音声研究 第 7 巻第 2 号 Journal of the Phonetic Society

2003(平成15)年8 月 of Japan, Vol.7 No 2

59-69頁 August 2003, pp 59- 69

外国人学習者の日本語分節音の習得

鹿 島 央*

Acquisition of Segments in Japanese by Foreign Learners

Tanomu KAsHIMA*

SUM M ARY: The purposes of this paper are: 1) to examine the historical development of second language
research in fight of various theoretical hypotheses which have been posited to explain learners' errors,
2) to introduce some of the preceding phonetic research focusing on the segmental level within the
framework of ' interlanguage' , 3) to review the recent literature on phonetic research in the field of second
language acquisition of Japanese segments, and 4) to discuss some of the problems associated with the
segmental level. I t is hoped that this study may help with the future development of teaching Japanese as
a foreign language.

キーワ ー ド : 対照分析, 有標性差異仮説, Similarity Differential Rate Hypothesis (SDRH), 誤用, 言語転移,
中間言語研究

の分節音に関す る先行研究 を紹介す る こ と であ る。

0. は じ めに
母語で ない言語, す な わち第 2 言語 を大人が学習
す る と き l ), 発音上にはほ と ん どの場合 なま り が
現れる。 こ の なま り は, 一つずつの単音 (分節
音) で あ っ た り , 韻律 レ ベ ルに関わる も のであ っ た
り す るが, 特に, 単音は最 も 基本的 な発音単位であ
るので, 学習者と し て最初に注意の向け ら れる項目
であ る。 日本語 を学習す る様々な母語話者にと っ て
も , 一つずつの単音がいかに う ま く 発音でき る よ う
に な る かは関心 の的 で あ り , い わゆる
と な る条件そのも のであ る。 と こ ろが, 日本語話者
の英語の発音がそ う であ る よ う に, 日本語学習者の
発音にも , 様々な特徴が観察 さ れる こ と にな る。 そ
の原因 につい ては, 母語に よ る も のか, あ るいはそ
の他の原因 によ る も のなのか, 第 2 言語の習得 と し
て研究が進め ら れてい る と こ ろ で あ る。
本稿の目的は, こ れま で習得研究に用い ら れてき
た理論的 な枠組みを検討 し た上 で 2), 日本語学習者
* 名古 屋大 学留学生 セ ン タ ー教援 (Professor, Education
Center for International Students, Nagoya University)
さ ら に, それ ら の先行研究 を 踏ま え, 今後の課題,
展望につい て も 述べ る こ と にす る。
1. 第2 言語習得研究の理論的枠組み
現象 と し ての学習者の特徴は, 「誤用」 と し て捉え
ら れるが, その原因 を説明す る ための理論的 な枠組
みが仮説 と し て こ れま でにい く つか提唱 さ れ検証 さ
れて き てい る。 本節で は, そ れら の枠組みに焦点 を
いい発音 あ てながら, 音声上の誤用が どのよ う に扱 われてき
たか を考察す る。 こ れま で の理論的展開 に つい て
は, Corder (1973), James and Leather (eds ) (1986),
Ioup and Weinberger (eds ) (1987), Selinker ( l 992),
Hannahs and Young-Scholten (eds ) (1997), Archibald
( l 998), Leather (ed ) ( l 999), M ajor (2001) な ど を さ
ら に参照 し てい ただき たい。
(1) 対 照 分 析 仮 説 (Contrastive Analysis Hypoth-
esis)
1950 年代, 60 年代は, 学習者にいかに効果的 な

