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経営戦略論B

第13回

P&G ②

青木良三

はじめに
• 1972年にP&Gジャパンが設立されたが、当初経営はうまくいか
なかった。投入した製品があまり売れなかったためである。

• このため、経営改革に取り組み、日本市場に合った製品を投入
することに切り替えた。

• 製品の現地化(現地適応)を進めることによって、日本市場で
ヒット商品が生まれるようになった。

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P&Gジャパンの概要
1. 設立

• 1972年、ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー(以下、P&G)、日本サン
ホーム株式会社(第一工業製薬株式会社と旭電化 工業株式会社[現ADEKA]共同出資会
社)、伊藤忠商事株式会社の 共同出資でプロクター・アンド・ギャンブル・サンホーム
株式会社を設立。

• 1973年、営業開始。粉末洗濯用洗剤「全温度チアー」発売。

• 1978年、P&Gがプロクター・アンド・ギャンブル・サンホーム株式会社の株式を共同出資
企業から買い取り、100%出資子会社となる。

2. 1970年代の状況~ 失敗続く
イ.粉末洗濯用洗剤「全温度チアー」
P&Gは、アメリカブランドの粉末洗濯用洗剤「全温度チアー」を日
本で発売することにした。この洗剤は、高温、中温、低温の3つの温度
で衣類を洗うことができた。これがセールス・ポイントであった。

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【質問】

全温度チアーは日本では
あまり売れなかった。

それはなぜか?

写真は、当時の人気力士 高見山。

答え

アメリカでは、洗濯物を種類ごとに分けて、
それぞれの洗濯物にふさわしい温度で洗濯を
する習慣をもっていた。それに対して、日本
の主婦は水で洗濯をするため、どの温度帯で
も洗濯できるというセールスポイントはまっ
たく日本人の主婦にアピールしなかった。

なお、アメリカで売れた製品、標準化された
製品(国際統合)で、日本でも売れると考え
た。つまり、これは、製品の標準化戦略であ
る。

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• P&Gジャパンが講じた対策

P&Gジャパンは、チアーを高濃縮成分を
用いてコンパクトサイズ化し、新たにレモン
の香りをつけるなど改良した。

しかし、ライバルの花王やライオンが同様
の製品を投入してきたため、P&Gジャパン
の競争優位性は続かず顧客を奪われた。
チアーの市場シェアは5%未満にとどまった。

ロ.パンパース
• 1978年、P&Gは赤ちゃん用紙おむつ 「パンパース」
を発売した。発売に先立って行われたテスト販売で、消
費者から非常に良い反応を得ていた。当時、日本ではお
むつ市場は布製おむつが98%を占めていた。パンパース
は高価であったが、当初売れ行きは好調であった。

• ところが、1981年に、ユニチャームが紙おむつ「ムー
ニー」を発売すると、「パンパース」よりも価格が40%
も高いにもかかわらず、P&Gは顧客を奪われた。

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【質問】

「パンパース」が「ムーニー」
に顧客を奪われたのはなぜか?

【答え】

パンパースは、アメリカ人
の赤ちゃんに合わせた
サイズであったため、日本
人の赤ちゃんには大き
すぎた。

これも、全温度チアーの
失敗と同様、標準化された
製品を販売したため
失敗した。

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巨額の損失

• 1983年までに、P&Gジャパンは、日本で2億5000万ドルか
ら3億ドルの損失を発生させた。

• この時代のP&Gジャパンは、アメリカで成功した製品を日
本に持ち込むだけであった。まだ、この時代には現地化(現
地適応)した製品を 開発、販売していない。

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3. 改革プランと黒字化
イ.改革プランの策定と実施

• P&Gジャパンは、日本での営業活動で苦戦を強いられていたが、日本市場をアジア市場の窓口と
位置づけ、経営3カ年計画を打ち出した。その内容は、
① 採算のとれる事業を育てる、
② そのために日本市場とアメリカ市場の違いに注意を払い、新製品開発を行う(開発体制の強化)
など、であった。

