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無機化学実験レポート

ウェルナー型錯体の合成

学籍番号 062101289

藤井康平
実施日

K[Co(edta)]・2H2O 2023/5/22
Co(acac)3 2023/5/18
[Co(NH3)6]Cl3 2023/5/23
Fe(acac)3 2023/5/24

目的

四種のウェルナー型錯体(K[Co(edta)]・2H2O, Co(acac)3, [Co(NH3)6]Cl3, Fe(acac)3)を自ら


の手で合成し, それぞれの錯体の性質や特徴を学ぶこと, また, 吸引ろ過等の実験操作を学
ぶことを目的とする.

実験手順

K[Co(edta)]・2H2O
100ml ビーカーに蒸留水 12ml を入れ, 次に塩化コバルト(Ⅱ)六水和物 1.60g, 酢酸カリウ
ム 4.03g, エチレンジアミン四酢酸 2.00g を入れた.
このビーカーをドラフト内の湯浴で加熱攪拌した.
その後, 30%過酸化水素水を冷蔵庫から取り出し, 3%過酸化水素水になるように水で希釈し
た.
3%過酸化水素水 6.0ml をそのビーカーに加えた.
その後, 漏斗を用いて自然ろ過した.
ろ過後の溶液を氷浴で冷却した.
十分に冷却した後, 十分に攪拌しながらゆっくりとエタノールを加えた.
生成した固体を吸引ろ過によって回収し, 収量を記録した.

Co(acac)3

50ml ビーカーに塩基性炭酸コバルト(Ⅱ)0.66g, アセチルアセトン 6.0ml を加えて温浴で加


熱した.
冷蔵庫の 30%過酸化水素水を取り出し, 希釈して 10%の過酸化水素水を生成した.
生成した 10%過酸化水素水 9.0ml を少しずつ加えた.
その後, 氷浴で冷却し吸引ろ過, 水洗した.
次に, (※)固体を回収し, 少量のエタノールに溶解させ, ドラフト内で加熱を行った.
加熱後すぐに吸引ろ過を行い, 固体を回収した.
(※)を固体がなくなるまで繰り返し行い, 固体がなくなったところでろ液を回収し, 氷浴で
冷却した.
その後, 析出した固体を吸引ろ過で回収し, 収量を記録した.

[Co(NH3)6]Cl3

100ml ビーカーに蒸留水 5ml, 塩化コバルト(Ⅱ)六水和物 5.93g, 塩化アンモニウム 4.03g,


活性炭 0.21g を入れ, 最後に冷蔵庫内の 28%アンモニア水 13ml を加えた. 次に, アスピレ
ーターで, 2 時間 12 分(14:15~16:27)穏やかに空気を通した.
その後, 固体を濾別し, 40ml 蒸留水で希釈した 0.5ml 濃塩酸をドラフトで加えた.
温浴中で加熱, 即時吸引ろ過を行った.
ろ過したろ液にドラフト内の濃塩酸 10ml を加え, 室温で冷却した.
次に, 60%になるように水で希釈したエタノールを用いて洗浄し, 次に元のエタノールで洗
浄した.
その後吸引ろ過し, 固体を風乾させ, 収量を記録した.

Fe(acac)3

100ml ビーカーに蒸留水 11ml, 塩化鉄(Ⅲ)六水和物 3.00g, メタノール 6ml に溶解させたア


セチルアセトン 3.31g, 蒸留水 1ml に溶解させた酢酸ナトリウム三水和物 4.47g を入れ, 温
浴中で 1 分程度加熱した.
その後, 室温まで冷却し, 固体を吸引ろ過により濾別, 水洗した.
次に, 回収した固体にメタノールと水の混合溶媒(体積比メタノール:水=5:1)を少量加え,
熱時ろ過した.
ろ液を回収し, 氷浴で冷却し, 水を加えた.
ろ液を吸引ろ過し, 固体を回収し, 収量を記録した.

結果

K[Co(edta)]・2H2O

過酸化水素を入れたところ, 気泡が発生し, 濃い紫色の溶液となった. この時, ビーカーの


温度は上がった. 吸引ろ過後, 紫色の固体が得られた. 最終生成物は 2.2252g 得られた.
この実験に関連する化合物の分子量を以下に示す. これを元に収量を計算した.