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 特集 「音声の獲得 : 第二言語習得」

教材 を提供す るかに関心があ り , そのために学習者 Archibald ( l 998: 51) では, 実際に対照分析 を行 う

が習得上困 難な点 を見 つけ る必要があ っ た。 Lade
(1957) の提唱す る対照分析 では, 学習者の誤用は,
学習者の母語と日標言語 を較べるこ と によ っ て予測
で き る と し てい る。 す なわち, 似 てい る項目は習得
が容易であ り , 異な る項目は困難であ る と い う 仮説
であ る。 Lade ( l 957: l 3) では, 以下の 3 項日 を音韻
比較項日 と し て挙げてい る 3)。
・ 学習者の母語は, 音声的に同様の音素 を も つか
両言語で異音は同 じ よ う であ るか
・ 異音の分布は似てい るか
対照分析の枠組みでい ろ い ろ な研究が行われて き
てい る (M oulton l 962, Stockwell and Bowen 1965,
Briere 1968, Nemser 1971 な ど) が, 60年代半ばには
こ の分析には重大な問題があ る こ と が明 ら かに な っ
てい た (Selinker l 992: 229)。 Briere ( l968) 論文 で
は 4), 米 語母語話者に, ア ラ ビ ア語, フ ラ ン ス語, ベ
ト ナ ム語の子音 を生成 さ せ る実験 を行 っ てい るが,
異な る項目, す なわち英語話者の音素日 録にない軟
口蓋摩擦音 /x/ が容易に生成 さ れた り , 有声口蓋垂
摩擦音が口蓋垂ふる え音 /R/ で発音 さ れる例が報告
さ れて い る。
Nemser (1971) では, ハ ン ガ リ ー語母語話者が英
語の無声歯間摩擦音 /θ/ を母語に も 目標言語に も な
い/so/ で 発音 す る 例 が あ る 。 Nemser の論文 で は ,
デー タ収集の タ ス ク に よ っ て も 誤用 と し て生起す る
音が異な る こ と も示 さ れてい る。
手順 を Whitman ( l 970) か ら引用 し たあ と で, ア ラ ビ
ア語と 英語の音素日録 (表 1) を示 し, どのよ う な予
測があ り う る か, その可能性 を列挙 し てい る。
まず, 分析手順であ るが, 以下の 4 段階があ る。
・ 記述 (description) : 二つの言語の音韻記述 をす る
選択 (selection) : 分析す る部分 を 選ぶ
分節音 (子音あ るいは母音) を対象 と す る か
・ 比較 (comr,arisen) : 二つの体系 を比較す る
・ 予測 (prediction) : 困難のあ る部分 を予測す る
英語 と ア ラ ビ ア語の音韻体系の比較か ら, すべて
の新 し い音が困難か ど う かについ て, 以下のよ う な
可能性を示 し てい る。
・ 新 し い音は難 し い
・ 必然的 にあ る音よ り 難 し い音があ る
・ 世界の言語に多 く 見 ら れる音は, 一般的 ではない
音よ り 易 し い (咽頭化音は一般的 ではない)
・ 困難度は, 母語 と 目標言語の音体系の関係によ る
(対立の少ない言語の習得の方が容易)
こ のよ う に第 2 言語の習得には, い ろ い ろ な原因
が困難度 に関係 し てい る と 考え ら れるが, 二つの言
語の類似性 に基づ く 対照分析 には, よ り 精緻 な類似
性の基準が必要であ る と し , Prater ( l 967) の提唱す
る 2 言語間の違いに よ る習得困 難度の指標 ( レベ ル
1 から 6 ま で) をあ げてい る 5)。 し か し なが ら, こ の
よ う な指標に 従 っ て, い つ も き れい に困難度 が分類

表 1 : ア ラ ビア語と英語の音素目録 (Archibald l998: 51)

Consonants

ll
Labial DentaI Alveolar PalataI
Arabic bf mw c ill tdsznl r y
English pb f vm w e 15 tdszn l r s t 1 、j y
Velar Uvular Pharyngeal Glottal
Arabic k g xγ qx f7 h
English kg h
Vowels
Arabic English
/Ii e-a

i u
/u o a

0/ A
a

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 外国人学習者の日本語分節音の習得
さ れと は限 ら ない こ と を, スペイ ン語話者が, 英語
の歯茎接近音 /r/ を習得す る例で示 し てい る (Archi-
bald 1998: 52- 53)。 こ の分類では, 類似性がない音
は, レベ ル 5 の困難度 にな っ てい るが, 全 く 新 し い
音 よ り も 似 てい る音の方 が難 し い と い う 議論 も あ
り , 困難度 につい てはデー タ の収集方法 と も か ら み
結論 が出 る に は至 っ て い な い (Flege 1986: 10- l l ,
Flege and Hillenbrand l 984 in Ioup and Weinberger
(eds ) ( l987): l76- 203, Major 2001: 37- 38)。
以上の経緯は, 対照分析仮説への批判 と し て以下
のよ う にま と め る こ と がで き る (M ajor 2001: 34)。
・ すべての誤用 を予測で き ないこ と
難し さ の程度 を予測で き ないこ と
(2) 有標性差異仮説 (M arkedness Differential Hy-
pothesis: M DH)
音声上の習得の難 し さ は, 対照分析 では予測がで
き ない こ と が明 ら かにな っ たが, 特 に 「困難度の方
向性」 につい ては予測不可能であ る。 こ れは, ド イ
ツ語話者が英語 を学習す る場合 と , 英語話者が ド イ
ツ語 を学習す る場合と では, どち ら の方がよ り 困難
か を 説明 す る も の で あ る。 Eckman (1977) は, 言語
間の異同 を比較研究す る際に用い ら れる有標性 と い
う 概念 を使い, 困難度の方向性 を検証 し てい る。 こ
のこ と に よ り , 習得上困難な違い と そ う で ない違い
の説明が可能 と さ れる。
Eckman ( l 977: 60) の有標性の定義は以下の通 り
であ る。
有標性 : あ る言語に A と い う 現象があ れば, B と い
う 現象の存在 も 含意 さ れる が, B と い う 現
象 が あ っ て も A の存 在 は含 意 さ れな い と
き, A はB よ り 有標である。
例 と し て, 韓国語 と 英語の閉鎖音 を と り あげ, 説明
し てい る。 す なわち, 韓国語には無声閉鎖音 し かな
く , 英語には有声, 無声閉鎖音があ るが, 有声閉鎖
音 し かない言語は存在 し ないこ と から, 有声閉鎖音
の存在は無声閉鎖音の存在を含意す るので, 有声閉
61
鎖音が有標であ る こ と を示 し てい る。
以上のこ と から, 母語 と 目標言語の比較と 有標性
の関係 を考慮 に入 れる と , 以下のよ う な習得上の困
難が予測で き る と し てい る (Eckman 1977: 61)。
' 母語と 異な る項目で, 母語よ り 有標の項日は習得
が困難
・ 母語よ り 有標性の高い項目の困難度は, 有標性の
度合いに対応す る
・ 母語と 異な る項目であ っ て も , 母語よ り 有標で な
け れば困難ではない
Eckman ( l 977: 61) では, ドイ ツ語話者と 英語話者
がそ れぞ れの目標言語にあ る破裂音の対立 を習得す
る場合と , フ ラ ンス語話者と 英語話者が後部歯茎摩
擦音の対立 を習得す る場合 を例 と し て, M DH の困
難度予測性 を検証 し てい る。 そ れに よ る と , ドイ ツ
語では語末で破裂音に声の対立はな く , 英語では語
頭の後部歯茎摩擦音 に声の対立はないので, こ のこ
と か ら, ド イ ツ語話者の方は英語の語末 に位置す る
破裂音の習得に困難を示 し, 英語話者は語頭の後部
歯茎摩擦音の習得には特 に困難 を示 さ ない と い う 経
験的 な デ ー タ を 説 明 で き な い と し て い る 。 す な わ
ち, 対照分析 では予測で き ない と い う こ と であ る。
そこ で, 有声性 と 生起環境に関す る類型論的 な議論
を援用 し , 表 2 のよ う な声の対立に関す る階層 を示
し た上で語末, 語中, 語頭の順で, 有標性が低 く な
る と し てい る。
し たがっ て, ドイ ツ語話者が語末の破裂音に困難
を示すのは, 有標性の高い位置 (語末) の対立であ
る から で あ り , 英語話者が困難で ないのは有標性の
低い位置 ( 語頭) の対立であ るか ら と し , M DH で
説明が可能と 結論付け てい る。
Eckman ( l 991) は, その後 M DH の問題点 を指摘
し , 言語の普遍性だけ でな く , 母語と 目標言語の両
者 に 言 及す る 必 要 のあ る こ と を 述べ , Structural
Conformity Hypothesis を提唱 し た。 こ こ では, 類
型論的な枠組みを用いて子音結合の含意尺度 を作成
し , 第 2 言語学習者のデー タ を分析 し てい る (Archi-
bald l 998: 57- 59, Major 2001: 50)。
 特集 「音声の獲得 : 第二言語習得」

