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分析化学実習レポート 1

・抱水クロラールの滴定
・測容器の補正
・酸塩基滴定

2022 年 5 月 1 日

学籍番号 062101289

氏名 藤井康平

抱水クロラールの滴定
実験日 2023/4/19 気温 24℃ 気圧 1012hPa 湿度 55%

目的
逆滴定を用いることにより, 抱水クロラールの純度を求める. 逆滴定の原理や利点, 空試験の意
味, 抱水クロラールの構造, 水酸化ナトリウムとの反応などについて学ぶことが目的である.

実験手順

0.5M 硫酸を用いて 100ml のビーカーを共洗いした.


共洗いしたビーカーに約 50ml の 0.5M 硫酸を入れた.
蒸留水を入れておいたビュレットから蒸留水を抜き, 0.5M 硫酸で共洗いした.
抱水クロラールを 1.0104g 精秤し,300ml の共栓フラスコに入れた.
この共栓フラスコに水 2.5ml をメスピペットを用いて加え, さらにホールピペットを用いて 1M
NaOH 水溶液を 10.00ml 加え, その後 2 分間放置した.
溶液の色の有無を判断しやすくするために三角フラスコの下に白い紙を敷いた.
この溶液に 1%フェノールフタレイン水溶液を 1 滴加え, すぐに 0.5M 硫酸を溶液が無色になるま
で加えて値を記録した.
その後共栓つき三角フラスコの中の溶液をハロゲン廃液に捨て, アセトンで 2 回共洗いし, 次に
蒸留水で 2 回共洗いし, 最後にアセトンで置換してからドライヤーで乾かした.
同様の操作をあと三回行った. この時,精秤した抱水クロラールはそれぞれ 1.0065g, 1.0120g,
1.0170g であった.
最後に, 抱水クロラールを入れない空試験を 4 回行った.

結果
フェノールフタレイン水溶液を入れると共栓つき三角フラスコ中の水溶液は濃い赤色へと変化
し, 硫酸を滴定するにつれその赤色は次第に薄くなり, 薄いピンク色へと変化していった.

滴定終了後の共栓つき三角フラスコの底には白色沈殿が生成していた.

4 回の滴定でそれぞれ用いた抱水クロラールの重さと滴定終了までに加えた硫酸の体積を以
下の表に示す.
表 1 滴定で用いた抱水クロラールの重さと滴定終了までに加えた 0.5M 硫酸の体積
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
抱水クロラールの重さ(g) 1.0104 1.0065 1.0120 1.0170
滴定終了までに加えた 0.5M
10.12 4.80 3.99 3.90
硫酸の体積(ml)

次に, 4 回行った空試験で滴定終了までに加えた硫酸の体積を以下の表に示す.
表 2 空試験の滴定で用いた 0.5M 硫酸の体積
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
滴定終了までに加えた
10.01 10.02 9.97 10.05
0.5M 硫酸の体積(ml)

この 4 つのデータを元に平均をとると 10.01ml となる. これより, 水酸化ナトリウム水溶液の濃度は


約 1.00M であるのでこれ以下の濃度にはこの値を用いる.

抱水クロラールを用いた滴定のデータから抱水クロラールの純度を求める.
ただし 1 回目の滴定において, 用いた NaOH は 1.00×10-2mol であり, 加えた硫酸は 1.01×10-2mol
である. この時点で抱水クロラールが意味をなしていないことになる . そのため純度は求められな
い. 原因については考察で述べる.

用いた水酸化ナトリウムと硫酸から理論上計算した抱水クロラールの mol 数を以下の表にまとめ


た.
表 3 理論上の抱水クロラールの mol 数
2 回目 3 回目 4 回目
理論上の抱水クロ
5.20×10-3mol 6.01×10-3mol 6.10×10-3mol
ラールの mol 数

一方実際に量り取った抱水クロラールの重さを , 抱水クロラールの分子量 165.4g/mol により計算


した.同様に結果を以下の表に示す.

表 4 実際に量り取った抱水クロラールの mol 数
2 回目 3 回目 4 回目
実際に量り取った抱水ク
6.09×10-3mol 6.12×10-3mol 6.15×10-3mol
ロラールの mol 数

以上のデータから純度を計算した. 結果を以下に示す.

表 5 抱水クロラールの純度
2 回目 3 回目 4 回目
抱水クロラールの純度(%) 85.4% 98.2% 99.1%
データサンプルが 3 つしかないため Q 検定を用いることはできないので, 3 つの平均を取ると,
94.23%となる.

