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人的資源管理論/ヒューマンリソース論

01. 人的資源管理論で学ぶこと

柿沼 英樹
流通科学大学 商学部
本日のゴール

1. この授業について知る
 15回分の授業計画、教科書・参考書
 成績評価の仕組み(案)

2. 「人的資源管理論」という学問領域について知る
 「人的資源を管理する」とは、どういうことか?管理する必要があるのは、なぜか?
 大まかな全体像: 機能・周辺要因・実践者
授業概要
科目名 人的資源管理論 / ヒューマンリソース論
(※入学年度によって科目名は異なるが、1つの授業として開講)
担当教員 柿沼 英樹(商学部経営学科 准教授)
研究室 研究棟Ⅲ3510
E-mail hideki_kakinuma@red.umds.ac.jp
開講日時 後期 木曜3限
到達目標 • 企業における人的資源の管理について、その全体像を説明できる
• 具体的な事例について、学んだ理論や知識を使って説明できる
教科書・参考書

 教科書
• 西村孝史・島貫智行・西岡由美編著 (2022) 『1からの人的資源管理』 碩学舎.

 自学のための参考書(順不同)
• 上林憲雄編著 (2016) 『人的資源管理』 中央経済社.
• 上林憲雄・厨子直之・森田雅也 (2019) 『経験から学ぶ人的資源管理 新版』
有斐閣.
• 平野光俊・江夏幾多郎 (2018) 『人事管理』 有斐閣.
• 坪谷邦生 (2020) 『図解 人材マネジメント入門』 ディスカヴァー21.
各授業回の内容
1 人的資源管理論で学ぶこと 9 報酬管理

2 組織と個人の関係 10 退職管理

3 日本企業の人的資源管理 11 労働時間管理

4 社員の区分と格付 12 健康経営・安全衛生

5 雇用管理 13 労使関係

6 人事評価 14 ダイバーシティと多様な働き方

7 人材配置 15 国際人事

8 人材育成とキャリア
成績評価について
 開講当初の予定 (※今後の情勢により変更の可能性あり)
• 各授業回の小テスト課題 20%
• レポート課題 20%
• 定期試験 60%

 小テスト課題への回答をもって「出席」とみなす
• 10回以上の出席がなければ「放棄」として評価を確定する(学則の準用)
• その他の方法による出欠確認も併用する場合がある

 得点状況(平均点など)を鑑みた調整を行う予定
この授業で取り扱う内容

 Human Resource Management (HRM) と呼ばれるもの

 日本語では、いくつかの呼称が存在している
(※厳密には異なる面もあるが、とりあえず「だいたい同じ」と捉えておいて良い)
• 人的資源管理
• 人事労務管理
• 人事管理
• 労務管理 (personnel management)
• 人材マネジメント / 人財マネジメント
企業経営における「管理」概念

経営資源

人的資源
(ヒト)
物的資源 売上高や
(モノ) 技術的 財 市場への
利益などの
変換 サービス 投入
財務的資源 リターン
(カネ)
情報的資源
(情報)
人的資源管理とは

 個人(労働者)と組織(企業)の交換関係のマネジメント?

労働サービスへの対価としての報酬

人的資源
働く職場に持ち込む 労働サービス
能力や意欲 人的資源を活用して提供する
具体的労働内容とその成果
企業
労働者
人的資源の保有者
人的資源管理とは

 経営目的を達成するために「人的資源」を「管理」する活動のこと

• 経営戦略の達成 • ヒト(人材) • 組織のメンバーとして


金銭的・非金銭的な • 個人そのもの 確保し、活用する
成果の獲得
• 能力(スキル、経験) • どんな人的資源を
• 持続的な成長 • 意欲(態度、感情) 確保し活用するのかは、
「継続企業の前提」
• 従業員(雇用する労働者) 経営戦略から定まる
• 求職者(求人への応募者)
経営戦略と人的資源管理

 戦略が達成できるような従業員構成をつくることが求められる
海外企業のみが相手
• 日常業務において英語を使う機会が頻発する
• 従業員の大半が英語力に長けていることが望ましい

取引先に占める海外企業の割合
国内企業のみが相手
• 日常業務において英語を使うことはない 国内企業・海外企業どちらも相手
• 従業員の英語力は、ほぼ不問
• 部署によって英語を使ったり、使わなかったりする
• 従業員の英語力は、どのくらい必要?
人的資源管理の全体イメージ