表2 : 言語によ る声の対立の類型 (Eckman 1977 in 1987: 61)

Type Description Examples

A Those which maintain a superficial voice contrast in ini tial, English, Arabic
medial and final positions. Swedish
B Those which maintain a superficial voice contrast in ini tial German, Polish,
and medial positions, but fai l to mai ntai n this contrast in final G reek, Japanese,
position. Catalan
c Those which maintain a superficial voice contrast in ini tial Corsican, Sardinian
posi tion but fail to maintain this contrast in medial and final
positions.
D Those which maintain no voice contrast in initial, medial, or K orean
fi nal positions.

(3) Similarity Differential Rate Hypothesis (4) その他

(SDRH) 6)
類似 し てい る音の方が困難であ る と い う 研究結果
は上述し たが, Major and Kim ( l 996) では,
と い う 概 念 そ の も の が ま ち が っ て い る と し て 7),
SDRH と い う 仮説 を提唱 し てい る。 こ の仮説 では,
類似性 と 有標性 を合体 させ, 類似 し てい ない項日 は
類似 し てい る項目 よ り 速 く 習得 さ れ, 有標性は速度
を遅 く す る 要因 と し , 習 得の速度 を問題 に し て い
る。 例と し て, 韓国人英語学習者の有声後部歯茎破
察音 と 有声歯茎摩擦音の習得 をあげ, 英語と 類似 し
てい る有声後部歯茎破察音 では初級, 上級学習者で
は同 じ よ う な発音であ っ たが, 類似 し ていない歯茎
摩擦音につい ては上級学習者の方が正 し く 発音 し て
いる割合が高い こ と がわかり , こ の仮説が検証 さ れ
たと し てい る。 速度 を取 り 入 れた仮説 を主張す る に
あ た っ ては, あ る項日 が 習得 さ れた
どの程度の基準の達成が必要 なのか と か, x と い う
項目が y と い う 項目よ り も先 に習得 さ れる と い う の
は どう い う 意味なのかと い う 点 を考慮 し てい る。 例
えば, あ る時点で項目 x が 40 %の正確 さ , 項日 y が
20 % の正確 さ で発音 さ れて い た と す れば, x は y の
前に習得 さ れ, よ り 容易 な項目 であ る と いえ る が,
違 う 時点で x が 50 %, y が 80 % と なれば, y は x の
前 に習得 さ れ, よ り 難 し い と い え る。 こ の点 で ,
SDRH が主張す るのは, 速度こ そが重要な要因であ
り , 上記の例 で も 一貫 し てい るのは速度 であ り , y
の習得速度が x よ り 速い と いえ る こ と であ る。
Archibald ( l998: 73- 135) の第4 章では, 最新の音
韻理論 に基づ く 分節音の習得研究が紹介 さ れてい る
困難 ので参照 し てい た だき たい。
2. 中間言語研究における音声
対照分析の結果, 音韻体系の比較だけ では予測で
き ない誤用や, 母語に も日 標言語に も ない音 を用い
る誤用があ る こ と がわかり , 誤用の重要 さ が指摘 さ
れ, 誤用分析が提唱 さ れた (Corder 1973)。 し かし な
が ら , 誤用分析 は本来の横断的 な研究の性格か ら ,
学習者が目標言語の知識 を どのよ う に発展 さ せ てい
く のか, す な わち第 2 言語の習得 メ カ ニ ズムの解明
には寄与でき なかっ た (E11is 1994: 68, 長友 1993:
8) o
と す る に は, 対照分析では, 誤用は母語の発音習慣 を目標言語
に も ち こ む こ と で 起き る と い う 干渉 (負 の言語転
移) と い う 概念が基に な っ てい たが, そ れら の誤用
か ら , Selinker ( l 969, 1972) は, 母語 と も 目標言語
と も 異 な っ た学習者の言語体系, す な わち中間言語
(Interlanguage) を見い出 し た。
Selinker ( l 969 in Selinker 1992: 231) の定義は以下
の よ う であ る。
An ' interlanguage' may be linguistically described
using as data the observable output resulting from a
speaker ' s attempt to produce a foreign norm, i.e., both
his errors and non-errors. I t is assumed that such