考察

1 回目の滴定を失敗した理由について考える. フェノールフタレイン水溶液を入れた後, 静置したま


ま滴定を続けたことが原因だと考えられる. また, 300ml の三角フラスコを使用していたこともあり,
底面積が大きかったために静置したままでは上手く中和されなかったとも考えられる.

2 回目の滴定を失敗した理由について考える. 三角フラスコに抱水クロラールを入れた後, メスピ


ペットの操作が上手くいかず, 時間が経ってしまったため抱水クロラールが空気中の水分を吸収し
て体積が増えてしまい, 純度が下がったと考えられる. また, 終点を見誤った可能性が高い. これに
より実際に必要であった硫酸よりも多くの量を用いてしまい, さらに純度が低く出た可能性が高い.

次に, どのような反応が起こったかを考える.
まず, 抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反応で C2HCl3(OH)2+NaOH→CHCl3+HCOONa+H2O
が起こると考えられる. クロロホルムとギ酸ナトリウムが生成するとして考えた . 詳しい反応機構に
ついての考察は後ほど行う.
そして, 硫酸と水酸化ナトリウム水溶液の反応で H2SO4+2NaOH→Na2SO4+2H2O が起こる.

抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反応機構を考察する. クロラールのアルデヒド基の C は求電


子性が高く, さらに隣の C についている 3 つの Cl の誘起効果によりさらに求電子性が高くなって
いる. このため水の O の lone pair が攻撃し, ヘミアセタール構造をとる. これにより抱水クロラール
を得る. 特に Cl の誘起効果により水の攻撃を受けやすいために, 平衡はヘミアセタールに偏ると
考えられる. 次に水酸化ナトリウムが塩基として働き, ヘミアセタールの水素を引き抜き, O アニオン
となり, Cl の誘起効果によって脱離しやすくなった CCl3 基が脱離し, 炭素アニオンができ, このアニ
オンが生じたギ酸の OH 基のプロトンを引き抜くことにより, 最終的にクロロホルム, ギ酸ナトリウム,
水が生成すると考えられる. 以下に, 構造とともに反応機構を示す.

図 1 抱水クロラールの反応機構
抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反応を調べると, 自分が考えたもの以外の反応機構で名前
がついた反応があることが分かった. その反応について調べたことを述べる. 反応名はリーベンハ
ロホルム反応といい, 本来はアセチル基を持つ化合物にハロゲンと塩基を作用させ, カルボン酸と
トリハロメタンが得られる反応で, ヨードホルム反応はこの反応の一例である.

図 2 リーベンハロホルム反応の反応機構※1※2※3

このリーベンハロホルム反応機構の下段の最初の構造の X を Cl で置き換えたものがクロラール
である. ヘミアセタール構造はとらないが, 最終生成物も抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反
応生成物と同じであることから, この反応機構をたどっている可能性もあると考えられる.

明らかになった反応生成物から, 実験中に生じた白い沈殿はギ酸ナトリウムであると考えられる.
調べたところ, ギ酸ナトリウムの性質の一つに吸湿性があった※4. ここで, なぜ吸湿性が高いかにつ
いて考える. 他に吸湿性があるものとして, 塩化カルシウムやシリカゲルなどが挙げられる. 塩化カ
ルシウムは中心金属のカルシウムがルイス塩基として働き, そこに水が配位する形で結合するため,
水との反応性が高く吸湿性が高い. 一方シリカゲルは, 結晶構造に隙間が多く表面積が大きくな
り, 分子間力によって多くの水分子を引き付けるために吸湿性が高くなる . ギ酸ナトリウムの場合
は, シリカゲルのように長くつながった結晶構造は持たないが, ルイス酸として働くことのできるナト
リウムが存在しているので, 塩化カルシウムと同じ理由により吸湿性が高いと考えられる.

次に, 実験後の三角フラスコを初めにアセトンで洗う意味について考える . アセトンは揮発性が高


いという性質やよく物質を溶かすという性質がある ※5. 同じく洗浄でよく使う蒸留水と比較して違い
を調べる. 揮発性が高いというのは, 分子同士のつながりが切れやすいということであり, これは分
子間力が弱いことと同値である. 分子間力の強弱の原因の一つに, 分子の極性が挙げられる. ここ
で, 水とアセトンの極性の違いを考察する. 水は OH 結合を持ち, O の電気陰性度は 3.4, H の電気
陰性度は 2.2 である. このため OH 結合は極性を持つ. さらに水は水素結合によってより強い分子
間力を得る. 一方アセトンは CO 二重結合を持つ. C の電気陰性度は 2.5 で, OH 結合の極性より
は少し弱い. また, カルボニルには二つのメチル基が結合している. メチル基は電子供与性の置換
基で, カルボニル C の δ+性が少し失われるため, 極性が少し弱くなる. アセトンは水素結合を形成
しない. これらの違いから, アセトンの方が極性が弱く, 揮発性が高いと考えられる. 揮発性が高い
と器具を洗った後すぐに乾くため, 次の実験に使いやすい. 実験で最後にアセトンで置換したのは
このためだと考えられる. 次に, 水とアセトンで溶解できるものに違いがある理由について考える .
水は大きな極性をもつので極性分子をよく溶かし, 無極性分子は溶かさないが, アセトンは CO 二
重結合の極性部分と C 同士の単結合の無極性部分が同一分子内に入っているため , 極性分子と
無極性分子の両方を溶かすことができると考えられる.