 個人の組織内キャリアになぞらえて、単純に管理実践を捉えると……

仕 業

事 研 績
採 き 報
に 修 を 昇 退
用 方 酬
配 を 評 進 職
さ を を
属 受 価 す す
れ 決 得
さ け さ る る
る め る
れ る れ

る る

自分の要望と会社の要望のズレの調整を図る
人的資源管理の主要5機能と周辺機能

経営戦略  主要な5機能を相互に結びつけ、
連鎖した活動として捉える
人的資源管理
等級制度
採用 採用機能 外部労働市場から調達する
処遇 配置 配置機能 仕事に割り当てる
育成機能 価値(特に能力面)を向上させる
評価 育成 評価機能 価値を測定する
処遇機能 価値に見合う報酬を分配する
退出 労働時間管理 健康管理
人的資源管理の主要5機能と周辺機能

経営戦略  主要機能が望ましい効果を
発揮するために必要な周辺機能
人的資源管理
等級制度
採用 退出 外部労働市場に還元する
処遇 配置 労働時間 勤務時間・日数を調整する
管理 (= ワーク・ライフ・バランスの実現)

評価 育成 健康管理 心身を良好な状態に保つ
等級制度 従業員を格付けする
退出 労働時間管理 健康管理
人的資源管理において考慮すべき要因

 人的資源管理は、企業内外のさまざまな要因から影響を受けるので、
それらを考慮に入れて実践する必要がある

労働市場 社会規範 内部・外部要因の


相互作用も考慮する
経営者の価値観 必要があるかも?
内部要因

人的資源管理

組織文化 労働組合
外部要因

労働法制 テクノロジー
人的資源管理において考慮すべき要因

従業員の位置づけ / 育成や評価、処遇に対する基本姿勢
経営者の価値観
内 ダイバーシティへの考え方

要 組織文化 従業員に共有された価値観 (※経営者の価値観と同じとは限らない)
因 組織全体の上位文化と、部門ごとの下位文化が存在しうる

労働組合 自主的に組織された労働者団体による働きかけ
労働市場 他社との人材獲得競争の様相 / 労働力人口やその構成

部 労働法制 労働時間や賃金、雇用契約に関する法律

社会規範 「労働」に対する社会の考え方

テクノロジー ICTの活用(テレワーク、AI[人工知能]による業務代替)
人的資源管理の実践者

 人的資源管理とは「人事部が行う諸活動」のことではない
• 企業での実践を観察すると、主に人事部が行っているという事実はあるが、
「人事部だけ」というわけではない点に注意が必要

 人的資源管理の階層性と、階層間でのズレや重複のイメージ
• 経営者レベル 「次世代の経営幹部は誰が適任か?」
• 人事部主導 「さまざまな部門を経験させるための異動を、どう行う?」
• 部門レベル 「部下を成長させるには?」「職務上のチームリーダーは誰か?」
( 個人レベル 「私の働き方はどうなる?」「目指すべき人材像は?」 )
人的資源管理の実践者

 人的資源管理の諸機能の設計とその実践は、
人事部(スタッフ部門)と現場(ライン部門)の管理者との協働で行われる
経営者 人的資源管理の視点の違い・役割分担

人事部 スタッフ部門 全体最適 長期視点 設計

A部門 B部門 C部門 ライン部門 部分最適 短中期視点 実践


なぜ人的資源管理が論じられるのか?

 企業が創造する価値の起点は「人的資源」だから
• 経営資源の価値は、従業員がそれらをどの程度活用できるかによって決まる
(≒モノ・カネ・情報は、それら単体では価値をほとんど生まない)
• ただし、人的資源は、感情を持ち、常に変化をともなう「生身の人間」でもある
(≒管理者の思い通りには動かない / 日々考え、学び、成長する可能性がある)

収益や効率性を 働く人びとへの
向上させることを重視した 思いやり・配慮を持った
厳しい管理 緩やかな管理
学術的論争:個の力か、マネジメントか?