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 外国人学習者の日本語分節音の習得
behavior is highly structured. In comprehensive lan-
guage transfer work, it seems to me that recognition of
the existence of an interlanguage cannot be avoided
and that it must be dealt with as a system, not as an
isolated col lection of errors.
こ こ で重要 なこ と は, 中間言語は第 2 言語学習者
の言語体系 であ る と い う こ と であ り , 個別の誤用 を
寄 せ集 め た も の で は な い と い う こ と で あ る。 s o-
linker ( l 972) では中間言語 を, 第 2 言語学習者があ
る時点で内在化 し てい る言語体系 であ り , こ の体系
は習得 と と も に相互的に関連 し , 学習者の学習経過
を特徴付け る も のであ る と し てい る。 こ の ため中間
言語仮説で は, 第 2 言語習得 を単 な る母語からの転
移 だけ で捉 え る の では な く , 創造的構築 (creative
construction) の過程 と し て い る と こ ろ に特 徴があ る
(Eckman 1981 in 1986: 125) 8)o
こ のよ う な枠組みの中で, 音声, 音韻研究 ( Inter-
language Phonology ) が どの よ う に行 われて き たか
概観す る。
Tarone (1978: 70) で は, Schumann (1976) を引 用
し , こ の時期 ま で に中間言語の音韻研究はま っ た く
ない こ と を述べた後 で, IL を形成す る過程の特徴 を
論 じ てい る。 以下の 5 つであ る (Tarone 1978: 79)。
(1) 母語か らの負の転移 (negative transfer from NL)
(2) 第 1 言 語 の習得過程 (first language acquisition
processes)
(3) 過剰般化 (overgeneralization)
(4) 近似 (approximation)
(5) 回避 (avoidance)
ま ず (1) の言語転移の問題であ るが, こ れは特 に
重要であ る。 こ れま でみてき たよ う に母語の音韻情
報 を用い て I L を形成 し てい く と き には, すべての項
日 が転移す る わけ ではないので, どの程度母語か ら
の転移があ るのか, 転移 し やす い も の と そ う で な い
も の は 何 か を 調 べ る 必 要 が あ る (Altenburg and
Vagol 983 in Ioup and Weinberger (eds ) l 987: 149,
Selinker l 992: 207)。 同時に学習 を促進す る正用か
ら も 有益 な 示唆 が得 ら れ る 可能 性 が あ る (Major
2001: 3)。 こ の他 に, IL の形成には発音の難 し さ で
- -
はな く 不正確な聞き方が影響 し てい る と す る聴取 レ
ベ ルの問題 (Flege 1981), 年令 な どがあ る。 デー タ
収集法 (単語の読み上げ, 対話, あ るいは自由会話
な ど) に よ っ て も 誤用に影響があ る こ と は注意すべ
き であ る (Nemser l 971)。
(2) , (3), (4) については (1) と も関連するが,
Selinker (1992: 208) が述べてい るよ う に, 確かに言
語転移が起こ っ てい る と 分析者は どのよ う に提示 で
き るので あ ろ う か。 言語転移に よ る も のか ど う かは
発達上の誤 り (developmental erros) を調べ る必要が
あ り , すべ ての学習者に観察 さ れる誤用か ど う かに
よ っ て決め ら れなけ ればな ら ない (E11is l 994: 339)。
発達上の要因 を モ デル化 し た研究 と し ては, Major
(1987: l l 2) があ り , ブラ ジルポルト ガル語話者の英
語 /r/ につい て発 達上の誤 り か転 移で あ る か決定 し
てい る 過程 が例示 さ れて い る。 Hecht and M ulford
(1986) は, アイ ス ラ ン ド人の子供が英語を第 2 言語
と し て習得 し てい る と き の, 転移と 発達要因 と の相
互作用につい て研究 し た も ので あ るが, どち ら か一
つで説明 で き るほ ど第 2 言語習得は単純な も ので は
ない と し てい る。
(5) の回避 につい ては, Tarone ( l 978: 78- 79) の
中 で, フ ラ ン ス 語 と 英語 を同時 に習 っ て い る子供
が, 摩擦音 を な るべ く 発音 し ない よ う に し てい る例
が示 さ れてい る。