図 3 アセトンの構造

次に, 空試験を行う意味について考える. 空試験では, 抱水クロラールを用いずに同様の実験をお


こなった. 起きる反応は硫酸と水酸化ナトリウムの中和だが, この時滴定に用いた硫酸の体積をも
とにして水酸化ナトリウム水溶液の具体的な濃度を求めることが出来る. 水酸化ナトリウム水溶液
は空気中の二酸化炭素と反応してしまうために丁度 1M にはならない可能性が高い. 水酸化ナト
リウム水溶液の濃度を求めることで, 初めに抱水クロラールを用いた滴定における水酸化ナトリウ
ム水溶液の濃度を定めることが出来る. これが空試験を行う目的であると考える. 今回の滴定では
水酸化ナトリウム水溶液の濃度はほとんど変化していなかった.

次に逆滴定を行う意味について考える. 上で述べたように, 抱水クロラールと水酸化ナトリウムは 1


対 1 で反応する. 今回の実験では抱水クロラールの mol 数よりも多くの水酸化ナトリウムを加える
ことで完全に中和し, 残った水酸化ナトリウムを硫酸で中和することによって滴定を行った . 抱水ク
ロラールに対して水酸化ナトリウム水溶液のみを加えて滴定をしなかった理由を考える . 一つは,
抱水クロラールと水酸化ナトリウムの反応は反応速度が遅く, 終点を見極めるのが難しいために,
過剰量の水酸化ナトリウムを加えて平衡を大きく偏らせることによって反応を促進させて , 残りは硫
酸で滴定したという可能性である. もう一つは, 抱水クロラールと水酸化ナトリウムの中和点におけ
る pH に対応する試薬がない, またはあったとしても変化が分かりづらいという可能性である.

一つ目の理由について考察する. ここでは図 1 に示した反応機構を使って説明する. 水酸化物イオ


ンは強塩基として働くため, プロトンをすぐに引き抜くことができる. 次にトリクロロメチル基が脱離
しているが, Cl の強い電気陰性度によって電子不足になった中心炭素は電子を欲しているはずで
ある. これより, O アニオンから電子が動いて脱離する反応も速く進行すると考えられる . 最後炭素
アニオンがプロトンを引き抜くこともチャージの相性から素早く行われると思われる . よって反応が
遅く終点が見にくいという可能性は排除できると考えられる.

続いて二つ目の理由について考察する. 実際に量り取った抱水クロラールの量と丁度中和される
ように水酸化ナトリウム水溶液の体積を計算し, 中和点の pH を求める.
4 回分量り取った抱水クロラールの質量はそれぞれ, 1.0104g, 1.0065g, 1.0120g, 1.0170g である.
この平均をとると, 1.0115g となる. 以下抱水クロラールの質量はこの値を用いる. すると, 抱水クロ
ラールの mol 数は 1.0115g/(165.4g/mol)で求められ, 値は 6.12×10-3mol となる. 使用した水酸化ナ
トリウムの濃度を 1.00M とすると, 丁度中和させるために必要な水酸化ナトリウム水溶液の体積 (x
と置く)は, 次のように計算できる.
1M×xL=6.12×10-3mol よって x=6.12×10-3L となる. 水を 2.5ml 用いているので, 水酸化ナトリウム水
溶液の体積と合計して 8.62×10-3L の溶液となった. 抱水クロラールの pKa は 10※6 であるので, 弱
酸である. この時, 中和点における水素イオン濃度[H+]=√KaKw/C と表せる. (Ka は酸解離定数, Kw
は水の自己解離定数, C は酸あるいは塩基の濃度である) 今回は C=6.12×10-3mol/8.62×10-3L とな
る. これを用いて計算すると, [H+]=1.19×10-12 Mとなり, pH は 11.9 となる. この pH が変色域に含ま
れるような pH 指示薬を探す. 以下に様々な pH 指示薬とその変色域, 変色をまとめた図を示す.
図 4 pH 指示薬の変色域と変色の仕方※7

この図を参照すると, かろうじて Alizarin yellow の変色域に含まれているが, 赤色が徐々に薄くなる


ような変化をするため, 終点を判断することが難しいと考えられる. この理由によって今回の滴定で
は逆滴定を用いるのが適切であると考えられる.