• 1985年、P&Gジャパンは、同社の世界最先端技術を、アメリカよりも先に日本向けの紙おむつ
新製品に導入した。世界で最も薄く、最も吸収性に優れた紙おむつであった。

• 1989年後半までに、「パンパース」は23%の市場シェアを獲得した。

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ロ.黒字化

• P&Gの日本における売上高は、1985年から88年までの期間に、1億
3200万ドルから5億6600万ドルへと増大した。1987年には、初めて利
益を計上した。

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P&Gジャパン社⾧スタニスラブ・
ベセラ社⾧のインタビューでの発言
(2020年10月26日)
• 過去5年間の成⾧の理由を問われて、以下の
ような説明をした。
• 日本の消費者に焦点を当てた製品開発を行
うようにした。。
• 以前は、グローバルに展開する製品を日本
に合わせて販売していた。それを日本起点
のイノベーションを起こし、製品開発する
ように切り替えた。
• 具体例として、トイレ用の『ファブリー
ズ』、衣料用洗剤『アリエール』、ヘアケ
アの『パンテーンミラクルズ』をあげた。

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ジョイ逆さボトル
• 最近の消費者行動の変化から製品開発がな
された。その変化は、以下の2点。
• 第1点は、料理しながら食器洗いがしたい。
• 第2点は、1秒でも早く、スムーズに食器
洗いをしたい。

• これらのニーズにこたえるため、開発され
たのが“逆さボトル”。従来の食器用洗剤は、
ボトルを持って手首を返すしてから洗剤を
出す必要があったが、“逆さボトル”は最初
から逆さなのでそのひと手間が省ける。

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販売量ではなく、販売価格を高くすることで
売上げを稼ぐ
• 「日本では高品質で高価格なイノベーションを起こしている。我々はプレミアム
イノベーションと呼ぶ。販売量で他国と競争すると、発展途上で人口が増えてい
く国には勝てない。でも日本では差別化できる製品イノベーションを起こせる。
日本の消費者に付加価値の高い商品を発売し、高いお金を払っても買いたいと
思ってもらうことを目指している。」

※ 販売数量 × 販売価格 = 売上高

• 紙おむつの『パンパース』、シャンプーの『パンテーンミラクルズ』など。

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販売価格を高くしても売れる
ためには、差別化が必要

• 「トイレのカテゴリーはイノベーションが⾧い間な
かった。そこで2022年9月上旬に発売したのは『ファ
ブリーズ W消臭 トイレ用消臭剤+抗菌』だ。従
来は香りで臭いをごまかす製品ばかりだった。新商
品は臭いをとるだけではなく壁や床についた臭いを
消臭し防臭する。消費者の反応はよい。」

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日本で売れると他国でも
売れる

「一番中心に考えるのは日本の消費者ニーズを
満たすこと。日本で売れたらほかの国にも導入で
きる製品を開発したい。紙おむつブランド『パン
パース』は日本でもここ8か月ナンバーワンだっ
た。日本でナンバーワンを続けていれば中国での
売り上げにも貢献する。」

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• コロナ禍での買い物について
「事前に買うものを決め、店内で製品
を見比べる時間も減っています。これ
を買えばまちがいないという信頼でき
るブランド、製品であることが重要で
す。」

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おむつ交換台
100カ所設置
• 日本では外出先でおむつ交換できる場が
少ないとの声に応じ、100カ所のおむつ
交換台を設けた。育児の悩みに寄り添い、
ブランド価値を高める狙いがある。製品
開発とブランド戦略の双方で、消費者
起点のマーケティングを実践する。」
(日経МJ2020年10月26日)

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おわりに
• 日本進出後しばらくの間、P&Gジャパンの経営不振が続いた。標準化
された製品(国際統合)を日本市場に投入したことが原因であった。

• 経営不振の打開のために経営改革を行い、P&Gジャパンは現地化した
製品(現地適応)を投入することに切り替えた。そのおかげで、パン
パースやファブリーズ、レノアなどのヒット商品が誕生した。

• P&Gジャパンの事例から、標準化された製品をそのまま改良もせずに
投入しても製品をヒットさせることはむずかしい。やはり現地市場に
合った改良を行う必要がある(現地適応)。

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