塩化コバルト(Ⅱ)六水和物 237.93g/mol
酢酸カリウム 98.14g/mol
H4EDTA 292.24g/mol
K[Co(edta)]・2H2O 422.27g/mol
得られた錯体は K[Co(edta)]・2H2O であり, 分子式より, 塩化コバルト(Ⅱ)六水和物, 酢酸
カリウム, H4EDTA は同じ mol 数使われる. それぞれの mol 数を求めた.

1.60𝑔
塩化コバルト(Ⅱ)六水和物 237.93𝑔/𝑚𝑜𝑙
= 0.00672𝑚𝑜𝑙

4.03𝑔
酢酸カリウム = 0.041𝑚𝑜𝑙
98.14𝑔/𝑚𝑜𝑙

2.00𝑔
H4EDTA = 0.00684𝑚𝑜𝑙
292.24𝑔/𝑚𝑜𝑙

一番少ないものは塩化コバルト(Ⅱ)六水和物なので, K[Co(edta)]・2H2O は 0.00672mol で


きる. よって, 得られる錯体の理論値は,

0.00672𝑚𝑜𝑙 × 422.27𝑔/𝑚𝑜𝑙 = 2.84𝑔

となる. 実際に得られた錯体は 2.2252g であったので,

2.2252
× 100 = 78.418%
2.8376

収率は 78.4%となった.

Co(acac)3

過酸化水素水をゆっくり加えた時, 急激に体積が増加した瞬間があった. 初めに濾別した


固体は深緑色であった. 最後に吸引ろ過した後の固体は緑色の結晶で, 輝きを持っていた.
最終生成物は 0.4188g 得られた.

この実験に関連する化合物の分子量を以下に示す. これを元に収量を計算した.
塩基性炭酸コバルト 534.74g/mol
アセチルアセトン 100.13g/mol (密度 0.974g/ml)
Co(acac)3 356.26g/mol

生成した錯体は Co(acac)3 なので, コバルトに対してアセチルアセトンは三等量必要である.


それぞれの mol 数を求めた.

0.66𝑔
塩基性炭酸コバルト (2CoCO3・3Co(OH)2・H2O) 534.74𝑔/𝑚𝑜𝑙

であり, この 5 倍のコバルトが含まれているので, コバルトの mol 数は

0.66𝑔
× 5 = 0.00617𝑚𝑜𝑙
534.74𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる. 一方, アセチルアセトンは 6.0ml 用いた. アセチルアセトンの密度は 0.974g/ml で


あるので,
6.0𝑚𝑙 × 0.974𝑔/𝑚𝑙
= 0.0583𝑚𝑜𝑙
100.13𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる. アセチルアセトンはコバルトに対して三等量必要であるので,

0.00617mol×3=0.0185mol

これだけのアセチルアセトンが必要になる. アセチルアセトンは過剰にあるので, 錯体は


理論値で 0.00617mol できていることになる. よって Co(acac)3 の理論重量は,

356.26𝑔/𝑚𝑜𝑙 × 0.00617𝑚𝑜𝑙 = 2.20𝑔

と計算できる. 実際に得られた錯体は 0.419g であるので,

0.419𝑔
× 100 = 19.1%
2.20𝑔

収率は 19.1%となった.
[Co(NH3)6]Cl3

固体を乾燥させると茶色の固体が得られた. この時, 固体を挟んでいたろ紙は青色に変色


しており, 紫色の斑点がついていた. 熱時ろ過後, ろ紙には紫色の結晶が, ろ液は濁った橙
色になった. 塩酸を加えるとオレンジ色の溶液になった. 吸引ろ過後は黄色の固体が得ら
れた. 最終生成物は 1.3204g 得られた.

この実験に関連する化合物の分子量を以下に示す. これを元に収量を計算した.

塩化コバルト(Ⅱ)六水和物 237.93g/mol
塩化アンモニウム 53.49g/mol
[Co(NH3)6]Cl3 267.48g/mol

錯体の構造式は[Co(NH3)6]Cl3 なので, コバルト:アンモニア:塩素=1:6:3 の比率となる.


それぞれの mol 数を求めた.