最後に, 化石化 (fossilization) について も検討す る
必要があ る。 化石化は, 目標言語の形式か ら逸脱 し
た形式 が消滅 せず に残 る現象 で あ る が, IL に よ く
観察 さ れる。 Tarone ( l 978: 80- 83) で は, 化石化の
生ず る原因 につい て述べてい るが, ま だは っ き り と
わから ない こ と が多 く , 研究の期待 さ れる分野と し
てお り , 追田 (2002) で も 最大の関心事 と す る にと ど
ま っ てい る。
習得研究 を扱 っ た主な定期刊行物 と し ては以下の
も のがあ る。
' Annual Review of Applied Linguistics
' Applied Linguistics
・ International Journal of Applied Linguistics
' International Review of Applied Linguistics
・ Language and Speech
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 特集 「音声の獲得 : 第二言語習得」
・ Language Learning
' Linguistics and Education
' Modem Language Journal
' Second Language Research
' Studies in Second Language Acquisition
こ れらの中で, Language Learning (1998) Vol.48 は,
創刊 50 年特集号と し て, 16 本の論文 をのせ言語学
習 と 応用言語学の歴史的な展開およ び展望 を特集 し
ている。 も う 一点, 実験室での研究方法の可能性と
限界 に つ い て考察 し て い る論文 と し て , Hulstijn
( l 997) を挙げる。 あわせて参照 し てい た だき たい。
3. 日本語分節音の研究
中間言語の音声研究に考え ら れる視点について述
べてき たが, こ こ では日本語学習者の音声が どのよ
う に研究 さ れて き てい る か を時間的 な経緯 を追 っ て
考察す る。 参照 し た書誌は, 「日本語教育」 9) (日本
語教育学会) , 「 世界の日本語教育」 (国際交流基金) ,
「第二言語と し ての日本語の習得研究」 (第二言語習
得研究会) , 「音声研究」 (日本音声学会) , 文部省重
点領域研究報告書 「日本語音声」, 国立, 私立大学紀
要, その他単行本であ る。
(1) 1950年代から60年代
鈴木 (1963) では, タ イ 語 を母語と す る学習者の問
題点 を経験に基づいて述べ, 教材 と 指導法に役立て
よ う と し てい る。 タ イ 語 と の音韻比較に よ り , 発音
の難 し さ は予測 でき る と す るが, 音韻組織の比較で
は異音レベ ルも考慮すべき こ と を述べてい る。 こ の
論文 で注目すべき こ と は, 学習上の問題点 をでき る
だけ完全 に捉え る ために は, 「 母国語 に そのま ま 転
用で き る よ う な音素がない と き には, 母国語の ど ん
な音素 を転用 し て く るか」 (p.12) 観察 し なけ ればな
ら ない と し てい る点 であ る。
山田 (1963) も 対照分析の枠組みで朝鮮語母語話
者の学習困難度 を予測 し, その困難度 を測定す るた
めに triplets と い う 3 つの語 を使 っ た聴取 テ ス ト
行 っ てい る。 結果は 3 段階の困難度に分類 し てい る
が, 学習は, 類似の異音 を も たない音が難 し い こ と
64
は予測通り であ っ たが, 音の出現環境がむずかし さ
の要因 であ る こ と がわかっ た。 ただ, 被験者 も 2 名
と 少な く , 学習経験も 大き く 異な っ てい る。
(2) 1970年代から80年代
ヤ ン ソ ン ( l 974) では, ス ウ ェ ーデ ン語 と 日本語の
音韻体系の比較を し たのち, どのよ う な問題点があ
る か, 経験的 な印象 で述べ てい る。
吉川 (1978) は, 音声研究ではないが, 誤用例 を研
究す る こ と の意義 と その方法 を述べ てい る。 中 で
も , 誤用例に よ る研究は, 例 を集め る だけ ではな く ,
ー つ一つについ て原因 を 分析 し , 誤 り の類型 を た
て, 誤 り を防 ぐには どう し た ら いいかを考え, 教材
作成に生かすべき であ る こ と が主張 さ れてい る。 学
習者に焦点の移 っ た論及ではない よ う であ る。
野沢 ( l 980) では, 広東語話者の日本語での発音上
の困難点 を音韻体系の違い を も と に予測 し , 筆者の
1 年間に わた る 観察事例 と 照 ら し あ わせな が ら論 じ
てい る。 結果は, 音素 レベルだけではな く , 異音の
分布ま で考慮 し なけ れば予測は正確ではないこ と が
わかり , 問題がないのは /m/ だけ であ っ た。
梅田 ( l 982) は, 対照研究の必要性 を と き , 韓国語
と 日本語の音韻比較 を通 し て, 両者の発音傾向につ
い て述べ てい る。
