第10回メディアと社会

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大学院メディア学 I

第 10 回 メディアと社会

前回回顧
・擬似環境
・世論
・リップマン
・公衆、大衆、群集
・想像の共同体
・ナショナリズム
・イデオロギー
・検閲

▲ 現代社会とメディア

☆ 都市空間とメディア
🎠 ディズニーランドの空間設計
思考:ディズニーランドはなぜ観覧車がないの?
→ 「メッセージの完結性」

🎢 都市のテーマパーク化
= 都市の一部を特定のテーマに基づいてデザインする
* 空間に特定の意味を持たせる
・中世ヨーロッパの教会 (壁画)
・皇居 (象徴)
・北朝鮮の街並み (統一された個人の意思、独裁) (美しさとノイズの排除)
・経済活動 (青山、広尾、築地、銀座、六本木、原宿…… 三里屯、798……)
→ 普段がしないことをその空間でするかも

📺 マスメディアと空間の意味づけ
1950 年代米国製ドラマ
都心部:ごみごみした環境
郊外:清潔で文化的な生活

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→ 特別な地域にイメージを付与 (住みたい街ランキング)
「聖地巡礼」(コンテンツ・ツーリズム)

☆ メディアと資本主義
♢ 活版印刷術 (同一商品の大量生産を可能にした最初の技術)
(☞ マス・メディアが登場した当初から資本主義と深く結びついている)

🏬 消費社会 (消費者の欲望の創出)
= 産業化が十分に進展した後に現れる社会と考えられている。J.ボードリヤー
ルは,物がそれ自身として持つ効用のためではなく,他の物との示差的な関係から生
れる記号的な価値のゆえに消費されるような社会を,消費社会と呼んだ。(ブリタニ
カ国際大百科事典 小項目事典より)

* ものの消費から記号消費へ
「スタバでマック」 (インターネット:嘲笑的な意味)
スタバ:コーヒーを飲む場所 → おしゃれ「記号」
マック:PC → おしゃれ「記号」
👗 ファッション

「記号」 (情報を伝えるための中間物)
🌲(もの) → 木/ツリー/tree(記号) → 緑の植物(記号を見て浮かべるイメージ)

差異をつける(記号は意味を持っている)

💡 広告 (有名人の起用)

ステップアップのための消費 = ピアノ(高度経済成長期)

階級移動 → 個性表現

☆ メディアと開発途上国
コミュニケーション発展論と期待増大革命 (近代化論)
「コミュニケーション発展論」:マスメディアの重要な役割は、開発途上国の人々に自

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分たちの生活が改善されるべきものであり、しかもそれは可能なのだと認識させること。
「期待増大革命」:マスメディアを通じて先進国の豊かな生活を見せつける。そこに登場
する先進国の人物に共感することで、途上国の人々は同じように豊かな生活を送っている
自分自身の姿を想像するようになる。

近代化の原動力
⬆ 批判
1960 年代後半から
・近代化論は米国の自国中心主義の反映
・国内の問題が噴出 (ベトナム戦争、公民権運動、環境問題、大統領暗殺)
・先進国と途上国との格差の拡大
・マスメディア以外に、人間関係や経済状態などは考えていなかった (支配の道具)
・(期待増大革命)期待はあるものの、実現できる手段はないと逆に不満や不安を煽ぐ

* 啓発活動 (感染症予防、農業技術…)
* 平等なアクセス (知識や情報格差の縮小)

🗞 開発途上国に関する報道
ニュースバリューから考える:戦争、飢餓、巨大災害……

途上国に対する偏見が生じる

苦しみを利用 → 商業的な利益や娯楽目的 → 先進国の「優越感」



「同情疲労」「無関心」

☆ メディアとグローバリゼーション
・グローバルな文化消費 (ハリウッド映画、米国製ドラマ) → 文化帝国主義
・遠距離ナショナリスト (外国の移住先で母国のニュースや映画などに接する)
・国際的な情報流通の偏り (先進国 → 途上国) (偏見の助長)

* アルジャジーラ 非欧米型のグローバル・メディア
= ペルシャ湾岸のカタールに本拠を置く衛星テレビ局。アラビア語で国際ニュース

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を提供するニュース専門チャンネルとして 1996 年に開局した。カタール政府から財政的


支援を受けている。中東地域の国内メディアの多くが政府の統制下で言論の自由を制限さ
れているのか、検閲を受けていない放送局として注目された。また、24 時間放送や英語放
送を行うことで広範な地域の視聴者を獲得した。

* オーマイニュース(OhmyNews)
= 韓国のインターネットニュースサイト。2000 年に月刊誌記者の呉連鎬が中心とな
り創刊した。
「市民みんなが記者だ」を合言葉に、人々の投稿記事を中心に据え、市民メデ
ィアや参加型ジャーナリズムの先駆け的存在として注目を集めた。