塩化コバルト(Ⅱ)六水和物は 5.93g 用いたので,

5.93𝑔
= 0.0249𝑚𝑜𝑙
237.93𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる. 次に, 塩化アンモニウムは 4.03g 用いたので,

4.03𝑔
= 0.0753𝑚𝑜𝑙
53.49𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる. また, 28%のアンモニア水 13ml を加えているので,

28
13𝑚𝑙 × 100 × 0.9𝑔/𝑚𝑙
= 0.1923𝑚𝑜𝑙
17.03𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる.
こ の 時 , コ バ ル ト は 0.0249mol, ア ン モ ニ ア は (0.1923+0.07532)=0.1998mol, 塩 素 は
(0.0249+0.0753×2)=0.1251mol である. 1:6:3 の比に対して一番少ない mol 数をもつ成分
は, Co である. よって, [Co(NH3)6]Cl3 の mol 数は, 0.0249mol である. 以上より錯体の重量

267.48𝑔/𝑚𝑜𝑙 × 0.02492𝑚𝑜𝑙 = 6.66𝑔

となる. 得られる錯体の重量の理論値は, 実際に得られた錯体は 1.32g なので,

1.320𝑔
× 100 = 19.8%
6.66𝑔

収率は 19.8%となった.

Fe(acac)3

塩化鉄(Ⅲ)六水和物を入れると, 溶液は茶色になった. 次に, アセチルアセトンを入れると,


溶液は紫色へと変化した. 酢酸ナトリウムを入れると, 赤色溶液に沈殿が生成した. 吸引ろ
過後は輝きを持つ赤色固体が得られた. 最終生成物は 1.1800g 得られた.

この実験に関連する化合物の分子量を以下に示す. これを元に収量を計算した.

塩化鉄(Ⅲ)六水和物 270.30g/mol
アセチルアセトン 100.12g/mol
酢酸ナトリウム三水和物 136.08g/mol
Fe(acac)3 353.17g/mol

錯体の分子式は Fe(acac)3 であるので, Fe に対してアセチルアセトンは三等量必要である.


それぞれの mol 数を求める. まず, 塩化鉄(Ⅲ)六水和物は 3.00g 用いているので,

3.00𝑔
= 0.011𝑚𝑜𝑙
270.30𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる. 次に, アセチルアセトンは 3.31g 用いたので,

3.31𝑔
= 0.033𝑚𝑜𝑙
100.12𝑔/𝑚𝑜𝑙

となる. この時, Fe に対してアセチルアセトンが丁度三等量になっているため, 理論上


Fe(acac)3 は 0.011mol 得られることになる. 重量に直すと,

353.17𝑔
0.011𝑚𝑜𝑙 × = 3.88𝑔
𝑚𝑜𝑙

となる. 実際に得られた錯体は 1.18g なので,

1.18𝑔
× 100 = 30.4%
3.88𝑔

収率は 30.4%となった.

考察

K[Co(edta)]・2H2O

課題 1

温度が高い状態でモノクロロ酢酸と酸素が反応してしまうと, 有毒で腐食性のある塩化水
素及びホスゲンが発生してしまい非常に危険だからである.

課題 2

反応で使用する物質の情報をまとめる.
分子量
NaOH 40.00g/mol
モノクロロ酢酸 94.50g/mol
エチレンジアミン 60.10g/mol

1)で用いる NaOH の mol 数を計算する.


まず, クロロ酢酸+NaOH→クロロ酢酸ナトリウム+水 という反応が起こる.
用いた NaOH は 9.3g なので, 0.2325mol である. また, 用いたクロロ酢酸は 11.0g なので,
0.1164mol である. これにより, 反応で使われずに余った NaOH は,
0.2325-0.1164=0.1161mol となる.

次に, 生成したクロロ酢酸ナトリウム 0.1164mol に対して, エチレンジアミン 1.5g, つまり


0.02495mol が反応する. この時, 4 クロロ酢酸ナトリウム+エチレンジアミン→EDTA ナト
リウム塩+4HCl という反応が起きる. エチレンジアミンの mol 数の 4 倍のクロロ酢酸ナト
リウムが反応し, EDTA ナトリウム塩が 0.02495mol, HCl が 0.02495×4=0.0998mol 生成す
る. 次に, pH が 10 になるように NaOH を加えて調節した. 残った 0.0998mol の HCl を中
和してさらに pH=10 になるように NaOH を xmol 使うとすると, 水酸化物イオンは
(x-0.0998)mol 必要である. この時, 水溶液の体積は初めに入れた NaOH の mol 数と, 使用
した NaOH の mol 数の比より,
(𝑥 + 0.1164)𝑚𝑜𝑙
(15𝑚𝑙 × + 40𝑚𝑙) × 10−3𝐿
0.2325𝑚𝑜𝑙

pH が 10 になるように NaOH を入れるとき, 以下の式が成り立つ.