最後に, 抱水クロラールの吸湿性について述べる. 安全データシートによると, 抱水クロラールには


吸湿性がある※6. その理由について考察する. 抱水クロラールはヘミアセタール構造を持ち, OH 基
を二つ持っている. この OH 基と空気中の水が水素結合によって結ばれるために吸湿性が高いと
考えられる. 結果的により多くの水と結合する. 抱水クロラールの純度が 100%でない理由は, 空気
中の水と結合したからだと考えられる.

まとめ
滴定の基本, 逆滴定, 適した pH 指示薬, 抱水クロラールの性質, その他周辺事項について学ぶこ
とが出来た. 滴定実験を実際に行って, 器具の扱い方や注意事項を理解した.

参考文献

1 Brown, M. K.; Corey, E. J. Org. Lett. 2010, 12, 172. DOI: 10.1021/ol9025793
2 Kawasumi, R.; Narita, S.; Miyamoto, K.; Tominaga, K.-i.; Takita, R.; Uchiyama, M. Sci. Rep.
2017, 7, 17967. doi:10.1038/s41598-017-17116-4
3 Cao, L.; Ding, J.; Gao, M.; Wang, Z.; Li, Z.; Wu, A. Org. Lett. 2009, 11, 3810.
doi:10.1021/ol901250c
4 国際化学物質安全性カード(ICSCs) CAS 登録番号 141-53-7 ENETICS 番号 205-488-0 ギ酸ナ
トリウム
5 国際化学物質安全性カード(ICSCs) CAS 登録番号 67-64-1 ENETICS 番号 200-662-2 アセトン
6 安全データシート(SDS) 抱水クロラール 昭和化学株式会社
7 http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q43 (キリヤ化学株式会社)
測容器の補正
実験日 2023/4/20 気温 25℃ 気圧 1011hPa 湿度 54%

目的

測容器は, 周りの温度や気圧による影響を受けてしまうために, 量り取った量の補正が必要となる.


正確に定量することに注意し, その上で Q 検定を用いたデータの保持, 棄却の判断や正しく量の
補正を行うことを目的とする.

実験手順

あらかじめスタンドにクランプを用いて垂直にビュレットを固定した.
駒込ピペットを用いてビュレットに蒸留水を満たし, コックを開けて水を流した.
次に, 空の共栓つき三角フラスコの重さを, 蓋を含めて天秤で量った.
駒込ピペットを用いてビュレットの目盛りより上まで蒸留水を入れ, 0にメニスカスを合わせた.
共栓つき三角フラスコにビュレットを用いて蒸留水を流し入れ, 目盛りが 5cm3 になったところで
止めた.
その後, 共栓つき三角フラスコの重さを測った.
同様の操作をあと三回繰り返した.
蒸留水を流し入れる量を 15cm3, 25cm3 にして同様に四回ずつ実験を行った.

結果

蒸留水を, それぞれ 5cm3, 15cm3, 25cm3 用いた時の重さの情報を以下の表にまとめた.

5cm3 の時
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
空の共栓つき三角
140.0263 144.9958 149.9876 154.9312
フラスコの重さ(g)
水を入れた後の共
栓つきフラスコの重 144.9958 149.9876 154.9312 159.9205
さ(g)
蒸留水の重さ(g) 4.9645 4.9918 4.9436 4.9893
15cm3 の時
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
空の共栓つき三角
159.9205 174.8812 189.8231 204.7868
フラスコの重さ(g)
水を入れた後の共
栓つきフラスコの重 174.8812 189.8231 204.7868 219.7418
さ(g)
蒸留水の重さ(g) 14.9607 14.9419 14.9637 14.9550

25cm3 の時
1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
空の共栓つき三角
140.3501 165.3194 190.2851 140.3886
フラスコの重さ(g)
水を入れた後の共
栓つきフラスコの重 165.3194 190.2851 215.2723 165.3678
さ(g)
蒸留水の重さ(g) 24.9693 24.9657 24.9872 24.9792

Q 検定で値の判定を行った. (Q 検定で疑わしいと判断した値は 5cm3, 15cm3, 25cm3 の時でそれぞ


れ 4.9436, 14.9419, 24.9872 である.)