劉 (1984) は, 中国北方方言話者の発音上の問題 を
経験に も と づい て述べ てい る。
杉山 ( l 985) では, やはり 中国北方方言話者の初学
者が正 し い日本語の発音す る と き の留意点 を, 音韻
体系の比較に も と づいて体験的に述べてい る。 こ こ
では, 学習者の広がり に備え て, 母語別の教材の必
要性を訴え てい る。
佐藤 ( l 986) は, イ ン ド ネ シ ア語話者の発音上の問
題点 を対 照分析 の枠 組 み で 予 測 し , 3 名 の イ ン
フ オーマ ン ト にあ る教材 を読 んで も ら い, テ ー プに
録音 さ れたも の を分析 し た。 その結果, 大部分の予
測はあ た っ て い た が, 「 シ ヤ, シ ユ, シ ヨ」 → 「 サ,
ス, ソ」, ハ行音の弱ま り , 母音 「エ」 のあいまい母
音化については予測で き なか っ たと し てい る。
以上のよ う に, 80年代までは対照分析の枠組みで
あ り , 研究の目的 も いかに効呆的に教え る ための教
-
 外国人学習者の日本語分節音の習得
材 を作成す る かが主流であ る こ と がわかる。
渋谷 (1988) は, こ の時期 に日本での中間言語研究
が定着 し てい ない状況に鑑み, 海外の中間言語研究
の研究史 と 研究動向 を紹介 し, 日本語教育 での習得
研究の理論的 な枠組みの構築が必要な こ と を説い て
い る。
(3) 1990年代から2000年
90年代に入り , 音声の研究 も 增え は じ め縦断的な
研究 をは じ め, 方法論的 に も充実 し は じ め て き た。
石田 (1991) は, フ ラ ンス語話者の話す力の諸相を
分析す るために, フ ラ ンス国立東洋言語 ・ 文化研究
所で学ぶ 1 年生 30 人と 3 年生 33 人を対象に時期 を
異に し て行 われた口頭表現 テス ト を用い, 各段階毎
に習得過程 を明 ら かに し よ う と し た。 誤用分析 を
行 っ たが, 必要に応 じ て正用 と の関係 も 考察 し てい
る。 結果は, 1年生の段階では, 「 フ」 以外の八行子
音の脱落が多 か っ たが, 学習が進むにつ れ, 長音・短
音の区別や促音の脱落や付加 な ど母語 に よ ら ない誤
用 が增 え て い る こ と が わか っ た。 3 年 生 の段階 で
は, ほ と ん ど の学 生 が h 音 を 脱 落 し な く な っ て い
た。 こ の研究 で は, デー タ 収集課題 に よ っ て誤用の
種類が変化す る現象 も 確認 さ れてい る。
北村 (1991) の研究は, 中国北方方言話者の母音の
問題 を扱 っ てい るが, 音節 レ ベ ルで 母音が どのよ う
に日本語と 異な るかを分析 し た上で, 考察 を行 っ て
い る。 ただ し , 経験的 な考察 であ る。
三浦 (1991, 1992) は, ア ラ ビア語話者の発音上の
問題点 を対照分析するこ と で予測 し, 1 ケ月に 12 回
行 っ た聞き 取 り と 発音の テス ト 結果か ら, 誤用 を分
析 し てい る。 た だ, イ ン フ オーマ ン ト も テ ス ト に よ
り 4 人ま で と 少ないが, 緻密に分析 を行 っ てい る。
研究の目的は, ア ラ ビア語初級学習者のための教材
作成であ る。
長友 (1993) では, 中間言語研究が歴史的に どのよ
う な発展 を辿 っ てき たかを説明 し , 日本語の中間言
語研究の全体像 を概観 し てい る。
野沢 ( l 995) は, 上海語話者の日本語音声上の問題
点 を対照分析の手法で予測 し てい る。
倉八 (1995) では, 第 2 言語の コ ミ ユニケ ー シ ヨ ン
- - 65
能力 の習得におい て, いわゆる 「 よ い耳」 と は音声
言語理解能力, す なわち情報処理能力 であ るこ と を
先行研究 を も と に述べてい るが, 実証的 に何か を明
ら かに し た も の で はない。
福岡 (1995) は, 破裂音の音韻体系の異な る北京語
と 上海語の話者 を対象に, 発音 と 知覚の両面から日
本語の有声 ・ 無声破裂音の習得状況 を, 横断的かつ
縦断的に調査 し た論文であ る。 被験者は, 両方言話
者 と も に初級, 中級が5 名ずつの計 20 名であ る。 調
査は3 ケ月 ご と に3 回行い, そ れぞれ知覚 テ ス ト 2 種
類, 発話 テス ト 1 種類 を課 し た。 資料は, 日本語無
意味 語 ( VCV 構 造 ( あ ぱ, あ ば な ど) 6 語 ,
CVCV 構造 ( ぱぱ, ばば な ど) 6 語) , 日本語有意
味語, 北京語無意味語6 語, 北京語 ・上海語有意味語
6 語であ る。 知覚 テ ス ト では日本語話者の発話 し た
語の有声 ・ 無声 を学習者が判断す る も の, 発話 テ ス
ト は, 学習者の発話 を日本語話者が判定す る も ので
あ る。 さ ら に ス ペ ク ト ロ グ ラ フ に よ り , VOT の測
定 も 行 っ てい る。 横断的 な調査結果か ら は, 上海語
話者には知覚の正聴率や VOT 値 に正の転 移が観察
さ れたが, 北京語話者には語中の無声破裂音 を有声