(𝑥 − 0.0998)𝑚𝑜𝑙
= 10−4𝑀
(𝑥 + 0.1164)𝑚𝑜𝑙 −3
(15𝑚𝑙 × + 40𝑚𝑙) × 10 𝐿
0.2325𝑚𝑜𝑙

こ れ を 計 算 す る と , x=0.099805mol で あ る . よ っ て , pH=10 に 保 つ た め に は ,
0.1164ml+0.0998mol=0.2162mol の NaOH が必要である.

2)で用いる HCl の mol 数を計算する.


1)で生成した EDTA ナトリウム塩を塩酸で中和する.
反応式は, EDTA ナトリウム塩+4HCl→H2EDTA+4NaCl である.
生成した EDTA ナトリウム塩は 0.02495mol であるので, 中和に必要な HCl は
0.02495×4=0.0998mol である. 濃塩酸は 36%(12M)が一般的なのでこれを仮定する. 濃塩
酸を xmol 用いたとすると, 中和以上に加えた HCl は(x-0.0998)mol である.
体積は, 1)で用いたものに HCl を加えたものなので,

0.1164 + 0.0998 𝑥𝑚𝑜𝑙


[{15𝑚𝑙 × ( ) 𝑚𝑜𝑙 + 40𝑚𝑙} + ]𝐿
0.2325 12𝑀

となる. この時の pH は 1 であるので,

(𝑥 − 0.0998)𝑚𝑜𝑙
= 10−1 𝑀
0.1164 + 0.0998 𝑥𝑚𝑜𝑙
[{15𝑚𝑙 × ( ) 𝑚𝑜𝑙 + 40𝑚𝑙} + 12𝑀 ] 𝐿
0.2325

以上の式が成り立つ. 計算すると, x=0.1061mol となる. 2)の反応では, 0.1061mol の HCl が


必要である.

1), 2)の計算の結果より, モノクロロ酢酸から H2EDTA を合成するために必要な NaOH と


HCl の比は, NaOH:HCl=2:1 となる.

課題 3

K[Co(edta)]・2H2O は, 異性体が存在する可能性はないと考えられる. エチレンジアミンと


いう配位子が存在しており, それは二座の配位子である. edta は, エチレンジアミンに 4 つ
の酢酸がついた構造をしている. つまり, エチレンジアミンの骨格の部分は必ず二座で配
位するので, 残りの 4 か所に酢酸部分のイオンが配位することになる. この時, 以下のよう
な配座をとる.

図 1 K[Co(edta)]・2H2O の構造

他の可能性として考えられるのは, 同じ窒素に結合している酢酸部位のイオンが, 窒素に


対してトランスで配位しているという場合である. この時, 酢酸部分はコバルトイオンの
真上を通るため, 配位可能なサイトをひとつ奪ってしまうことになる. つまり, この可能性
は実現不可能であると考えられる.

課題 4

初めの溶液は紫色であった. この溶液に濃塩酸を加えると, 青紫色に変化した.


以下に実際の写真を示す.
写真 1 濃塩酸を入れる前と入れた後の溶液の様子

左側が初めの溶液で, 右側が濃塩酸を加えた後の溶液である. この色の変化は, edta が五座


配位した K[CoCl(Hedta)]が生成したことによる. この錯体の構造を以下に示す.

図 2 K[CoCl(Hedta)]の構造

Hedta は, 4 つある酢酸イオンのうち一つをプロトン化した構造である. 五座配位子なので,


カルボン酸部分は配位せず, 塩化物イオンがかわりに配位すると考えられる. その塩化物
イオンに対してカルボン酸の水素が塩化物イオンと水素結合を形成し, 安定になると考え
られる.

Co(acac)3

課題 1

Co(acac)3 が生成する際の反応式は,

2CoCO3 + 6C5H8O2 + H2O2 → 2C15H21O6Co + 2CO2 + 4H2O

このようになると考えられる.