▲ 社会問題とメディア
☆ 社会問題
= 貧困、犯罪、差別、自殺、少子化、児童虐待、環境破壊、悪徳商法……
= 誰が見ても存在することが明らかな客観的な現象と想定される。
「客観的な現象」:森林の減少、汚染物質の拡大、少子高齢化、殺人……

「社会問題」:問題として位置づけられることによって、初めて「社会問題」になる
* 大きな社会問題:ある問題の実害が他の問題と比較してそれほど深刻なものではないと
しても、大きな関心が寄せられることで重大な社会問題としての地位
を獲得することがある。
* 小さな社会問題:逆に、客観的事実が存在したとしても気付かれなければ、あるいは問
題と見なされなければ社会問題にならない。
「地球温暖化」 → 科学者がそれを問題として告発 → 大々的に報道され → 社会問題
「児童虐待」 → 「体罰」
「放置」、かつて問題として認識されなかった → 「児童虐待」と
いう発想が広がる → 体罰や放置を「虐待」に見なす風潮
(虐待自体が減少したが、社会的関心が高まり、マスメディアの報道も増えた)

💁 討論:
「高齢者運転」: 重大な社会問題への道

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☆ 社会問題とメディアとの関わり
2 つのアプローチ
➀ メディアが社会問題に及ぼす影響に注目
自殺に関する報道 → さらに自殺を生み出す
(1986.4 人気アイドル岡田有希子自殺 → 大量な報道 → 後追い自殺)
犯罪に関する報道 → 模倣犯などさらに犯罪を生み出す
(1994 電話で[オレオレ詐欺])
➁ 社会問題に対する人々の関心をメディアが作り出す過程を分析
あまり知られていなかった現象 → メディアが報道 → 広く知られ、問題へ
(* モラルパニック)

☆ メディアと犯罪
犯罪自体は減少 ⇆ 犯罪被害に対する不安は変わらず
🗣「昔は安全だった!」
珍しい犯罪、深刻な犯罪 → ニュースバリューが高い → メディアは報道
→ それを自分の経験と比べ → 「今は治安が悪化してしまった」と感嘆

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🙅「いじめ」問題
極端な事例 → メディアが報道 → 「昔のいじめは今のように陰湿ではなかった」

👹 モンスター化される犯罪者(報道のスタイル)
精神異常
モラルのなさ

同情 (家族の問題、貧困の問題など)

動機の不明確化
貧困や怨恨(表面的な動機) → 社会が複雑化 → 常人が理解しがたい動機(心の闇)

犯罪者 → 理解されるべき対象ではない、断罪され、排除されるだけの存在になる
(1997 神戸連続児童殺傷事件)

😣 被害者
被害者の救済(1990〜) → 被害者の悲しみに焦点を当てる報道が増え → 被害者重視
* 理想的な被害者(マスメディアにとって)(クリスティーエ 2004)
・被害者が脆弱であること (子どもや高齢者)
・被害者が尊敬に値する行いをしていること (モラルの高さが共感されやすい)
・被害者が非難されるような場所にいなかったこと (深夜の盛り場)
・加害者が大柄邪悪であること (被害者が抵抗することが困難)
・被害者が加害者とは知り合いでないこと (不安を煽りやすい)
・被害者が自らの苦境を広く知らせるだけの気力を有すること (「全国被害者協会」)
(大阪警官襲撃事件)
(川崎登戸児童殺傷事件)

理想的な加害者 →(生み出す)→ 理想的な被害者

「理想的な被害者」からの逸脱
➀ 社会的役割から逸脱 → 批判
東京電力女性社員殺害事件(1997)

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被害者女性 昼 大企業の管理職
夜 売春を行う
人格を汚辱するような報道
➁ 世間から同情を受けやすい振る舞いを続けないといけない → しないとバッシング
・被害者遺族が笑う → あんなことがあったのに平気なのね
・ピンク色の服を着る → もう大丈夫なの
・車を買う → 慰謝料が入ったの
* 受け手が快適に消費しうるために → メディアが「同情されるべき被害者」を取り上げる

☆ メディアと貧困
階層によって分断された社会 → 見えにくい貧困
(マスメディアで働く人々は恵まれた階層の出身であることが多い)
👶「子どもの貧困」(NHK) (当初企画に対し:本当にそんなことあるの?)
☞ 相対的貧困(日本:子ども 6 人に 1 人)
= ある国や地域社会の平均的な生活水準と比較して、所得が著しく低い状態。
⇄ 絶対的貧困
= 所得・栄養・健康・教育などの水準が著しく低く、極めて貧困な状態にあるこ
と。世界銀行は、1 日 1.90 米ドル未満で生活する人々と定義している。
[貧困の連鎖 (教育機会など)]