に誤聴す る例や, 有声破裂音 を無声無気音で発音す
る例が多 かっ た。 縦断的 な結果で は, 北京語話者に
語中の無声破裂音 を有声 に誤聴す る傾向が続い てい
る こ と , 発音では, 語頭の無声破裂音 を母語の有気
音で, 有声破裂音 を無声無気音で発音す る傾向が続
く こ と であ る。 上海語話者では, 学習開始時には多
少混乱があ るが, 1 年後に は混乱が整理 さ れて く る
こ と がわかっ た。 両方言話者の習得順序は, 聴解上
では 「語頭 一語中」, 発音上では 「語中 一語頭」 であ
る こ と が正聴率 に も と づ き実証 さ れた と し てい る。
こ の正聴率は学習時間 と と も に高 く な り , VOT 値
も日本語の目標値に近づ く こ と が確認 さ れ, 可変的
に発達す る連続体, すなわち中間言語 と し て捉え ら
れと 結論 し てい る。
音声研究 (1999) では, 「 中間言語の音声」 と し て
特集 を組み, ブ ラ ジルポル ト ガル語, 韓国語, 中国
語, 米語話者につい て分節音だけ ではな く , 韻律 レ
ベ ルの習得につい て も 報告があ る。
 特集 「音声の獲得 : 第二言語習得」
(4) 2000年から現在
1990 年代 に入 り , 中間言語 を意識 し た研究が現
れ始めてい るが, その数はま だ多 く ない よ う であ る。
山本 (2000) の研究は, 中国北方方言話者を対象 と
し て, 日本語の有声 ・ 無声破裂音の弁別能力の習得
過程 と 聴解力の関連 を分析 し た も のであ る。 被験者
は, 日本に滞在経験のない中級学習者 10 名, 上級学
習者 11 名 と 在日期間 1 - 2 年の学習者 10 名であ る。
資料は, CVN 構造 (C は破裂音) の無意味語 52 語,
VCV 構造 (C は破裂音) の無意味語 260 語であ る。
調査は, 学習者に聴取 し た も の を回答欄に ひら がな
で記入 さ せ る も のであ っ た。 分析の結果, 国内の学
習者は, 国外の学習者に較べて調音法, 調音点, 後
続母音の識別が高 く , 母語の音韻から の正転移に よ
り自然習得が進むと し てい る。 聴取では, 無声音 を
有声音と 聞 く 誤聴のほ う が, 有声音 を無声音と 聞 く
誤聴よ り 3 倍以上多 かっ たこ と を報告 し てい る。
横山 (2000) の論文は, 中国語話者の日本語閉鎖音
習得 を両言語の類似性 ・ 非類似性と有標性 を も と に
検証 し たも のであ り , 対照分析以外の枠組みで論証
し てい る数少 ない研究の一つ であ る。 イ ン フ オーマ
ン ト は, 北方方言話者 12 名で, 内訳は初級 4 名, 中
級6 名, 上級 2 名であ る。 タ ス クは, 語 (句) 61 と 短
文 36 の リ ス ト を読 む, 日常 生活 のイ ン タ ビ ュ ー で
あ る。 仮説は二つ で あ る。
仮説1 (MDH の概念)
予測 (1) 語頭有声音
母語と 異な る / 有標→困難
予測 (2) 語中有声音
母語と 異な る / 有標→困難
予測 (3) 語頭無声音
母語 と 異な ら ない / 無標→困難ではない
予測 (4) 語中無声音
母語 と 異な る / 無標→困難ではない
仮説2 (SLM 1o) の概念)
予測 (5) 語頭有声音
母語 と 非類似→困難ではない
予測 (6) 語中有声音
母語 と 非類似→困難ではない
- - 66
予測 (7) 語頭無声音
母語と 同 じ / 困難ではない
予測 (8) 語中無声音
母語 と 類似 / →困難であ る
誤用につい て二人の日本語話者が判定 し た結果,
予測 5, 6, 7, 8 に つい て は予測通 り で あ っ たが,
M DH の予測では, 予測3 のみが支持 さ れ, こ の研究
で は, SLM のほ う が支持 さ れる結果 と な っ て い る。
言い換え れば, 閉鎖音の習得には母語 と 相違 し てい
て有標性の高い有声音ではな く , 母語 と 類似 し てい
て有標性の低い語中無声音に困難点があ る と い う 結
果 であ る。
戸田 (2001) は, 近年の第 2 言語音声 ・ 音韻の習得
研究の動向 を振 り 返り , 日本語での習得研究の展望
に つい て議論 し て い る。
Uemura (2002) で は, 韓国語話者が発音 し た日本
語語頭閉鎖音に つい て生成 と 知覚の関係 を分析 し て
い る。 被験者は 18 名の学習で, その生成音 を 10 名
の日本語話者が聴取 し , 有声 ・ 無声につい て判定 し
てい る。 こ の論文の方法論で興味 を ひ く のは, 学習
者が日本語話者の発音 を聴取 (external perception) す
るの と 同時 に, 自分達の発音 に つい て も 判定 (inter-
nal perception) をす る と こ ろ で あ る。 こ の結果, ex-
ternal perceptionの方が正確で あ る こ と , 知覚が生成
に先行す る こ と , す な わち知覚 で き なけ れば生成で
き な と い う こ と , internal perception と 生成 には強い
相関があ る こ と が分かっ た。 し たが っ て, 目標言語