課題 2

少量の Co(acac)3 に濃塩酸を加えて加熱したところ, 溶液の色は青緑色になった. しばらく


してから水で希釈すると, 薄い桃色になり, さらにこの溶液を加熱したところ, 色の変化は
見られなかった. この時どのような変化が起きたかを考察する. まず, 濃塩酸を加えた際に,
配位子が塩化物イオンで置き換わっていたと考えられる. ここで, 塩化物イオンが最大限
配位した[CoCl4]2-は青色であり, 完全に水和した[Co(H2O)6]2+は桃色※1 である. このこと
から, 配位している塩化物イオンがアクア配位子に置き換わっていくにつれて青色から緑
色, 黄色, 赤色へと変化していくのではないかと予想される. この考え方を適用すると, 初
めに濃塩酸を入れた時の溶液の色は青緑色だったため, 二つの acac 配位子と二つの塩化物
イオンが配位した状態であったと推測できる. 水を加えた際には溶液は桃色にまで変化し
ているため, 完全に水和した[Co(H2O)6]2+が出来ていたと考えられる. 加熱した後は色が
変わらなかったが, 水を大量に入れたことが原因だと考えられる. 加熱すると配位子の交
換速度が速くなり, 塩化物イオンと配位して色が変化する可能性も十分にあったが, 水が
多すぎることにより同じアクア配位子を交換し続けたために色が変化しなかったと考えら
れる.

課題 3

アセチルアセトンの構造を以下に示す.
図 3 アセチルアセトンの構造

二つのカルボニル炭素の間にある炭素のプロトンが脱離したアニオンがアセチルアセトナ
ト配位子である. この時, 二つのカルボニル酸素が金属イオンに対して配位すると考えら
れる. つまり, 二座配位子であると考えられる. acac が 3 つ配位した Co(acac)3 には二つの
構造異性体(Δ, Λ)が存在する. それぞれの構造を以下に示す.

図 4 Co(acac)3 の異性体の構造

acac と同じ様式で金属に配位する二座配位子を考えた. 構造を以下に示す.

図 5 考案した二座配位子の構造

この配位子は二つのカルボニル炭素の間の炭素が脱プロトン化されると acac に類似したア


ニオンとなる. acac と同様に共鳴が起これば, 安定な構造となる. acac との違いは, 三級炭
素のアニオンが出来る点で, これは acac でできる二級炭素のアニオンと比較して不安定で
あるので, 上図の配位子の pKa は acac に比べて高く, 共鳴は起こらない可能性が高い. つ
まりこの場合, 上図の構造におけるカルボニル基の酸素がそのまま金属原子に配位すると
考えられる.

課題 4

コバルトイオンに配位している配位子の違いによって色に大きな違いが出ることを利用す
る. 上道水を塩素で処理した際の残留塩素の目安を知りたい時に, 色の変化が使えるので
はないかということを考案する. 残留塩素の量が多いと人体にとってあまりよくないため,
塩素量をチェックする必要がある. 検出方法は, 少量の処理済み水道水に対して Co(acac)3
を加え, 色が桃色になれば基準を満たし, それよりも色が濃い, または短波長側の色である
場合は基準を満たしていないという基準で判断する方法を取る.

[Co(NH3)6]Cl3

課題 1

空気を通した目的は, 酸素による酸化で Co2+を Co3+に変換するためである. しかし, 酸素


を通しすぎるとアンモニアが酸素と反応して以下の反応が起こる.

4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O※2

この反応が起こることにより, アンモニアは一酸化窒素へと変換されてしまう. このため,


錯体生成に用いられるアンミン配位子が減少し, 収率が低下してしまう可能性がある. ま
た, 発生した NO が空気に触れて NO2 に変化し, NO2 が配位子としてコバルトに結合して
目的と異なる錯体が得られる可能性がある.
ここで, 実際の実験においての試薬の等量関係を考える.
結果で計算した通り, Co 成分は 0.02492mol, Cl 成分は 0.1251mol, NH3 成分は 0.1998mol
である. 錯体における各成分の比は, Co:Cl:NH3=1:3:6 である. これを基に考えると, Co が
最も少ない mol 数であることが分かる. Co 成分は 0.02492mol なので, その六等量の NH3
が必要となる. この時, NH3 は 0.1495mol あればすべてのコバルトが錯体を形成できる. 今
回 NH3 は 0.1998mol 含まれているので, NH3 は過剰である. 過剰量を用いれば, 一部が NO
に変化したとしても目的の錯体が得られる可能性が高くなると考えられる.
課題 2

活性炭は不均一系触媒として働いていると考えられる. 予想では, 配位子との吸着のしや


すさの度合いの違いにより, 目的の配位子に完全に置換されていない錯体があるとき, そ
の配位子を目的の配位子と交換する役割があると考えた. 文献によると, ペルオキソデカ
アンミンジコバルトイオンは塩基性水溶液において単核のコバルト(Ⅲ)錯体となるが, そ
の速度が著しく小さいという記述がある. 以下にペルオキソデカアンミンコバルト(Ⅲ)イ
オンの構造を示す.