Q 検定の結果
5cm3 15cm3 25cm3
0.4336 0.6009 0.3702

サンプル 4 の時の臨界値は 0.831 であるので全て良い値である.

次に,実際に得られた蒸留水の重さから容量の補正を行った.
まず, 25℃, 785.5mmHg における水の重さを M’とし, 値を求めた. M’=1000-x(補正値)として表せ
る.

x=4.093-0.0034×(25.0-20.0)-0.0013×(760-758.5)=4.07405

よって M’=995.9259 である.


次に, 比によって 5cm3, 15cm3, 25cm3 の時の容量の補正値を計算するとそれぞれ 4.9926, 15.016,
25.077 であった.
このデータから補正値曲線を用いるときの値を計算すると以下のようになる.
補正値(cm3)
5cm3 -0.0072
15cm3 0.016
3
25cm 0.077

最後に,これらの補正値を用いて補正曲線を作成した.

補正曲線
補正値 /cm3

0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
0 5 10 15 20 25 30
-0.02

ビュレットの目盛り /cm3

考察

まず, 気温によりガラス器具の体積が変わることについて考察する. 各物質にはそれぞれ固有の体


膨張係数がある. 体膨張係数とは, 温度変化 1K あたりの物質の変形量と元の体積の比率のこと
である. ホウケイ酸ガラスでは体膨張係数は 1.1×10-5K-1 である. 1 K上がるごとにわずかながらガラ
スが膨張する. 温度が上がるにつれて材料分子の熱運動が激しくなっていくため膨張すると考えら
れる. 少しの膨張が測定結果に大きな影響を与えるため, 温度による影響を補正する必要がある.

実習書に測容器の公差について記載があった. 調べてみると, 公差とは測容器の許容誤差の最大


寸法と最小寸法の差であることが分かった. 許容誤差は JIS 規格※1 によって定められており, どの
ように算出したかは不明である. 誤差の値はクラス A とクラス B があり, クラス B の許容誤差はク
ラス A の 2 倍であり, より緩い基準となっている. 厳密な量を測りたい時に許容誤差を考慮に入れ
るべきである.

また, 測定において静電気や磁気が質量に影響を与える, と実習書に記載があった. そこで, 具体


的にはどのように影響を与えるのかを調べた. 以下文献引用※2 “静電気の吸引力や反発力によっ
て表示が不安定になることがある. 特に, プラスチックやガラスのように帯電しやすい容器で影響が
出ることがある. そのような場合はアルミホイルなど導電性があるものを用いるとよい” 引用終了
実験では共栓つきの三角フラスコを用いた. これはガラスでできているが, 比較的表示は安定して
得られた. 以下文献引用※2 “湿度 50%以下になると, 静電気の影響を受けやすくなる. 湿度が高い
と, 吸湿などの影響で測定値に影響が出る.” 引用終了 この実験を行った日の実験室内の湿度は
54%であった. そのため, そこまで静電気の影響を受けなかったと考えられる . また, 磁性による影
響について, “試料を載せる位置によって表示が変わることがある. ビーカーやアルミ容器などを用
いて秤量皿から遠ざけるとよい.” と書かれていた. 次は電子天秤の測定の仕組みにふれて, 磁性
がどのように測定に関係しているかを調べる.

電子天秤の仕組みについて調べた.

図 1 電子天秤の構造

電子天秤の構造は主に三つの機構から構成されてい
る. 一つ目は, 被測定物の質量を電磁力で釣り合わせる
復元力発生機構, 二つ目はつり合い状態を監視する変
位検出機構, 三つ目は制御機構である. 復元力発生機
構は, 磁石とフォースコイルの組み合わせで, コイルに電
流を流すと電磁力が発生し, 図で右側のさおが下向きに
動く力となる. この力が物理天秤でいうところの分銅の役
割を果たしている. 具体的には, 被測定物に対してつり合
いがとれるように自動的に電流が調節される. 丁度つり
合った時に
図 2 物理天秤と電子天秤の原理の比較
コイルに発生する力 F と荷重 W が一致する. この時の電流の大きさで被測定物の重さが分かる.
ここで, 電子天秤の特徴的な点は, 重力加速度が電磁力とは関係のない力であるということであ
る. 重力加速度は場所によって異なるので, 同じ質量の物質でもつり合いに必要な電流はその場
の重力加速度に応じて変化してしまう. 結果, 電子天秤の感度が変わることになるため, 実際の使
用場所で分銅を用いた校正を行うことが必要である. また, 電磁力を発生させるマグネットは温度
によりその強さがわずかながら変化する性質があり, 感度が変化する原因となっている. このため,
室温が変わるたびに電子天秤を校正する必要がある.※3 このように, 電子天秤は磁性を利用してい
る装置のため, 外部環境からの磁力は測定結果に異常をもたらす可能性がある . 電子天秤は非常
に精密に測定できる代わりに, ほんの微量の変化も敏感に感じ取るため, 度々校正する必要がある
ことが分かった.