の音が正確に生成 でき る ためには, 学習者は内的 な
知覚範購を形成す るこ と が必要であ り , 日本語母語
話者の発音 を どのよ う に聞い てい るかだけ では学習
者の習得 レ ベ ルは分 か ら ない と し てい る。
日本言語文化学研究会編 (2002) は, 日本語習得,
日本語教育 ・ 国語教育 に関連す る 21 本の総括 ( レ
ビュ ー) / 展望論文 を収録 し た も のであ る。 ねら い
は, 各研究分野の動向 を紹介 し , その中か ら未解決
の興味深い研究 テ ーマ を絞り 込むための研究 ガイ ド
の役割 をす る こ と と あ る。 第 3 章の 「音声の習得」
で は, 中間言語の基本的課題 と し て長母音 と 短母音
の習得研究が と り あ げ ら れてい る。
 外国人学習者の日本語分節音の習得
4. 今後の課題
こ れま で検討 し てき たよ う に, 日本語学習者の分
節音に関す る習得研究は質, 量 と も に未だの感があ
る。 対象 と し て い る言語 も タ イ 語, イ ン ド ネ シ ア
語, 英語, 中国語, 韓国語な ど数が少な く , 分析の
枠組みも対照分析がほと ん どで, し かも 横断的研究
であ る。 1980 年代から 90 年代 にかけ ては, どち ら
かと いえ ば韻律 レ ベ ルの研究 に焦点 が移 っ てい た よ
う に思われる。 そ れは, 文部省の重点領域研究の多
く の成果報告書が韻律レベルの干渉 を取 り 上げてい
る こ と から も 明 ら かであ る。 し かし なが ら考え てみ
る と , ア ラ ビア語話者の日本語の母音や, 母音調和
を も つモ ン ゴル語や ト ルコ語話者の日本語母音には
どのよ う に転移が起こ り , どの よ う に習得が進 んで
い るのか全 く 分 か っ てい な い こ と に改め て気づ く 。
同 じ 二重母音 を持 つ英語話者 と 中国語話者では, ス
ト レ ス ア ク セ ン ト と 声調 は どのよ う に影響 し あ っ
て, 日本語連母音習得に どのよ う な影響 を あ たえ て
い るのか。 言語転移と 発達要因の関係が, 日本語音
の習得の場合で も明 ら かに で き るか。 回避 な どのス
ト ラ テ ジーは音習得 で も み ら れるのか。 何よ り も 可
変的な体系 を構築 し てい く と い う 中間言語な ど存在
す る のか, も し 存在 し た と し て も , どのよ う な体系
と し て記述, 説明 でき るのかな ど, 研究すべき テー
マや課題は分節音に限 っ て も 山積 し てい る。 こ のよ
う な研究 を行 っ てい く と き に, 方法論上の問題と し
て, 横断的およ び縦断的 な研究の採用, 同 じ資料に
つい てい ろい ろ な母語話者の デー タ を収集 し , 多 角
的 に分析で き る よ う にす る こ と , 自然発話に近い発
話の採取, 分節音では音節等上位レ ベルの言語単位
も 考慮 し た資料 を準備す る こ と な どが必要と な る。
迫田 (1998: 6, 43- 44) で は, 中間言語研究の目的
を学習者の産出 し た言語資料 を研究す る こ と で も ,
それぞれの過程での変化自体 を研究す る こ と で も な
く , 学習者の言語資料や変化に現れた言語体系 を探
る こ と であ る と 述べてい る。 し たが っ て, 収集 さ れ
たデー タの結果お よ び報告だけ ではな く , 実証研究
か ら得 ら れた結果につい て妥当性のあ る説明 を どの
よ う に行 っ てい く か考察 し , 理論研究へ と 結びつけ
- - 67
てい く こ と が今後の重要な課題 であ る と 思 われる。
〔注〕
1) 人間の言語獲得能力は 12 歳 ご ろ ま で であ る と す る
臨界期仮説によ る ( 小池他編 2003: 154- 155)。
2) 習得研 究の歴史 に つ いて は, 青木他 (2001), 迫田
(2002), 森山 (Web 上) な どを参照。
3) 訳は稿者によ る。
4) Selinker (1992: 180) ではこ の論文 を, 学習上予測 さ
れる困難点 を細心 に分類 し た も のと し て高 く 評価 し ,
初期の対照分析が どのよ う な も のであ る かを示す例 と
し て強 く 推薦 し てい る。
5) 習得困難度の指標 ( レベ ル1 から 6 ま で) は, Brown
(1980: l52- 154) に引用 さ れている。
6) 日本語訳は注 1 の事典に も記載がない。
7) こ の論文 の要旨では, SDRH の定義が本文 と 異な っ
てい るo
8) Eckman (1981) では, IL の独立性と , IL と 第 1 言語
と し て学 んだ言語 と の違い を議論 し てい る。
9) 1962 年に創刊準備号と し て発行 さ れ, 今年で 117 号
と な る。
10) Speech Learning Model で は, 似 てい る音のほ う が,
新し い音よ り 習得が困難であ る と す る (Flege 1987)。
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