図 6 ペルオキソデカアンミンジコバルトイオンの模式図※3

このイオンの化学式は[(NH3)5Co(O2)Co(NH3)5]4+である. このイオンが酸素を離して単核
の錯イオンになるとき, 一つの Co に着目すれば, 酸素が解離してアンモニアが配位し,
[Co(NH3)6]2+ができると考えられる. この時, 文献※3 によると, 不均一系の触媒として活性
炭などがあると速やかに変換されると記述がある. つまり, 活性炭には配位子交換反応の
触媒としての役割があると考えられる. 今回の実験では, 最終的に[Co(NH3)6]Cl3 が生成す
るが, 途中段階ではすべての配位子がアンミンではなく, Cl も配位子として機能していた可
能性が考えられる. 上の文献と同様に考えると, 活性炭はこの時すべての配位子をアンミ
ンに交換したと考えられる. 以上より, 活性炭の役割は全ての配位子をアンミンに交換し
て[Co(NH3)6]3+をつくることだと考えられる.

課題 3

塩化コバルト(Ⅱ)六水和物の代わりに酢酸コバルト(Ⅱ)四水和物を用いる方法が考えられ
る. 実験操作は塩化コバルトを用いた時と同様のことをすればよい. この時, 対のアニオン
は CH3COOH-となる. 酢酸コバルトを用いる理由は, 酢酸イオンが一価の陰イオンである
こと, 水に可溶で水和物を作り安定に存在するということ, 生成する錯体の安定性が高い
ことが主に挙げられる.
Fe(acac)3

課題 1

Fe(acac)3 の合成反応について考察する. この錯体は, Fe3+に acac が三つ配位した錯体であ


る. acac は, アセチルアセトンの二つのカルボニル炭素に挟まれた炭素に結合している水素
がプロトンとして脱離し, アニオンになることにより共鳴を起こして安定な状態である.
ここで 酢酸ナトリウムの役割について考える. アセチルアセトンが acac として作用するに
はプロトンを引き抜く必要があるので, 酢酸イオンがプロトンを引き抜く役割を果たして
いると考えられる. この時反応式は,

CH3COO-Na+ + CH3COCH2COCH3 → CH3COOH + CH3COCH-COCH3Na+


となる. 次に, acac が二座配位子なので Fe3+に対して三つ配位して Fe(acac)3 となる.

課題 2

Fe(acac)3 はΔ体とΛ体の光学異性体を持つラセミ体である. このため, 光学異性体を分離


する触媒を開発する研究者にとって, 分離対象として使用することができると考えられる.

その他の考察

ウェルナー型錯体とは何かを調べた. 文献※4 によると, ウェルナー型錯体とは Werner の配


位説に合致する錯体のことだということが分かった. Werner は, 「原子価は主原子価と副原
子価の 2 種類ある」という説を提唱した. 例えば, CoCl3・6NH3 では, 以下の図で点線が主
原子価による結合であり, 実線が副原子価による結合である. 具体的には, ①コバルトの主
原子価は 3 であり, 副原子価は 6 である. ②コバルトは副原子価を満足させるように他の分
子, イオンと結合する. ③コバルトと副原子価を用いて結合した分子, イオンはコバルトを
中心とする八面体の頂点に位置する. この三つの考え方を満たすような構造を持っている
ということである. この考え方は, CoCl3・6NH3 はコバルトイオンに対して窒素の孤立電子
対が配位している, という現代の考え方への先駆けとなるものであった. 結論, ウェルナー
型錯体とは, 中心金属イオンに対して酸素や窒素などが持つ孤立電子対が配位してできる
錯体のことだと言える.