 戦略的人的資源管理やタレントマネジメントの議論にもつながる
「優秀な個人の寄せ集めで、組織業績は上がるのか」 問題
• 戦略的人的資源管理 企業戦略との適合性を重視した人事管理
• タレントマネジメント 組織目標に大きく貢献する「タレント」の重点的な管理

優秀な経営人材の確保が 平均的な人を集めた組織でも
組織業績を高める重要なカギ やり方次第で好業績を残せる
『ウォー・フォー・タレント』 『隠れた人材価値』
(Michaels et al., 2001=2002) (O’Reily & Pfeffer, 2001=2002)
事例:2016年リオ五輪 陸上 男子4×100mリレー

 管理手法を工夫した日本と、個の力で戦ったジャマイカ&アメリカ
決勝 100m9秒台の
コメント
タイム 決勝走者
100mの世界記録保持者を擁する
1位 ジャマイカ 37.27 4名
2012五輪、2015世界選手権で金メダル

リレー代表候補だけの合宿を定期的に実施
2位 日本 37.60 0名
バトンパスを磨き、タイム短縮に成功

- アメリカ 37.62 4名 バトンパスのルール違反で失格

3位 カナダ 37.64 2名 -
事例:2000年代初頭のオークランド・アスレチックス

 映画『マネー・ボール』に描かれたメジャーリーグ球団の戦い方
• スター選手を「金持ち球団」たちに引き抜かれてばかりの「貧乏球団」の苦闘
• 少ない年俸予算を効果的に使うには、考え方や手法を変える必要がある
• セイバーメトリクスに基づく「アウトを取られない野球」「アウトを取れる野球」
• 「私たちなりの良い選手(≠スター選手:強打者・主力投手)」を安価に獲得
• 野手の場合は「出塁率」や「選球眼」、投手の場合は「与四球」や「奪三振」「被本塁打」を重視
(※当時の他球団は注目していない要素なため、獲得時の費用にほとんど反映されていなかった)
• 好成績を残した選手を積極的に売却して総年俸を抑えつつ、安価な有望株を育てながら使う

• リーグ戦での地区優勝はできるが、トーナメントのポストシーズンは勝てない……
人的資源管理をめぐる面白さ(であり難しさ)

 優秀な個人の寄せ集めで組織業績が上がる場合も、
管理手法によって組織業績が上がる場合も、どちらも存在している
• 学術的な表現ではないが、要は「時と場合による」ということ

 どの企業でも高い成果をもたらすことのできる
「唯一最善の(the bestな)」管理手法は存在しないのだろうか?
• 「働くヒト」を扱うという点では、共通して使えそうな要素が少なからずある
• 企業の戦略や取り扱う製品・サービス、標準的な働き方などによって
望ましさが異なる部分も多いはず
人的資源管理をめぐる面白さ(であり難しさ)

どのような企業でも有効に機能する • 「働く人びと」を管理することは、どの企業にも共通
「基盤」ともいえる人的資源管理 • 他社事例の模倣で、ある程度の高業績が可能

+ + +

• 個別の企業は、自社の戦略や環境を踏まえて
A社に B社に C社に 「求める人材」を設定している
合わせた 合わせた 合わせた
• 単純な模倣では、高業績は期待できない
人的資源 人的資源 人的資源
管理 管理 管理 • 「どの部分を、どのようにアレンジすれば良いか?」
を自社なりに考える必要がある
事例にかかわる追加的な論点

 「優秀な個人を集めたが管理手法は普通」と
「普通の人たちだが管理手法は優秀」のあいだの相対的な優劣
• プロスポーツでいうと「スター選手と名監督、どっちを獲るべき?」

 「個の力」 vs 「チーム力」
• 普通の人たちの集まりで、高いチーム力を構築できるのか?
• 傑出した管理手法は、普通のマネジャーにも使いこなせるのか?
• 組織の目標達成に必要な作業は、優秀な個人でなければ担えないのか?
大学生が人的資源管理を学ぶ意義

 管理される側としての知識を知る
• 企業組織における職業生活の全体像のイメージを掴む
• 就職活動時に企業をみる際のひとつの「物差し」としての活用可能性

 管理する側の論理を知る
• 経営者や人事部だけでなく、「現場の個人」も人的資源管理の担い手
• 将来的に管理する側に回る可能性も十分にある
• 人的資源が持つ「厄介な性質」とそのマネジメントの理解
• 理不尽に思える仕組みにも、一定の合理性があることへの理解

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