まとめ

ビュレットの設置, 補正曲線, 電子天秤の仕組み等について理解した.

参考文献
1 続 実験を安全に行うために -基本操作・基本測定 編- 第 4 版 2021 2 化学同人 p118
2 続 実験を安全に行うために -基本操作・基本測定 編- 第 4 版 2021 2 化学同人 p89
3 質量, 容量の正確な軽量 宮下文秀 ぶんせき 2008 1 p2 日本分析化学会
酸塩基滴定
実験日 2022/4/21 気温 27℃ 気圧 1004hPa 湿度 51%

目的

水酸化ナトリウム標準溶液と一次標準フタル酸水素カリウムによる中和滴定を行う . 中和滴定の
基本操作や, フェノールフタレイン水溶液とメチルレッド水溶液の滴定範囲の違いについて学ぶこ
とが目的である.

実験手順

あらかじめフタル酸水素カリウムを恒温乾燥機 120~125℃で 3~4 時間加熱後, 硫酸デシケー


ター中で放冷したものを用いて実験を行った.
フタル酸水素カリウムを 0.2172g 精秤し, メスシリンダーに蒸留水 500ml 量り取り, 200ml ビー
カーに入れ, 混ぜた.
その後, その溶液にフェノールフタレインを 1 滴入れた.
次に, 0.1M NaOH 水溶液を 100ml ビーカーに約 60ml とり, これを漏斗を用いてビュレットに入
れ, 少しずつ滴下した. これを溶液の薄い赤色が消えなくなるまで加えた.
同様の操作をさらに三回行った. この時のフタル酸水素カリウムは 0.1997g, 0.2097g, 0.2155g で
あった.
次に, フェノールフタレイン水溶液のかわりに, 1%メチルレッド水溶液を 1 滴加え, 0.1M NaOH 水
溶液を用いて同様の実験を 2 回行った. この時のフタル酸水素カリウムは 0.1937g, 0.2007g であっ
た.

結果

滴定の結果を以下に示す.

1 回目 2 回目 3 回目 4 回目 5 回目 6 回目
フタル酸水素カ
0.2172 0.1997 0.2097 0.2155 0.1937 0.2007
リウム(g)
0.1M NaOH(ml) 10.78 9.89 10.50 10.73 7.72

フェノールフタレインを用いた滴定では, 溶液の色は無色→薄い赤色へと変化し, その状態から一


滴水酸化ナトリウムを加えると濃い赤色へと変化した.
メチルレッドを用いた滴定では, 溶液の色は薄い赤色→ほぼ透明(滴定量 6.95ml)→黄みがかった
透明(滴定量 7.72ml)→薄い黄色へと変化した. ただし, 色の変化が分かりづらいため滴定量の信
憑性は低い.

5 回目のデータが無い理由は, 色の変化が分かりづらくどこで滴定量を定めればよいかが分から
なくなってしまったからである.

考察

フェノールフタレインを用いた 4 回の滴定について, 用いたフタル酸水素カリウムと滴下した水酸化


ナトリウムの体積から水酸化ナトリウムの濃度を調べなおし, 結果にばらつきが無いかどうかを確
認する. 以下に計算結果を示す.

1 回目 2 回目 3 回目 4 回目
水酸化ナトリウムの
0.09865 0.09887 0.09779 0.09834
濃度(M)

この結果より, 滴定に明らかな失敗はなかったと考えられる.

次に, フェノールフタレインとメチルレッドの違いについて考える . ここで, メチルレッドを用いた際の


水酸化ナトリウムの量を計算すると, 0.1272M となり, 明らかに間違っている. つまり, メチルレッドに
よる滴定では正しく中和点を出すことができないと考えられる.
原因として考えられるのは, 溶液の色の変化が分かりづらく, 目視で中和点を判断しづらいことや,
変色域が異なることだと考えられる. 具体的には, フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムの中和
点がフェノールフタレインの変色域と合致しており, メチルレッドの変色域からは外れていると考え
られる.

