第9回国際戦略 (1)

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経営戦略論BⅡ

第9回

国際戦略
(グローバル戦略)

青木良三

はじめに
今回の授業で取り上げるテーマは、国際戦略である。

世界をひとつの市場と考え標準化された製品を販売するか、それとも進出先の状況に合
わせて現地に適合した製品を開発、販売するかといった問題を解説する。

現地適合した製品を開発すれば良いと考えるかも知れないが、それではコストがかかっ
てしまう。標準化された製品を世界中で販売できたらコストを抑えることができる。

しかし、標準化された製品だと、現地のニーズをうまく満たせないかもしれない。その
結果、現地企業との競争で優位に立てない事態におちいるかもしれない。

標準化と現地適合のどちらを選択したら良いかを考える。
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1.海外進出する理由
① 既存製品やサービスに対する新規顧客の獲得

② 安価な生産要素へのアクセス確保

③ 新たなコア・コンピタンス(※)の形成

④ 現行のコア・コンピタンスを新たな方法で活用する

⑤ 企業リスクの軽減

(資料)『企業戦略論〈下〉』ジェイB・バーニー (※) core competence、中核となる


能力のこと。例.アップルのユーザーインターフェース。アップル製品は操作しやすい。 3

2.進出先で直面する障壁
• 企業が進出に成功しても、ビジネスを軌道に乗せるまでには、関税や
輸入規制、非関税貿易障壁といった問題を克服する必要がある。
関税 輸入規制 非関税貿易障壁
輸入された製品やサービスから 輸入できる製品やサービスの 製品やサービスを輸入するコストを
徴収する税金 数量に割り当てられる制限 増大させる法律、規制、方針
輸入関税 自主規制 政府方針 関税方針
追加関税 非自主的数量規制 政府調達方針 査定システム
変動徴税 輸入ライセンスの制限 政府による輸出 関税分類
国境徴税 一定数以上の輸入数量規制 補助金 通関書類
相殺関税 禁輸措置 国内産業保護プ 手数料
ログラム 品質規格
包装規格
表示規格

(資料)『企業戦略論〈下〉』ジェイB・バーニー
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3.現地適応と国際統合のトレードオフ
① 現地の顧客ニーズに適応するには

• 自社の製品やサービスを国外の顧客ニーズに合わせることによって、需要
を喚起することができる。これが「現地適応」であるが、製品やサービス
を国外の顧客ニーズに対応するためにはコストがかかる。

• たとえば、自国内は右ハンドル車を生産しているが、輸出や現地生産では
左ハンドル車を生産するということになると、設計コストや生産ラインに
おける設備の配置等が違ってくる。

② コストを下げるには製品の標準化

• 一方、コストを下げるためには、できるだけ製品やサービスは「標準化」し
て、生産において規模の経済が働くようにした方が良い。これを実現するた
めには、企業が展開する各国市場の事業を統合する必要が出てくる。

• つまり、進出先の市場の状況に合わせる現地適応と世界をひとつの市場と考
える国際統合(標準化)は、国際市場に対する考えが異なる。つまり、両者
は、両立できないトレードオフの関係にあると考えられる。

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【質問】
製品を現地適応すべきか?それとも標準化された製品を
販売すれば良いか?

日本市場に現地適応するなら「ごはんバーガー」 標準化するなら「ハンバーガー」
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【答え】

残念ながらこうしたら良い
という答えはない。

この問題を後のスライドと次回以降の
コカ・コーラとP&Gの事例で考えたい。

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4.国際戦略
イ.М・ポーター教授の示した4つのグローバル戦略

地理的範囲
グローバル 国 別

セ グローバル・コストリーダーシップ 市場が保護された国を狙う
グ数 またはグローバル・差別化



範少

グローバル・細分化 現地国優先

ロ.スマントラ・ゴシャールとクリストファー・バートレット

• 二人は、9つの多国籍企業の250人以上のマネジャーに対して行ったインタビューをも
とに4つのタイプがあるとした(『地球市場時代の企業戦略・トランスナショナル・マ
ネジメントの構築』(Managing Across Borders))。

① マルチナショナル型
• 分権的に経営される現地子会社の集合体。中央にいるキーマンが行うコントロールに
よって1つに結びつけられる。
• 例.スイスの化学会社チバ・ガイギー、食品会社ネスレ、オランダの家電メーカーフィ
リップスなど。

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② グローバル型
• 世界規模で標準化された製品を販売し、集中的大量生産による規模の経済と新市場への販売
チャネル獲得を目指す。
• 例としては.IBM、GE、トヨタなど。

③ インターナショナル型
• 本国本社で開発された技術を重視し、知識と専門能力を後進地域に移転する。

④ トランスナショナル型
• 本国本社と海外子会社との間で双方向的なネットワークを構築して、海外子会社の独自能力や
活動を本社にフィードバックしていくことによって全体最適化をめざす。

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• ゴシャールとバートレットは、「トランスナショナル型」の必要性を強調した。
これは、他の3つのタイプの要素をすべて兼ね備え、さらに現地拠点を中央
(親会社)の出先機関として運営するのではなく、現地のビジネスチャンスを
つかむように運営するべきとした。現地適応と国際統合のトレードオフは、トラ
ンスナショナル戦略によって解消できるとした。

• ハ.ヒットほか
ヒットほかは、ゴシャールとバートレットの議論を踏まえ、国際戦略をグローバ
ル戦略、マルチドメスティック戦略、トランスナショナル戦略の3タイプに分けた。

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国際戦略の種類

ロ高
ーい

ル グローバル戦略 トランスナショナル
な 戦略






低 マルチドメスティック
い 戦略

低い 高い
現地反応の必要性
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マルチドメスティック戦略 グローバル戦略 トランスナショナル


戦略
前 提 市場 が国ごと に細分化 され 世界中の市場 で共通す る顧 グロ ーバルな効率性と現地
てい る。その ため、製 品を 客ニーズがあ るので、 製品 の顧 客ニーズの両立は可能
各国 市場に適 合させる 必要 の標準化を進 めても十 分対 である。
があ る。した がって、 経営 応できる。し たがって 、各
に関 する権限 を地域会 社に 国市場を統合 でき、本 社主
委譲 し、分権 化してい くこ 導の中央集権 化が可能 であ
とになる。 る。

メ リ ッ ト 現地 顧客のニ ーズに適 合し 規模の経済が 働き、コ スト 規模 の経済を働かせながら


た商品を提供できる。 ダウンができ る。イノ ベー も、 現地の顧客ニーズにも
ションの成果 を転用し やす 対応できる。
い。
デ メ リ ッ ト 規模の経済が働かなくなり、顧客ニーズに 対する反 応が
コスト高となる。 遅くなる。地 域会社特 有の
成⾧の機会を 活かせな くな
る。

(資料)『戦略経営論』マイケル・A・ヒットほか、2010年、同友館 14

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おわりに

残念ながら、標準化された製品か現地適合した製品かのどちらを選んだら良いかの
答えはない。

現地適応と国際統合(標準化)は、両立できないトレードオフの関係にあると考え
られる。

現時点での答えは、標準化された製品と現地適合した製品の組み合わせで対応する
しかない。日本マクドナルドの「ハンバーガー」と「ごはんバーガー」を組み合わ
せるやり方である。
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