エチレンジアミンテトラアセタトコバルト(Ⅲ)酸カリウムを合成で, ろ液にエタノールを
加えた時にビーカーの底にオイル状の物質が見られる場合があると実習書に記載があった
が, これがどのような物質であるかについて考察する. このオイル状の物質は, 結晶となら
なかったアモルファスであると考えられる. アモルファスの定義を述べる. “固体物質の状
態を示す形容詞で,amorphous(日本語では無定形)を仮名書きしたもの.固体の分類で,無
定形や非晶質の固体は,それぞれ“外形の不定”および“原子・分子配列の長距離規則度の欠
如”に着目したもので,これに対して“熱力学的非平衡”に着目したのがガラス状態の固体で
ある.無定形と非晶質とは学術的には同義語ではないが,最近の半導体や合金などの科学技
術領域では,両者は同義に用いられることが多く,アモルファスと名詞的にも用いられてい
る.”※5 つまり, 今回のオイル状の物質は, 液体ではなく固体で, 原子配列に規則性がない状
態のエチレンジアミンテトラアセタトコバルト(Ⅲ)酸カリウムであると考えられる.

トリスアセチルアセトナトコバルト(Ⅲ)の合成において, 炭酸コバルトではなく, 塩基性炭


酸コバルトを用いた理由について考える. 塩基性炭酸コバルトには, 水酸化コバルトが含
まれており, アセチルアセトンには溶けない. このため, 水酸化コバルト成分については特
に意味はないと考えられる. 一水和物状態になっているので, 炭酸コバルトと比べて安定
であると考えられる. つまり, 炭酸コバルト単体で用いるよりも, 塩基性炭酸コバルトを用
いたほうが, 安定性が高く, 用いやすいのではないかと予想される.

ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の合成について, 初めに塩化アンモニウムを入れた理
由について考える. この錯体を合成するステップで, アンモニアを加える操作がある. この
時, 水酸化物イオンが発生し, 塩基性に偏りすぎると水酸化コバルトが発生してしまうと
考えられる. 水酸化コバルトは難溶性の塩なので, 一度生成するとコバルトイオンを取り
出すのは難しい. このため, 溶液を塩基性に偏らせないために塩化アンモニウムを用いて
いると考えられる.

ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の合成で, アスピレーターを使用した後に析出した固
体をろ紙で一日乾燥させたところ, 次の日にろ紙が紫色になっていた. この理由について
考える. 吸引ろ過後, あまり乾燥していない状態でろ紙にはさみこんだため, 何らかのイオ
ンの水溶液になっていた部分があると考えられる. 色について調べたところ,
[Co(NH3)6]Cl3 は黄色だが, [Co(NH3)5Cl]Cl2 は紫色※6 であることが分かった. 実験当日は,
完全にアンミン配位子で置換されなかったイオンが残っており, ろ紙がその色に染まって
しまった可能性が考えられる.

[Co(NH3)6]3+の性質について調べたことを述べる. コバルト(Ⅲ)イオンは d 電子数が 6 で,


アンミン配位子により低スピン状態である. この時, dxy, dyz, dzx 軌道に全ての電子が埋まり,
反磁性となる. このため, このイオンを持つ錯体は置換不活性であると考えられる.
[Fe(acac)3]の磁性について考える. Fe3+の d 電子数は 5 であり, 低スピン状態でも高スピン
状態でもスピンが余る. このため, 常磁性を持つと考えられる. 一方[Co(acac)3]は, Co3+の
d 電子数が 6 であることから, 低スピン状態であれば反磁性, 高スピン状態であれば常磁性
を持っている. 中心金属の性質によって配位子は同じでも錯体の性質が大きく変わること
が分かる.

まとめ

四種類のウェルナー型錯体を合成することで, ろ過などの基本操作を習得し, それぞれの


錯体について構造や電子状態を考察することが出来た. 実験操作の意味についても理解を
深めることが出来た.

参考文献
1 スクエア最新図説化学 改定 6 版 第一学習社 (2018) p173

2 無触媒下における一酸化窒素のアンモニアによる還元反応およびアンモニアの酸素によ
る酸化反応 笠岡成光 笹岡英司 長広盛彦 川上喜好 日本化学会誌 1979 No.1 p138

3 可逆的吸着剤としてアンミンコバルト錯体を用いる酸素の吸収および放出の教材化 斎
藤一夫 中鉢豊 The Chemical Society of Japan 第 25 巻 第 4 号 p61

4 A. Wener の発想と執念 -いかにして斬新な配位説を証明しようとしたか- 長澤五十六


化学と教育 67 巻 12 号 (2019) p604

5 標準化学用語辞典 第 2 版 Maruzen Publishing アモルファス

6 全国高校化学グランプリ 2004 一次選考問題 日本化学会

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