ここで, 今回の反応の中和点を調べる. フェノールフタレインの変色域は pH8.0~9.8※1 であり, 一方


メチルレッドの変色域は pH4.4~6.2※2 である. また, フタル酸水素カリウムの pKa(酸解離定数 Ka の
負の常用対数をとったもの)は 5.41 であり, このことから弱酸であると考えられる. (フタル酸は二段
階で解離し, 一段階目の pKa は 2.95, 二段階目は 5.41 である.※1 フタル酸水素カリウムは一つのプ
ロトンがカリウムに置き換わった構造で, すでにプロトンが一つ解離している状態なので二段階目
の pKa を用いている.) この時, 水酸化ナトリウムの濃度約 0.1M に比べて水素イオンの濃度は十分
に低いと考えられるので,
[H+]=√KaKw/C で当量点における水素イオン濃度を調べることが出来る(Kw は水の自己解離定数,
Cは水酸化ナトリウムの濃度を表す). 結果から, フェノールフタレインを用いた 4 回の滴定で算出し
た水酸化ナトリウム水溶液の濃度の平均をとると, 0.09841M となった. これを用いて水素イオンの
濃度を計算すると, 6.287×10-10M となった. 続いて pH を求めると, 9.202 となった.
この値はフェノールフタレインの変色域 pH8.0~9.8 の間に入っているため, 正しく中和を見ることが
できたと考えられる. メチルレッドの変色域からは大きく外れていることも同時に分かる.

次に, メチルレッドで変色した時の水酸化ナトリウムの滴定量から水素イオン濃度を出し, メチル


レッドの変色域と合わせて 6 回目の実験の滴定量が適当な値であったかを調べる.
この時の水酸化ナトリウムの mol 数を考える. 水酸化ナトリウムの濃度は先ほどの 0.09841M を用
いる. 7.72ml 滴下したので, 0.09841M×7.72×10-3=0.0007597mol となる. また, 用いたフタル酸水素
カリウムは 0.0009827mol である. 1:1 で反応するため, 二つの mol 数の差が, 水素イオンの mol 数
と一致する. 溶液全体の体積は 57.72ml(水 50ml+水酸化ナトリウム水溶液 7.72ml)なので, 水素イ
オンの濃度は, 0.0002230mol/57.72×10-3L=0.003863M となる. この結果 pH は 2.41 となった. 前述
のメチルレッドの変色域を見ると少し外れている. 本来であれば最低でも pH4.4 になるはずである.

次は, メチルレッドの変色域の下限 pH4.4 における水酸化ナトリウムの滴下量を調べる.


pH4.4 の時の水素イオンの濃度は, 3.98×10-5M である. また, 用いたフタル酸水素カリウムは
0.0009827mol である. pH4.4 における水酸化ナトリウムの体積を x(ml)とすると,
0.0009827-(0.09841×x/1000)=3.98×10-5×(50+x)/1000 という式が成り立つ. これを解くと, x=9.96ml
となる. フェノールフタレインを用いた実験の水酸化ナトリウムの滴下量と比べると, 大差ないことが
分かる.

これらの考察から, 私は中和点より前の時点で色が変化したと思っていて, 正しく中和点を見定め


られなかったこと, 注意深くみていても変化が分かりづらいのでこの滴定にメチルレッドは適してい
ないこと, pH ジャンプは最低 4.4~最低 9.2 で起きていることが分かった.

次に, 先程調べなおした水酸化ナトリウムの濃度が 0.1M に達していない理由を考える. 水酸化ナ


トリウムは空気中の二酸化炭素と反応して 2NaOH+CO2→Na2CO3+H2O という反応を起こす. 水酸
化ナトリウムが減る代わりに水が増える. これにより水の体積が増え, 結果的に濃度が下がると推
測される. 潮解性は固体の水酸化ナトリウムでの性質なので今回は関与していないと考えられる.
次に, フタル酸水素カリウムの代わりに安息香酸を用いて水酸化ナトリウムで滴定を行った場合の
中和点における pH を考える. 設定は, 10.0mmol の安息香酸を含む水溶液 100ml を 0.100M
NaOH 水溶液で中和した時である.

中和状態では水素イオンと水酸化物イオンの mol 数が等しくなる.中和までに加えた水酸化ナトリ


ウムの体積を xml とすると, 10.0×10-3mol=0.100M×(x/1000)L これより x=100ml となる. NaOH
100ml と安息香酸の水溶液 100ml の合計で 200ml の溶液となる. この時, この溶液の水酸化ナト
リウムの濃度は, 1.0×10-2mol/0.2L=5.0×10-2M となる. 安息香酸の pKa は 4.21※4 なので弱酸である.
この時中和点における水素イオンは , 先程と同様に[H+]=√KaKw/C と表せる. 数値を代入すると
[H+]=3.55×10-9 となった. これより pH は-log[H+]を使って 8.45 と求められた. この値をフタル酸水素
カリウムの滴定と比べると, 安息香酸のほうが pKa が小さいので, 酸性が強いことが分かる. また,
中和点は安息香酸のほうが低 pH 側にある. 酸性が強い程, 中和点は中性側に寄るため, 上の計
算は正しいと考えられる.
試薬はフタル酸水素カリウムと同じくフェノールフタレインが適している.