* 貧困者の捉え方
資本主義社会 → 自己責任 → 支援の手を安易に差し伸べるのは貧困を永続化する
→ 社会の犠牲者 → 貧困連鎖は自力で改善できないもの

* 貧困者のイメージ構築
👎 支援に値しない貧困者 → 働けるにもかかわらず働こうとせず、福祉給付によって
与えられた現金を酒や遊びに使ってしまう人物
→ 福祉による支援は甘えを助長だけだ
👍 支援に値する貧困者 → 懸命に働き、倹約に励みつつも生活苦から抜け出せない人、
自分自身ではどうしようもない要因によって貧困に追い込
まれている
支援に値する貧困者の条件(Larsen 2013)
・自分たち自身のせいで貧困に陥ったわけではない (帰還兵、戦死した兵士の遺族)

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・病人や障がい者のように支援の必要性が高いと判断される
・自分たちと同じ集団に所属していると見なされる (移民ではない)
・支援に対して感謝を示している
・過去に税金の支払いなどを通じて集団的な利益に貢献していた実績がある

* 「貧困者」というレッテル
偏見:貧困者を社会にとっての負担として、道徳的墜落として位置づける
→(よって)自立にとって必要となる自尊心を奪ってしまう
マス・メディア:貧困者の無力さを強調、人々の哀れみを誘うことで支援の必要性を訴え

💁 討論:
「相対的貧困な状態」とはどのような生活を送っている状態?

☆ メディアと排外主義
背景:移民や難民の流入 → 生活習慣や価値観の違い → 摩擦が発生 → 犯罪の増加
日本の排外主義:在日コリアン

排外主義が広がるにあたって、メディアは重要な役割を果たしている
* 外国人に対する反感 ・実際に移民と頻繁に接触することによってもたらされる
・メディア報道などを通じてもたらされた「認知」 (多い)

排外主義が高揚する

🚓 外国人犯罪の過大視
意識調査「日本で起きる犯罪のうち、外国人によるものの割合」
平均で 26%、半分以上が外国人によるものという答えもある
実際:来日して 3 ヶ月以内の外国人と永住者と日米軍関係者など合わせて 5%前後
永住者や日米軍関係者など過去 25 年以上にわたって 2%以下
こうした現象が生じた理由:
・マスメディア報道:日本人の場合、わざわざ日本人であることを強調する必要がない
(情報としての価値はない)
外国人の場合、犯罪と出自に関係なくとしても、[外国人]と報じる
(記憶に残りやすくなる)

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・「悪しきものは外からやってくる」という社会通念
(外国人には罪悪感が乏しく、ルールを守る意識が欠けているという偏見)

* 統計的差別
= 特定の属性を有する人々に見られる統計的な傾向を理由に行われる差別
(貧困や失業などによってマイノリティは犯罪に手を染めやすい → 差別正当化)
(女性は結婚や出産を機に退職 → 人事の女性冷遇)

* 積極的差別是正措置
= あるカテゴリーに基づく差別が社会に広く行き渡っている場合には、そこに属す
る人々に大学での学習機会や就職機会を優先的に与える。
(アメリカ:アフリカ系の人々:大学入学基準を他の集団より低く設定、政府機関や自治体
の採用枠が定められている、一定数が必ず採用)

* ステレオタイプ
= メディアの再生産
(貧困なアフリカ系アメリカ人)

* インターネットと排外主義
マスメディアが伝えない「真実」はネットに → 排外主義が高揚しやすい
その要因:
・発言に対する規制は緩い (差別的な発言も問題ない) ⇄ マスメディア(放送法)
・匿名性 (人前で言えない差別的な発言はネットで言える)
・サイバーカスケード (集団極性化の一種) (極端な思想しか流通しない)

* ヘイトスピーチ
= 特定の個人や集団、団体などの人種、宗教、民族的な文化などを差別的な意図を
もって貶(おとし)める言動。英語の意味は「憎悪表現」であるが、一般的な悪口はヘ
イトスピーチにはあたらず、対象への明確な差別的な意図に基づく暴言や差別的行為
を扇動する言動などをさす。(日本大百科全書より)
⇄ 「言論の自由」

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思考
1. 小論文『メディアと社会』

第 9 回の思考

1. 小論文『メディアと政治』

討論

参考文献

辻泉・南田勝也・土橋臣吾(編),2018,『メディア社会論』斐閣ストゥディア.

津田正太郎,2016,『メディアは社会を変えるのか--メディア社会論入門』世界思想社.

吉見俊哉,2014,『メディア文化論』有斐閣.

伊藤守編著,2015 『よくわかるメディア・スタディーズ(第 2 版)』ミネルヴァ書房.

武田徹・藤田真文・山田健太(監修), 2014,『現代ジャーナリズム事典』三省堂.

渡辺武逹・山口功二・野原仁,2011,『メディア用語基本事典』世界思想社.

データベース, 日本大百科全書.

データベース, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典.


公益財団法人 交通事故総合分析センター

(https://www.itarda.or.jp/materials/publications.php?page=4)

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