, 25℃, 785.5mmHg における水の重さを M’とし, 値を求めた. M’=1000-x(補正値)として表せ
る.
x=4.093-0.0034×(25.0-20.0)-0.0013×(760-758.5)=4.07405
最後に,これらの補正値を用いて補正曲線を作成した.
補正曲線
補正値 /cm3
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
0 5 10 15 20 25 30
-0.02
ビュレットの目盛り /cm3
考察
電子天秤の仕組みについて調べた.
図 1 電子天秤の構造
電子天秤の構造は主に三つの機構から構成されてい
る. 一つ目は, 被測定物の質量を電磁力で釣り合わせる
復元力発生機構, 二つ目はつり合い状態を監視する変
位検出機構, 三つ目は制御機構である. 復元力発生機
構は, 磁石とフォースコイルの組み合わせで, コイルに電
流を流すと電磁力が発生し, 図で右側のさおが下向きに
動く力となる. この力が物理天秤でいうところの分銅の役
割を果たしている. 具体的には, 被測定物に対してつり合
いがとれるように自動的に電流が調節される. 丁度つり
合った時に
図 2 物理天秤と電子天秤の原理の比較
コイルに発生する力 F と荷重 W が一致する. この時の電流の大きさで被測定物の重さが分かる.
ここで, 電子天秤の特徴的な点は, 重力加速度が電磁力とは関係のない力であるということであ
る. 重力加速度は場所によって異なるので, 同じ質量の物質でもつり合いに必要な電流はその場
の重力加速度に応じて変化してしまう. 結果, 電子天秤の感度が変わることになるため, 実際の使
用場所で分銅を用いた校正を行うことが必要である. また, 電磁力を発生させるマグネットは温度
によりその強さがわずかながら変化する性質があり, 感度が変化する原因となっている. このため,
室温が変わるたびに電子天秤を校正する必要がある.※3 このように, 電子天秤は磁性を利用してい
る装置のため, 外部環境からの磁力は測定結果に異常をもたらす可能性がある . 電子天秤は非常
に精密に測定できる代わりに, ほんの微量の変化も敏感に感じ取るため, 度々校正する必要がある
ことが分かった.
まとめ
参考文献
1 続 実験を安全に行うために -基本操作・基本測定 編- 第 4 版 2021 2 化学同人 p118
2 続 実験を安全に行うために -基本操作・基本測定 編- 第 4 版 2021 2 化学同人 p89
3 質量, 容量の正確な軽量 宮下文秀 ぶんせき 2008 1 p2 日本分析化学会
酸塩基滴定
実験日 2022/4/21 気温 27℃ 気圧 1004hPa 湿度 51%
目的
水酸化ナトリウム標準溶液と一次標準フタル酸水素カリウムによる中和滴定を行う . 中和滴定の
基本操作や, フェノールフタレイン水溶液とメチルレッド水溶液の滴定範囲の違いについて学ぶこ
とが目的である.
実験手順
結果
滴定の結果を以下に示す.
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目 5 回目 6 回目
フタル酸水素カ
0.2172 0.1997 0.2097 0.2155 0.1937 0.2007
リウム(g)
0.1M NaOH(ml) 10.78 9.89 10.50 10.73 7.72
5 回目のデータが無い理由は, 色の変化が分かりづらくどこで滴定量を定めればよいかが分から
なくなってしまったからである.
考察
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
水酸化ナトリウムの
0.09865 0.09887 0.09779 0.09834
濃度(M)
この結果より, 滴定に明らかな失敗はなかったと考えられる.
次に, メチルレッドとフェノールフタレインの構造について調べる.
図 1 メチルオレンジの構造※2
図 3 メチルレッドの構造
上にメチルオレンジ, フェノールフタレイン, メチ
ルレッドの構造を示した. これらの物質に共通
しているのは, 芳香環を持っているということ
である. メチルオレンジ, フェノールフタレインに
ついては水素イオン濃度の違
図 2 フェノールフタレインの構造※2
分子が光を吸収することは, 電磁波である光の電場の振動に合わせて分子中の電子分布が共鳴
して振動することに対応する. 分子のエネルギーは量子化されているためとびとびのエネルギーを
持つ. ここで, 分子において基底状態と, それよりも一段階エネルギーの高い最低励起状態を考え
る. 多くの有機分子では, この二つの状態のエネルギー差が紫外線の光のエネルギーに対応して
いるため色を持たないが, π 共役分子の場合はこのエネルギー差が可視光領域に入る. また, この
二つの状態の差は分子の HOMO と LUMO のエネルギー差(ΔEHL)で近似される. 可視光領域は
紫外領域よりも波長が長いので, ΔEHL は小さくなる.
次に, 以上の事実を参考にしてフェノールフタレインとメチルレッドで色の変化が異なる理由を考察
する.
まとめ
参考文献
1 高見聡 化学と教育 66 巻 98 号 (2018) p428 日本化学会
2 平松茂樹 化学と教育 65 巻 8 号 (2017) p396 日本化学会
3 奥山格 丸善出版 有機化学 plus on web
4 長成商事株式会社 取扱商品 安息香酸 500g (ホームページ)
5 村中厚哉 化学と教育 65 巻 5 号 (2017) p246-249 日本化学会