次に, メチルレッドとフェノールフタレインの構造について調べる.

図 1 メチルオレンジの構造※2
図 3 メチルレッドの構造

上にメチルオレンジ, フェノールフタレイン, メチ
ルレッドの構造を示した. これらの物質に共通
しているのは, 芳香環を持っているということ
である. メチルオレンジ, フェノールフタレインに
ついては水素イオン濃度の違
図 2 フェノールフタレインの構造※2

イオン濃度の違いにより, 図のように構造を変える. メチルレッドとメチルオレンジは構造が似ている


ため, メチルレッドもメチルオレンジのように芳香環の部分が水素イオン濃度によって変化すると考
えられる.

次に, なぜ色が変化するかについて考える. 私は, 芳香環の構造の変化(π 共役系の数の変化)によ


り, 吸収する光の波長が変わるからであると予想する.

以下, 文献※5 を参考にして π 共役と吸収波長の関係について述べる.

分子が光を吸収することは, 電磁波である光の電場の振動に合わせて分子中の電子分布が共鳴
して振動することに対応する. 分子のエネルギーは量子化されているためとびとびのエネルギーを
持つ. ここで, 分子において基底状態と, それよりも一段階エネルギーの高い最低励起状態を考え
る. 多くの有機分子では, この二つの状態のエネルギー差が紫外線の光のエネルギーに対応して
いるため色を持たないが, π 共役分子の場合はこのエネルギー差が可視光領域に入る. また, この
二つの状態の差は分子の HOMO と LUMO のエネルギー差(ΔEHL)で近似される. 可視光領域は
紫外領域よりも波長が長いので, ΔEHL は小さくなる.

次に, π 共役を持つ分子の ΔEHL が小さい理由について述べる. ここでは, 他の有機分子との違いを


分かりやすくするために, 1,3-ブタジエンをエチレンと比較して考える. エチレンは, 2 つの p 軌道が
同位相と逆位相で相互作用することによりそれぞれ HOMO と LUMO が形成される. 一方 1,3-ブ
タジエンは, 2 つのエチレンの分子軌道が同位相と逆位相で相互作用することにより軌道が合計で
4 つになる. ここで, 1,3-ブタジエンの HOMO はエチレンの 2 つの HOMO が逆位相で相互作用し
た軌道のため, エチレンの HOMO よりも高いエネルギーを持つ. また, LUMO はエチレンの 2 つの
LUMO が同位相で相互作用した軌道のため, エネルギーが安定化する. このため, 1,3-ブタジエン
の HOMO-LUMO のエネルギー差 ΔEHL は小さくなる.

次に, 以上の事実を参考にしてフェノールフタレインとメチルレッドで色の変化が異なる理由を考察
する.

フェノールフタレインは pH9.8 以上で赤色を示す. また, メチルレッドは pH6.2 以上で薄い黄色を示


す. 補色を吸収してこの色に見えているため, それぞれの pH における構造のフェノールフタレインと
メチルレッドは, それぞれ緑, 青紫の光を吸収している. この時, 緑色は青紫色に比べて長波長側に
あるため, よりエネルギーは低くなり, より π 共役が強い分子が吸収するはずである. 図 2(d), 図 3
はそれぞれ赤色を示す状態のフェノールフタレインの構造と薄い黄色を示す状態のメチルレッドの
構造である. この時メチルレッドには芳香環が 2 つあるのみだが, フェノールフタレインには 2 つの
芳香環に加えて, より強い π 共役を示すキノイド構造が含まれている. この時, π 共役が強いフェノー
ルフタレインのほうがより長波長側の光を吸収すると予想され, これは事実に合致する. このため,
この考察は正しいと考えられる.

まとめ

酸塩基滴定, 中和点の pH, pH 指示薬, その他周辺事項について理解した.

参考文献
1 高見聡 化学と教育 66 巻 98 号 (2018) p428 日本化学会
2 平松茂樹 化学と教育 65 巻 8 号 (2017) p396 日本化学会
3 奥山格 丸善出版 有機化学 plus on web
4 長成商事株式会社 取扱商品 安息香酸 500g (ホームページ)
5 村中厚哉 化学と教育 65 巻 5 号 (2017) p246-249 日本化学会

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